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ミッドガーデンの神プレイヤー ― 無課金の俺が伝説の救世主になるまでの軌跡 ―  作者: まさな
第一章 広がる世界

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幕間 運営の中の人達

2017/3/18 少し修正。

(視点が別人に変わります)



 高層ビルの上層階。

 グレーのカーペットで統一されたフロアには、観葉植物も置かれており、見栄えだけではなくここで働く従業員の快適さも考えた設計になっている。

 パーティションで仕切られたデスクの一角で、森里(もりさと)宏隆(ひろたか)は大きくため息をついた。


「またやっちゃった…」


 モニタには先ほどの掲示板が表示されている。


「どうだ、森里、ユーザーの方は」


 後ろから後藤先輩が声を掛けてきたので姿勢を正す。


「それが、炎上させてしまって」


「はは、それ元からだろ。どれどれ…プッ、お前、なんだよこれ」


 マウスを動かして先輩が掲示板を読む。


「すみません…」


「別にこいつらの相手、真面目にやる必要なんてないんだぞ?」


「はあ」


「ま、ここは修正だな。今後ともFUGGソフトウェア株式会社をよろしくお願いします、と」


 先輩がキーボードを打ってレスを一部書き換えたが、それで収まるとはとても思えない。

 次に先輩は画面を切り替えてスレの数やPVを確認した。グラフが表示されているが、エクスカリバーの入手祭り以来の集中だ。


「しかし、一日で★200か。称号なんて大してステータスには影響しないのに、みんな必死だなぁ」


「ライバルプレイヤーと競ったり、顕示欲をかき立てられる。それだけみんなMGにハマってるってことだと思います」


 自分なりに分析して言う。

 ユーザーの熱意はこの担当をやり始めてからよく分かっている。それに自分もこのゲームに魅せられてこの会社を選んだのだ。


「たかがゲームにねえ。金が手に入るわけでもないってのにな」


 即物的な先輩は、むしろこの会社のマネージャーには向いているのかもしれない。



「後藤、クレームはどうなってる?」


 主任がやってきた。あごひげにポニーテールが似合うダンディーな人だ。


「良い感じに盛り上がってますよ」


 さらりと答える先輩。


「クレームが盛り上がってちゃダメだろう。よし、修正を入れよう。ただし、ロールバックはするな。するにしても影響範囲は最小限にして、お詫びアイテムを適当に配って沈静化させろ」


「お詫びはいいですけど、こいつら味を占めてわざと煽ってますよ?」


「ま、それも織り込み済みだ。今のところ、お詫びも配布ペースは予定を下回ってるからな」


「じゃ、豪華に配りますか?」


「いや、妥当な範囲にしろ。インフレは極力抑えていかないとすぐ開発に追いついちまう。開発はいつだって予定(・・)通りの(・・・)遅れが出るんだ。寺内と話し合って内容を決めて、今日中に片を付けとけ」


