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ミッドガーデンの神プレイヤー ― 無課金の俺が伝説の救世主になるまでの軌跡 ―  作者: まさな
第六章 変わりゆく世界

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第十二話 ヨルムンガンド

2017/6/5 文章を少し修正。

 あまりのことに全員が呆然とする中、ミルフィが走り、大蛇ヨルムンガンドに剣を突き刺した。


「ミルフィ!」


「くっ、きゃあっ!」


 彼女がヨルムンガンドの体に弾かれた。潰されないかとヒヤヒヤする。


「無茶だ! せめて離れて【(セイン)卍字(ト・クロス・)覇魔剣(ドミニオン)】で」


 俺は言う。


「ダメです! それでは(・・・・)これを止められません! この先に、王都が!」


「いや、しかし……」


「プレイヤーの皆さん、このエリアから退避して下さい! 現在、重大なバグが発生しています!」


 GMの文字を頭の上に付けた森里が空中に現れて言う。


「おい! 森里ぉ! ボス2体をいっぺんに出すって、ふざけすぎだろ! いいぞ、もっとやれ!」

「足場が無いと戦えないぞぉ、森里! お前、ちゃんと考えてボスを出せよ!」


「違います! これは運営の用意したボスではありません! ヨルムンガンドの登場予定は無いんです!」


「んじゃさっさと、消せよ、バカ」


「それが……とにかく、このエリアから退避して下さい。一分後に強制リセットをかけます! うわっ?!」


 森里に対して爆裂の呪文が飛んできた。


「うっひょー、誰だ?」

「やるじゃねえか」

「え? GMって攻撃不可じゃなかった?」

「せや、森里には一切攻撃が効かんかったはずや」

「誰の攻撃だ?」

「アイツだ! 黒いウイッチ!」


「ふふふ、GMごときに(・・・・)この世界の決定(・・・・・)を邪魔させるわけにはいかないわ。これはっ! 神の御意志ッ! さあ、ミッドガーデンをあるべき姿(・・・・・)に戻すのよ!」


 空の高い場所から見下ろす〈黒き魔女〉が狂気の表情で叫んだ。


「な、何を。運営に対する妨害行為としてアカウントを停止しますよ! それでなくても、この分身(アバター)を攻撃できる時点でチート行為が疑われます!」


 森里が警告して言うが。


「ふふ、ははは、ええ、そうよ、チートよ。アカウントなら好きにしなさいよ。そんなもの、どうだっていいわ」


「ええ? どうだっていいって…」


「消えなさい」


 手をかざす黒き魔女から黒い複雑な魔法陣が浮かび上がる。

 それも呪文詠唱は無し。

 タイムラグ無しの爆裂の呪文が再び森里を襲った。


「うわああああ!」


「やった!」

「森里をやっつけたぞ!」

「マジか!」

「ラスボスをやっつけるとか、面白すぎるぅ!」

「すげーな、チーター」

「相当な腕だろ。一流ハッカーレベルじゃん」


「……させない! 神への攻撃は許されるモノではありません! 【(セイン)卍字(ト・クロス・)覇魔剣(ドミニオン)!】」


 ミルフィが上に向けて閃光を放った。


「あっ、よせ! ミルフィ!」


 俺はまずい予感がして止める。あの黒い魔女は運営に任せるべきだ。堂々とチート宣言をしているし、ミルフィがいくら強いNPCでもやられる可能性がある。


 だが、攻撃を受けた〈黒き魔女〉は苦痛に顔を歪めて問うた。


「チッ! アストラル化したこの体に、ここまでのダメージを与えるなんて。あなたはいったい何者なの?」


「私は神聖フェルディア王国に仕える聖騎士、白桜騎士団団長ミルフィーユ=フォン=バルドー!」


「ふう、そんな設定上の名前を聞いているのではないのだけれど……まあいいわ」


 黒き魔女がニヤァーと笑った。

 それは背筋も凍りそうな薄気味悪さで。

 最悪の予感がした。

 

「データごと消えるがいいわ! 滅せよ!」


「や、やめろぉおおお!」


 俺は走った。ミルフィを助けようと。

 黒き魔女のやろうとすることを察して、必死に走る。

 が、めくれ上がった大地の距離は見た目と違い、途方もなく遠く。

 どうしても間に合わない。


「え? あAあAHぁあ――!」


 悲鳴を上げるミルフィの体がモザイク状に消えていく。


「ミルフィイイイ――!!!」


 ようやくそこに辿り着いた俺に、ミルフィの手の残像が重なり、そして消え去った。


「さあ、これで邪魔は入らない。ヨルムンガンドよ、フェルディアのすべてを滅せよ! そこにある建物、アイテム、NPCに至るまで破壊し尽くせ! それが新たな神の御意志! ふふふ、ははははは――」


「お、お兄…」


 小雪が気遣ってくれるが。


「……っざけんな。ふざけんな! くだらねえチートなんてしてんじゃねーぞっ!」


 怒髪天を衝くとはこのことか。

 俺は天に向かってほえた。


「うるさいわね。ああ、リュート、誰かと思えばあなただったの。この力が欲しければくれてあげるわよ」


 〈黒き魔女〉がそんな事を言うが、そんな力など!


