第十七話 幸せの温もり
ベッドから俺は飛び起きた。
「小雪っ! 深雪っ!」
隣の小雪の部屋のドアを開けて中に入る。
小雪はベッドの上に目を閉じて横たわっていた。
「小雪! 目を覚ましてくれ! 頼む!」
妹の体を掴んで揺する。
「ん、ううん…ふえ? お兄…ちゃん?」
目が開いた。生きてる!
「ああ、良かった」
小雪を抱きしめる。その体は柔らかくて温かかった。
「ちょ、ちょっと、お兄ちゃん、痛いよ」
「ああ、ごめん」
ハッとして俺は手を放した。
って、ベッドの上で抱きつきはまずかったか。小雪はレモン色のパジャマ姿だ。
こんなところを親に見られた日には――
「おい、竜人、そこで何をやってる」
親父の声に振り向くと、親父と雪代さんの二人がドアのところで心配そうに覗き込んでいた。
やば。
「うえ、親父、雪代さん…い、いや、違うんだ、これは」
「アハハ、決定的瞬間を見られちゃったね!」
小雪があっけらかんと変な冗談を飛ばすが。
「おい」
「ううん、血がつながっていないし、男子高校生の性欲ってそんなに凄いのかしら」
雪代さんが冗談とも本気とも付かぬ調子で言う。
「違うから! 説明はするけど、性欲じゃないから!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「つまり、ミッドガーデンの不具合で気を失ってたってことだな?」
居間で親父が確認してくる。
「ああ…そういうことになるかな」
俺は客観的に考えて言う。
「んー、どうだろ。ちょっと痛みにビックリしたっていうのはあるんだけど、このところ寝不足だったし、死に戻りも久しぶりだったからねえ。寝落ちしてただけかも」
小雪が半信半疑な様子で言った。
「深雪はどうなの?」
雪代さんが聞く。深雪はもう自分で部屋から出てきている。
「私は寝落ちしたことが今まで無かったからよく分からないわ。ただ、起きる直前は完全に寝てたわね。寝不足と言えば寝不足だったし…」
「そうか、じゃあ、サイドコアの管理会社にも確認は取ってみるが、まず安全が確認されるまでは三人ともプレイは禁止だ」
親父が言う。
「えーっ! やだよー」
小雪が嫌がるが。
「ダメだ。なに、安全が確認されたら、プレイして良いぞ」
「うん、分かった。ならいいよ。どうせサイドコアは安全に決まってるんだし」
小雪はその点については、まるで疑っていない様子。
「そうね、安全が証明されたから長くやってるんだろうし、でも、ううん…」
雪代さんが考え込む表情をしたが、やはり一抹の不安があるのだろう。
「お前ら、今日は早く寝ろ。ゲームが面白いのは分かるが、いつも夜更かしは良くないぞ」
正論だろう。どのみち小雪と深雪のサイドコアは緊急シャットダウンが実行されたようで黄色のLEDが点灯し、二時間は起動できない状況だ。
「はーい」
「分かったよ」
「分かったわ」
「それとね、サイドコアのゲームだけじゃなくて、もっと他の遊びを……あ、そうだ、竜人君が人生ゲームをこの前、出してくれてたでしょう。あれをみんなでやってみるってのはどうかしら?」
雪代さんが提案した。
「おお、いいな」
親父はすぐに賛同したが。
「んー、まあ、それでもいいけど、ずっとは嫌だよ? お母さん」
「トランプだってあるじゃない小雪」
「えー? まあ、たまにトランプならいいけどね」
「よし、じゃあ、後は父さんに任せて、早く寝ろ」
ま、それが良いだろう。
今日のプレイ中、俺自身も、自分が自分で無くなったような変な気分を味わった。
すぐにまたプレイしたいとも思わない。
〈虎徹〉さん達が心配するかもしれないが、後で謝っておくか。
そんなことを考えつつ、自分の部屋に戻った。
携帯が鳴っていた。守からだった。
「竜人、さっき〈虎徹〉さんから君の様子がおかしかったって蒼星騎士団に連絡が入ったんだが」
割と親切でまめな人だな、〈虎徹〉さんって。
「ああ、大丈夫だ。ちょっとバグで焦って取り乱してたが、今は平気だ。あと、小雪も深雪も無事だ。虎徹さんに伝えといてもらえるかな。親父命令で、今日はもうログインできないんだ」
「分かった。伝えておく」
電話を切り、ベッドに横になる。
ベッドの近くの棚の上に置かれたサイドコア装置。
この無機質な黒い直方体は本当に安全なのか?