 そう言って主任がオフィスを出て行く。


「了解! じゃ、森里も考えろよ」


「ええ? 僕もですか? 先輩」


「当然だ。お前だってこのゲーム、詳しいだろ」


「まあ、それなりにですけど。あ、プレイヤーとしてですよ?」


「それでいいんだ。じゃ、寺内を呼び出してと」


 別のモニタに寺内の顔が映った。ピザを食ってた。

 着ているのもプリントモノのTシャツという何ともだらしない格好だが、プログラマーという人種はこれで通るらしい。

 しかも彼はとりまとめ役のチーフプログラマーときた。


「お前、またピザ食ってるのか? メタボで引っかかるぞ」


 先輩が見るのも嫌そうに、眉をひそめて忠告する。


「もう引っかかってるからどうでもいい。それで、用は何?」


「主任から修正の指示が出た。お詫びアイテムも配布だ」


「じゃ、マジックポーションあたりでいいんじゃないの? 範囲は全員」


 寺内がモグモグしながら言う。


「微妙にしょぼくねえか?」


「じゃ、エクスカリバーでも配る?」


「バカ言え。ランダムスクロール辺りでどうだ?」


「ダメですよ、先輩。それだと戦士系が絶対、文句を言ってきます」


「じゃ、戦士には秘伝書、魔術士系はスクロールで。これなら平等だろ?」


「勘弁してよ、熟練度ジョブシステムで戦士系と魔法使い系を分けるなんて土台無理なんだから。スキルエッグでいいでしょ」


「おお、それがいいな」


 決まったようだ。これならユーザーも文句は言わないし、低レベルプレイヤーも高レベルプレイヤーも平等だ。

 だが、寺内が頷かない。


「あんまり良くないんだよねぇ」


「何がだよ」


「それが、経験値ボーナス一千万って、あり得ないんだよね。レベルキャップはもう実装したけど、プレイ開始三日でレベル30なんかになったら、あっと言う間にカンストだよ?」


「でも、あのイベント自体、ランダム定期だから、毎日レベルアップできるわけじゃないだろ?」


「そうだけど……とにかく気に入らない。レベル5で《裏切りの魔導書》が倒せるわけが無いんだ」


「いや、実際、倒されてるだろ。お前がチートじゃないって自分で言ったんだぞ」


「チートじゃ無いけど、こちらの意図しないプレイをやってる。新規応援キャンペーンの経験値UPのドリンクを使わずに後生大事に取っておいて、ボスの時まで残しておいたりさぁ。このプレイヤーは危険だ」


 寺内が言う。


「はあ? それはお前らプログラマーの設定が甘いだけだろが。経験値UPなんて、ドリンク使用にせずにプレイ開始72時間までに限定でいいだろ」


「それさ、元々はその仕様で50%増量だったんだ。それじゃショボすぎるって言うんで、持続時間と倍率を増やしたけど、効果が切れる時間が分からないから残り時間表示を付けてくれってプレイヤーが言い出して、付けたら付けたで今度はカウントダウン表示があると急かされてるようでプレイが面白くないとか文句言うし、上にも自由度の高さを要求されたから、どうしようも無いの。だいたいさ、なんで剣を持ってる剣士がボスを手掴みすんの?」


「ううん…」


「寺内さん、プレイヤーからボスのVIT補正を上げたらどうかって提案がありました」


 掲示板で上がっていたので言ってみる。


「ええ? それだと倒しにくくなるじゃん。レベル30のボスにならなくなるよ、そんなことしたら」


「いえ、弱点のところだけです。すぐ破れるページだと、みんなページを手掴みで破りに来ると思うので」


「ああ、なるほどね。修正はしておく。でも、ボスは1923回のチャンスのうち、たった2回しか奴を攻撃しなかった。あれだけのレベル差なのにクリティカルポイントも全部外してる。接近してターゲットを狙う確率は五分五分、混乱の成功率は99.99%と99.999%、クリティカルを外す方は億単位でだよ? こっちがきちんとスパコンで計算したシミュレーションの平均値や中央値からパラメータを設定したのに、偶然の中の偶然を引き当ててくるし。7200兆分の1を2回も引くのは人間じゃ無いよ」


 寺内が断言したが、僕は何か空恐ろしいものを感じてしまった。ただ、プログラマーの計算ミスだってあるだろう。計算式に穴があるかもしれない。

 ただ、7200兆分の1なんて絶対に当たりを引けない気がする。


「いいじゃねえか、三回引き当てたって。それを引いても大丈夫なようにするのがお前らの仕事だぞ」


 後藤先輩がニヤリとして言った。


「それだと、他のプレイヤーにも制限を加えるか、自由度を下げるしか無い」


「それでいいだろ」


「分かってないね。他のプレイヤーのゲームバランスが崩れるんだよ。最大多数の最大幸福のシステムを完璧に作ったのに、それをたった一人のプレイヤーのために仕様変更なんて冗談じゃ無い」


