第十一話 ディスティニーランド
2017/4/12 句読点を修正。
親父に駅まで送ってもらい、俺は小雪のボストンバッグを持って車を降りた。
「じゃ、竜人、こっちに着いたら電話しろ。また迎えに来る」
ハンドルを握ったままで親父が言う。
「分かった」
「ちゃんと責任持ってみんなの面倒、見てやるんだぞ? 行って帰ってくるまでが旅行だからな?」
「言われなくたって分かってるよ」
親父がしつこいのでうんざりする。
「大丈夫大丈夫、ボクもお兄ちゃんの面倒、ちゃーんと見てあげるから」
「おお、そりゃ頼もしいな」
ったく。そのニヤついた視線で俺を見るのは止めろ、親父よ。
「ま、無事に帰ってこい。それだけだ」
「うん! じゃ、パパ、お土産、期待しててねー」
小雪が笑顔で手を振る。
「おお、楽しみにしてるぞ。二人ともしっかり遊んで来い」
スーツ姿の親父はこのまま会社に直行だ。
俺は腕時計を見るが新幹線の時間まではまだ十五分もあった。余裕だな。
「あ、ミホちゃん! おはよー」
「おはよう」
丸眼鏡に三つ編みの髪型の女の子がリュックを担いでやってきた。インドアな感じの子だ。
「おはよう。ミッドガーデンで会ったね」
俺も挨拶する。
「は、はい。おはようございますっ!」
慌てた様子で頭を下げるミホだが、ガチガチだなぁ。一緒に遊びに行くのだから、もっとリラックスして欲しいところ。ま、小雪の友達だからここは小雪に任せておくか。
「別に敬語でなくていーよ。ね? お兄ちゃん」
「ああ、別に良いぞ」
「で、でも」
「ヘーキ、ヘーキ。怒ったりしない草食系だから、環境にも優しいよ?」
小雪が言い、俺がうんうんと頷く。
「あー、でも幼女を見つけたときの行動は素早いよね。すぐ駆け寄って声かけてたし」
「えっ!?」
「うぉい! ミッドガーデンのNPCの話だろ、それ。誤解されるから勘弁してくれ」
「アハハ」
「ああ、なんだ…ふう」
「ミホちゃん、ディスティニーランドのチケットは持って来た?」
引率者として俺は一応確認しておく。
「あ、はい、ここに。あれっ? あれっ?」
「ありゃりゃーん? よく探してよ、ミホちゃん。無かったら、電話でおうちの人に頼んで、速攻で持って来てもらった方が良いね!」
小雪が言うが、確かに速攻でないと間に合わないか。
「ええと、確かに入れたはずなんですが、ええと、あれっ!?」
「ま、一本遅らせてもいいし、焦らなくても良いぞ」
俺は言う。時間や経路はちゃんと調べてある。
「えー、でも、それじゃ、向こうで遊ぶ時間が減るし」
まあそうだが。だからと言ってミホちゃんを置いて行くわけにも行かないだろう? 小雪よ。
「あ、ありました! 良かったぁ…」
「おおー、良かったね。もー、びっくりさせないでよ、ミホっちぃ。忘れたかと思った」
「ご、ごめんなさい」
「ま、あったんだからいいだろ。それより、ナツキちゃんがまだ来てないな」
まだ大丈夫な時間ではあるが。
「待ってね、ちょっと電話で聞いてみる」
「ああ、頼んだ」
「もしもしー、なっちゃん、今、どこー? ああ、じゃ、ゆっくりで良いよ。時間はまだあるし。うん、はいはーい。すぐ近くまで来てるって」
「そうか。ああ、来たな」
小さめのショルダーバッグを担いだナツキが走ってやってきた。
シンプルなポニーテールの髪。ゲームでは赤毛にしてたけど。
「悪い、遅れた」
ナツキが到着するなり謝る。
「ああ、いいよ、まだ時間前だし。ね、お兄ちゃん」
「おう。じゃ、先にトイレに行ってから、ホームに行こう」
「了解!」
新幹線には乗り遅れる事も無く、指定席で乗れた。切符は親父が抜かりなく全員のを連番で買って来ていたので隣同士の席だ。
小雪が用意したお菓子を食べつつ、割と楽しくお喋りしながら時間を潰せた。
乗り換えをしてディスティニーランドには午前十時前に着いた。
「とうちゃーく!」
「さすがに、この時期だけあって、人が多いな…」
入園ゲートの屋根は見えているが、人混みだらけで歩きにくい。これははぐれたりもするかもな。
荷物はすでに駅から降りたときにウエルカムセンターという所に預けたので、後はホテルまでスタッフが運んでくれる手筈になっている。なかなか良いサービスだ。
「はぐれたときは、携帯で連絡を取ろう」
俺は言っておく。
「それが良いね。あ、じゃあ、交換交換」
「小雪経由でいいんだが」
「ええ? 直接話せないと面倒でしょ」
俺はそうでも無いだろうと思ったが、小雪が言うのでミホとナツキの番号を交換しておく。
「男と番号交換かよ…」
「うう…」
なんか二人に嫌がられてるんだが?
