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ミッドガーデンの神プレイヤー ― 無課金の俺が伝説の救世主になるまでの軌跡 ―  作者: まさな
第三章 つながる場所

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第三話 おかしな世界

 何だろう?

 と思って俺がライトの呪文の光源を動かしたとき――


「きゃあああ!」


 ユキがそいつ(・・・)に足を掴まれて引きずり込まれた。


「うおっ、またメタリック・ローパーだと!?」


 銀色のローパーがそこにいたので、俺もちょっとビビった。

 さっきの奴がまだ生きていた…? 

 いや、ドロップアイテムを出した時点で、倒したはずだ。


「じゃ、ここってメタリック・ローパーの生息地なのか?」


 だが、レベルが三つも上がるようなボス級の経験値の敵がそう何匹も出てくるかね?

 それだと人気エリアで人がごった返していそうだが。


「ちょっと! 冷静に考え込んでないで、助けなさいよ!」


 宙づり状態でユキが怒る。


「いや、そう言われても、俺のレベルじゃどうしようも」


「いいから! ひゃっ」


 ぐりんとユキの姿勢が変わり、こちらに足を向ける格好になった。


「うおっ!?」


 見え――


「見るなぁ!」


「待て、それ下着じゃ無くて鎧だよな?」


「そうだけど! そうだけど! いいから見るなぁ!」


 なぜそこまで恥ずかしがる。青いビキニアーマーが見えただけなのだが。

 まあ、その上に巻いた腰巻きが少しめくれていて、それなりに色っぽく見えてしまうし、ユキが恥ずかしそうに足を閉じようとすると、思わず目が興奮してしまう。


「ちょっとぉー。何よこれぇ。もー、絶対、次はズボンにしてやる…」


 ユキが情けない声を出したので、俺もそろそろ助けようとローパーの触手に斬りかかる。


 カキンッ!

