◇◇突撃! ザインフ争奪戦!!!◇◇
ザインフが発見された!
……千年前! 人類は性別によって真っ二つに別れた!
慈愛に満ちた母なるAI「ティアニト」が率いる男の国「シャイス」。
威厳をまとう父なるAI「ヴァアール」が治める女の国「ジェベル」。
両国は、たちまち熾烈な戦争を開始した!
その直前、ザインフは姿を消し、伝説だけが残された……。
ザインフは、手にしたものに一千億の兵団をもたらすという。
悠久の時を争い続けた二大勢力は、疲弊の果てに、ザインフを探し求めた。
そして今、ザインフは再び世に現れた!
荒れ果てた過去の遺跡に、埋もれていたのだ!
発見したのは、ジェベルの捜索隊。
そして、ザインフを警護するのは、ジェベルきっての戦術家、「盾ゆかり」を指揮官に戴く「ヴァルキリー・アイズ兵団」。
ジェベル本国に温存された、鉄壁の守りを誇る精強無比の軍団である!
***
波打つ砂漠の谷間を粛々と進む長蛇の列を、刃獄人は眼下に見下ろしていた。
最終戦争の前日である。
「ついに見つけたぜ!
オレたちが一番乗りのようだな!」
まもなく起こる戦闘の予感に、獄人は歓喜にまみれた凶悪な笑みを浮かべた。
率いるは、最悪最強の部隊、「食屍鬼狩猟団」!
常に前線を彷徨し、食料も補給もすべて現地調達の戦鬼の群れ!
日常になじめぬはみ出し者、精神異常者、犯罪者、ありとあらゆる異端の吹き溜まり!
配属された新兵の平均余命は一週間!
常に捨てゴマとして苛烈な戦場に投入される、生きながら亡者と化した棄民の集団であった!
獄人は部下たちに檄を飛ばした。
「ザインフを強奪する!
ティアニトが欲しがっているガラクタだ!
死にたくなくば、勝て!
女どもはオレたちの好き放題だ!
怖気づくんじゃねーぞ!
女に背を向けたオカマヤローはオレがその場で殺す!
刃向かうものは、撃て!
倒れたものは、犯せ!
動かなくなったものは、殺せ!
死んだものは、食え!
女どもすべてに地獄を見せてやれ~~~~!!!」
獄人が駆る「虐殺伐神号」が砂丘を駆け降りる。
背後に幾百もの「食屍鬼狩猟団」が続いた。
「ヴァルキリー・アイズ兵団」の盾ゆかりは、迫りくる獄人たちを発見した。
「愚かな……!
またしても屍を積み上げなければならない悪夢の時が訪れるのね……!
わたしは虫一匹殺したくはないのに!
しかし、わたしたちジェベルの女は、断固として男どもを殺さねばならない!
ああ、偉大なる父、ヴァアールよ!
勇敢なお姉さまたちのように、戦いに猛り立つことができない、弱いわたしをお守りください!」
ゆかりのコクピットに通信が入る。
『シャイス軍の襲来です!
一直線にこっちへ突っ込んでくるわ!
相手は……なんてこと、食屍鬼狩猟団よ!
どうします?
撤退しますか?』
ゆかりは鋭い声を放った。
「わたしたちはザインフを抱えている!
逃げることはできないわ!
ここで迎え撃ちます!
大丈夫、わたしたちヴァルキリー・アイズは精兵!
返り討ちにしましょう!」
両軍は正面から衝突した。
が、戦意旺盛な獄人の兵団に押され、ゆかりの軍は体勢を崩した。
なにより、獄人の乗り込む伐神号は、他のAFよりはるかに強大なのだ!
AFは、戦闘を経ることで自己進化する!
十年を最前線で戦い続けた伐神号は、他を圧する力を手にしていたのである!
