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ミッドガーデンの神プレイヤー ― 無課金の俺が伝説の救世主になるまでの軌跡 ―  作者: まさな
第二章 二人の距離

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第十三話 果たし合い

 風呂に入って宿題をやった後、サイドコアを起動する。

 時間はちょうど約束の時間だ。

 久遠との果たし合い。

 

 ゲーム内の時間ではそろそろ日が暮れようとしていた。


 小雪はログインはするものの、ミホちゃん達と旅行の話し合いをするそうで、予定が決まったら俺にも教えてもらう事にした。


 一人で街の北の噴水を目指す。


 大通りの中心にあったので迷うことは無かった。

 その噴水は、水盤の上で踊る天使達の彫刻に囲まれ、さらさらと白銀の羽根飾りのような水しぶきを形作っていた。


「来たわね」


 〈氷花〉が腕組みして待っていた。

 デュエルを想定してか、赤いラインの入った露出度の高い忍装束に着替えている。顔は丸出しだ。髪の毛の色は白、瞳は紅。


「ああ。ここでやるのか?」


「まさか。目立ちすぎるわ。それに一次職の低レベルに二次職がデュエルを申し込んだなんて、ちょっと見栄が悪いし」


「アルデバランはそんな事、気にしなかったようだがな。あと、俺はもう二次職だ」


「えっ? そんなはずは」


「なんならステータス、見せてやろうか?」


「いい。なりたてだろうと関係ない。私の方がずっと強いんだから」


「かもな」


「ふん。〈始まりの平野〉でやるわよ」


「ああ、それで、いつもの喋りじゃないんだな?」


「くっ、あ、あれは気分よ。クラスメイトにあんな話し方できるかっ!」


 ま、それもそうだ。


「お前、このゲーム、長いのか?」


「……」


「クランは入ってないのか?」


「……」


「ボスはどこまで倒してるんだ?」


「……」


 黙りか。まあいい。久遠が内心、どう思ってるか知らないが、ゲーム内でのデュエル程度ならいくらでも付き合ってやる。

 リアルの方で嫌がらせされるよりはよっぽどマシだ。

 久遠もさすがに犯罪は考えてないだろうからこういう手段を執ってるんだろうし。

 割と小心者の奴。


 街の東の門を抜け、俺がPKされた場所に出た。


「覚えてるでしょ? ここでアンタが無様に這いつくばったこと」


 言われるまでもない。〈始まりの平野〉だ。


「ああ。お前も白桜騎士団にこってり絞られたんじゃないのか?」


「ぐっ……ええ。一時間くらい説教を食らった。これが課金ゲーだったら、訴えてるところよ」


「PKなんてやってるからだ」


「PK有りのゲームでそんなこと言われても。私は運営のルールには従ってる」


「そうかもしれないが、微妙に下手をやってると思うぞ」


「うるさい、お前みたいな初心者に!」


 怒らせるつもりは無かったのだが、どうも上手く行かないな。


「ごたくはもういい。さっさとやるわよ」


「ああ」


『〈氷花〉さんからデュエルを申し込まれました。条件:無制限デスマッチ。承諾しますか?』


 承諾。


 相手は五十センチほどの忍刀を二本、左手には逆手に構えている。


 一方の俺は鉄のショートソード。長さは六十センチほどで間合いはそれほど変わらない。

 小さい盾を腕に装着しているが、果たしてどちらが有利か。


 空中に大きな数字が出て、カウントダウンが始まった。

 3、2、1、スタート!


「シッ!」


 氷花が即座に斬りかかってきた。

 俺は最初から後方に下がりながら忍刀を(かわ)す。氷花の逆手の忍刀も続けて来たが、これも下がって躱す。

 これで氷花の攻撃にはクールタイムが生じて次の攻撃までは時間がかかるはずだ。

 俺はスキル【呪文短縮】の併用で【バリア】を使った。短縮でMP消費が激しくなるが、呪文の長期戦は考えていない。相手の方がレベルは上だから、出し惜しみできるはずも無いからな。


「バリア! うおっ!?」

 

