第三話 謁見
玉座の手前で声をかけてきた幼女には見覚えがあった。
額には銀のサークレットをはめ、その銀髪をぴょこぴょこんとツーサイドアップにした髪型。
俺が一度この城に来たときに遭遇してイベントをこなした第二王女、パトリシアだ。
その時の彼女は「妾のことはパティと呼べ」と気軽に言ってくれたが、今日この場ではそうも行かないだろうな。
ここは公式な場だ。
俺はすぐにその場で跪き、頭を垂れた。
「は、パトリシア殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう」
「おおー」
どーよ? 後ろで小雪がちょっと感心してくれている。
と、周りの貴族がクスクスと失笑し始めた。
おやぁ?
「これ、それは別れの挨拶、しかも女性が使うものじゃ」
オウ、イェー。
慣れないことはするもんじゃないね!
「ま、こちらの世界に来て間もない冒険者、致し方あるまい。…陛下にはご尊顔を拝謁し、恐悦至極と言っておくのだぞ」
後半は小声で教えてくれた。ちぇっ、そっちは知ってたんだけどなあ。
俺は頷いて立ち上がり、今度は国王に向かって跪く。
「良い。面を上げよ」
「は、ご尊顔を拝謁し、恐悦至極にございます」
「うむ、若き冒険者よ、我が城によくぞ来た。此度の呼びかけに応じ、数多くの武具を納めしこと、誠にあっぱれである! よって褒美を遣わす。今後とも余と神聖フェルディア王国のため、尽くすが良いぞ」
「ははっ! ありがたきお言葉」
甲冑騎士が恭しくミニサイズの宝箱を持って来て渡してくれた。
『Congratulations! クラン対抗戦《ドヴェルグ達の鉄剣》において優勝し、そのクラン内にて最優秀の功績を挙げました』
『優勝クランのMVP報酬(全サーバーで、お一人様限定):〈聖騎士ミルフィーユの一日デート券〉を獲得!』
『全員:《レア・スキルエッグ》を獲得』
『全員:ミスリルのショートソード+2を獲得』
『全員:100万ゴールドを獲得』
『全員:結晶〈器用さのかけら〉×5を獲得』
『全員:竜革のベルト』
おおー、武器は要らないけど、他は全部、豪華だな。
連休のほとんどを鍛冶に費やした甲斐があったぜ。
さあ、ミルフィ、お出かけしましょ!
ささっと周囲を見ると、いた!
ミルフィが笑顔で拍手してくれている。
周りの貴族も、ほっとした表情で拍手し始めた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「よし、もう良いぞ。ここならうるさい邪魔は入らぬ。くつろぐが良い」
謁見の後でパティが部屋に来いと言うので、俺と小雪とミホの三人でやってきている。
さすがに王女の部屋とあって豪奢な内装だが。
「パティ、お茶を出してくれないか」
俺も気兼ねなく無礼講で言う。
「おお、そうじゃの。では、ミルフィに持って来させるとしよう。すぐ来るハズじゃ」
パティは嫌な顔もせず了承してくれた。
「ふう、普通に喋っても良さそうだね?」
小雪が緊張していたのか、そんなことを言う。
「なんだ、小雪、パティとは会ったことが無いのか?」
俺はちょっと意外に思って聞いた。
「見た事はあるけど、話したことは無かったよ」
「そうか」
「〈ミホ〉の方は、妾のクエストをこなしたことがあったの」
「あ、そーっスね。でも、王城はやっぱり緊張するなぁ。あんなに広間に人がいるなんて」
「ボクもー」
「普段はあれほどは集まらん。クラン対抗戦の授与式ということで、集まったまでよ」
パティが言う。ノックがあった。
「聖騎士ミルフィーユ、参りました」
「構わん、入れ」
「失礼致します」
「すまぬが、ミルフィ、お茶を入れてくれるか。カップは五つじゃ」
「はい。畏まりました」
ミルフィがいったん外に出て、ポットをお盆に載せて戻って来た。
「そなたの分もちゃんと入れるのだぞ」
「はい、お気遣い、ありがとうございます」
大きな丸テーブルの席に着き、皆で紅茶を楽しむ。
おお、やはり、王城の紅茶、香りが深い。ここは高級そうなシュガーをたっぷりと。
「〈リュート〉よ、それでは味も分かるまいに」
パティが渋い顔をするが、『甘味』こそ『至福』!
このカップの底に砂糖が溶けずに残って溜まるくらいが贅沢でいいね!
