チート野郎は思うがままに。
いや、連日暑すぎますね。
タイトルにもありますように、主人公は今作において、「最強」ポジには絶対になれません。
なぜなら、その上がいるからです。
サブタイは、そのなかでも頂点のやつのことです。
首都圏にある、とある山奥。
人里離れたその場所に、雑居ビルがひとつ。
その一室で、一人の女性が受話器をもって頭を下げていた。
見た目の年の頃、二十代前半。しかし実際は折り返し地点。
「――はい、はい。本当にすみません。『社長』にはきつく言い聞かせますので」
まるで、悪戯をした子供の母親である。
受話器を置くと、彼女は机に突っ伏した。
しかし休む間もなく電話が鳴る。
「もしもし?」
度重なる疲労により、もはや、ビジネスにおける常識的な電話の取り方すら、ままならない状態だった。
だらけきった返事だったと反省するも、自分の声はもう相手に届いてしまっている。
〈ハッ、ア~~~~~~~~~~~~~~イ♪〉
わざと高くしたような、男の声。
非常に能天気な、プラス不快感をもたらす口調が、鼓膜を侵食してきた。
彼女は、思いきり顔をしかめると、ややドスを利かせながら
「どこにいるんですか、『社長』」
〈んんん~~~? なんかァ、機嫌悪くなぁいぃ?〉
非常に鬱陶しい喋り方だが、相手はこれで正常である。
「もう一度聞きます。どこです?」
〈海外。それ以上言うとぉ、君が来ちゃいそうだからぁ、それだけ教えてあげる♪ ところで、私の言ったこと、やっといてくれたぁあ?〉
「鶴宮さんに、言えと言われたことは伝えましたけど?」
彼女の顔には、筋が数本浮かんでいた。
受話器を握りしめ、相手の出方を待つ。
〈そ。ならいいや。じゃあ、もう家に帰っていいよ。たぶん、私今日帰れないから。お疲れ〉
今度はえらく淡白な反応だった。
彼女はそのそっけない態度に
「そうですか」
とだけ。
直後、不通音。
今度こそ受話器を置いた彼女は、壁に掛けられているスケジュール表に目をやった。
今日は、この部屋には誰もいないし、来ない。
……帰ったら寝よう。
陽はまだ高い。
◆◆◆
俺たちを襲った先生は、とりあえず遠くに飛ばした。
理由は不明だが、同時に《門》も消えた。
さて、これからどうしたもんか。
なんでも、あの先生は本物の誘拐犯に意識を乗っ取られているらしい。
悠長にしていると、あの先生が戻ってきてしまう。
なら。
「あの先生って、今どんな風に操られてるんだ?」
俺は《伝達操作》の能力者、山田さんに聞いてみた。
「どんな風って?」
「意識を乗っ取られてるって、実際どんな感じなの? 本人の意識はあるの? それともないの?」
「ない。さっき、先生は自分の能力使ってたでしょ? 操ってる相手の能力を使うくらい、深く操作するとなると、本人の意識があると邪魔だから」
そこだけははっきりと言った。
「んじゃさあ、先生自体は、気絶してるのと同じってことだよね?」
「う~ん、ちょっと違うかも」
彼女が言うには、眠っている相手は『エンジンのかかっていない車』だそうだ。
「そんな車、ハンドルもアクセルも意味ないでしょ? 相手を操れるのは、相手が起きているときだけ。意識の乗っ取りってのは、エンジンかかってる車の運転席を、奪って座るようなもんだから」
何となく言いたいことは伝わってきた。
「相手は、先生が起きてるときに、能力で先生の意識に乗っ取りを仕掛けたことになる。どこでやったか気になるけど、今はそれどころじゃないでしょ? なんでそんなこと聞くの?」
「いや、今先生を気絶させたら、どうなるのかな、と思って」
しかし彼女は、
「あのねえ、それができれば苦労しないって。あそこで伸びてるやつ、能力が先生と同じ《身体強化》なんだけどさ。大人相手でもいい勝負できるくらいなんだよ。それが一撃でやられてる時点で、うちらに勝ち目ないって」
全員の能力がわかれば、作戦も練れそうなものだが。
急がないと、俺の能力も使えなくなる。
会話のために解除したように見せかけているが、表に見えないだけで、俺の体内に、まだ能力は発動している。
極力小さくすれば、この能力は5分まで使えるのだ。
「あ!!!」
一人の女子が、窓の外を指差した。
全員が駆け寄ると、上空にいくつもの黒い影。
「もしかして、軍と警察じゃない!?」
祈るような気持ちで、それが近づいてくるのを待つ。
やがて。
「やった! 助かった!」
敷地内に、十名以上の軍の人間が降り立った。
どうやら、この以上事態が外部に伝わったらしい。
安堵の雰囲気が漂う。
窓の向こうを見ると、地面に大きな穴ができていた。
たぶん、俺を殴ろうとしてぶっ飛んだ先生が作ったのだろう。
まあ、これ以上面倒なことになる前に終息するなら―――
「きいいいいいぃいぃぃぃいいいいいいいいいいいッ!!!!!!」
聞いたことのない奇声というか、悲鳴のような声。
さっきぶっ飛ばした穴から、先生が入ってきた。
「この俺をおちょくりやがってええええええっ!!!」
どうやって戻ってきた?