 思った以上に早く襲いかかってきた氷花の攻撃に俺は焦った。

 何とか盾で防げたが、今のは危なかった。


「ふっ、忍者のクールタイムは三回目の攻撃の後だっ! つまり二刀流なら六連!」


 くそっ、そうだったのか。続けてくる氷花の左の刀を下がって躱す。


 さらに三回目の左右の攻撃をどちらも後ろに下がって躱す。

 氷花の方がスピードが速いので避けるので精一杯だ。


 だが、六連攻撃をすべて躱せた。

 これなら戦える。


「ちっ。思ったより速い。レベルをいくつまで上げたの?」


 氷花が聞いてくる。


「当ててみろ」


「くっ、馬鹿にして!」


 別に馬鹿にしたわけじゃないんだが。

 畳みかけられて何かスキルを使われてもまずいので、的を絞らせないよう、左右に蛇行して後退する。

 とにかく今は後退。

 相手の攻撃パターンを掴まないと。


「ふっ、バカね。忍者相手に逃げてばかりだと…こうだ!」


 急に距離を取った氷花が手裏剣を飛ばしてきた。


「うおっ、いてっ!」


 剣で叩き落とそうとしたが失敗し、手裏剣が腕に刺さった。

 物理バリアの魔法を掛けていたので、もう一つは弾いて事なきを得たが、これでも地味にHPが削られてしまう。


 だが、こっちだって呪文がある。


「四大精霊がサラマンダーの御名の下に、我がマナの供物をもってその爪を借りん! ファイアボール!」


 拳大の火の玉が剣の先から飛んで氷花を襲う。


「ちっ! お返しだ! 忍法、【火遁】の術!」


「そう来ると思ったぜ」


 俺は回転しながら横に避けた。範囲が結構広いのでダメージは食らったが、直撃は回避した。

 そして。


「ガウッ!」


 俺の相棒が動きを止めていた氷花の足に食らいついた。


「いった! この犬!」


「逃げろ、シロ!」


 シロには牽制だけしてもらえばいい。

 俺の言うことをよく聞く子狼はさっと忍刀を躱して氷花から離れた。


「ビーストテイマーのジョブも育ててるの?」


「そういうわけじゃ無いが」


「アレもコレも取ってると逆にバランスが悪くなって苦労するわよ。このゲーム、ボスの強さはプレイヤーの総合レベルに合わせてくるんだから」


「へえ、そうか。教えてくれてありがとな」


「別に…くっ、なんで楽しそうなのよ!」


「そりゃ、ゲームで遊んでるからだろ」


「私は遊びじゃない! 殺す!」


 氷花は一気に距離を詰めて何かスキルを使ってきた。

 ビデオの早送りのような連続斬り。


 黒いゴーストの連続攻撃より速かった。

 俺はレアな回避スキルを持っているので避けられるかもしれない、なんて思っていたけれど、やはりダメだ。


「ぐあっ!」


 耐えきれずに俺の体が吹っ飛ばされる。


「もしかして素早さ極振りの忍者に回避で勝てるとでも思った?」


「くっ」


 HPバーが一気に削られ、『YOU LOSE…』の文字が浮かぶ。



「さ、まだ終わってないわよ。早く死に戻って来なさいよ。アンタ暇なんでしょ?」


 仰向けに倒れた俺を無表情で見下ろす氷花。


「マジか…」


 連続でデスペナルティーを食らえば、せっかく手に入れたアイテムもロストしてスッカラカンになりそうだ。

 どうする?




「その必要は無いわ」


 気付くと群青の長髪の女が氷花に対して剣を向けていた。青カーソル、プレイヤーだ。

 ビキニアーマーで露出度は高め。腰は細いが胸はかなりデカいな。布の腰巻きは踊り子を思わせる。


「誰よ?」


「私が誰かなんてどうでもいいでしょう。デュエルの相手が欲しいなら、相手をしてあげる。それとも低レベルの格下しか相手にできない臆病者かしら?」


「ちっ、やってやる!」


「賭けをしましょう。もし、私が勝ったら彼にはもうデュエルを挑まないで」


「こっちが勝ったら?」


「この剣をあなたにあげるわ。蒼星騎士団の〈沙耶〉の傑作だから、装備できなくとも売れば良い金になるけど」


「ちっ、いらない。そんなのより…そうだ! 私の言うことをなんでも聞いて、アンタの実名を晒すってことでどう? くくっ」


「そんなのは規約違反だし、受けられないわ」


「じゃ、こっちも受けないけど?」


「ふう、分かったわ。じゃ、その約束で」


「おい…」


 俺はその子が心配になった。


「大丈夫よ。ソードダンサーの私が忍者相手に負けるはず無いもの」


 その自信が逆に不安だが…。ソードダンサーというクラスがどの辺りの位置づけなのかも俺には分からない。


「いいえ、そうじゃないわね。そう、矜恃を持つ人間の差ってものを教えてあげるわ。すぐに終わらせるから、あなたもそこで見物してなさい」


「ハァ? 舐めてんじゃ無いわよ! ムカつく! ムカつく! ムカつくぅ!」


 激昂した氷花が忍刀を構えて突進する。これは最初から必殺技のスキルを使ってくるな。

 案の定、人間の速度とは思えぬ速さで刀が振るわれる。

 素早さ極振りの忍者が繰り出す圧倒的な速さ。

 が、ソードダンサーの子も助太刀に入るだけあってその刀をすべて弾き返した。こちらも二刀流。


「くっ! 一撃も当たらない!?」


 氷花が相手の強さに気付いて距離を一度取ろうとしたが。


「甘い! 【氷絶死獄乱舞(コキュートス)!】」


 キラキラと光る輝きが氷花の周りを包む。

 何だ?


「うあああっ!」


 それだけで氷花の体が仰向けに浮いた。

 まさかこれが剣筋? あまりの速さに(きら)めきしか見えない。しかも多数の広範囲。


「くそぉおお!」


 地面に跳ね飛ばされた氷花が光の粒子となって消える。死に戻ったようだ。


「ね、言ったでしょう?」


 澄まし顔で剣を収め、群青の髪の毛を自慢げに払って言う彼女。

 背後の黄金色に輝く夕暮れの太陽と相まって、俺には彼女がとてもまぶしく見えていた。

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