第一話 蒼星騎士団へ
俺は今、不機嫌だ。
「ねー、お兄、ごめんって」
俺のベッドの上で手を合わせて謝る小雪。
俺は勉強机の席で腕組みのまま。
「小雪、お前、個人情報とかプライバシーをよく考えろよ?」
俺はもう一度言っておく。
掲示板に俺の名前で真衣のファンだとか、ミルフィの親衛隊に入っているなんて、そんな情報を上げられたら困るのだ。
連休明けに学校の連中が何を言って来るやら。それを考えるだけで憂鬱だ。
ベッドの下はともかく、ハードディスクの中身なんて他人に見せられないよ!
「はーい…」
小雪も反省はしているようなので、今回は大目に見てやろう。
元はと言えば、俺の不注意が原因だし。
『真衣は俺の嫁』なんてハンドルネームにしなきゃ良かった。
ま、その場のノリってことにしておけば、乗り切れるな。大丈夫だ、ごまかせる。やれる。
携帯が鳴ったので、学校の連中が冷やかしで電話をかけてきたのかと緊張したが。
「ああ、なんだ守か」
ゴシップとは無縁の奴だ。
「竜人、もう家に帰ってるのか?」
「ああ、予定通りさ。さすがに足が筋肉痛だけど」
「はは、まあ、それだけ旅行が楽しめたってことにしておけばいいさ。麻美が腕輪ができたから受け渡しをどうするかって聞いてきてるんだが」
守が言う。そういえばレーニアに宝石を渡してあったな。
「ああ、じゃ、俺は今からログインするけど」
「じゃ、そう伝えとく。蒼星騎士団の本部は分かるか?」
「ああ、蒼き星の剣屋だろ? 一度、行ったことがあるから大丈夫だ」
「よし、じゃ、そこで八時に落ち合おう。次からフレンド登録はしておいてくれ」
「そうだな」
フレンド登録さえしていれば、離れていてもすぐメッセージが送れるから連絡が取りやすいし、メールボックスも使える。
携帯を切って、小雪に言う。
「じゃ、俺はログインするから自分の部屋に戻れ」
「了解。ボクも騎士団の本部に行くね」
「ああ」
きっちり小雪が部屋を出るのを確認してからサイドコアを起動させる。
外部音声入力があるから、部屋に入ってきたらすぐ分かるけど、無防備状態というのはちょっと怖い。
さあ、ゲームの時間だ。
「あ、今日はナイトタイムか」
夜空に星が瞬いていた。篝火が焚かれた冒険者の広場はいつもと雰囲気が違って見える。
「お兄、行こっ」
「ああ」
ミルフィの姿が見えないが、ま、今はいいだろう。
〈南の商業区〉に小雪と二人で向かう。
商業区は店の明かりが煌々と照らされており、随分な人で賑わっていた。
「やっぱり連休中だけあって、人が多いねー」
小雪が歩きながら言う。
俺達は人を避けながら大通りを進み、十字路の一角に構えた〈蒼き星の剣屋〉の裏口に入る。
ここがクラン〈蒼星騎士団〉の本部だ。
「おっ、ようやく小雪姉が来た。遅いぞ」
店内のラウンジの壁に寄りかかっていた緑色の髪の子供がソファーを飛び越えてやってくる。革鎧の軽戦士かな。
青いカーソルの上に〈レオン〉という名前が見えている。
「遅いって、旅行に行くって言ってあったでしょ」
「ああ、そうだったな。ナツキとミホも行ったんだろ?」
「そうだよ」
「ディスティニーランドかぁ。ハッ、まー、ガキの行くところだよな」
「うわ、生意気ー、レオンも小学生のくせに。恋人のカップルとか、家族連れとかも多かったよ?」
「ふーん。ま、女の行くところだな」
「はいはい。で、クラン戦の方はどうなってるの?」
「あー、それがさぁ」
冴えない顔でクラン戦のルールや素材やメンバーの話を始めるレオン君。クラン対抗戦は毎回ルールが異なると小雪から聞いている。
今回は武器と防具の生産数を競う大会らしい。最も多くの武具を王城に献上したクランが優勝で褒美がもらえるのだとか。
生産職が有利なようだが、それならここらでジョブチェンジをしてみようかな。
ちょうど銅打ち職人の職業に転職できるようになってるし。
どうでもいいが、中学生の小雪を姉と呼ぶレオン君はアルデバランと一緒で小学生プレイヤーか。この〈蒼星騎士団〉も年齢層が幅広い様子。
男には興味無いけど、さて、他のメンバーは……。
俺はラウンジにいるメンバーを見回して確かめたが、その中にグッとくる可愛い子を見つけてしまった。
何気ない風でその場を離れ、ラウンジの片隅に行く。
近づいてくる俺を、きょとんとした顔で見上げる無防備な子。
ああ、なんて小さくて可愛い子猫ちゃんなんだろう! うへへ。
俺は迷うこと無くいきなり手を伸ばす。
その子は俺の手を警戒して身構えたが、逃げなかった。
あどけない頬をそっと撫でてやる。
その子はビクッとしたが、逃げる様子は無い。
ククッ、行ける――。
悪魔のように確信した俺は、大胆にその体をまさぐっていく。
「ほーれほれ」
その子のあごの下を指でくすぐってやり、背中を撫でてやる。
柔らかい両脇、未成熟な腰、そしてぷにぷにした手も。
その子が気持ち良さそうに目を閉じる。
陥落!
