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ミッドガーデンの神プレイヤー ― 無課金の俺が伝説の救世主になるまでの軌跡 ―  作者: まさな
第二章 二人の距離

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幕間 運営とイベント

 FUGGソフトウェアの本社ビルの会議室。

 開発部のプログラマーと運営のスタッフが集まり、黒いゴーストの一件について会議をしていた。


「じゃ、つまりこういうわけだな? 高レベルプレイヤーが、低レベルの敵を乱獲しているとボスが出る。ここまでは正常。だが、出てきたボスが異常だったと」


 あごひげの主任が手振りを交えながら状況を要約した。ノーネクタイにブランド物のワイシャツといった格好で洗練された印象を受ける。


「そうだよ」


 チーフプログラマーの寺内がふてくされた顔で言う。こちらはいかにもプログラマーらしい出で立ちで、魔法少女アニメのプリントTシャツだ。残念ながら魔法少女の顔が腹の贅肉でふくれて間延びしてしまっている。


「寺内、お前、あれだけ自信満々に言っておいて、ボスくらいチェック入れておけよな」


 後藤先輩が面白くなさそうに言うが。


「チェックはしてたよ。テストサーバーではブラックゴーストは問題なかった。正直、どこに問題があったか見当も付かない」


「ああ? じゃ、テストサーバーと本サーバーでパラメータが違うんだろ」


「同じだよ。サーバー管理用のID番号が違うけど、問題が発生するような数値はいじってない。ボス自動生成プログラムも今チェックしてるけど、一千億回走らせても異常なボスは出てきてない」


「寺内、その自動生成プログラムについて、少し詳しく説明してくれないか。確か、色違いの敵をランダムで作り出す、だったか?」


 主任が確認する。


「色だけじゃなくて、能力や攻撃パターンも少し変えてる。スキルも変えてね。こいつの凄いところはさ、時にはまったく新しいスキルも自動で作って付け加えるんだ。だから無限にボスを生み出せるってわけ」


 ニヤニヤと笑って言う寺内。


「それでバグのボスを生み出してりゃ、使えねえだろ」


 後藤先輩が指摘するが。


「今までは問題は無かったんだ。コアプログラムに不備も見つからない。正直、お手上げだね」


「じゃ、今後はそのプログラムを使わず、手動でボスを作るようにしろ」


 主任が命じる。


「冗談! そんな事したらアップデートなんて作ってる暇が無くなるよ。フィールドマップの地形変化も全部記憶して落とし穴(・・・・)や城まで作れるこのゲームを、たった8人のプログラマーで回してるんだ。言っておくけど、ボスだけじゃないよ。自動生成のコアを使ってるのは、マップ、NPC、雑魚モンスター、魔法、スキル、アイテム、全部だ!」


 寺内が両手を挙げて興奮しながら言い放った。


「うーん、ま、今回はボスに問題があったわけだ。自動生成は使って良いが、手動でチェックはしておけ。痛覚パラメーターもだ」


 主任があごに手を当てて考えた後で指示した。


「了解。痛覚はたぶんプレイヤーの思い込みもあるけどね」


「だが、安全に関わる問題だぞ?」


「やー、そこはうちでミスってても、どのみちハードウェアの制限(セーフティー)があるんだしさ。ま、変なところにダメージが行っちゃったのは修正だね、ぷふふっ」


「プレイヤーの安全に関わる問題だ。笑い事じゃ無いぞ」


 主任も真顔だ。


「はいはい、分かってるよ。痛覚バグ自動修正プログラムはもう作ったから。それともう一件、あのリュートってプレイヤーに格闘技の経験があるのか、聞いておいてよ」


「んん? どう言うことだ?」


「リュートはボスの攻撃を連続で避けてユニークスキルを取ってるんだけど、人間の視覚反応速度の限界は180ミリ秒なんだ。だけど、彼は平均28ミリ秒で反応してる。しかも何回かはボスの攻撃が(・・・)出る(・・)前から(・・・)動いてた。凄く興味深い」


