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ミッドガーデンの神プレイヤー ― 無課金の俺が伝説の救世主になるまでの軌跡 ―  作者: まさな
第六章 変わりゆく世界

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第九話 栗皮色のローブ

 梅雨がすっかり明け、現実世界が本格的に暑くなってきた頃。


「んー、やっぱりこっちは涼しくていいなあ」


 〈始まりの平野〉で俺は大きく背伸びをする。

 さすがに、真夏の部屋のエアコン無しだと俺の本体(・・)が持たない気がするが、扇風機を回しているし、設定で現実世界の体温や、部屋の温度、外気温などのパラメーターも表示させることができる。部屋の温度が30度を超えたら警告音が鳴るように設定しておいた。


「お待たせ! お兄」

「お待たせっス、お兄さん」


 小雪とミホが合流してきた。ナツキは部活があるから、もう少し後だ。


「おう。じゃ、今日も行くか」


 俺は今日もダークセインの兵士狩り。ここ一ヶ月近くずーっとそれだ。

 【殺戮者(スローター)】の称号を手に入れてしまっている。レア2次職のアサシンのジョブも解禁されてしまった。まあ、ゲームだからいいのだ。

 アサシンにクラスチェンジするつもりは無い。好みじゃ無いし。

 さすがに小雪達は飽きると言って別なことをしているが、時々こうして俺を手伝ってもらっている。

 ユキも今日は別行動。彼女は綻びを今も探し続けている。俺もこの戦争が終わればユキを手伝う約束だ。


「このエリアにもいないか…かなり減ってきたな」

 

