第十四話 裁判
てっきり〈冒険者の広場〉に出現すると思っていたので、〈蒼星騎士団本部〉にログインして俺はちょっとビックリした。
最終ログアウトした地点が優先されるようだ。
そうじゃないと、別の街へ行きたいときに、途中でログアウトできなくなって、プレイ時間が厳しくなるなるか。
「おっ、戻って来たな、リュート!」
ラウンジのソファーでくつろいでいたレオンが俺に気付いてこちらにやってきた。
確かこいつ、小学生だと小雪が言ってたよな。
俺は、がしっとレオンの両肩を掴む。
「レオン、お前、彼女はいるか?」
「は? な、何だよ、急に」
ふう。この感じならいないようだ。
「いや、何でも無い。変な事を聞いて悪かったな」
「オレまだ小学生だぜ? ま、いーや。それより、店の外を見てごらんよ。面白い事になってるぜ」
「ほう」
俺はラウンジの裏口からそっとドアを開けてみる。
「――従って〈蒼星騎士団〉の吹聴していることは真っ赤な嘘であり、これは名誉毀損と当商会に対する業務妨害であるとして、運営に厳正なる対処を求めて提訴しております!」
メガホンかそれ系の魔法を使っているらしく、大通りでは大きな声が響いている。
「嘘じゃねーだろ!」
「お前らが悪事をやってるのは誰でも知ってるぞ!」
「そうだそうだ!」
「だ、黙りなさい。あなたたちも訴えますよ!」
「やってみろ、コノヤロー」
「お前の所に金を借りたせいで、こっちはずっと金欠だったんだ! トイチ貸しなんて、アクデー商会の方が違法じゃねえか」
「違います! ゲーム内の金利は法定金利は適用されません! 納得して借りておいて、言いがかりを付けるのは立派な名誉毀損と営業妨害です」
「うるせー、なら、金は返さねーぞ!」
「借りたものは返すのが当たり前です!」
「じゃ、お前のところのメンバーが踏み倒した金、きっちり返してもらうぞ」
「聞き捨てなりませんね。当商会のクランメンバーはきちんと返済していますよ。返済していないプレイヤーは除名処分にしています。連絡無しでゲームを勝手に辞めた人については、当商会も被害者です!」
「何が被害者だ! 大量に辞めてる奴がいるが、複垢でやってるんだろ?」
「証拠はありますか? 運営が認めている以上、どれも合法なアカウントです」
「オレ、お前のところで複垢の作り方とか指導されたんだが」
「デ、デマは止めて下さい!」
「食料を安くして下さいよ。こっちは飢え死にしそうなんだ」
「そこ、NPCは今、割り込まないで! これは〈蒼星騎士団〉による悪質なデマに対する抗議集会です」
冒険者とアクデー商会の言い争いが続いているが、アクデー商会がどう見ても劣勢だな。
「私は〈アクデー商工会〉は嘘をついてないと思います。とーっても親切な商工会で、ニックさんも素晴らしい人格者です」
「うっせー!」
「おい、バレバレのステマしてんじゃねーぞ!」
「捕まえろ! 商工会の身分証を持ってるはずだ」
なんというか、ろくな人材がいない感じだなぁ。
「アクデー商会って、バカが多いなぁ」
レオンも同感の様子で言うが、賢い奴は加入しないか、すぐ出て行くのだろう。
「オラ、どけっ!」
「いてっ、この野郎!」
むむ、まずいな、店の前で喧嘩が起き始めたか。
「あっ、こいつ!」
レオンが加勢に行こうとするので、俺は首根っこを掴んで止める。
「よせ、レオン。それより、すぐ沙耶さんに報せてこい。俺は兵士を呼んでくる」
「分かった!」
大通りに向かうと、向こうから兵士が駆けつけるのが見えた。兵士もこの事態を予測していたか、すでに警戒していた様子。
「解散しろ! この集会は終了だ!」
NPC騎士が呼びかけ、なおも暴れている数人の冒険者が兵士に捕まえられると、ようやく人が散らばり始めた。
「特に問題なかったようね」
様子を見に来た沙耶が微笑んで言う。武装したうちの団員を後ろに引き連れているが、いざとなれば戦闘のつもりだったようだ。
「ええ」
「ちぇっ、戦闘になった方がおもしれーのに」
レオンが言うが、店を壊されたりする可能性もある。どうせならアクデー商工会の建物の近くでやった方が良い。
それに、街中で騒ぎを起こせば、この世界の治安を預かるNPC騎士やNPC兵士が黙っていまい。
「リュートさん」
白い鎧に身を包んだ騎士が姿を見せた。
「ああ、ミルフィ」
「良かった、ご無事で」
ほっとした表情を見せるミルフィに俺は苦笑する。
「大丈夫だよ。心配のしすぎだ」
「ええ。それから、沙耶さん、準備が整いました。これより王城で裁判を開始します。出席をお願いできますか?」
「もちろん、いいわ。リュート君、あなたも時間があるなら来て頂戴」
「分かりました」
「よし、オレっちも護衛でついてってやるぜ!」
「レオン、お前は留守番でも良いぞ」
横からキースが言う。
「なんでだよ、キースぅ」
レオンは裁判向きの人材じゃ無いからなぁ。なので俺も言っておく。
