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ミッドガーデンの神プレイヤー ― 無課金の俺が伝説の救世主になるまでの軌跡 ―  作者: まさな
第五章 消えるプレイヤー

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第十三話 冷戦のデタント

2017/5/19 文章を一行修正。

 ユキは深雪だった。

 何となく似ているとは思っていたんだ。

 だが、別人だろうと思っていた。


 お互いに誤解があってお互いに気づけなかった。


「その〈クリスタルの花〉は捨てて」


 ユキが言う。

 永遠に結ばれるという伝説の花。

 もちろん、それを真に受けているわけでは無いだろう。

 だが、明確に拒絶する意思に俺はため息をつく。


「分かった」


 壊すのはなんだか忍びなかったので、俺はそっと元の場所に戻した。


「ここでのデートのことは内緒にしておきましょう。無かったことにするの」


「ああ…」


「フレンド登録は……」


「おい、それくらいはいいだろう」


 俺はユキともう会えないのではと危惧(きぐ)した。


「そうね。家族なら…」


「ああ、家族だ。だから、パーティーもこのままだ」


「それは……分かったわ。でも、二度と私にキスしようとはしないで」


「しないよ。でもな、ユキ。一つだけ提案、いや、絶対に受け入れて欲しい事がある」


「な、何…?」


 緊張した様子のユキは俺が無理難題でも要求すると思ったのか――

 こちらとしては苦笑するしか無い。


「何も難しい事じゃ無いさ。でも、家族ならもっと自分の事を打ち明けてくれないと、こういうことになる」


「……そうね。同意するわ」


「決まりだな。じゃ、帰ろう」


「いえ、私が先に行く――」


「おい、あんまりよそよそしくするのはやめておかないか? それこそ意識しすぎだ」


「ッ――! 分かったわよ」


 ユキは怒ったようだが、受け入れてくれた。

 二人で洞窟を歩いて外に出た。

 空を見上げると、変わらぬ星空が俺達を照らしていた。


「なあ、とびきりの景色だっただろ? それだけは嘘じゃ無い」


「ええ、それだけは嘘じゃ無いわ」


 これからユキとどう接したら良いか、少し迷いかけていたが、今まで通りで良い。

 俺はそう思った。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 一度フェルディア王国に戻って俺達はログアウトした。


「今日はみんなと歌いまくったよ! 楽しかったぁ」


 食卓の小雪はいつも通りで、明るさを振りまいている。

 一方の俺と深雪は黙り。


「どうかしたのか、お前ら」


 親父が聞いてきた。


「何でも無いよ」


「何でも無いわ」


「ならいいが。お互い溜め込んでるようなことがあったら、爆発する前にガス抜き程度に言っておいた方が良いぞ」


「んじゃ言わせてもらうけど、親父、うぜぇ」


「なんだと」


「私も言わせてもらうけど、気にしすぎよ」


「お、おお」


「あら、良い感じじゃない。二人とも何かあったの?」


 雪代さんが聞いてくる。


「怪しいよねぇ。ひひ」


 小雪が茶化すが、割と当たっちゃってるところが怖いな。

 ここは話しておくべきだろうな。


「深雪と一緒にミッドガーデンをプレイしたんだ」


 俺は言う。深雪が鋭い目でジロッとこちらを見たが、安心しろ、デートのことは言わないから。


「それだけだよ」


「ほう」

「あら」

「へー、そうなんだぁ。お姉、ボクも一緒に仲間に入れてよ」


「いいけど」


 深雪が少し諦めたようにため息交じりで返事をした。


「やったぁ!」


 なんだか家族らしくなってきたな。

 一時はどうなるかと思ったが、水沢家ではやや遅い雪解けが来たようだ。


「じゃ、この後すぐパーティー組もうよ、お姉ちゃん」


「ええ? まあいいけど」


「その前に、深雪、ちょっと作戦会議でもしておかないか。二人で」


 俺は口裏合わせの必要性を感じて提案してみる。


「そうね」


「えー、ボクは?」


「あなたは、パーティーを組んでからね」


「むー、何それぇ。まーいいけど」


 小雪はちょっとむくれてしまったが、納得はしてくれたようだ。

 俺と深雪の仲が急に良くなったので、なにがしか察するところはあるのだろう。


 歯磨きを終えたところで、雪代さんが洗面台にやってきたので、俺は言う。


「雪代さん、ユグドラシルの開発してるって、深雪から聞いたけど」


「ああ、ええ、ユグドラシルの設計を担当してるの。全部じゃ無いわよ」


「でも、凄いです。自動運転にも使われてるって。それに、あのAIはまるで本物の人間と区別が付かないくらいで」


「そうね。ミッドガーデンのユグドラシルは最新ヴァージョンが使われている上に、FUGGソフトウェアの独自技術もあるのよ。私自身、ラボで見せてもらってビックリしたわ」


