第十話 深雪と買い物
予約投稿したつもりになってました…毎日19時ジャスト投稿予定です(;´Д`)
「ただいま」
家に帰宅した。今日は学校で色々あったので、玄関のドアを閉めたところで、少しほっとする。
俺は部屋で私服に着替えた後、廊下の掃除をやることにした。簡単なモップ掛けだ。
料理は雪代さんがやってくれるし、洗濯は深雪の役割。風呂掃除は深雪と小雪。
そうすると俺は極端に受け持つ家事が減ってしまう。
買い出しは料理のメニューの兼ね合いもあるので、切らしている日用品に限られるからな。
草むしりは今はいいけど、夏はちょっとなぁ。
「ういーん、ういーん、ピピ、バックします」
円盤形のAIロボット掃除機になりきってモップ掛けをしていると、ダダダダッと音がして駆け足で深雪が階段を降りてきた。
「お、おう、どうした?」
「ああ……。あなたが洗濯物でもいじり回してハイになってるのかと思って…」
「あのな、疑う気持ちも分からんでも無いが、いきなり人を犯罪者扱いの目で見るのはやめてくれ」
「ええ。じゃ、お互いのためにも、ウェブカメラ、今から買いに行きましょう」
俺専用の監視カメラと分かっていると、それって犯罪者予備軍の扱いでしか無いよな?
へこみそうだ。
「うーん、まあ、納得行かないが、それが信頼の近道かな。急がば回れ的な」
「ええ。じゃ、ちょっと待って。支度してくる。あ、着替え中に部屋に入ってきたら殺すから」
「しないっての。何なら鍵も付けてもらうか?」
「それがいいわね」
「ううむ」
そのガードの堅さは、まあ、しっかり者という事なんだろう。あまり詮索はすまい。
時間と共に信頼は生まれるはず。耐えろ、俺。
「待たせてごめんなさい、行きましょう」
「ああ」
別に一緒に行かなくても、と思ったが、深雪はあまりウェブカメラに詳しくないのだろう。俺も詳しいわけじゃ無いけど。
深雪はデニム地のスカートとGジャン。俺対策なのかボーイッシュに決めてきている。腰まである長い髪のせいで、女の子っぽさが消えるわけではないのだけれど。
一方の俺はホモ疑惑に対抗するため、あえてブラックジーンズにパーカー。ワイルドな雰囲気を醸し出そうと頑張ってみた。うん、革ジャンでもない限りイメチェンはダメそうだ。
「駅前の量販店でいいよな?」
家を出てから俺は聞く。
「ええ」
近くの商店街だと置いてなさそうな感じだからな。
住宅街を抜け、商店街とは別の方向へ向かって歩く。
バスや自転車でも良かったが、徒歩でもそれほど時間がかかる距離でもない。
会話が無いのは精神的にキツイので、俺は何か深雪に話しかけることにした。
「学校は、どう? 馴れた?」
「全然。だけどお昼を一緒に食べてくれるグループに入れてもらえたし、今のところは問題ないわ」
なんだか実に事務的だ。かと言って、俺がどうにかできる話でもないか。
「そう。早く馴れると良いね」
「ええ。それより、ラブレターは読んだの? まだなら早く読みなさいよ」
「ああ、それな。久遠の悪戯、果たし状だった」
「は? 何よそれ…」
深雪に事の顛末を聞かせてやった。
「最悪の子ね」
笑い飛ばすかと思ったら、面白く無さそうに言う深雪。
「でもまあ、やり返したからな。今頃、カップル誕生の噂で持ちきりのはずだ。嵌め返してやったぜ」
「それ、あなたの方がダメージの気がするけど…」
「え? なんで?」
「なんでって、付き合ってもいない子と付き合ってることにしたら、あなたを好きな女子は諦めるしかないじゃない」
「むっ……いや、でもそんな子、いないし」
「本当にいないの?」
「いないよ。いたら一人寂しく下校なんてしてないぞ」
「そう。久遠さんも、そこまで手の込んだ事をするなんて、本当はあなたのこと、好きなんじゃないかしら」
「ええ? 無いって。アイツとは今まで話したことも無いし、本気で俺のことを怒ってたからな」
「好きな子にちょっかいを出すってあるけど」
「それは小学生男子のレベルだろ」
「じゃ、ツンデレ」
「いやいや、お前はツンデレというものが分かってない」
「そう」
また会話が途切れたが、今度はいくらか空気が和らいでいて、そのままでも平気だった。
「ここだ。入ろう」
「ええ」
家電量販店に到着し、カメラが置いてあるフロアにエスカレーターで向かう。
「あれだな」
様々なタイプのカメラが陳列されている。
「うちの居間に置くなら、白か黒の目立たないのがいいわ」
深雪が商品を一つ手に取って言う。
「ああ。庭はどうするんだ?」
「ええ、この防水がいいんじゃないかしら」
「じゃ、俺の部屋のは黒のこれにしておくぞ」
「ええ。でも、違う種類ので大丈夫かしら?」
「ん?」
どうなんだろう?
