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第八話 転校生

 学校に着いた。

 俺のクラス、二年A組の教室に入る。


「よっ、水沢」


 クラスメイトの大滝(おおたき)翔真(しょうま)が片手を挙げて挨拶してきた。整髪料で念入りに髪型を決めているが、どうもおっさん臭さが漂うモテない奴だ。ま、俺もモテた例しがないので他人のことは言えないが。同じ帰宅部仲間である。


「おはよう」


 俺はそのまま通り過ぎて自分の席に鞄を引っかける。


「聞いたか、今日、転校生が来るらしいぞ。しかも、女子!」


 大滝が俺を追いかけてきて言う。転校生とは、たぶん深雪のことだろうけど。


「んん? なんでそれ知ってるんだ?」


「そりゃお前、オレの情報網を甘く見るなよ?」

 

「情報網ねえ…?」


「きっとスゲえ美少女だぜ。んで、ひょっとしたらオレの幼なじみかもな。んで、あー、翔ちゃんだーって感動の再会を……おい、聞いてるのか、水沢」


「いや、聞いてない」


「おいぃ~。お前はオレの親友Aという大事なモブポジションなんだから、頼むぞ」


「親友なのにモブなのか。まあ、親友でもないけど」


「いいじゃねえか。そこはジュース一本で演じきってくれ」


「安い出演料だな。ま、友達Aならやってやらなくもないが、変な役回りは押しつけないでくれ」


「大丈夫、オレの格好良さと、優しさと、頼りがいと、モテモテぶりを、さりげなーく転校生に紹介してくれるだけで良いから」


「めちゃめちゃハードじゃねえか。やっぱ断る」


「えー? 水沢、頼むよー」


「ヤダ」


 と、俺の席の前に女子がやってきた。


「おっ、久遠(くおん)。なんだ、オレに告白か?」


 大滝が名前を呼んだので分かったが、基本、俺は女子の名前と顔を一致させて覚えるのは苦手だ。

 確か久遠(くおん)静奈(せいな)と言ったか、ちょっと古風で変わった印象の名前だったので、名前だけ覚えている。


「死ね」


 久遠は無表情で言い放つ。ボブカットの地味な感じな子。どこか眠そうな猫みたいな瞳だ。


「なんだよ、軽いジョークだろ」


「それがウザい。それより水沢、ちょっと聞いてみるけど、水沢の下の名前ってなんだっけ?」


「リュージンだぜ。竜に人と書いてリュージンな!」


 勝手に大滝が違う読みを教えにかかるし。


「違う、リュートだ。漢字は竜に人だけど」


「そう」


「かー、オレもそんな強そうな名前にしてくれりゃ良かったのに、ダディもセンスねーよなぁ」


 お前の名前の方がセンスいいだろ。

 だが、久遠はなんでそんな事を聞くのか。

 疑問に思った俺が何か言う前に、久遠が先に聞いてきた。


「ひょっとしてミッドガーデン、やってたりする?」


「ああ、うん。昨日始めたばっかりだけど」


「ああ…」


「ミッドガーデンか! オレもやってるぜ!」


「アンタには聞いてない。黙ってて」


「ぐはぁ…」


 銃弾で撃たれたようなオーバーリアクションを取って後ずさりしていく大滝。それがモテない理由の気もするが、確信は無いので俺は黙っておく。


「お兄ちゃんって言ってたあの魔法使いの子、水沢の妹なの?」


「そうだけど、ああ、ひょっとして、久遠が〈氷花〉なのか?」


 俺をPKしたあの黒装束の忍者。


「は、はあ? 何言ってるの? 違うけど。勝手に特定とかしないでよ」


「ああ、ごめん」


 久遠は否定したが、声は似てる感じだ。顔は黒ずきんで分からなかったが、背丈も低めで〈氷花〉と同じくらいだな。

 低い鼻と不満そうに尖らせた唇。


「そうだぜ、リュージン、それはマナー違反ってヤツだ。ところで、久遠はジョブは何を使ってるんだ。オレは侍だぜ」


 復活した大滝がキャラの職業を聞くが。


「あたしは、魔法使いだけど…」


 ふむ、違ったか。ただ、怪しいな?


