第十二話 運命の城
「あー、くそ、やっぱり筋肉痛だ…」
昨日はかなり歩いたので、足が痛い。ミッドガーデンだと筋肉痛にはならないので、そっちの方が良いな。
「お兄ちゃん、朝ご飯、食べに行こっ」
小雪は相変わらず元気で羨ましい。昨夜と同じレストランで、マフィンとハムエッグを食べたが、マフィンにもミー某の顔が描いてあって、徹底したキャラクタービジネスには半分感心、半分辟易だ。
小雪達は喜んで食べていたが。
ミホちゃんも筋肉痛だというので、こんな事もあろうかと持って来た湿布を俺は分けてやった。
「じゃ、ディスティニーランド、今日で最後だから、お昼まで回れるだけ回ろう!」
小雪が意気込んでいるが、俺の足の事もある。
「いや、小雪、ミホちゃんの足の状態も考えてやれ。どうせ全部は回れっこないんだし、また来れば良いだろ? 次に取っておけよ」
「あー、そうだね!」
ふう、助かった。
ホテルを出てディスティニーランドの通りを歩くが、今日は昨日よりさらに人が多い感じだ。
「お兄ちゃん、手、つなごう。いいでしょ?」
「んー、そうだな、はぐれてもあれかな…」
周りに手をつないでいるカップルがそこかしこにいるので、そこまでの抵抗感は無い。
「うんうん、はぐれても困るし、兄妹だからオッケー、オッケー」
つないで歩く。
「ふふーん♪」
小雪もご機嫌だ。俺もちょっと楽しかったりする。
兄妹っていいなぁ。
「どー見てもお前らはカップルにしか見えんのだが」
ナツキが後ろでボソッと言う。
「兄妹だよ! 兄妹! ま、カップルでもいいかなぁ」
「ダメ。あくまで兄妹ってことでな」
小雪は放っておくと際どい冗談を飛ばし始めるので、俺も適当に釘を刺しておく。
「あれ? その声、センパイですか?」
聞き覚えのある声に横を見ると、真衣がそこにいた。
「ああ、真衣」
この前とは違う髪型で、結い上げた髪で伊達眼鏡を掛け、帽子もかぶっているが、声ですぐに彼女だと分かった。
「ああ、やっぱりセンパイだぁ。わぁ、なんだか運命的ですね! こんなところで会うなんて」
感激した様子の真衣が駆け寄ってくる。と、小雪と俺のつないだ手を見て表情が消えた。
「えっ…」
「あっ! これは違うぞ」
パッと手を放す俺。
「…どう違うんですか?」
「紹介しておこう。コイツは俺の妹の小雪だ」
「ああ、妹さん?」
「水沢小雪です。よろしくー」
小雪が笑顔で手を差し出して真衣と握手。
「ええっと、私はお兄さんと知り合いの真衣です、こんにちは」
「うん、知ってるよ。ま、ここではタダの真衣ちゃんの方が良さそうだね」
小雪がウインクして言う。
人気声優だけに、身バレするとこれだけの人だかりだ、面倒事になりそうだもんな。
「ああ、うん、それでお願い」
「ふうん、小雪の兄貴の知り合いか。アタシはナツキ。よろしくな」
「よろしくー」
「この声、どこかで…」
ミホちゃんが首をひねっているが。
「ミホちゃん、後で教えてあげるね」
小雪が小声で言った。
「あ、うん」
「真衣は遊びに来たのか?」
俺は聞いてみる。
「いえ、今日はイベントのお仕事で来たんです」
「ああ、そうか。俺達はこの四人で遊びに来たんだけど」
「そうですか。私もあと二時間くらいなら待ち時間で空いてるので、ご一緒させてもらっていいですか?」
「俺は構わないけど…」
そう言って皆を見る。
「いいよね?」
小雪もミホとナツキを見る。
「ああ」
「はい」
二人とも異議は無い様子。
「決まりだな」
「良かった。ありがとうございます」
ニッコリ笑う真衣もこれで一緒のパーティーだ。
真衣も加えて俺達一行はアトラクションを見て回った。
「わあ、見て下さい、センパイ! ムームー! ミーミーもいますよ!」
「おおー、こいつらもいるのか」
「わーい、ムームーだー!」
「くそっ、可愛い…」
「ふえぇ、はわわ」
アニメでおなじみのキャラの着ぐるみが手を振っているが、真衣も小雪も大興奮だ。
「知ってるか、真衣、こいつらの正体はトロールなんだぜ?」
俺はつい、夢を壊す意地悪を言ってしまう。ゲームではたいていゴツい巨体として描かれる鬼だが。
妖精と言うよりはカバに見えるな。
「もう、知ってます! ちゃんと台本の設定欄にもトロールですって書いてありましたし」
「あっ、そうか、君がミーミーをやってるんだよな。リメイク版で」
「ええ。子供の頃に見たキャラを自分で演じられるなんて夢みたいです」
「マイマイ、ちょっとやって見せてー」
小雪がねだる。
「ええ? じゃあ、ちょっとだけですよ? ――もう、兄さんったら、この金色のドレスの方が素敵だわ。ムームーだって絶対そう思うでしょう?」
「「「おおー」」」
真衣がミーミーの台詞を言うが、まんまミーミーの声だ。いや、当たり前か。
「ミーミーに似てるー!」
「お姉ちゃん、すごーい!」
近くにいた子供達もキラキラした目で真衣を見ている。
「ふふっ、もっと練習してミーミーって呼ばれるように頑張らないとですね」
さすがはプロフェッショナル、考え方も違うようだ。