「違う種類のカメラでも問題なく接続できますよ」
近くにいた客の男が親切に教えてくれた。
白のスリムなチノパンに、胸元を開けたカッターシャツ、その上にクリーム色のベスト、トドメに鍔の長い帽子と、俺には不可能なハイレベルファッションだ。年齢は俺達より年上のはずだが、若くも見える白皙の男。イタリア製っぽい革靴とゴールドに光り輝く高級腕時計なんて、高校生や大学生が軽く着こなせるはずが無いもんな。
「そうですか、どうも」
俺は礼を言っておく。
「いいえ。それと、パスワードはしっかり設定しておかないと、ネットに映像が流出して自宅の住所が特定されたりしますから、注意された方が良いですね。画像データ、拡張子がJPEGだけでも目に見えないExifフォーマットというのがあるんですよ。それにはGPSの経度と緯度の数字が画像自体に暗号化されて入ってるんです」
「あー、Exifってちらっと聞いたことはあったんですが」
「私も…」
しかし、画像だけで自宅が特定されるって怖いな。
「一番安全なのはネットに繋がないことなんですが、今の世の中、そうも行きませんからね。色々便利なんですから」
男が柔和に笑う。
「では、また」
帽子の鍔を持ち上げて男がきびすを返す。
「あ、はい」
ポケットに手を入れたまま颯爽と立ち去る男を俺は何気なく見送った。
ああいう何かに成功していそうな人って、世の中がいつも楽しいんだろうなあ。美人の彼女もいるだろうし。
「じゃ、これとこれ、買ってくるわね」
「ああ。じゃ、俺はこれな」
それぞれ分けて分担して買う。
「じゃ、帰るか」
「その前に、喫茶店に寄っていかない?」
「いいけど」
近くの喫茶店に入った。
俺はココア・ラテ、深雪はブラックのコーヒーを注文。
運ばれてきたコーヒーを深雪は本当に砂糖もミルクも入れずに口に含んだので、俺は驚愕して言う。
「よくそんなもの、飲めるな…」
「あなたもね」
ココアは誰でも飲めると思うが…。特にこのホイップが甘くていいね!
「さっきの白い服着た男の人だけど」
少し黙って味わった後、深雪が話を切り出した。
「うん?」
「何も買わずに帰っていったけど、あなたに気があったんじゃないかしら」
「ええ? なんだよそれ。勘弁してくれよ。ただでさえ、今日は大滝と俺のホモカップル疑惑が出てるって言うのに」
さっきの男がその手の雰囲気のある美形だっただけに、うんざりする。俺はホモ違うし。
「そうじゃなくて。知り合いじゃないのね?」
「初めて会った人だけど?」
「そう。ならいいわ」
なぜ深雪がそんな事を気にしたのか俺にはよく分からなかった。
だが、一緒に買い物に出かけて喫茶店で話ができたのは、家族として信頼醸成につながる良いことだと思う。
……ま、普通に美少女とお茶できて嬉しかったというのもある。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
買って帰ったカメラは俺が接続をして深雪のデスクトップパソコンに映るようにした。携帯でも確認できるようにしたので、深雪は満足げだった。
俺の部屋のプライバシーが気になったが、まあ、彼女も保険の意味合いで、四六時中俺を監視するつもりでもあるまい。
いざとなれば俺の部屋のカメラはタオルでもかぶせておけば良いし。
さて、ゲームの時間だ。
運営からの重要なお知らせがあったのでメッセージを読んでみたが、やはり昨日のバグのボスの件だった。
黒いゴースト。
だが、対応についてはまだ調査中とのことだった。
「うーん、まあ、リセットされるってことは無さそうだな」
今回はレベルダウン等はありませんと明記されている。
いつもの広場に出る。
少しその場で待ったが、ミルフィは来ない。
あれから彼女は復活できたのかどうか…。
システムの掲示板を呼び出してみたが、彼女の動向の最新情報は上がっていなかった。
上がっているのは俺がアップロードしたバグボスとの対決シーンまでだ。
仕方ないので騎士団の詰め所を訪ねてみることにする。