コイツ、メスだな。
じゃ、前からどーんとM字開脚させてやって――
「ちょっと、お兄ちゃんっ! そこで何してるのっ!?」
小雪に見つかっちゃった。
「いや、何って、この子猫を可愛がってるだけだが」
俺はしれっと言う。
相手は上品で大人しい白猫だ。
「いやいやいや、マミちゃんは後で紹介してあげるから、ちゃんとクラン戦の話を聞こうよ」
「ええ? かったるいんだが。だいたい、俺はここのメンバーでも無いぞ?」
「えー。でも、個人で参加するより、うちのメンバーとしての方が報酬がずっと良いよ」
「ちなみに、どんな感じの報酬がもらえるんだ? 金なら俺も結構稼いだんだが」
「んー、お兄が気に入りそうなのはねえ……あ、そうだ! 優勝チームのMVPはミルミルの一日デート券がもらえちゃうよ!」
「総員ッ! これよりブリーフィングを始めるッ! 集合!」
俺は叫んだが。
おっと、場がしーんとしちゃったよ…。やっべ。
「ええ? お兄…」
小雪が苦笑い。
「はは、小雪ちゃんのお兄さんはちょっと面白そうな人だね」
「優勝はともかく、MVPは沙耶さんが取るに決まってるのに」
メンバー達も微笑んだり呆れたり。
ほとんどがソファーに座ったままで、そこまでのやる気は無さそうだ。
「そうだぜ。だいたい、オマエ、生産ジョブは何だよ?」
さっきの小柄なレオンが聞いてくる。
「生産ジョブは、まだ無い」
「ハァ? けっ、せめて二次職くらいになってからそういうコトを言えよな。うちのリーダーは三次職の刀工、武具の本職だぜ?
オマエが百本なまくらを作ろうがリーダーが一本でポイント逆転だ」
「そうか。ん? 数だけじゃないのか?」
「数と質だっての。数だけなら大規模クランが圧勝じゃねえか」
「じゃ、俺の出番はあんまり無さそうだな。や、騒がしくしてすんませんした」
頭を下げて、みんなに謝っておく。
「ああ、いいよ。うちのメンバーはさ、やる気も能力もバラバラだから。もしガチンコでやりたいなら、〈ワルキューレ〉か〈猛豹応援団〉あたりかな、生産だと」
フルプレートを着込んだ騎士が言う。
「いいのいいの、お兄ちゃん、まったりの方だし、ね?」
「ああ、そうだな」
「じゃあ、うちでいいんじゃないの? ノルマとか無いし」
革鎧の女の子が言う。
「そうだよ。優勝だって狙えるもんな!」
レオンも言う。
「生産だけだけどね」
小雪が補足する。
「じゃ、GW中は参加させてもらおうかな…」
「オーケー! 決まり! じゃ、沙耶さんに加入手続きしてもらおっ」
小雪が嬉しそうに手をパンッと打ち合わせた。
「あ、俺今、〈聖女親衛騎士団〉にも加入してるんだが、抜けないとダメか?」
「んーん、確か、設定でどっちかを選ぶんだったよね? キースさん」
「ああ、そうだ。両方加入してたら、最初にクラン戦にどっちの所属で参加するかシステムに聞かれると思うから、それで選べば良いよ」
栗皮色のローブの魔法使いが答えた。
それなら大丈夫そうだ。
「じゃ、沙耶さん、来てるよね?」
小雪が確認する。
「ああ、ギルマス部屋だぜ」
「ええ? 工房じゃないの?」
「だから、素材が切れてるんだってば」
レオンが苛立たしそうに言った。
「あー、そっかそっか」
「今、陣さんのレイドで、アイアンロック狩りやってるけど、狩り場も大混雑で全然稼げないってさ」
フルプレートの騎士が言った。
素材を落とす敵なのだろうが、強そうな名前のモンスターだ。
「あー、ボク、あのモンスター好きじゃ無いなー、やたら硬いし、魔法も効かないしさー。じゃ、沙耶さんと話そ」
「ああ」
小雪と二人でギルマス部屋にノックして入った。
「沙耶さーん、来たよー」
「いらっしゃい、二人とも」
黒いゴスロリドレスの沙耶が妖艶に笑う。今回は胸元の谷間が見えないドレスだが、妙に色香のある人だ。
生産ならランキング上位も狙える中規模クランのリーダーか。