別のアトラクションでパネルを踏むリズムゲームもやったりしたが、真衣はダンスレッスンも受けているそうで完璧だった。小雪とナツキも上手かった。俺とミホちゃんはダメダメ。【第六感】のスキルはやはりゲームでしか発動してくれないようだ。
「じゃ、次は『運命の城』に行こっ! ちょうどリニューアルされたばかりだし、みんながビックリするキャンペーンをやってるよ?」
小雪が言うが、こういうテーマパークでビックリってなかなか無い気がするけど。
「ほう、じゃ、行ってみるか」
「行きましょう!」
「ま、行くだけは行ってやるけどな」
「楽しみです」
小雪のオススメにみんな興味を示し、そのアトラクションに向かう。
『運命の城』というだけあって、本物みたいなデカい城があり、集まって並んでいる人もやたら多い。
待ち時間は長そうだ。
「あちゃー、大本命なのに、こんなにいるなんて、もう最悪ぅー」
小雪が人だかりを見て気の抜けた声を出す。
「真衣は時間、大丈夫か?」
「ええと…そうですね、間に合いそうになかったら、ごめんなさい、途中で抜けさせてもらいます」
「そうか。その方が良いな」
「マイマイの力でなんとかできないの?」
「うーん、ごめんね、小雪ちゃん、私そういう力は使いたくないって言うか…」
「みんな順番に並んでるんだし、待てば良いだろ」
「えー、お兄は家康さんタイプだけど、ボクは信長さんタイプなんだよ?」
「知るか」
「だいたい、ほら、あそこ、優先パスポートを持ってる人は、先に行けちゃうし」
小雪が指差したが、スタッフが列の途中のカップルを別の入り口に案内している。
「金の力かよ、汚えなあ」
ナツキが不満げに言うが、世の中はビジネスだ。
と、後ろから肩をポンポンとやんわり叩かれた。何だろうと思って振り返ると、鍔の長い帽子をかぶっている男だった。
前に会ったことがある。電気店でウェブカメラを深雪と一緒に選んでいたときの白皙の男だ。
今日は派手なピンクのシャツと白いベストを着こなしているが、男でこれを着て、しかも違和感が無いのは少数だろうな。
「やあ、また会いましたね。お急ぎみたいですが、どうです? 僕のゴールド・パスポートなら皆さんも一緒のグループとしてあそこから入れますけど」
「えっ、いいんですか?」
「もちろん。これも何かの縁でしょう。旅は道連れ世は情けとも言いますしね」
ウインクしたその男は、ちょっと色々怪しいのだが、手に持った金色のカードは実に魅力的だ。
年間オールシーズンで何度でもフリーパス、各種優待も付くという株主専用のパスポートだ。
ディスティニーランドの下調べをしているときにネットで俺は見つけていた。公式サイトには載っていないという割とえげつないカード。
「ただし、係員に告げないといけないので、みなさんの名前は教えてもらう必要がありますが、どうしますか?」
柔和に笑う男が付け加えて言う。
「センパイ、この人はダメです」
真衣が横から俺の袖を引っ張りつつ、神妙な顔で耳打ちしてきた。
「おやおや、上月さん、僕はあなたのファンなのに連れないことですね。別に地獄にご案内したりはしませんよ」
「はぁ」
真衣の名前を知っている、か。本当にファンなら何の問題も無いのだが。
「せっかくですが、お断りします」
俺は言う。
「おやおや。では、こうしましょう。このカードをあなたに貸します。僕はそこのレストランで食事をしていますから、このアトラクションが終わったら返して下さい」
「いや、そういう変な事は…」
「いえいえ、このカードはちゃんと貸与も認められていますからね。何の問題も無いですよ」
「お兄、ここまで言ってくれてるんだし、借りるくらいならいいんじゃないかな? マイマイも時間押してるみたいだしさ。お兄、この人と知り合いなんでしょ?」
「ううん…知り合いってわけでも」
俺は渋った。だいたい、名前も知らないような相手だ。
「お客様、どうかなさいましたか?」
ここのスタッフがトラブルと見てやってきたようだ。
「ああ、ちょうど良かった。このパスポートを昼まで彼に貸してあげたいんだけど、可能ですか?」
男が機先を制して言う。金色のカードを受け取った係員がにこやかな笑顔で頷いた。
「ええ、もちろん、大丈夫ですよ。特別優待ですから、こちらのエントランスへどうぞ、待ち時間無しでご利用頂けます」
「タダで?」
ナツキが聞く。
「はい、もちろん」
「なら、いいじゃねーか。行こうぜ」
「決まりだねっ! 行こっ、ミホちゃん」
ナツキと小雪達が行ってしまう。肝心の持ち主ももう姿が見えないときた。
「あっ…」
「悪いな、真衣。君はどうする?」
若干、嵌められてる予感がしないでもないが……。
「仕方ないですね。じゃあ、ご一緒しますけど、もしも声優人生が絶たれたら、センパイ、責任取って私をお嫁さんにして下さいね?」
「えっ!?」
それはもちろん泣いて喜んで責任を取らせてもらうが、そこまで行く話かな?
真衣も冗談なのか笑顔で先に行ってしまうし。
「おい、待ってくれ」
「ダメです、待ちません♪ ふふっ」
とにかく、何か問題が起きたら、きちんと俺が事情をきちんと説明して真衣を全力で庇うとしよう。
それでダメなら結婚だ!