「いらねえよ! ミルフィを元に戻せっ! 今すぐに!」


「ええ? ああ、そう言えばミルフィにぞっこんだったわね、あなた。バッカじゃないの? ただのデータに」


「…るさい。データだろうと、俺の嫁だっ!」


 少なくとも、お前が好き勝手にしていいモノじゃ無い。


「プッ、きゃははは、本気で言ってるの? そんな事を言って良いのは掲示板の中だけでしょ! なんなら私がリアル友達を紹介してあげても良いわよ?」


「てめえの友達なんかいるか。こっちからお断りだ」


「ええ? 生身の人間なのに?」


「何だろうと、ミルフィの方が百万倍マシだッ!」 


「あのねえ…全年齢ゲームのデータに何をどうするというのかしらね。もういいわ、あなたも一緒に消えなさい」


 〈黒き魔女〉が俺に手をかざす。

 同じ呪文が来る。

 それはもう確実に分かっていた。


 ならば、やることは一つだ。


「来い! 【ガンバンテインッ!】」


 俺はワイルドカードに最強の魔法バリアを要求した。

 現れたのは、ねじ曲がった樫の杖。

 それは俺の頭上に浮かび上がると緑色のオーラを発した。


「なにっ!? 私の魔法が、効かない!? これは炎の無効化なの? なら、氷でどうかしら!」


 黒き魔女が今度は青いエフェクトの魔法陣を出すが、これも途中で光が消える。


「ええい! ならば、雷、大地、毒、闇、神聖、無属性! そんな、どれも効かない!?」


 黄色、緑、紫、黒、白、透明――様々な色の光の矢が落ちてきたが、俺の出した杖はそのすべてを無効化する。

 呪文詠唱時間(キャストタイム)無しで次々と呪文を使う黒き魔女も滅茶苦茶だが、このスキルはそれを上回る。

 どれほどの呪文を使おうともノーダメージだ。


「なら、物理で! ヨルムンガンド!」


「来い! 【英雄ウィーラーフ!】」


 大盾を持った騎士が幾人も現れ、大蛇の体当たりを盾で止めては消えていく。

 普通の人間の大きさであるのに、巨大な蛇の一撃を止める力とはいかほどか。

 それでも、一撃ごとに一人消えていくので無限に持つというわけではなさそうだ。


「しゃあっ! 取った! 【天流乱星!】」


 陣さんが流星のような剣筋を残し、ファフニールの首を落とした。

 そう、戦っているのは俺だけじゃない。

 ここには大勢の強者がそろっている。

 俺は俺の役割を果たすだけで良い。

 

「チッ、キース! ファフニールをゾンビ化させなさい」


「いや、僕の実力ではそれは無理だ」


「いいから! 足りない魔力は神が補充してくれるでしょ」


「なるほど、分かった、やってみよう」


「させるか!」

「止めろ!」


 俺や他の冒険者がキースに向かって殺到する。


「ヨルムンガンドッ!」


 黒き魔女が杖を振るうと、大蛇が俺達の進行方向に体を割り込ませてきた。


「ぐあっ!」

「くそっ、重すぎだ!」


「おお、神よ、感謝します! この呪文を一瞬で!」


 キースが自分でも驚いたような声を上げ、巨大な魔法陣が展開した。


「JUOoOOO―――!」


 ドラゴンゾンビとして蘇ったファフニールが咆哮する。


「畜生! せっかく倒したのに!」

「またあれとやれってか?」

「もうMP切れっスよ~」

「ほれ、マジックポーションだ」


 キースもファフニールも、倒せない相手では無い。

 だが、一人ずつ倒していてはダメだな。

 互いに復活されたり回復されたりでは切りが無い。


 必要なのは回復を凌駕する武器。

 そして、敵を同時に倒せる圧倒的な技や呪文。


 それを満たすのはワイルドカードしか無い。

 

 ミルフィが守ろうとしたフェルディア王国を――

 そこにいる街の人々を――

 俺に指輪をくれたララの笑顔を――


 そのためなら、俺は何だってやってやる!