体のあちこちに擦り傷を作っているが、あんな速度で飛んだにも関わらず、動きに全く支障がない。
これが、《身体強化》?
まずいなあ。
能力が使えなくなるまで、あと45秒。
◆◆◆
画面に映っていたのは、高速で移動する人間だった。
無人偵察機とはいえ、飛んでいるのだから速度はかなりのものであるはずだ。
だが、向こうはそれを遥かに上回るスピードだった。
かつ、その状態でこちらを見ている。あり得ない動体視力だ。
「ああ、この人は気にしなくていい」
鶴宮はすぐに画面を消した。
「え!? でも……」
松村とて、能力者は腐るほど見ている。
しかし。
偵察機にウインクするような奴はいなかった。
「あのぉ、この人は一体……?」
「〈提携先〉の社員さんだ。気を利かせて手伝いしてくれてるんだよ」
松村は以前から疑問だった。
に対して、彼は異様なほど寛容な態度をとる。
鶴宮曰く、「あの人たちも、大変なんだよ……」。
一度、〈提携先〉の人間が何名かここに来たことがあるのだが。
両者の間には、彼らだけの世界が広がっていたように見えた。
まるで、同じ修羅場を潜り抜けたような、結束力すら感じる。
◆◆◆
やっばいなー。
つーか、操ってるだけなら、体のフィードバックないよね?
あ、もしかしてプライド傷つけられたの怒ってる?
特になにかを言った覚えはないけれど、「おちょくった」と言うくらいだから、たぶんそうなんだろうなー。
脳内に、どーでもいい情報がテロップで流れている。
安堵から一転、阿鼻叫喚の地獄絵図。
不幸中の幸いだったのは、狙いが俺だったことだ。
この状況でできる最善手。
あんまりやりたくなかったけど。
「うんがあああああああああああああああ」
先生の口から出てくるのは、最早、まともな言葉じゃない。
それでも。
俺は小さくしていた《壁》を最大限にして。
教室の窓から、飛び出した。
先生が操られていて、しかも体の痛みなどのフィードバックがないことを考えると、先生の体がボロボロになっても相手は攻撃の手を緩めないだろう。
それでは先生が死んでしまう。教室は校舎の二階にあるから、地面までの距離はそう長くない。
そのまま、俺は思い付く限り《壁》の性質を変化させて逃亡を図る。
弾む、転がる。なんでもありだ。
すぐそばに、軍の人がいた。
よっしゃ、行ける!
「助けてくだs――――」
「「「「ぐあああああああああああああああああっ!?」」」」」」
おっかしいなー。
俺の目、おかしくなったかなあ?
軍の精鋭が、一瞬でほとんどが空を舞ってるなんて、おかしいよなあ?
いつの間にか、先回りされちゃってるような?
「貴様だけは、きっさまだけはァ!」
あー、もう。
時間がない。
先生を気絶させられたら、この状況は変わる。
しかし、方法が思い付かない。
この先生は、元から軍を相手に善戦できるだけの素質があった。
それを、操っている奴が引き出しているのだ。
ひよっこの俺に、勝機はない。
「ああああああああああああああああァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」
信じられない速度で、まず一撃。
俺は《壁》をある程度柔らかくして、衝撃を「吸収」させる。
すぐに反対の手でもう一撃。
なんとかガードした。
そこで俺を守る《壁》が消えた。
「やべっ……!?」
右手の拳が、俺の頭を狙っている。
ダメだ。
避けられない。
……
…………
「さぁてと♪ お仕事しましょ♪」
◆◆◆
「……え」
拳が俺に当たる寸前だった。
先生の動きが止まった。
攻撃をやめた?
俺が戸惑っていると、先生の巨体が崩れ落ちた。
そのまま、イビキが聞こえてくる。
まるで糸が切れた操り人形だ。
助かったのかも、分からないまま。
俺は、その場で仰向けに倒れた。
◆◆◆
テロ対策本部は、騒然としていた。
全国の様々な場所から、同様の報告が次々と上がっていたのだ。
『今まで学校で暴れていたテロリストたちが、まるで電池が切れたかのように次々と昏倒していく』
それを見ていた鶴宮に、電話がかかってきた。
このタイミング。
彼は憂鬱な気分をグッと押さえて、受話器をとった。
「……助かった。ありがとう」
今さらですが、タグを設置しております。
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↓無理でした。ごめんなさい。
本日、二本投稿します。(何時になるかな……)
本日で入学式編は終了予定です。