「ふふっ、これで友達に携帯を見られたときに、えっ、この竜人って誰?! ひょっとして彼氏ぃ?! キャー! みたいな事になるね、楽しみー」
小雪が煽って遊んでるし。
「くそっ、パスワードはどうやって設定するんだ?」
ナツキが聞いているがそれをしてる方が余計に怪しまれそうだが。
小雪が教えてやり、パスワードが設定されたようだ。ま、好きにしてくれ。やましいことは何も無いし、悪用はしないから。
「でも、晴れて良かったねー、暖かいし、ちょうど良い天気だよー」
小雪の言う通り、空は快晴、旅行日和だ。
入り口ゲートで結構長い時間待たされたが、ようやく中に入れた。
正面に巨大な猫の顔のレリーフが備え付けられており、可愛らしいデザインだがここまでデカいとなんだか不気味だ。
「わー、ミーグのお出迎えだー」
着ぐるみの猫や犬が手を振っている。小雪がわざわざ抱きつきに行くし。
「やーん、ミーグー!」
「小雪、その辺にして、行くぞ」
「えー、お兄ちゃん、写真、撮っといて」
「ああ、はいはい。じゃ、撮ったらすぐ離れろよ」
「えー? いいじゃん」
「いや……中の人、男だろ?」
ミー某は小雪に対して積極的に抱きついているし、怪しい。
「ちょっと! そーゆー発言は子供達の前では禁句なんだよ!? それに、お兄、この子達はロボットだよ?」
「えっ? そうなのか」
「うん、触ってみ、触ってみ」
「どれ…」
猫の着ぐるみのミー某の腹を触ってみる。モフモフして良い手触りだが、ええ? どうだろ?
硬い金属にすぐ手が当たるかと思っていたが、柔らかい。うん、実に良い手触りだ。
「…んっ! や、止めて下さい、中の人は人間です…」
小声で。しかも女性の声だった。
「うわっ、すみません! おい、小雪ぃ!」
「アハハ、ごめーん、お兄ちゃん。でも、本当にここにはロボットがいるからね?」
「それは信じてやるけど、もう触らないぞ」
「それ信じてないー。どう思う? なっちゃん」
「お前が全部悪い」
「えー?」
「あと、お前の兄貴は手つきが…その、なんだ…無駄にエロかった」
「おいぃ、いや、くそっ…」
きっちり否定しきれないのが悔しい。それに俺から困ったように目をそらすミホちゃんを見ても、マズい、俺の信用と好感度が大暴落だ。
下手に言い訳するのは止めておくか。
「行くぞ!」
「あーん、待ってよぉ、お兄ぃー」
ここはお土産エリアなのか、店がたくさん並んでいる。店と言ってもおとぎの国のような洒落た街並みになっているから大したものだ。
徹底したテーマパークだな。
「土産は帰るときでいいか」
「そうだね」
通りに視線を戻すと、うちの担任の先生がいた。
「あれ? 先生」
「お、おお、なんだ、水沢か」
腕時計を見て時間を気にしていた様子だが。
「へえ、先生も遊びに来たんですか」
「まあな。悪いがクラスの奴には内緒にしてくれ。じゃっ」
「ええ?」
行ってしまった。
「変わった先生だねえ」
「普段は良い先生だけどな」
先生も帰る時間で急いでいたのかもしれない。
少し歩くと変わった青色の建物が見えてきたが、何かのアトラクションの施設だろう。ただ、その入り口でずらりと行列ができている。
「どうする、小雪。並ぶか?」
「んーん、ここは後で良いよ。リニューアルされたばかりで混んでるから。それよりも先に『フェロニアの帽子』から行こ。ボク以外はみんな初めてだし、結構、オススメだよっ」
「よし、じゃ、そこから行くか」
だが、結構歩く。
「広いな…」
「そうだねー。まだ半分くらいかな」
「「「半分!?」」」
三人とも驚く。ここまで二十分は歩いた気がするが。
「うん。じゃあ、馬車に乗ろっか」
「それがいい。というか、明日は筋肉痛になりそうだ…」
「運動不足だねぇ、お兄ちゃん」
それは否定しない。
俺は生まれて初めて馬車なんてものに乗り込み、カッポカッポとリズム良い蹄の音にちょっと感動する。
「おお、昔の人はこんなのに乗ってたのか」
「本物よりはたぶん、乗り心地が良いはずだよ。ゴムタイヤとサスペンションが付いてるし」
「んん? この馬車、タイヤは付いてなかったと思うが」
「それがねぇ、緑色のタイヤで気付きにくくしてあるんだよ」
「ほー」「へえ」
「ミッドガーデンの馬車だともっと乗り心地が良いよ」
「ああ、ミッドガーデンにも馬車があるのか…」
「アタシは馬車より、馬の方が良いね。風を受けて走るし、何より外が見えるしさ」
ナツキは馬も乗りこなしたことがあるようだ。
「そうだねー。でも、戦闘中に落馬しちゃうと、馬さんが逃げちゃって、困るんだよねぇ」
「ああ。自分の馬だと違うんだろうけどな」
馬に乗って戦えば本格的な騎士になれそうだが、ハードルは高そうだ。
「じゃ、着いたよ」
アトラクションは動くキャラクターのセットを順に通って回る仕組みで、良くできていた。映画を見ているような感覚だ。
だが、ミッドガーデンの方が、自分で行動して対象を動かせる分、面白いし、リアル感も比べものにならない。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
アトラクションをいくつか見て回ると早くも夕方になった。
俺達はディスティニーランドの中にあるホテルにチェックインして、自分の荷物が届いているかを確認した。
部屋に入れてあるそうで、問題無いようだ。
部屋割りは、シングルが四つだ。女性陣はツインの相部屋でもいいのだが、どうしても一人余ってしまうので平等が良いだろうという結論。
「ボクは、お兄ちゃんと同じ部屋でも良かったんだけどなー。ダブルベッドで」
などと小雪が言ってミホを赤面させているが、そこは誤解を招かないようにしておく。
夕食はこのホテルのレストランで夜景を見ながらのコース料理を食べ、味も雰囲気も、俺達はとことん満喫できた。
「お姉ちゃんは絶対損したね、これは」
と小雪が、したり顔で言うが俺もそう思う。




