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1話 その男、殺し屋につき

喫茶店の中に二人の人物が存在していた。

一人は女性でこの店の店主だろうか、年齢は20代後半と言ったところだ。

綺麗なロングの黒髪でスタイルが良く、男受けが良さそうな可愛らしい顔をしている。

ただ一つ特徴的な部分といえば頭に猫耳のカチューシャをつけていることくらいだろう。

もう一人の男は無精髭の全身白スーツの男だ。


「にゃー。また外れみたいだったにゃー?アキラちゃん?」


アキラと呼ばれた男は不機嫌そうな表情で女性を見た。


「この年になってちゃんづけは辞めろ。恥ずかしいだろ。」


男はそう言い、テーブルからティーカップを掴みあげる。カップの中を除くと湯気が立っていて、つい先ほど入れたばかりということが窺える。

少しの間、男はカップの中を眺めていたが、やがて紅茶を口につけた。


仕事は適当だったが茶だけはいつ飲んでも旨いな………………。


「さすがにあんなチンピラが幹部だとは思わない。だが、チンピラでももう少し情報を持っていると考えていたんだがな……………。まあ、あの時の麻薬ディーラーがあのチンピラに仕事を斡旋していたことを知れたのは収穫だったがな。」


「アキラちゃんは話が長いにゃー。もう少し手短に話せばいいのに」


「関係ないだろう。俺はお前のそのにゃーにゃー言っているのをどうにかした方が良いと思うがな。」


アキラは茶をすすりながらそう言った。


「かわいいからいいんだにゃー。かわいいは正義!だにゃ!アキラちゃんも可愛いのは好きでしょ?」


店主が手首を振り、にゃんにゃん!と言いながらアキラを見た。

顔が良いのも相まってその仕草はとても可愛らしいものとなっている。


アキラが顔をしかめた


「可愛いってお前なぁ…………………。若作りのし過ぎで若く見えるが実際の年は俺とさほど変わらないだろう………………。年を考えろ年を。」


店主の額に青筋が浮かぶ。

表情こそにこやかだがティーポットを持つ手が震え、明らかに怒気を発している。


「それになんだ?俺よりも年上だろう?確か今年でろくじゅう……………。」


アキラがその言葉を言い終える前に店の中で甲高い音が鳴り響いた。

アキラは途中で言葉を紡ぐことを止め、嫌な予感を感じながらも顔を後ろへと向けた。

振り向いた先には粉々になったティーポットの残骸が散らばっている。

それを見た瞬間、先ほどアキラの顔の横を通りすぎた物体が何であるかを悟った。


「うぉっ!?危ないだろ!?もう少しで死ぬところだったぞ!?」


アキラは店主の行動に戦慄していたが当の本人はバチコーン!とウィンクを決めてアキラの方へと視線を向けている。


「やだなぁ〜アキラちゃん。私はまだ23歳よー?60過ぎだなんてそんなこと、冗談でも純粋な乙女に言っちゃダメだぞ★」


おどけた態度をとっているが店主は目が据わっている。

これは本気でキレているのだろう、本気と書いてマジギレだ。

その右手には二つ目のティーポットが握られていて、その握力からか軽くヒビが入っている。

左手には調理用のナイフが握られている。

次にアキラがなにか発言をした場合は本気で殺しにくるつもりなのだろう。

なにより猫言葉が外れているのが一番怖い。


「わかったっ!謝罪するからその手に持ったナイフをまな板の上に戻してくれ。殺気が漏れてるぞ……………。」


やはりキレるとヤバい奴だな………………。

前回の麻薬事件でこいつの娘が麻薬組織に拉致られたとき、機関銃を片手に単身で組織へ乗り込んでドンパチしてたのを忘れてたぜ……。

おまけに敵地で見つけたロケットランチャーを遠慮なく使ってアジトを吹き飛ばしやがったんだからな、つくづく恐ろしい女だぜ。

あいつの方が殺し屋に向いてるんじゃないか?


「もぉー仕方ないから許してあげるにゃー。普段はハードボイルドなアキラちゃんの慌てる姿を見ることができたからにゃー。後、ケーキバイキングも奢ってくれるって言ってるしにゃー。とびっきり高いやつを。」


満面の笑顔で店主は言った。

さりげなくケーキバイキングも要求する辺り、頭もキレるのだろう。

年齢に関しては禁句のようだが。


「俺は、ケーキバイキン」


店主がテーブルに店内に刺突音が鳴り響くほど、思いっきりナイフを突き立てた。

ナイフの柄は力強く握られたため、ぐしゃりと潰れている。


「いや、奢ろう。エスコートするぜ。お嬢さん。」


男の立場は弱いのだろう……。

奢ることを約束したアキラの背中には哀愁が漂っていた。


「毎度ありにゃー」


しばらく、二人の間には無言の時間が続いた……。


ふと、アキラが時計を見た。


「そろそろか……。」


「もう行っちゃうのかにゃ?アキラちゃん。」


「いや、まだこの悪趣味な店には居させてもらうぞ。ただ、そこで隠れている奴に出て来てもらおうと思ってな。」


アキラはそう言い、入り口の近くにあるワイン樽の蓋を開けた。


「……zzz」


蓋を開けるとそこには12.3歳程に見える少女が眠っていた。

少女の顔は整っていて後、数年もすればとてつもない美人になるだろう。

だが何故こんなところに少女が居るのだろうか?


「わぁっ!可愛い女の子だにゃー!この子、いつの間に迷い混んだんだろう?アキラちゃん良く気づいたにゃー?そういう少女をかんちするセンサーでもついてるのかにゃ?」


「誰がロリコンだ。仕事の性質上、気配には敏感なんだよ。お前もわかってるだろ……。ったく……おい、ガキ、起きろ」


アキラは少女の体を揺さぶったが少女は目覚める様子がない


「わぁお☆アキラちゃんってば大胆ねーっ!いきなりいたいけな少女の体に触るなんてっ!この色男!ロリコン!ペド野郎!」


「テメェ、さっきのことまだ根に持ってんのか……?」


店主がしーらないとでも言いたげな表情をしてそっぽを向き始めたので、この女にはツッコミをいれるだけ無駄だと悟った。


「チッ、おい起きろガキ、テメェのせいでこっちはロリコン扱いだぜ。」


再度、少女の体を揺さぶるが少女の反応はない。


「仕方がないな………………………。」


アキラは、面倒そうな顔をすると手のひらで少女の頭部を掴んだ。

そして、次の瞬間にはその手に力を込めた。


「いたたたたたたたたたっ!痛いっ!痛いっ!」


アイアンクローを受けた少女は叫びごえを上げながら目を覚ました。

少女は瞳に涙を浮かべている。


「うわぁ…………。アキラちゃん鬼畜だにゃあ……………。お姉さんドン引きだよ……………。」


「ティーポットを投げてくるような女に言われたくないな。

おいガキ、何故そんなところに隠れていた?」


少しの間、店内が静寂に包まれた。

やがて少女は口を開き、おちゃらけた様子で言葉を発した。


「私を弟子にしてください!師匠!」








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