『&%$σλ――ダメ、竜人、それではあなたが』


 母さん、心配してくれてありがとう。

 でも、俺がそうしたいんだ。


 たとえその先に破滅の未来が待っていようとも――


 絶対に許せないことがある!


「エリック、こいつらを一気に倒せそうな武器は?」


 俺はこの場の最高の賢者に問う。


「僕の知る限り、この世界の最強はエクスカリバーだが…」


 ディスティニーランドで一度使っているからもう使えないな。

 ワイルドカードはどんなモノにでもなり得る切り札だが、同じ種類の武器は二度と使えない。

 そういう制約がある。


「じゃあ、呪文は?」


「メテオストライク。フェルディアの王立図書館の禁書に存在が記されていた。だが、キースさんやあのウイッチは魔法抵抗が高いはずだ。僕も使ったことが無いから、この世界のメテオストライクが物理ダメージなのか魔法ダメージなのかは分からない」


「分かった。ひとまず剣を何か出しておかないとな」


「リュート、君一人で倒す必要は無いんだぞ?」


「分かってるけど、力が有るなら、何もしないわけにはいかないさ」


 ミルフィの顔が思い浮かぶ。


「なら、使え。スキルポーションだ」


「サンキュー、エリック」


 エリックからスキルポーションを受け取って飲む。

 相変わらずの炭酸飲料だ。ゲフ。


「さあ、みんなで奴らを倒そう。来い! 【魔剣グラム!】」


 右手を伸ばすと、赤く燃えさかる炎の剣が俺の手に収まった。


「いいぞ、リュート、それはファフニール用だ!」


 エリックが教えてくれる。

 ここはあの技しか無いな。

 俺の知る最高の攻撃技。ドラゴンゾンビに効きそうな聖属性。

 これもワイルドカードで呼び出す。


「来い! 【(セイン)卍字(ト・クロス・)覇魔剣(ドミニオン)!】」


 白い閃光がドラゴンゾンビと化した〈邪竜ファフニール〉にほとばしる。

 それだけではない。すでにユキや他のみんなも邪竜に大量のダメージを与えていた。

 卍の聖印が刻まれた竜は怨嗟の咆哮を一声残すとただの一撃で消え去った。

 

「その技は! そうか、貴様もチーターか!」


 〈黒き魔女〉が俺を見て言う。


「俺はチーターなんかじゃねえ! 正規プレイヤーだ!」


「ええ? だって、そのスキルは」


「来い! 【メテオ・ストライク!】」


 赤い巨大な魔法陣が俺を中心に地面に広がった。

 本来なら長くかかるはずの詠唱をすっ飛ばし、結果だけをここに顕現させる。

 即ち、これは星落とし。

 天が怒りの赤に染まり始めると――

 星の大軍が、空気との摩擦で激しく火花を散らしながらこちらに突っ込んできた。

 巨大な隕石が超高温によって黄金色に燃えている。


「ぬおっ! あの呪文は!」

「間違い無い! メテオストライクだ!」

「使える奴がいたのか!」

「やべえ、あれはフレンドリーファイア有りじゃないのか!?」

「分からんけど、死にたくなけりゃ避けろ!」

「避けろって、どこへだよ!」


 他のみんなが狼狽えるが。

 ガンバンテインの杖はまだ出ている。

 まずいようならこの杖で無効化できるはずだ。


 幾千幾万の彗星が雷のような轟音を発しながら大地に降り注ぐ。


「ぐっ! これは物理属性かっ!」


 直撃を食らったキースは顔色が不自然に青白い。すでに自らをゾンビ化させていた様子。

 物理バリアで止めたようだが、そこに次々に隕石が直撃する。

 青カーソルが消えた。死んだようだ。


「す、凄いぞ、リュート。君はまさか、コントロールしているのか、このすべての隕石を!」


 エリックが驚嘆したように言うが、そんなわけ無いだろ。第一、これだけの数をどうやって操作するのかと。

 だが、味方にはぶつからない仕様のようで、助かった。


「ちいいっ、バカな、いくらチート有りの魔法騎士(ルーンナイト)といえ、そんな大魔術を簡単に使いこなせるはずが! このシステムはどうやってもクラス特性を無視できないはずよ。どう見ても最高クラスの大魔術を、魔法剣士が……ええいっ、出直しだ!」


 〈黒き魔女〉がテレポートでこの場を脱出した様子。

 仕留めておきたかったが……仕方ないか。


 問題は、最後の一匹。

 蛇がまだいた。

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