 と音がして、やはり硬い。


「ガウガウ」


 シロも触手に噛みついたまま振り回されているし。


「ダメだこりゃ。ユキ、ログアウトするかどうにかしろ」


 どうせ呪文も効かないタイプだろう。


「嫌よ。戦闘中のログアウトは中断しかできないし、まだ探索途中なのに、また街から死に戻って来るのは面倒だわ」


「そうは言ってもな…」


「よし! (ほど)けた!」


 自力で抜け出したユキが体勢を整えて斬りかかる。あっさりと倒した。


『2連続レベルアップ! 総合レベルが24まで上がります』

『〈シロ〉のレベルが25になりました』

『ジョブのステップアップ! ジョブ〈ルーンナイト☆〉の熟練度(ステップ)が【見習い】に進みました』

『呪文【ウインドエッジ】を手に入れました』


 またレベルが上がった。


「ふう、ちょっとあなたに色々言いたいことがあるけど、まずはドロップね」


 ユキがドロップアイテムを拾った。俺はその間、周囲を警戒する。シロも今度は通路側を向いたままで身構えている。


「あ、【幸運】の能力値が上がって魔法防御も付く〈髪飾り〉だわ」


「へえ」


 今度はなかなか良さそうなアイテムだ。


「じゃ、誰かさんが助けてくれなかったし、嫌らしい目で私を見てた罰として、これは私がもらうわね」


「ええ? まあいいが」


「えっ、いいんだ?」


 ちょっとビックリしたユキも半分冗談で言ったらしい。


「ま、君が一人で倒したようなもんだしな。それに髪飾りなら女の子向けだろ?」


「そうね。でも、売ればお金になるし、後で街で鑑定してもらって半額を渡すわ。それでどうかしら?」


「ああ、それでいいよ」


「分かった。ありがとう。じゃ、さっきの水晶玉はあなたにあげるわね」


「ああ、それがいいな」


 水晶玉を受け取った。


「じゃ、探索を続けましょう。金属種が二体も連続で出てくるなんて、ここはやっぱりおかしいわ」


「おかしい?」


「ええ。滅多に会えない希少種なのよ。生息地も決まって無くて、完全に運で出てくるタイプだから」


「ふうん、やっぱりそうか」


 この通路を注意深く観察して調べていく。


「見つけた! 綻びよ」


「えっ? ああ…」


 石ブロックの間がおかしな色で光っていた。虹色に(きら)めいている。


 ユキはウインドウを出して座標を確認し、スクリーンショットも撮っているようだ。


「よし、これでいいわ。街に戻りましょう」


「んん? 他の場所はいいのか?」


「綻びは一つのエリアに一つしか無いわ。なぜそうなのかは分からないけど。それに、バグなら一カ所で充分よ」


「ああ…」


 ユキの用事が済んだので、通路を戻り街に戻ることにする。


「前にね、綻びを見つけた人が、信じられないことが起きたって。それが何かは教えてくれなかったけど」


 通路を歩きながらユキが言う。


「まあ、バグなら、変な事もあったんだろうけど…」

  

 信じられない、とまで言うだろうか。

 ユキがこちらを振り向いて言う。


「ねえ、知ってる? 最近のプログラムはほとんどAIが作ってるの。人間が作るのはコア・プログラムという土台の部分だけで、チェックすらAI任せになってるそうよ。私、そういうのはどうかと思うんだけど……」


 人間はミスをするが、AIもまたミスをするのだろう。道具として使うのはいいとしても、やはり検査はしっかりやらないとな。

 そこは俺も同感だ。現にこうして綻びが産まれてしまっている。

 いずれさらにAIが進化して無謬のプログラムができるとしても、やはり人はそれをチェックしないと。


 そうでなければ――


 そこまで思考したとき、あの感覚(・・・・)が俺を襲った。

 体を通り抜ける何かの波動。

  

「ユキ! 気を付けろ。ボス級が出てくるぞ!」


「えっ? ここにボスはいないわよ」


「いや、このエリアをよく見ろ」


 さっきまでの石の色とは変わってしまっている。

 今度は緑色。


「あっ、本当だ…、座標は? くっ、なんでハテナなのよ!」


 シロも身構えて唸り、警戒態勢に入った。


「あの黒いバグゴーストと同じだ」


「えっ、そう…いえ、大丈夫よ。近くに敵の気配は無いわ」


「んん? だが…」


「私は気配を探るアクティブ・スキルを持ってるわ。ま、バグゴーストに通用するのかどうかは疑問だけど」


「ひとまず、上を目指そう。前は地下墓地から出ようとしたが見えない壁で(はば)まれた」


「そう。ええ、行きましょう」


 ユキと警戒しつつ、上階へ向かう。


「ん? 今、何か言った?」


 ユキが立ち止まって聞いた。


「いや」


 俺も耳を澄ます。


「……ュート、竜人…」


「んん? 誰?」


 誰かが俺を呼んでいた。外部音声かとも思ったが、何も表示されていない。


「向こうから聞こえる…。行ってみましょう」


「ああ」


 降りてきた道とは外れ、別方向の通路を行く。


「……竜人……こっちよ」


 この声。


「まさか、母さん?」


 はっとして声の方向を見ると、なぜだか景色が変わっていた。

 霧が立ちこめ、広い場所になっている。昼の空も見えた。


 どこだ、ここは…。


 さっきまで俺達は遺跡の地下にいたはずだが。


「ユキ? おい、返事をしろ」


 呼びかけてみるが、返事が無い。

 周りを見回したが、彼女の姿は無い。見失ってしまった。


 砂利道を少し歩くと、せせらぎの音が聞こえてきた。


「川?」


 少し下ると、丸い石がいくつも重なっている河原に出た。左側には毒々しいほど真っ赤な彼岸花の一群が美しく咲き乱れており、右側には何のためか十数個の石を一つの塊とした積み石が点在している。


