プロローグ
《異能統括省》、大臣室。
青年は、今すぐ帰りたかった。
正直、ここにいるくらいなら、《軍》に呼び出しを食らっときの方が、まだマシに思えた。
目の前には出前らしき定食が並んでいる。
しかし、なにか混入しているのでは? とついつい考えてしまう。
「何かご用がありましたらお呼びください。では、失礼します」
眼鏡かけた男性が退室し、青年と、その部屋の主が残される。
机を挟んで、両者は相対した。
やや灰色の髪、細面の顔。
一見すると優しそうに見える、少し下がった眼尻。
だが、その中の瞳には、相手を射抜くような強靭な意志が宿っている。
異能統括省・大臣、鶴宮知明。
開口一番、
「そこまで硬くならなくていいよ? 気を抜いていいからね?」
笑いを堪えていた。
「なんでそんなに震えてるの。別に取って食おうってわけじゃないんだからさぁ」
「そうは言いますけどね、いきなり『ご飯一緒に食べない?』って言われたらビビりますって。まして相手があなたなら」
「たまには、誰かと一緒に食べたいと思ってもいいじゃないか。おじさんの一人飯なんて、寂しいものだよ?」
鶴宮はそのまま味噌汁をすする。
「まあ、聞きたいことがあるのも事実だけどね」
相手を思いやる優しい口調。
普通の人が聞いたら、何ら恐怖は感じないだろう。
しかし、予感が的中した青年は、食事に手を出せずにいた。
「『あの事件』のこと、ですか……?」
「あー、まあ、そうだねぇ。……いや、話したくないなら、無理にとは言わないけど」
「いえ、いつかは聞かれると思ってましたから」
青年の声には、諦めと、少しの解放感が滲んでいた。
「なら、いいか」
鶴宮の口調が変わる。
人間味あふれたおじさんが、底の見えない冷たい大人に早変わりする。
「君が《特別能力者学校》にいたときのことだ。確か君は、《異能力》が発現したのが、中学2年生の冬だったよね?」
《異能力》。
それまでの人間が持つことのなかった、人としての可能性。
人体改造によって、日本の人口の約四割が、この力を有している。
そしてその力は、資質さえあれば15歳までに発現する。
異能力を得た子供が、義務教育の次に行く学校。
それが《特別能力者学校》だ。
能力が発現したなら、この学校への入学は必須になる。
青年もまた、その一人だった。
「ええ、そうです」
「それから1年間、自主的に訓練したうえで、この学校に進学した。そこまでは合ってる?」
「はい……」
青年は弱々しく頷く。
「僕は、その先を知らないといけない。それが、僕の責任だ」
鶴宮はそこで一泊おいて、最後の言葉を強調した。
「もう二度と、君のような存在を出さないために」
「……分かりました」
聴取が、始まる。
青年―――榎本優哉は語りだす。
これは以前書いていた『カップ麺と呼ばれた男』の修正版になります。
設定に変更はないものの、ストーリーは変わった部分もあります。
今まで読んでくださった方も、これからお読みいただく方も楽しんでいただければ嬉しいです。
長らくお待たせいたしました!
更新頻度は、以前よりも遅くなると思います。
ご容赦ください。( ノ;_ _)ノ
次回だけは、明日の夜の更新になります。
ブクマ、評価共にお待ちしています!