「待て待て、攻撃が来る前から動くなんて、そんな事は不可能だろう。そう見えただけじゃないのか?」


「そうだよ。勘で動いただけだろ?」


 主任と後藤先輩も疑った。


「違う。これを見て欲しいけど、ボスの攻撃パターンは完全にランダムだった。これを勘で読み切れるわけないよ」


 会議室の中心に映像が現れた。会議室の壁に設置されているサイドコアで脳内を刺激して直接、見せているのだ。

 実際、リュート君の動きは、ボスの攻撃に合わせるかのように綺麗に動いている。


「これよお、なんかボスを操ってたんじゃないのか?」


 後藤先輩が言う。ハッとさせられたが、そう見えなくも無い。


「いや、それも無いね。テイミング以外でボスを操るのは不可能だ。彼は狼をテイミングするスキルは持ってたけど、ブラックゴーストはそのカテゴリじゃないし」


「じゃ、チートか?」


 主任が鋭い目をする。寺内は否定した。


「それも違う。彼のパラメータは『レベル上がりすぎ騒動』で一度リセットしてる。その時に内緒で監視用プログラムも埋め込んで走らせておいたんだ。動画も彼がご丁寧に記録しててくれたから同期させて確認したけど、チートの類いは一切無し。彼が自宅で最新鋭の量子スパコンを使ってプレイしてどうかってところかな」


「アホか。なんでうちのゲームをやるのにわざわざそんなもんを用意するんだよ。たまたまだ、たまたま。まぐれ」


「偶然なんかじゃないよ、これは。ボスの攻撃パターンはタイミングも含めれば7200兆通りだ」


「ああ?」


「分かった。その件については、後藤、当該プレイヤーにそれとなく(・・・・・)警告は入れておけ。向こうも感づかれたと思えば派手な動きはしてこないだろう。チートをやってたとしても、な」


「主任、チートやってるんなら、BANしておかないと他のプレイヤーに示しがつきませんよ?」


「証拠が無い。無い以上はうちは警察でも裁判所でも無いんだ。チートは無いモノとみなす」


「うーん、…了解」


 後藤先輩は顔をしかめて不満そうだったが、指示に従うようだ。


「それで、その彼、リュート君の本名はなんだったかな?」


 主任が気にした。


「えーと? おい、森里」


 後藤先輩がこっちを見る。


「あ、はい、水沢竜人君です。高校生です」


「水沢? 月島博士の関係者かな?」


 主任が言うが僕の知らない名前だ。


「誰です? 月島博士って」


 後藤先輩が聞くが。


「ああ、三鷹工科大の教授で遺伝子工学の専門家だ。私とは学生時代の大学の同期でね。再婚して名前が水沢になったってメールが来てたが」


「はあ、保護者の名前は違ったと思いますが、それ以上は…」


 答えようがない。


「そうか、ならいい、余計な事を言った。忘れてくれ。他に無ければ会議は終了だ」



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 翌日、都内某所――。

 辺りに軽快なミッドガーデンのデモミュージックが流れている。

 野外イベント会場にはゴールデンウィーク突入前にもかかわらず随分と人が集まっていた。 


 もうすぐここでミッドガーデンの映画のプロモーションを兼ねてのイベントが始まる。 

 やばい、緊張してきた。

 もう一回トイレに行ってこよう。


「おい、森里、もう出番だぞ」


 後藤先輩が言うが。


「ええっ? まだ時間は五分あり――」


「いいから行ってこい。聞こえてるだろ、この声」


 バシッと背中を叩かれ、つんのめりそうになりながら、ステージに向かう。


「「「 森里! 森里! 」」」


 なぜか会場の観衆から名前のコールが起きていて、何がどうしてこうなったのか、自分でもよく分からない。

 だいたい、こういう表舞台みたいなものは、そういう専門のスタッフがいるはず。

 例えば声優や広報とか――ああ、僕は広報だったな。


「森里さん、マイク付けさせて下さい」


 裏方を示す黒色のブルゾンの人が近づいてきた。ハンズフリーマイクを頭にかぶっていて、たぶんタイムキーパーみたいなことをしてるのだろう。

 僕のスーツに銀色のバッジみたいなのを挟んだ。それを触ろうとするとその人が怖い顔をして僕の手を止めた。


「ダメダメ、マイクは触らないで。じゃ、右手からインお願いします」


 言われるままに階段を上がると、まぶしいライトがこちらを照らしてきた。今は昼間なんだが、ライティングもやるようだ。こんなことなら詳しくステージの事を聞いておけば良かった。


「皆さん、おなじみの! 広報の森里君の登場です! はい、拍手~」


 マイクを持った司会の人が言う。


「バカヤロー、森里、帰れ~」

「もう帰っていいよー」


 会場から野次が飛び、笑いが起きる。


「酷いな、まだ帰っちゃダメだよ。何のために呼んだか、分かんないじゃない。さて、森里君、まずはミッドガーデンの魅力を一言で」


 司会からマイクを突きつけられた。


「え?」


 いや、急にそんな事を言われても。PRコメントを考えておけとは言われたけど、一言では無理だから。


「ほら、なんかあるでしょ」


 司会が小声で言う。


「え、えーと」


「おい! 森里! ぐちゃぐちゃじゃねーか」

「仕事しろー」

「森里、頑張れよー」


 また野次が飛んできた。注目を浴び、変な汗が出てくる。


「森里さん、何でも良いですよ、無理に一言でなくても」


 上月が小声でアドバイスしてくれた。そうだな、一言じゃ言えないよ、これ。


「あ、はい、一言では語り尽くせない奥深いゲーム、ってことで…」


「はい、ありがとう! いや、その通りなんだから、もっと自信持って言ってよ。さあ、ガチガチにテンパってる運営スタッフ、森里君を交えて! 豪華メンバーでお届けするミッドガーデン・ラジオ公開収録、映画化決定記念スペシャル! これから一時間、どうぞ、お付き合い下さい~」