俺の中の疑念は前よりずっと大きくなっている。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
サイドコア管理センターの回答は、小雪と深雪に健康診断を受けろというものだった。
二人は気乗りしないようだったが、親父と雪代さんが受けた方が良いと強く勧めて病院に行った。
結果――体には何の問題も無かった。
ナツキとミホもあれから体調は悪くないそうだ。ただ、ナツキはあの時ベッドから起きると、肩が少し赤くなっていたと証言した。
本人は「寝ている間にぶつけたかもね。アタシ、寝相悪いし」などと笑っていたが、ゴブリンに斬られたところが赤くなるのはちょっと気になる。
そして――。
「あ、私、また赤ちゃんができちゃった」
小雪が軽く言ってくれる。
「おいぃ、またかよ。こっちは借金してるんだが」
しかも九人目って。誰の子だよ。
「困ったわ、私も家のローンを組んじゃったし。ご祝儀って重なると結構痛いわね」
「ごめんねえ、お兄、ママ」
「ははは、父さんは大丈夫だぞ。ほれ、ご祝儀だ」
今日は約束通り、家族みんなで人生ゲームだ。
親父が宝くじで当たった資金を元に、色々な会社を買収して今や億万長者だ。
個人ジェット機まで所有して第一位を独走中。
一方の俺は事故や病気や泥棒など不幸の連続で借金だらけで最下位ときた。
非常に面白くない。
「あ、私も赤ちゃんできたわ」
深雪も言う。
「お前、わざとかよ!」
「違うわ。文句ならルーレットに言ってよ」
「くそー、ほれ、ご祝儀」
「ありがとう」
「竜人、お前、将来はちゃんと貯金しておけよ?」
「うるせえよ。リアルの話を絡めてくんな、親父」
「でも、出産費用もあるし、家のローンもあるし、やっぱり結婚するならお金のある人がいいかなぁ」
小雪もリアルの話を絡めてくるし。
「そうね、生活力も大事よ。じゃ、私の番ね。一、二、三……あら、トラックに撥ねられたわ」
雪代さんが駒を進めて言う。
「うっし! これで最下位脱出か」
「人の不幸を喜ぶなんて」
深雪が当てつけてくるが。
「うるせえよ、所詮はゲーム、勝ったもん勝ちだ」
「竜人、父さんは結果よりプロセス、生き様が大切だと思うぞ」
くそ、勝ってるからって余裕をかましてくるなあ。
「パパ、かっくいー」
「ガハハ」
「お母さん、もう一回ルーレットを回して」
「ええ。じゃ、それ。んん? 神様がチートスキルをくれて異世界で幸せになりました。あら、これゴールじゃないかしら?」
「なにっ!? そ、そんなバカな…」
「どれ、お、本当だ。やられた、一番は雪代さんに取られたか」
「お母さん、凄ーい、大逆転だね!」
「くそ…いや、ここから俺もトラックで。それっ」
運命のルーレットを回す。
「おし、ようやく9が出た!」
九マス先まで一気に移動。そこには。
「不倫が発覚、離婚する……か。だが、独身の俺には関係ねえ!」
「待って、お兄、まだ続きがあるよ。結婚していないプレイヤーは恋人に包丁で刺されて……あらら、治療費が払えないとゲームオーバーだって」
「ハァ? なんだよそれ」
「外道なプレイボーイにふさわしい最期ね」
深雪め…。
「くそっ…」
「まあ、竜人、そう荒れるなよ。捨てる神あれば拾う神あり、父さんが寄付金をくれてやろう」
「ボクも!」
「じゃ、私もね」
「仕方ないわね」
「……ありがとう、みんな」
リアルじゃ絶対貯金しておこう。
俺はそう決意した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
[リュート]
HP 252 / 252
MP 205 / 205
TP 188 / 188
BC 0 / 100
【総合レベル】26
【クラス】|駆け出し冒険者
【ランク】C
【ジョブ】魔法騎士★
【ステップ】マスター★
【カルマ】
ノーマル
ニュートラル
【筋力】 73
【敏捷】 61(+1)
【耐久】 52
【器用】 49
【知力】 54
【魔力】 65
【交渉】 31
【容姿】 34
【幸運】134
【装備】
蒼刻法魔真剣Ⅱ+S
バジリスクの小盾
竜革のベルト
バジリスクのブーツ
ミトン
虚ろの腕輪
淡緑の腕輪 New!
【攻撃力】181(+82)(+50↑) New!
【防御力】135( +41)(-20↓) New!
【素早さ】84(-2)
【魔法攻】102(+10)
【魔法抵】127(+36)
【所持金】1,145,255ゴールド
【勇名】 1300
【経験値】149,665
【Next】28,535
[所持スキル]
初級技Lv1 (必要TP 2)
【薙ぎ払い】
【剣士の基本技】【パリィ】
(鍛冶職人系の既存技は非表示)
初級技Lv2
【舌先三寸】 New!
中級技Lv1(必要TP 4)
【呪文短縮】【タイムアクセル】【兜割り】
【剛力】 New!
上級技Lv1(必要TP 10)
【不屈の精神☆】
特級技Lv1(必要TP 25)
【第六感☆】
【心眼☆】 New!
(以下の技は非表示)
(呪文非表示)
[アビリティ]
【金属装備可能術式】
【所持重量無制限】
【剣式魔術】 New!
[称号]
(既存称号非表示)
[所属]
〈聖女親衛騎士団〉
〈蒼星騎士団〉
[所有アイテム]
ポーション(14個)
エリクサー(2本)
ファンクラブ冊子
〈聖女親衛騎士団〉のバッジ
白翼五位勲章
〈白桜騎士団印の手拭い〉鍵
《上月真衣ちゃんのサイン色紙★》鍵
毒消しポーション
ミーグの着ぐるみ☆
ミョルニル
蒼刻法魔真剣+S(破損)
深緋の腕輪 New!
苺サブレ New!
砂糖 New!
オパール New!
ホブゴブリンの牙 New!
バジリスクの鎧(破損) New!
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
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〈ミニ攻略情報〉
【名称】 聖歌グローア
【分類】 歌
【効果】 痛覚遮断
HP回復
【有効範囲】声が届く味方全員
【様態】 アクティブ
【階級】 神級
【グレード】
グランド・オールワールド・ユニーク
(全サーバー世界で唯一)
【総合評価】 S
【解説】
体力を回復させ、
痛みを消し去る聖なる歌。
魔女グローアが雷神トールのために
歌ったという。
〈特殊スキルによる使用のため永久に消滅〉