 肩をすくめて笑う雪代さん。


「そう。最初から人間みたいなAIを?」


「そうね、機械的な人工知能はもういくつも出てるけど、こちらで色々と設定して調整しないといけない弱点も同時に抱えてるわ。そういうAIも役に立つけど、私はもっと人に近い、自分で考えて人間を助けてくれる……そんなAIを作ろうとしたの。ユグドラシルは常に周囲の環境データを集めて気を配っているわ。木のようにいくつも自分で枝を伸ばして成長し、環境に適応していくモデルね」


「なるほど。北欧神話の世界樹ですね」


「その通りよ」


 ニッコリと笑った雪代さんは凄いモノを作っている。俺は素直に感心した。


「でもね……人間の作るシステムに完璧はあり得ないの。だから、ここまで急速に利用が広がると、少し心配だわ」


「ああ…バグですか」


「そうよ。竜人君も、AIで気になることがあったら、教えてね」


「ええ…」


 ミッドガーデンで経験した母さんの出現。だが、これは深雪から報告してもらった方が良いだろう。俺の体験はどうも客観的に話せない気がした。


 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 風呂から上がって髪を乾かした後、俺は深雪の部屋をノックした。


「俺だけど」


「どうぞ」


 中に入る。相変わらず深雪はジーパンにパーカーと、がちがちのディフェンスだ。

 ま、気にしたら負けだと思って、俺専用のクッションに座る。


「それで、作戦って?」


 深雪が聞いてきた。


「いや、先に、君が〈蒼星騎士団〉を脱退した理由だけでも聞いておこうかと思ってさ」


「ああ。別に。小雪に誘われるままに入ったけど、分かるでしょう? 私はあんまり大勢と親しくするのは苦手なのよ」


「それだけ? 小雪と確執が有るわけじゃないんだな?」


「なにそれ? まあ、姉妹なのに一緒にプレイしてないから変だって思ったかしら? 小雪と私とじゃプレイスタイルも違うし、あの子、いちいち私の装備やファッションに口を出すから、それが嫌だっただけよ」


「あー」


 言いそうだ。からかいそうだ。

 俺は深雪の胸を見る。だぶだぶのパーカーで体のラインはあまり見えないが、ハッキリ言えることが一つある。

 ユキより小さい。


「あっ! こ、これは、たまたま、体型を変えてみたらって思っただけだから! コンプレックスなんて無いんだから!」


 深雪が俺の視線に気付いたか、自分を抱きかかえるようにしてバッと胸を隠した。


「わ、分かった分かった」


「男って最低。すぐ体を見るんだから。あなたのエロい視線、私や(・・)女子(・・)が気付いてないと思ったら大きな間違いよ」


「お、おうふ……いや! だって、お前、凄いエロい装備してたじゃん!」


 俺としても抗議せねばなるまい。あの誘惑のビキニアーマーは何なのかと。ローライズで足とお腹の境目のラインが分かるレベルの。


「あ、あれはだって、性能の良い装備で動きやすいのだとそういうのしか無いんだから。インナーウェアもなんだかシステム的な制限がかかってるみたいだし」


 グッジョブ開発者……!

 深雪のような真面目でクールな女の子が、性能で葛藤しながら着て自分で恥ずかしがってるなんてもうね!


「分かった。そこは二度と触れないから安心してくれ。誤解していて悪かった」


「もう…」


「じゃ、話はそれだけだ」


「ええ。ああそれと」


 部屋を出ようとした俺に、深雪が何か思い出したように言う。


「ん?」


「あなた、まさか小雪を私みたいにナンパしてたりしないでしょうね?」


「してねえよ! なんなら俺の今までのプレイ動画、全部見てみるか? 聖女親衛騎士団やチーター晒しスレッドにあるぞ」


「ああ…そこももうちょっとチェックしておけば良かったわ。でも、いちいち晒されてるなんてあなたも大変ね」


「ああ、まあな」


 聖女親衛騎士団の方は自分で提供したわけだが、黙っておこう。


「小雪には胸のこと、黙っててよ。もうあの子にさんざんバカにされてるんだから蒸し返さないように。いいわね?」


「ああ、その話題には触れないから。ただ…一つ言っておく」


「んん?」


 ここは真顔で。


「深雪、そのままのお前も美人だ。スタイルも含めてな」


「なっ!」


 よしっ、爆弾投下ぁ! 小雪ナンパ疑惑をかけてきた仕返しだ。

 真っ赤になって照れる深雪を後にして、俺は素早くドアを閉めて逃げた。

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