表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミッドガーデンの神プレイヤー ― 無課金の俺が伝説の救世主になるまでの軌跡 ―  作者: まさな
第三章 つながる場所

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/113

第十四話 襲撃

残虐なシーンがあります。

 俺達はディスティニーランドの映画を見ている、はずだった。

 出てきた犬人間は、そのまま一直線に観客席に突っ込んでくると、最前列のカップルにコミカルな動きで斧を振り下ろした。


 バンッ! と座席ごと破壊される。破片が飛び散り、悲鳴が上がった。

 斧の直撃を食らって倒れた男はぴくりとも動かない。


「ヤっくん? ねえ、ちょっと、嘘でしょ…」


「お、おい、大丈夫か。血が出てるぞ」


「って言うか、そいつ死んでないか?」


 誰かが問いかける。

 しかし、誰も答えない。


「危ないっ!」


 犬人間がさらに斧を振り回し、別の人間を襲った。辛うじて横から引っ張られ、斧の直撃は避けたが、また座席が派手に破壊される。


「きゃあああ!」


 つんざくような悲鳴で、傍観していた俺は我に返った。


「みんな、ここを出るぞ!」


 これは映画の可能性もまだ残っている。倒れて動かなくなっている観客は実はサクラというパターンだ。

 だが、その恋人が泣き叫びながら彼の体を揺する様子は冗談や作り事とは思えなかった。


「う、うん、そうだね」

「マジかよ…」

「あうあう」

「そんな…」


 みんなで座席から立ち上がり階段を上がる。


「あかん! おい、ドアが開かんぞ!」


 すでに後ろの両扉に辿り着いていた関西チーターズの男が両手で取っ手を引っ張りながら叫ぶ。体格の良い彼が引っ張ってダメなら、鍵でも掛かっているに違いない。


「非常口だ!」


 俺は緑のランプを横の壁に見つけ、それを指差す。


「行こっ!」


 小雪達がそちらに向かって走る。だが、途中、ミホちゃんが転んでしまった。


「大丈夫か?」


「は、はい、いたた…」


 唇を切って、眼鏡も片側が割れてしまっている。

 彼女の手を引いてやり、慌てずに進む。


「おいおい、何をやってるんだ、君たち。これはただのアトラクションだぞ?」


 三十代くらいの細長い顔の男が席に座ったままで言う。


「アホ、スタッフもおらん、ドアも開かんって普通ちゃうやろ!」


「ふう、分かってないなぁ。これはサイドコアによる演出だ。僕らは外には出られないし、出る必要もないよ」


 彼は落ち着き払って言ったが、なるほど、ここはもうVRゲームの中か。それならドアが開かないのも説明は付くが…。


「ああ? ううん…なら、ここで死んだ奴はどこに行くんや?」


「さあ? どこか(・・・)には出るだろう」


 どうにも危うい賭けに思える。それで行き先が天国だったりしたら笑えない。

 それに、最初に()られた観客はまだその場に倒れたままだ。


「どこかて」


「ミッドガーデンのコラボなら、ひょっとして、装備も呼び出せるんじゃ…」


 誰かが言った。


「それや!」

「お! そうだね!」


 ――だが。


「な、なんや? メニューが出てこんぞ」


「この着ぐるみしか出せないー!」


 メニューバーが出てこないので、どうしようもない。

 ウインドウも出ない。


 だが、これがVRなら。


「コマンド、終了!」


 試してみたが反応無し。


「コマンド、キャンセルや! くそっ、ログアウトできんやないか!」


「そんなはずは」


 ようやく座っていた観客数人も異変に気付く。


「じゃあ、あの犬はどうすりゃいいんだ……?」


 誰かがぽつりと言い、皆が一斉に犬人間を見る。

 ニヤッと笑った犬人間は、これ見よがしに斧をブンブンと振り回すと、こちらに走って突っ込んできた。


「ひい!」

「うわあ!」

「きゃー!」


 観客がてんでに逃げ回る。


