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ミッドガーデンの神プレイヤー ― 無課金の俺が伝説の救世主になるまでの軌跡 ―  作者: まさな
第五章 消えるプレイヤー

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第九話 噂

「別人になる?」


 俺は引っかかるものを感じて聞き返した。

 ここはダークセイン帝国帝都の酒場で、今日はナイトタイム、ミッドガーデン内部で夜が訪れる日だ。

 あれから四日かけてここまで辿り着いている。ミルフィとのデートはあっという間に終わってしまった。次のクラン戦を頑張るとしよう。


「はい。私も人伝(ひとづて)に聞いているので断言はできませんが、その人は『まるで別人だった』と」


 丸テーブルの向かい側に座ったマイが声を潜めて俺に顔を近づけて言う。

 別におおっぴらに話をしてもマズくは無いと思うが、普通なら笑い飛ばすような内容だけに、そうなってしまうのだろう。

 マイは俺が帝国にいるとフレンドメッセージで聞いてから追いかけてきてくれた。だからというわけでもないが、俺がこのミッドガーデンで経験したおかしな現象についても全部話している。


「〈弁慶〉と似ている気がする…」


 俺は言う。〈弁慶〉については、沙耶や小雪を通じて、他の冒険者達からも情報が集まっていた。

 二年前まではトッププレイヤーの一人としてPKやデュエルで名を馳せていたが、ある日を境にぷっつりとログインしなくなり、そして再び今年の春から復帰していた。

 が、彼を知っていた人間は全員が全員、雰囲気が違っていて、別人のようだったと証言している。


「誰かがすり替わっていたのでしょうか? ハッキングとかで」


「いや、それは、たぶん無理なんだ」 


 生体パスワードを採用しているミッドガーデンのシステムでは、他人になりすますことは絶対に(・・・)不可能だ。


 脳細胞が発する電気信号を総合的に解析し、その思考や論理や記憶のパターンそのもの(・・・・)を、個体認識のパスワードとする。

 個人の考えるパターンをパスワードにしている以上、他人が入り込む余地は無い。

 もちろん似たような考え方、思想というものは当然、存在する。


 が、固有名詞を含む記憶は同じ環境下で育った双子ですら異なる。

 兄と弟、片方しか受けなかった怪我、片方しか食べられなかったお菓子、自分の名前、友達の名前、自分の好きなゲーム、好きな本の名、好きな曲名、自分の恋した相手の名、気に入った主人公の名前etc……


 それらは多くが重なり合う事があっても、すべてが同一などあり得ない。

 だからこそ、人はかけがえのないオンリーワンなのだ。


 俺はその事をマイにも説明する。


「詳しいですね、センパイ。感心しちゃいます」


「いや、調べたからね。半分以上は友達、エリックの受け売りだ」


「それでも、センパイが本気だと分かります」


「ああ。俺は本気で調べている。考えられるのはやっぱり、前のプレイヤーが辞めてデータを抹消し、そこに別人のプレイヤーがたまたま(・・・・)同じハンドルネームを使ったケースだ。これなら弁慶みたいな歴史上有名なキャラは、姿や演技に食い違いが少なくなる」


「なるほど」 


「ただ、これも引っかかる点があってね……俺の倒した〈弁慶〉は〈ばあすのバット+A〉を所持していた。これは〈虎徹〉さんが二年以上前に〈弁慶〉に奪われたモノなんだ。どうして新しいプレイヤーである〈新弁慶〉がそのアイテムを引き継いでいるのか……」


 それは俺では調べようが無い事だ。あれから運営は何の返答もしていない。〈弁慶〉もあれから見かけていない。

 〈弁慶〉や母さんの事について、何も分からずじまいだ。

 完全に手詰まり――

 俺は椅子に深く座り直した。


「誰か……誰でもいい。身近に変化したプレイヤーがいればね……」


 そうすれば、何か分かるだろうし、調べやすい。


「センパイ。もしも……、もしもの話ですよ? 私が私で無くなったら、どうします?」


「ええ? なんだい急に?」


「急でもいいから、考えてみて下さい」


「君が君で無くなるなんて、そんな事あるわけないじゃないか、はは」


 俺は軽く笑った。

 他のテーブルではドワーフ達が陽気に笑い声を上げている。そんな雰囲気の中、マイが冗談を言ったと俺は思ったのだ。

 だが――


「ううん、真面目に考えて下さい。このゲームの中で起きていることなんですから、私にだって起きるかもしれませんよ?」


「真面目だよ、俺は。だからこそ、可能性というだけでそんな事は考えられないんだ。どんな君が俺の前に現れるか、それで対応も違うかもしれないし」


「そうですか。じゃあ、いいです。たとえ私が変わっても、いなくなったとしても、元の私の事、忘れないで下さいね?」


「そりゃあ、もちろん覚えてるよ」


 今、俺の目の前にいる真衣のことを、どうして忘れるというのか。

 あり得ないことだ。


「ありがとうございます。ごめんなさい、もう私、落ちないと。明日の台本、まだ覚えてないんです」


「ああ、じゃあ、覚えないとな。今日はありがとう。頑張って。いつも応援してる」


「はい、やーん、その応援が一番嬉しいです。私、どんどん頑張れちゃいます」


「ふふ」


 目の前にいるのが自分の好きな声優で、希有な才能の持ち主というのは、なんだか良いな。


「じゃ、お休みなさい、センパイ」


「ああ。また」


 マイがもうここでログアウトしたようで、光の粒子となって消え去った。


「ん? フレンドメッセージか」


 マイからだった。


『追伸 別人になった人の紹介を私のフレンドさんに頼んでいます。上手く行けば実現するかも。またその時に連絡しますね』


 本人に聞くのが一番早いだろうし、事情も色々と聞けるだろう。期待したいところだ。

 



 食事の代金分の枚数をテーブルの上に置き、俺は席を立つ。

 酒場を一歩外に出ると、大通りは比較的静かだった。やっぱりフェルディアの王都の方が賑わいがあるな。

 建物はこちらの方が大きいのだが、どうにも陰鬱なデザインの気がしてあまり気に入らない。ま、俺はミルフィやパティと言ったフェルディア王国の人間と仲が良いのでひいき目(・・・・)もあるだろう。

 ダークセイン帝国は潜在的な敵性国家だ。


 これからどうしようか、と思案しつつ適当に歩いていると、後ろに俺の通る道をそのまま辿っている人物がいることに気付いた。

 尾行?

 聖女親衛騎士団ならば、「リュート覚悟ぉ!」と言ってすぐに斬りかかってきたりするのでコイツは別口だろうな。

 やれやれ。

 俺は靴紐を直すフリをしてアイテムボックスから〈使い魔の首輪〉を出した。


「頼むぞ、シロ」


 賢いシロはここで吠えたりせず、軽く頷いてどこかへダッシュ。

 それでいい。

 シロは目に見えるモノだけで無く、臭いを追える。


 再び歩き回っていると、すぐにシロが犯人を捕まえてくれたようだった。


「ガウ!」


「ひいっ! いたたた! なんだこの犬! は、放せ!」


 褐色のローブを着た中年男が泡を食ってシロを追い払おうとする。

 俺は問答無用で剣を抜いて、その男の鼻先に突きつけた。


「俺になんか用か?」

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