 最初は大軍だった帝国兵も次第に数を減らしているようで、あまり見かけなくなったエリアも多い。

 二度ほどフェルディア王国軍とぶつかったようだが、どちらもフェルディアの勝ち。

 二度目にはたまたま俺もその場に居合わせたが、ミルフィとガウェインが兵を指揮して戦っていた。

 もちろん、俺も手伝って勝利に貢献し、褒美ももらっている。


「この分だと、フェルディアの勝ちで終わりそうっスね。掲示板だと帝国のNPCの士気はガタガタだそっスよ」


「だろうねえ」


 黒き魔女はフェルディアが滅ぶなんて脅してくれたが、今頃あいつ、どんな顔をしているやら。


「ウー」


 シロが森に向かって身構えた。


「敵か?」


 だが、森から姿を見せたのは知った顔だった。


「よう、リュートやないか」


 侍の格好をしたパーティ。ヒョウ柄なのでやたら目立つ。


「ああ、虎徹さん。珍しいですね」


「いや、ちょっと帝国に用事があってな。そっちは派手にやっとるようやないか」


「いやあ」


「ミルミル命っスからね」


「ああ、それか。VRの18禁、カスタムでミルミルにそっくりにできるで?」


「えっ!」


「ちょっとー、こてっちゃん! うちのお兄はまだ18歳じゃないよ。悪の道に誘わないでよー」


「悪ってなあ。これも大人の道やで?」


「ダメ!」


 ふーむ。ま、そっくりと言っても、たぶん声は違うだろうし、ミルフィの心が大切だし……そういう愛のないアレはアレだからして。

 本人じゃないと嫌だし。


「分かった分かった。じゃあ、またな。次の生産戦はオレらが勝つから覚悟しとけや」


「ええ」

「ボクらも負けないよー」


「おう。それと最近な、帝国側にむっちゃ強い魔導師が付いたっちゅう話や。PKされんように注意しときや。茶色のローブの男や。じゃあな」

「またニャー」


 虎徹達が去って行く。


「さっきの話だけど…」


「お兄、18禁は有料でしょ」


「いや、そういう話じゃなくてな、強い魔導師の方だ」


「ああ」


「ふ、ふう、良かったっス。お兄さんがえっちな話をし始めたらどうしようかと。あわわ」


「落ち着けミホ。そんな話はしないから。それより、もうフェルディアの勝利は見えてるのに、なんで今更、帝国側に付く奴がいるんだろうな?」


「そりゃあ、お兄、ナツキちゃんみたいに、相手が強ければ強いほど燃えるタイプなんじゃないの?」


「逆境か。うーん、でも、あいつもなんだかんだで、そこまで無謀な戦いはしないだろ」


「うん、まあ、そこは本人に聞いてみるしかないよ。お兄、噂の魔導師、探してみる?」


 小雪がそんな事を言い出すが。


「いやいや、強い奴は強いプレイヤーに任せるよ。陣さんとかな」


 陣さんは基本的に深夜にプレイする人なのであまり見かけないが、野武士みたいな人だ。


「ん? メールが入ったな。ちょっと待っててくれ」


 レーニアからかと思ったら〈アベル〉からだった。聖女親衛騎士団の幹部だ。


「えっ!?」


 俺は自分の目を疑った。

 そこにはミルフィが帝国軍に捕まったと書いてあった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




「お兄、ちょっと待ってよ! せめてナツキちゃんと合流してから」


「いや、後だ」


 俺はすぐさま情報があったエリアに向かう。

 〈西の湿地〉

 帝国領の国境近い場所で、街道から少し外れており、草むらのあちこちに小さな池が散在する場所だ。


 なぜそんなところにミルフィが行ったのか。反攻作戦でもやっていたのだろうが、それにしても彼女が捕まるなんて、ちょっと信じられなかった。

 帝国にそんな兵力は残っていないはずなのだ。

 俺やプレイヤー達が毎日のように兵士を狩っていた。

 普通のゲームなら無限に湧いてくるのだろうが、ミッドガーデンではNPCの人口や資源までもパラメーターとして管理されているようで兵士の数が減っていた。

 とにかく、急がないと。



 〈西の湿地〉に近づくと、黒いサーコートの鎧を着た兵士が哨戒していた。

 俺を見つけるとすぐに襲いかかってくる。 


「くそっ、邪魔だ」


 【ファイアソード】の呪文で剣を強化し、攻撃力を上げての【十六連打】を浴びせてやった。

 すぐに煙と化すが、敵兵はかなりの数だ。

 どこから湧いて来たのかと。


 疑問はすぐに晴れた。

 俺の攻撃がミスで少し外れたときに敵兵の兜を弾いて飛ばしたが、蝋人形のような青白い顔をしていた。焦点は定まっていない。


「はわわ、こいつら、ゾンビです!」


 ミホが狼狽えながら指摘したが、それだけだ。

 普通に倒せるし、一度煙と化してしまえば復活してこない。

 俺は向かってくる奴だけを倒して先に進む。

 敵にスケルトンも混ざり始め、周囲の視界が悪くなってきた。

 行く手を阻むように濃い霧が出てきている。


「くそっ、ミルフィはどこだ!」


 俺は苛立ちながら周囲を探す。


「ワン、ワン!」


 シロが吠えたので、俺はそちらに急いで向かう。

 剣を打ち合わせる音が聞こえ、白い鎧の騎士が数人、敵に囲まれているのが見えた。


「今、助ける! 【十六連打!】【回転斬り!】」

「援護するっス! ――女神エイルよ、我が願いを聞き入れたまえ。ヒール!」

「いっくよー! ――怒れる雷神トールに捧ぐ、その威光をもって、紫紺の戒めとすべし! サンダープリズン!」


 ミホと小雪も加わり、この場の敵は排除できた。

 よし。


「かたじけない。リュート殿」


 兜を被っているので顔は分からないが、聞き覚えのある声だ。カーソルは緑色のNPC、ミルフィの部下の白桜騎士団だな。


「ミルフィはどこだ?」


「この先に。黒い竜と戦っている最中に後ろからあの卑怯な魔導師に!」


「竜だって?」


「ええ、大物です。ブレスは紫煙の毒、吸い込むだけでやられます。お気をつけ下され」


 彼も毒にやられているようなので、俺はポーションと毒消しを渡してやった。


「よし、行くぞ」


「お待ちを! 我々だけでなく、聖女親衛騎士団の部隊もアレに挑みましたが、返り討ちに遭っています。かなりの手練れの魔導師、ここは一度退いて――」


「じゃあ、お前達が退いて援軍でも呼んでこい。俺は進むぞ」


 そのまま西に向かう。

 いよいよ霧が深くなって数メートル先も見づらくなってきたとき――


 俺の脇を走っていたシロが止まって唸った。


「ウゥー」


 何も見えない。

 だが、そこに(・・・)いるのは(・・・・)分かる(・・・)

 ズシン、ズシン、と大地を揺らしながらゆっくりと進む足音も聞こえてきた。


 竜だ。


「ミホ! 風魔法で視界をどうにかできないか?」


「やってみるっス! ――四大精霊がシルフよ、その羽ばたきを突風となせ! ウインド!」


 ミホが呪文を唱えると、霧が風で吹き飛ばされ、そこに竜が現れた。

 大きい。

 今までこのミッドガーデンで戦ってきた、どのモンスターよりも大きかった。

 色は漆黒。

 岩のような鱗が体全体を覆っていて、山が動いているようにも見えた。

 その竜の背中の上に、白い鎧の騎士が一人横たわっている。


「ミルフィ!」


 俺は彼女の名を叫んだ。

 だが、ミルフィはぴくりとも反応しない。


 生きているのか、死んでいるのか――

 すぐにでも駆けよって助け出したいが、俺は先ほどの忠告を覚えている程度には冷静だった。


 とっさ(・・・)の勘で地面を蹴って横に飛び退く。


 そこに何本も氷の槍が刺さった。


「ほう、なかなかに素早いな。いや、勘がいいのか」


 後方に現れた男が感心したように言うが。


「ええっ! そ、そんな」

「な、なんで…」


 小雪とミホがその男を見て狼狽えた。

 二人がよく知っている魔導師。

 その栗皮色のローブには俺も見覚えがあった。

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