「おお、じゃ、今度、一緒に三人でパーティー組もうぜ!」


 大滝が言う。


「嫌よ。じゃあね」


「あっ、待てよ、久遠! ああ、行っちまった…ちぇっ、せっかく女子と仲良くなれるチャンスだったのに、リュージン、お前も誘えよな」


「そう言われても。あと俺の名はリュートだ」


「わーってるよ。ところで、お前、レベルはいくつだ?」


「3」


「ええ? まだまだだなあ」


 ちょっと他の事で忙しかったからな。今日帰ったら普通にレベル上げするとしよう。


「でも、そうだな、オレがキャラを作り直せば、パーティー組めるな。あ、お前、サーバーはどこだ?」


 大滝が聞いてくる。


「確かジェミニ・サーバーだったと思うけど」


 ログイン時に、ウインドウの上部に小さくサーバー名が表示されていたと思うが、俺はあまり意識してなかった。


「あー、ジェミニかぁ。オレはキャンサーなんだよ。それだと作り直しても一緒にパーティーは組めねえな……デュエルはできるけど。どうだ、対戦するか? オレはレベル41で称号持ちだからマジ強えぞ?」


「やめとくよ。そんなの勝てるわけないし」


「はは、まあ、そうだな。強くなったら、いつでも挑戦してこいよ。相手になってやるぜ」


「ああ、強くなったらな」


 大滝とミッドガーデンの話をしていると、担任の先生がやってきた。



「よーし、席に着け。今日はこのクラスに転校生がやってきたから、先にその紹介からするぞ。月島、入ってこい」


「はい」


 おおぅ。いきなり俺のクラスに来たか。黒板の前に立ってこちらを向いた深雪とまともに目が合ったが、彼女はちょっと嫌そうに眉をひそめると、すぐに俺から目をそらしてしまった。

 ふう、ま、他人のフリをしておこう。そういう約束だし。


「じゃ、月島、黒板に自分の名前を書いて、自己紹介してくれ」


「はあ」


 気乗りしない感じで深雪が黒板に小さめの字を書いていく。


「ダメダメ、もっと大きな字で。書き直しだ」


 先生も厳しめの指導で、黒板消しでサッと消してしまった。

 深雪は何も言わずにもう一度、さっきよりは大きめの字を書く。

 そして彼女が振り向くと腰まである長い髪がふわりと揺れた。

 何で美少女って何気ない仕草がこうも絵になるんだろうな?

 謎だ。


「月島深雪です。よろしくお願いします」


 表情も変えずに無愛想な感じだが、俺も自己紹介をやれと言われたらこうなるだろう。


「おいおい、それだけか? 何か好きな物は?」


 担任の先生が聞くが。


「特には。読書」


「だそうだ。じゃ、拍手」


「おお、深雪ちゃーん、仲良くしようぜぇ!」


 恥ずかしいから止めてくれ、大滝。

 深雪は視線は向けたが特に反応しなかった。


「じゃ、月島の席は水沢の隣な。水沢、しっかり面倒を見てやるんだぞ」


「うえ、はあ」


 先生はたぶん、俺達の関係は知ってるな。


「あの、先生、私、目が悪いので、前の席が良いです」


 深雪が言う。


「ん? そうだったか。じゃあ、田中、代わってやってくれるか」


「はい」


「よし、じゃ、出席を取るぞ」


 小休憩の時間に深雪の様子を観察したが、他の女子の質問には愛想悪いなりに答えてはいるので、たぶんクラスに馴染めるだろう。

 大滝も果敢にアタックしていたが、周囲の女子に完全にブロックされていた。

 