 そして川の向こう岸に、見間違えようのない人物が立っていた。

 六年前、病院で死んだはずの母さんだ。


「竜人、大きくなったのね」


「か、母さん……」


 俺は思わず息を飲む。

 クリーム色のセーターに、同色のロングスカート。顔色は入院していたときよりずっと良い。

 最後は抗がん剤の副作用で抜け毛が気になるからとショートカットにしていたが、今は元の腰まである長い髪だ。

 優しく微笑む母さんがそこにいる。


 なんで…。


「学校はどう?」


「あ、ああ、上手くやってるよ。あっ、俺、高校生になったから。高校二年」


「そう。背も伸びたわねぇ。彼女はできた?」


「は? いや、できてないけど、なんでそんな事を聞くのさ」


 久しぶりの再会に微妙なことを聞いてくる母さんはやはりどこか天然だ。


「そりゃあ、だって気になるもの。竜人がどんな子を連れてくるか。友梨香ちゃんは元気で素直なのはいいんだけどねー」


「いや、友梨香は無いから。アレはただの幼なじみだし」


「そう? 女の子は顔だけで選んじゃダメよ?」


「だから、親子の会話でそれ、おかしいから!」


「ふふっ」


「それより、母さん、今、どこに――」


 俺は近寄る。


「ああ、ダメよ、あなたはまだここに来ちゃいけないの。まだ早すぎるわ」


「いや、意味が分からないんだが」


 左右を見回すが、橋は近くに無い様子。母さんのいる向こう岸に渡りたいが…。


「ダメよ。それよりあなたに言い忘れたことがあって」


「え? 何を」


 にわかに緊張した。そうだ、母さんは生きてはいない。

 葬式だってやったんだ。


「お母さんの部屋のひまわりの絵があったでしょう?」


「ん? ああ、あったね。ポップで額縁に入れるのはどうかって感じの絵が」


「もう、いいでしょ、あれが可愛いんだから」


 母さんが頬を膨らませて少し拗ねた。


「それで?」


「その額縁の裏に封筒があるわ。それをお父さんに渡して頂戴」


「え? ああ」


「じゃ、頼むわね。……せめてあなたが大学生になるまではって思ってたけど、ごめんね」


 母さんが悲しい顔で笑う。俺はその笑顔は嫌いだった。


「いや、謝ることじゃないし、充分だよ」


「そう。もー、いつもあなたって大人びたことを言うんだから。泣かない小学生なんて可愛げが無いんだゾ?」


 人差し指を立てて茶目っ気を出す母さんに俺は言ってやる。


「うるせえよ。俺はもう高校生だ」


「うん、そうだったね。お父さんは最近、どうかな?」


「最近は……張り切ってる感じだな」


 再婚のことを伝えるかどうか迷った。母さんのことだから「再婚しないで欲しい」なんてことは言わない気がするが。

 それでも。


「そう。あんまり家事を竜ちゃんに押しつけないようにしてもらわないとね。あっ」


「…どうしたの?」


 再婚したことを母さんは気付いたのか?


「もうダメみたい…、残念、時間が来ちゃった」


「時間? どういうこと?」


「あなたとお話しできる時間。同…できる…間は限ら…るって、あの人が」


「母さん? 何? 良く聞こえない」


 ラジオのノイズのような音が混じって、声が聞き取れなくなってきた。


「また…。あなたの……っと見ているわ」


 微笑んだ母さんは次第に遠のいていく。


「母さん! ちょっと! 待ってくれ!」


 濡れるのも構わず、俺は川の中に足を踏み入れた。

 水は冷たくなかった。

 

 とにかく進む。

 川の底が深くなり、水が腰まで来た。

 もどかしい。

 構わず進む。

 すると、ビー、ビー、という単調な電子ブザーが鳴り響いた。


「警告! 警告! バイタルサインに異常が検知されました。速やかに本機の使用を中止し、医師にご相談下さい。緊急シャットダウン実行まであと十秒、九、八…」


「くそっ、待て、まだシャットダウンはするな! キャンセルだ。これは命令(コマンド)だぞ!」


 今はダメだ。まだ母さんには聞きたいことがある。

 俺はまだ話したいんだ!

 ほんの少しで良いから。待ってくれ。頼む。


 ――4、3、2、1


「やめろぉおおおおおお!」


 体が無機質な光の粒子に崩されていく中、俺は絶叫した。

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