すさまじい破壊を繰り広げながら、獄人は小勢を率いたのみで、敵軍のただ中を突き進む。
一瞬でヴァルキリー・アイズ兵団を崩壊させたか、と見えたとき、異変が生じた。
先頭を突っ走る獄人の前に、重装甲の敵AFたちがブ厚い壁を作った。
シャイス軍に比べ、破壊力の劣るジェベル軍のAFは、集団戦を基本としていた。
さしもの獄人も、一瞬の遅滞を免れない。
「チッ、弱えーザコどもが小癪なマネを!
前に進めねーぜ!
一気にザインフを拝んでやろうとしたのによ!」
『あ、あ、兄ィ!
な、なんだか様子が変でヤンス』
サンシャクからの通信。
獄人も異変に感づいた。
「なんだ?!
いつの間にか囲まれている!」
獄人たちの周囲は、素早く展開したヴァルキリー・アイズ兵団に包まれている。
ゆかりたちは、一斉射撃を開始した。
「獄人さま~、た、助け、ぐわあーーーーーーー!」
「し、死にたくねえよお!
ぎゃあああああああああああああ!」
「機、機体がもたねえ!
ひいいい~~~~~~~~~~!」
全方位から攻撃を受け、食屍鬼狩猟団のAFは次々と爆散してゆく。
獄人たちが、前進をはばまれた刹那の時が勝負を分けた!
巧みな擬態と迅速な機動によって、たった一瞬で、ゆかりは包囲殲滅陣形を完成させていたのである!
古代の天才戦術家、ハンニバルが完成させた究極の「槌と金床」戦術をAF軍団で再現したのだ!
部下の悲鳴が続けざまに聞こえる窮地のさなかで、獄人は、狂気を目に宿す。
「クックック。
やるじゃねーか、メスブタども!
だが!
これしきでくたばる獄人サマじゃねー!
いけ~~~~~~!
バッシング・フォーーーーーーーーース!!!」
獄人の叫びとともに、虐殺伐神号の魁偉な全身が膨れ上がり、落雷のごときすさまじい咆哮がほとばしる。
AFは、人の精神力を糧とし、駆動する!
それこそが、人が戦場を跳梁跋扈する理由であった!
獄人の異常なまでの強力な精神力によって、伐神号はつかのま、その力を倍増させる!
「くらえ~~~~~~~!
極核弾頭乱射!!!」
伐神号の全身から、核弾頭を搭載したミサイルがマシンガンのごとく、重装備のジェベルAFに叩き込まれた。
「そんな? 装甲が溶けてゆく?!
きゃあ~~~~~~~~~~~~~!」
「ああーー!
ヴァアール様~~~~~!」
圧倒的な火力により、ジェベルAFの装甲が破砕する。
混乱する中にとびこんだ伐神号は、巨弾と化した四肢をふるい、ゆかりの軍を蹂躙した。
巨大な鉄鎖のごとく獄人たちを締め付けていた、ヴァルキリー・アイズ兵団の重厚な包囲にほころびが生じた。
獄人の声が配下を叱咤する。
「金床はオレが叩き割った!!!
連中はもはや敵じゃね~~~~~!
存分に踏みにじってやれ!!!」
作戦が破られたショックで、ゆかりは呆然自失していた。
「そんな!
信じられない!
わたしの指揮は完璧だったはず!
なのに……わたしは悪夢を見ているの?
ああーーーーーー!」
獄人の一撃を受け、ゆかりのAF、「デンジャープリンセス」は、獄人の前に擱座した。
反撃に転じた獄人たちは、たちまちゆかり軍を崩壊させた。
「ウワッハッハッハッハッハッハッハ!!!
ヤローども、お楽しみの時間だぜ!
存分に楽しむがいい~~~~!」
獄人は、破壊された「デンジャープリンセス」のコクピットから、ゆかりを取り出した。
「ちいっとばかり、てこずらせてくれたじゃねーか。
だが!
もうお前は終わりだ!!
徹底的にいたぶってくれる!!!」
伐神号の手のひらの上で、ゆかりは恐怖のあまり意識を失った。