「くそっ、犬畜生の分際で、調子に乗りおってからに、ガチクランのヘッドを舐めんなよ、オラァ!」


 後ろから関西チーターズが蹴りを入れる。だが、犬人間はビクともしない。


「な、なんやと…?」


 驚き顔の関西チーターズ。


「ガウッ!」


「ふおっ! くそっ!」


「こてっちゃん、速く逃げて!」


「分かっとるけど、おい、誰か、援護くらいせえや、くそっ! あひっ! よっしゃぁ! 逃げ切った! 見たか、オレの【見切り Lv4】の実力を」


 かなり凄い動きで避けていたが、スキルはここでも有効のようだ。


「おお、スキルが使えそうだぞ!」


「いや、ダメだ、魔法が出ない!」


「おい、誰か格闘系スキル持っとらんのか。リュート! お前、マスターモンクの無双称号、持っとったやろ」


 関西チーターズが俺を見て言うが。


「え? いや、アレはマグレというか…」


「ええから、ちょっと(おとこ)を見せえや。オレは刀とブロードソードしか熟練度、鍛えとらんのや」


 こっちも素手の熟練度なんて鍛えてないんだが。


「よーし、みんな、ここはオレに任せなっ! レベル60の極振り重戦士(タンク)の実力、見せてやるぜー!」


「おお、行ったれ、行ったれ。一万超えのHP(ヒット・ポイント)なら鎧がのーてもなんとかなるやろ。

 ええか、お前ら、戦士系の奴はそいつが犬っころを止めてくれたところで、一斉に囲んでタコ殴りや! 先に近づきすぎてヘイトを横取りせんようにな」


「了解!」

「分かった!」

「うっし、任せろ」


 周囲の何人かがその気になったようだ。

 そして重戦士系とはとても思えない痩せぎすの男が、しかし自信満々に両手を広げて前に出ていく。

 数人が、続いてじりじりと犬に近づく。


 気になるのは、HPバーが表示(・・)されて(・・・)いない(・・・)ことだ。

 だが、もう作戦は始まっている。ここは見守ろう。


 犬人間はこちらをゆっくりと見回した後、勢いよく斧を振るった。


「がっ!?」


 斧が重戦士の頭を直撃。そのままレベル60の男がゴムまりのように宙を飛び、壁にグシャッと当たった。重戦士だった男は壁から跳ね返って落ちるとそのまま動かなくなった。


 ……。

 ゲームなんかじゃ無い。

 これ、本物(リアル)だ――。


 ぞーっとする。

 血の気が引くとはこのことか。

 気付くと俺の手と足が震えていて、胃もヒヤリと冷たくなった。

 とにかく、気分が悪い。


「あ、あかんやん! あかんやん! 全然、ダメやんか! なんやそれぇ!」

「嘘だろ、くそっ!」

「ダメだ、逃げろ!」

「も、もうダメだぁ!」

「ヒッ、死にたくねえ!」

「嫌ぁあああ!」


 前に出ていた戦士達が、泡を食って蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げ始める。椅子にぶつかって転げながらも、なおも必死に()って逃げる。

 そこへ追いすがって、嬉々とした笑顔で斧を振るブルドッグ。

 どう見ても最悪の状況だ。


 何か――、何か手は無いのか?


 その圧倒的に明確な答えに対して、俺は呆然とするしかない。


「ハーイ、みんなー、ミーグだよぉ♪ ブルブルを倒したかったら、私の着ぐるみを上手く使ってね!」


 破れたスクリーンでは、上映が続いていて、場違いに明るい声が聞こえてくるが。


「お兄ちゃん」


 小雪がミー某の着ぐるみを着ていた。

 俺はギョッとした。


「よ、よせ、小雪。それで上手く行かなかったら、本当に(・・・)ヤバい(・・・)


「でも、誰かが使って、試さないと。あの犬、倒せないんじゃないの?」


「いや…時間切れもあるんじゃないのか?」


 上映時間は30分のはずだった。


「30分も持てばいいけど」


 この会話の間にも、数人が斧の犠牲になって、床で動かなくなっている。

 あの犬人間は、いったん走り始めるととても足が速いのだ。

 30分の間、ずっとアイツから逃げろって?

 無理だ。


 じゃあ、どうする?