 会場から拍手が起きた。


「この番組は『夢とつながる未来をフィーチャリング、FUGG(エフユージージー)ソフトウェア』と『安心のひとときをクリエイトする、秋津島電気』の提供でお送りします」


 和風のBGMと共に録音された女性のアナウンスが会場に流れた。FUGGはもちろんうちの会社、そして秋津島電気はサイドコアの販売元だ。


「じゃ、まずはですね、キャストのみなさんに、それぞれのお名前と役の紹介をしてもらいましょう。一番手は真衣ちゃん!」


「はい! 聖騎士ミルフィーユ役の声を担当させて頂いた上月真衣です。よろしくお願いしまーす」


「マイマイ~!」 

「真衣ちゃーん!」


 会場から一際大きな拍手と声援が飛ぶ。人気あるなあ。


「ありがとうございます。ミルフィーユは神聖フェルディア王国の騎士団長で、私と歳は近いんですけど、責任感がとても強い子だと思います。真面目なんですよね。何に対しても。今回の映画でも彼女の背負ってるものを意識して演じてみました」


 こうして喋っていると上月もしっかりした印象を受ける。


「なるほど、責任感のある騎士団長と。格好良いですね。では、続いて(ゆい)ちゃん」


「唯様~!」

「うさ姫~」

「ゆっ、ゆっ、ゆーっ! ゆーっ!」


 最前列でスタッフに掴みかかってる熱狂的なファンがいるが、大丈夫か?


「どーもー、パトリシア役の宇佐見唯ですっ! えっとぉ、パトリシアちゃんはですねぇ、神聖フェルディア王国の第二王女で見た目は可愛らしいんですけどぉ、割と裏で色々考えてたりと、大人びたところもあるので、フフ、ただ守られてるだけのお姫様じゃないですねー。シリアスになると難しい言葉をもーぽんぽん喋ってくれちゃうので、そこに苦労させられましたっ!」


「うんうん、唯ちゃんと同じで腹黒い性格と」


「えー、あたしはそんな腹黒くないですよぉー」


 司会の冗談に会場の観客も笑う。和やかな雰囲気だ。一時はどうなるかと焦ったが、さすがプロの人達、僕は何もしなくても大丈夫そうだな。


「そこんところ、香澄(かすみ)ちゃんはどう思いますか?」


「えっ、あたし!? いやー、どうなんでしょう、あははー…じゃっ、私、皆瀬香澄の役ですけど、エクレアは神聖フェルディア王国の第一王女――」


 エクレア役の人がそこまで言ったとき、会場が急にざわついた。


「なんだあれ?」

「どうした?」

「上、上見ろよ!」


 振り向くと大型液晶プロジェクターにシルクハットの男が映し出されていた。そのCGの男は、羊のツノのような大きな笛を取り出すと、力一杯吹いた。

 ブオーと大音量で流れてくる。

 なんだ?


「えっと? 森里さん、これ、そちらの演出ですか?」


 司会が困惑した様子で台本を見ながら聞いてくる。


「いえ、違いますよ?」


 予定にはこんなものは入っていなかった。後藤先輩を見たが「映像を止めろ!」と向こうで怒鳴っているので、うちじゃない。


「ギャラルホルンだ…」


 誰かが言う。


「おお、ギャラルホルンが鳴ったぞ!」


 その声に、僕はぎくりとした。

 違う――。

 ギャラルホルンはまだ(・・)鳴ってはいけない(・・・・)のだ。

 『首飾りの奪還』という大規模アップデートは準備中だが、『ロキの陰謀』や『暗黒のスルト』編はまだずっと先の予定なのだ。

 オンラインゲームというものに大人の事情による打ち切りはあっても、予定されている終末(エンディング)イベントなど無い。


 これは外部の妨害――

 それもかなり大がかりな組織の仕業ではないのか。


 いったい、誰が何のために?

 僕は、ただ、後ろの映像を見上げることしかできなかった。

 それは招かれざる悪魔の雄叫びのように、けたたましく鳴り響いていた――。

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