「また店が襲われるかもしれない。店の護衛をしっかり頼むぞ、レオン」
「おお! それもそうだな。おーし、任せとけ!」
さっき騎士が解散を命じて、兵士が連行していった直後だけに、アクデー商工会もそんなことはできないと思うが、報復の可能性もゼロでは無いからな。
レオンはすぐに店に走っていった。
「扱いが上手いわね」
「まったくだ」
沙耶とキースが褒めてくれたが、俺は肩をすくめておく。
裁判と言うから室内でやるのかと思っていたが、王城の前の広場で行うという。広く民に王の裁きを見せて、人心を掴むという効果を狙ったものらしい。
さすがに全年齢ゲームだけあって、ギロチン台や顔を隠した死刑執行人はいない様子。
その代わり、武装した騎士が何人もいて、ちょっと威圧感がある。彼らは緑色の前掛けのような服を鎧の上に着込んでいるが、ミルフィの白い鎧の部下とは別系統のようだ。
アクデー商工会はここ王都の騎士も買収していそうで、大丈夫かな。
「ご心配なく。あの緑のサーコート、〈神聖緑衣騎士団〉は規律正しい騎士団として誰しも認めるところです。エスザールの地方騎士とは違いますよ」
ミルフィが俺の表情から察したか、そんな説明をしてくれた。
「バルドー卿!」
緑の騎士の中で一人だけ兜をしていない中年の男がミルフィの名字を呼んでこちらにやってきた。
「ああ、ガウェイン卿」
「そちらの準備は整っているか?」
「はい、証人もそろっております」
「よし。見ろ、今日の裁判は人出が多い。冒険者を裁くということもあるのだろうがな」
焦げ茶色の髪の騎士は、冒険者に対して含むところでもあるのか、ニッと楽しそうに笑った。
「ええ…紹介しておきますね。こちらは〈神聖緑衣騎士団〉の団長、ジェラート=フォン=ガウェイン侯爵」
まぁ、多少は美形だがフツーのおっさんだな。茶髪であごひげを生やしている。ミルフィとちょっと親しそうで、しかも偉そうなのが気に入らないが。
それでも俺は軽く頭を下げておく。
「こちらは〈蒼星騎士団〉の沙耶さん、リュートさん、キースさんです」
「うむ、沙耶殿にはこの剣や団員の鎧で世話になっているな」
ぽんぽんと自分の剣を叩いたガウェイン某は、うちのお得意さんらしい。
「お役に立てて何よりですわ」
「ああ、おっと、お前達とあまり親しく話していては中立が疑われよう。ではまたな」
ガウェイン某はそう言うと壇上に戻り、そこで騎士の何人かに指示を飛ばしている。
集まっていた平民達がざわめいた。何事かとそちらを見ると、縄につながれたニック他数名のアクデー商工会の面々が騎士に連行されてやってくるところだった。
赤いタキシードのニックがこちらを見るなり怒鳴る。
「沙耶さん! こんなことをしてタダで済むとは思わないで下さいよ! 必ず運営を動かして、あなたのアカウントを剥奪してやりますからね!」
「あらあら、今は自分のアカウントをご心配になってはいかが? うふふ」
軽くいなして微笑む沙耶。
そう言えば、もらった剣を折られたこと、まだ沙耶さんに報告していなかった。まあ、後にしよう。
真っ赤な法衣を着た裁判官もやってきて、用意された机の席に座った。彼は木槌を取り出すとそれをカンカンと打ち鳴らした。
「静粛に! 静粛に! では、これより〈アクデー商工会〉の裁判を開始する。真実を司る神フォルセティの名において神聖に執り行われん事を」
短く祈りが捧げられ、裁判が始まった。
「それでは申立人、訴状を述べよ」
「はっ、裁判長。〈アクデー商工会〉は長年にわたり不正の限りを尽くし、領地に納める税をごまかしております。あろうことか買収によって兵士と結託し、さらには炭鉱都市エスザールにおいてモンスターの襲撃を良いことに生活物資の買い占めを行っております。他にも競合する商人に対する嫌がらせをしており、これらは公正公平を重んじられる陛下をないがしろにし、神をも恐れぬ所行、直ちに不正蓄財を没収し、牢獄に入れ、商売登録証を剥奪すべきかと」
「デタラメだ!」
「蒼星騎士団の陰謀だ!」
「静粛に! 勝手に発言しないように。では、ニックよ、お前の申し開きを聞こう」
「はい、裁判長閣下、善良なる市民であるワタクシに対してこの申し立てはあまりに不当、驚きを禁じ得ません。申し立てはまったくの虚偽であると申し上げておきます。神もこのような茶番はお認めになりません。
すべては我が商会の儲けに嫉妬した〈蒼星騎士団〉の八つ当たりです!」
こちらを指差して唾を飛ばす勢いで叫ぶニック。
「この嘘つきが!」
「地獄に落ちろ!」
逆に聴衆から罵声を浴びせられた。こりゃ確実に勝ったな。
「静粛に! では、アクデー商工会の倉庫で盗みを働いたという冒険者〈シズマ〉を連れて参れ」
聴衆が静まりかえった。
縄をかけられた白装束の〈シズマ〉は胸を張って堂々と裁判長の前に出てきたが。