んまんま。
「〈リュート〉さんは甘党でいらっしゃるのですね。ふふっ」
ミルフィがおかしそうに口元に手を当てて笑う。
「極甘党だね! お兄ちゃん」
「そこまで行くと私の好感度もちょっと下がるっス」
「何とでも言え」
VRだから虫歯も糖尿病も痛風だって怖くないぜ。
「さて、そなたらを呼び出したのは他でもない。このところ妙に宰相の機嫌が良くてな。部下のトリマーキー伯爵が汚職発覚で失脚したのに、だ。どうにも気に入らん」
パティが話を切り出した。小雪達は詳しく知らないだろうから、俺は簡単に、トリマーキー伯爵がアクデー商会から賄賂を受け取っていた件について補足説明しておく。
「裁判の時にな、〈ニック〉が――と言うわけだ」
「ふーん、そんなことが。自分に飛び火しなかったから、セーフって喜んでるんじゃないの?」
小雪が言うがパティは首を横に振った。
「ふん、そんなタマなら父上も苦労などせぬよ。気を付けておいた方が良い。奴は冒険者の犯罪に対して厳罰化を目論んでおる。それでなくとも今はダークセインがきな臭い動きをしていると言うのにじゃ」
「ダークセイン?」
俺は聞いたことがないので問う。
「西にある大国です。我が国と国境を接していて、度々、領土問題で戦をしていますので」
ミルフィーユが難しい顔で言った。
「ん? あー、なるほど、今回のクラン対抗戦って、その武器調達のためのシナリオだったのか」
俺が言うが。
「いえ、違いますよ、リュートさん。納入先はここフェルディア王国だけでなく、別の国も選べるんです」
ミホが言う。
「誰が考えたかは知らぬが、今は関係国が躍起になって戦の準備をしておる。何も無ければ良いがの」
「ここじゃ戦争はよく起きるのか?」
俺が聞くと、皆が頷いた。小雪が続けて説明する。
「まあ、毎年、どこかの国が争ってるね。そこで冒険者が東軍と西軍に別れて傭兵として駆り出されたり、そのままクラン戦として開催されることもあるんだよ」
なんとまあ、割と細かい所で緻密なシナリオのゲームのようだが、NPCは堪ったもんじゃないな。
「純粋な冒険者同士のクラン戦ならば、我々は金品を出すだけで済む。それほど悲惨なことにもならん。じゃが、これが冒険者無しで、しかも一方だけとなると、片方の国はあっと言う間に滅ぶであろう。死屍累々でな」
パティがカップの紅茶を眺めつつ、無表情で言った。
その場の一同が押し黙る。
死屍累々。
その言葉が意味するところ――
冒険者の死とNPCの死は決定的に違う。
何度でも復活できる俺達にとって、それはただのゲーム。
だが。
嫌な沈黙だ――
俺はそう思って明るい声で切り出す。
「それでパティ。俺に何をさせたいんだ?」
「調査じゃ。ダークセイン帝国に赴き、かの国が何を企んでおるか、情報だけでも集めて欲しい」
「ふむ…」
ちょっと面倒そうな依頼だ。
「そなたらであれば、簡単に国境は越えられよう。報酬も出す。どうじゃ、引き受けてくれぬか」
「期限は?」
「あちらさん次第じゃの。とはいえ、こちらの情報網がまだ目立った動きを察知できていない状況じゃ。戦を仕掛けるにしても一週間や二週間でということはあるまいよ」
まだ少し余裕はあるか。クラン戦もあったばかりだし、大規模なイベントがそう立て続けにあるとも考えにくい。
「分かった。引き受ける。ただ、報酬は成功した分と引き替えってことで、あまり期待はしないでくれ」
「良い。こちらも打てる手を打っておきたいというだけのこと。ただ、いくらそなたらが不死とは言え、面倒事も色々とあろう。支度金を――」
「不要だ。その代わり、失敗してもなじらないってことで」
「良かろう。この件は妾とミルフィだけの胸に納めておく。それならば、そなたらに文句を言う輩はおるまいよ」
「うん。決まりだな」
『〈依頼:ダークセイン帝国を探れ!〉 を受けました。残り時間 一ヶ月。難易度 A。推奨レベル 40』
俺はこの条件を見て言う。
「微妙に厳しいな…」
レベルはまた途中で上がっていくだろうが、近頃は上がりが悪くなってきたし、高レベルになればなるほど成長は遅くなるはずだ。
「心許ないのであれば、金で助っ人を雇え」
パティが金貨の入った袋をこちらに押しやりながら言う。
「なるほど、その手があったか」
何も俺一人の力でどうにかしなきゃ行けないわけでもない。
掲示板も使うか?
だが、ダークセイン帝国の側に付いている冒険者がいると情報も筒抜けだし、偽情報を渡されると面倒だ。
信頼できる冒険者だけを頼るとしよう。
沙耶さんには相談しておいた方が良いな。
俺は立ち上がる。
「じゃ、後は任せておいてくれ。金はある。今回のクラン対抗戦の報酬もあるからな」
金貨の入った袋を押し返してパティに笑顔を見せておく。
「うむ。頼んだぞ」
パティの部屋を出た。
ダークセイン帝国か。
まずは仲間を集めないとな。
心当たりはある。
ダークセイン側には絶対付かない冒険者が。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
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〈ミニ攻略情報〉
【名称】 竜革のベルト
【種別】 アクセサリー
【材質】 ドラゴンの革
【効果】
防御基本値+100
防御率+5%
平均防御力+5
筋力+5
【耐久】 1000/1000
【重量】 1
【総合評価】 AA
【解説】
丈夫なドラゴンの革で作られたベルト。
防御できる範囲は非常に狭い。
隠された力があるらしい。
〈装備可能〉