「ボク、ちょっとやってみる」


「バッ、バカ! 待て、小雪!」

「だめっ、危ないよ、小雪ちゃん」


「くそっ、よし、アタシもやってやるぞ!」


 ナツキや他の何人かも着ぐるみを着始めたが、どうかしている。

 このままじゃ――

 


「ああ、くそっ! ちょっと待ってろ、小雪。俺が先だ!」


 俺は自分の着ぐるみを急いで着て、小雪の後を追った。


「んーん、ボクが先だよ。【見切り Lv5】もあるし、お兄ちゃんよりレベルも高いし」


「いいや、それでも俺だ。【怒濤(どとう)の見切り】ってユニーク・スキルを覚えてる」


「えっ、ユニークを?」


「ああ。とにかく、お前は下がってろ」


 本当はこんなこと、したくはないんだが。

 それでも、小雪を先に行かせるわけにはいかない。

 出がけに親父に約束しちまったもんな。

 無事に帰るまでが旅行だ。


 もう俺の目の前で家族は死なせない。

 何か俺にできるならば、それをやってやる。


「や、止めて下さい、センパイ! 死にますよ? センパイのレベルじゃ無理です。レベル60の人も一撃なのに」


 真衣が止めた。確かにその通りだと思う。

 だが、攻撃が当たら(・・・)なければ(・・・・)――


 やれる気がする。


「じゃ、二人でやろっか」


「小雪、兄貴の命令だ。お前は少し待っててくれ。いいな?」


「うーん、分かったよ。ただし、お兄ちゃんがピンチになったら、ボクも行くからね?」


「ああ、その時は任せた」


「じゃ、先手は譲るが、アタシも助けに入るからな、リュート」


 ナツキも言う。


「ああ。任せろ」


 これは正気じゃ無い……とも思うが、突破口は絶対に必要だ。

 これがリアルなら、これ以上死人を出すわけにはいかないのだ。

 いや、小雪だけは守らないと。


 俺が死ぬのも怖いが、小雪が死ぬのはもっと怖い。


 ダメだ、余計な事は考えるな。

 今は集中しないと。


「くそっ、また突っ込んでくるぞ!」


 誰かが叫んだ。

 ブルドッグが誰もいない壁に突っ込んだところで、俺もチャンスと見て一気にダッシュ。

 着ぐるみだから走りにくいかと思ったが、全然そんな事は無かった。


 よし、まだ奴は向こうを向いてる。

 このまま――。


「くっ!」


 ブルドッグがくるりと振り向いたので、俺は急ブレーキを掛ける。

 ダメだ、あんな血の付いた斧なんて、素手で戦えるわけが無い!


「ダメッ! お兄ちゃん、避けて!」


 しまった!


 斧を振りかぶったブルドックの突進がこちらに向かって来たが、間に合わない。


 やられる――

 そう思ったのだが。


「いてっ! んん?」


 ブルドッグは、俺を体当たりで(・・・・・)弾き(・・)飛ばすと(・・・・)そのまま突進を続けた。


 なんだ、今の?


「くそっ、なんでリュートを無視してオレん所に来るんや、それは無いやろ!」


 後ろで関西チーターズが愚痴をこぼしながら斧を避けている。

 なるほど、そういうことか。


「みんな、早く着ぐるみを着ろ! こいつは着ている奴は見えないッ!」


「えっ!」

「そ、そうか、そういう意味か!」


 全員が急いで着ぐるみを着始めた。


「なんやそれ! オレはどないせえっちゅうんや、着るヒマなんか無いぞ、くそがっ、あひっ! ふおっ!」


「こてっちゃん、今助けるから、待ってて!」


 小雪が横から走り込んでタックルをやった。

 俺も同じ方向から追撃を掛ける。

 それでもブルドッグの突進は止まらない。


「うぉおおおおおおおおお!」

「こんのぉおおお! 止まれぇえええ!」


 俺と小雪で力の限り、奴の体を押さえ込む。足が滑ろうとも、押さえる。

 スピードが緩んだと思った直後、ナツキが叫んだ。


「ダメだ! 小雪、離れろ!」


「え?」


 その時、俺の目には小雪に向かって振り下ろされるそれ(・・)が見えてしまった。

 血まみれの斧が。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