「うーん、でも穴があるんじゃ……面倒だな、そいつ、BANするか」


「ちょっと、先輩、それはダメですよ」


 何の落ち度も無いプレイヤーを犠牲にするなんて。


「あ、いいかもね、ただし、BANじゃなくてさ、レベル下げてもらおうよ。そうすれば修正は五分で済む。システム全体をつつくと一ヶ月はかかるよ?」


「決まりだな。森里、お前、そのプレイヤーと交渉して同意を取り付けとけ」


「ええ? 僕がやるんですか?」


「お前はプレイヤーに割と知られてる立場だろ。それに炎上を沈静化させるのに腕の見せ所だ。お前、ユーザーに舐められたままで良いのかよ?」


「別にそれは……まあ、分かりました。レベルを下げてもらえるなら、他のプレイヤーも納得しやすい話だと思います。ただ、リュート君に渡すお詫びアイテムですが…」


「んなもん、魔剣グラムでも聖剣エクスカリバーでもやっとけ」


 後藤先輩が軽く最高ランクのレアアイテムを言うがそれも掲示板が揉めそうだ。


「武器ねえ? 消費アイテムにしとけば? エリクサーなら高レベルプレイヤーは持ってるし、低レベルにはありがたみがあるからさ。売ればそれなりの金になる」


 寺内が言うが、そんなところか。


「よし! じゃ、寺内はそいつのレベル下げとお詫びアイテムの準備、森里はコンタクトだ、オレは報告書担当な」


 割と面倒なところを先輩が引き受けてくれた。

 自分のデスクに戻り、対象プレイヤーの登録個人情報を見る。高校生か。なら、今は学校だろうな。うえ、残業決定の予感…。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 残業していると、ブレザー姿の女子高生がオフィスにやってきた。


「どうも、後藤さん、お久しぶりです」


「やー、ごめんねえ、真衣ちゃん、PVはともかく、インタビューは本人でないとさあ」


 後藤先輩が親しげに下の名前でその子を呼ぶが……誰だろう?


「ええ、気にしないで下さい。これ、アンケート、書いてきました」


「ありがと。おい、森里、真衣ちゃんのインタビュー、後で公式に入れといてくれ」


 先輩から手渡されたアンケート用紙には『ミルフィーユ役、上月(こうづき)真衣(まい)様』と印刷してあった。


「ああ、はい」


 どこかで聞いた声だと思ったら、ミルフィーユの基本音声を担当した声優だった。他のモブは全部コンピューターで創り出しているが、主要キャラの何人かは実在の声優が音声を提供してくれている。それをAIが一度あいうえおのデータに分解して再構成し、台詞はAIが自動で担当しているから、普段は声優がいなくても全く問題が無い。

 そう言えば真衣ちゃんは現役高校生だったな。


「あっ、これ〈リュート〉さんですね」


 モニタに映っていたプレイヤーキャラを見て真衣が言う。


「なんだ、知ってるのか」


「はい、だって私もプレイヤーですよ?」


「へえ、そうだったか。おっ、そうだ! 森里、そのプレイヤーの交渉、真衣ちゃんに手伝ってもらえよ」


「ええっ?」


「何を驚いてるんだ。ミルフィーユの声の人なんだから、簡単だろ」


「はあ」


 どうせ先輩の思いつきだろうが、それだとミルフィーユにも移動してもらわないといけない。まあ、AIはこちらの指示も聞いてくれるので簡単か。


「ふふっ、なんだか面白そうですね、それ。――お願いします、リュートさん。こんな感じでどうですか?」


「いいねえ! じゃ、それでよろしく」


「あ、ちょっと先輩。もう……相手のプレイヤーがログインしてこないと何にもできないのに」


「PVの作成が終わるまで、いえ、九時くらいまでなら私、大丈夫ですよ」


「いやいや、そんなに待たせるわけには」


「それで、何の交渉なんですか?」


「ああ、実は――」


 先輩が戻ってくるまでは暇だろうし、僕は事情を詳しく真衣に説明した。

 改めて説明しているとなんだかリュート君がごねそうな予感がしてきた。胃が痛い……。

問題のボスのVIT補正を上げたらどうかと読者の方からアイディアを頂きました。この時点で調整ということで。やっぱりリュート君はレベル上がりまくりです。シナリオのロールバックはしません(;´Д`)

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