 昼休みの時間を()げるチャイムが鳴った。教室の生徒達が学食や購買へと向かう中……。


「じゃ、月島さん、中庭で食べよ」


「ええ」


 誘ってくれる女子もいるので、俺がどうこうしなくても良さそうだ。雪代さんからはサポートを頼まれていたが、深雪との約束もあったので、正直、ほっとする。


「水沢、今日は学食と購買、どっちに行く?」


 大滝がやってきた。


「悪い、俺、今日は弁当なんだ」


「なにぃ? この裏切り者ぉ。よし、俺はパンを買って、中庭に行くぜ! 月島さーん」


「おい大滝、あんまりつきまとってると、嫌われるぞ」


「大丈夫、ウォッチだけだ」


 大滝がビシッと親指を立てて行くが、それもなあ。ストーカーじゃねえの?

 一抹の不安があるが、女子もガードに付いているようだし、あっちに任せておこう。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「あれは何なのよ!」


 深雪が叫ぶ。

 学校から家に帰って、やはり不満だったようで、深雪は俺に大滝の事について文句を言ってきた。


「ううん、ちょっと今は転校生イベントに浮かれてるみたいだから、大目に見てやってくれ」


「嫌よ。どこにいてもつきまとってくる感じだし、鳥肌が立つわ」


 自分の両肩を抱いて身震いした深雪は、学校ではクールに振る舞っていたが、結構限界だったようだ。


「一応、注意はしたが、もう一回言っておく」


「頼むわよ、アンタの親友なんでしょ?」


「違うぞ。よく話しかけてはくるが、ただのクラスメイトだ。この家に遊びに来たことも無いし」


「そう。でも…ああもう! いっそのこと、私、水沢君の事が好きで同棲までしてるからあなたは無理ですって言って、アイツの心を完膚なきまでにへし折ってやろうかしら」


「ええ?」


 随分とアグレッシブな断り方だな。

 そんな事をしたら、大滝がマジ泣きしそうだ。「自分だけモテやがって、この裏切り者ぉ!」とか言って。


「変な噂が立っても困るだろ。落ち着け」


「それもそうね……ふう。あ、冗談でも同棲って言わないでよ?」


「分かってる。言わないよ。俺だって自分の身が可愛いしな」


 深雪は放課後になると速攻で帰っていたが、その後で男子が騒いでたからなあ。ロングヘアのクール系美少女は人気が高かったようだ。

 そんなところに「俺、アイツと同棲なんだぜ?」みたいなことを言ったらどうなるか。

 ひい。

 絶対秘密にしておこう。


「ならいいけど。ところで、小雪はまだ帰って来てないのかしら」


「まだだろ。ああ、小雪ちゃんからメールだ」


 携帯の着信を見ると、小雪からだった。家族になったので全員、携帯番号とメルアドは交換している。


「小雪はなんて?」


「学校の友達とカラオケに行くから、遅くなるかもだってさ」


 小雪の方はさっそく新しい友達もできた様子。ま、あの子なら心配は要らないな。


「そう」


 了解、と短めだが返事を打っておく。


「じゃ、俺はミッドガーデンをやるけど…」


「ああ、ええ、邪魔して悪かったわ」


 深雪はやはり、ミッドガーデンには興味が無いらしい。

 ちょっと誘ってみるつもりで言ったのだが、追い出した感じになってしまった。ミスったな。


 俺は私服に着替え、さっそくサイドコアのスイッチを入れ、ベッドに横になる。

 さあ、ゲームの時間だ。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


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〈ミニ攻略情報〉


 ステータスの【カルマ】について


 ミッドガーデンにおいてカルマとはプレイヤーの属性や性質を表し、クラスチェンジの条件に影響する。

 イベントで選んだ選択肢やPKの回数などによって少しずつ変動していく。

 サンスクリット語(古代インド・アーリア語)の『業』(行為)から


[縦軸]


聖者(セイント)

善人(ライト)

普通(ノーマル)

悪人(ダーク) 

悪鬼(デビル)



[横軸]


秩序(ロウ) ← 従順(ジェントル) ← 中庸(ニュートラル) → 奔放(フリーダム) → 混沌(カオス)


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