第十四話 最弱にして最高
2017/3/15 小雪の雷撃呪文のルーンを変更しています。
王立図書館の一室で俺達は戦っている。
ボス戦だ。
相手は魔導書。
氷の呪文を使ってくる上に、空中に浮いてこちらの剣を躱してくる。
だが、こちらは神聖フェルディア王国が誇る精鋭〈白桜騎士団〉と兵士が十人以上。
上位職の聖騎士ミルフィーユと、マジカルウイッチの小雪もいる。
戦力としては良い感じだ。
向こうはたった一冊だけだからな。
このまま俺は部屋の外で待機して、必要があれば薬草を誰かに使ってやり、それで経験値のおこぼれをゲット!
ナイスな展開だ。
そう思っていたのだが――。
「来るぞ、アイスニードルだ! 警戒!」
騎士の一人が叫ぶ。
「違う! これは!」
ミルフィの声に俺は部屋の中を覗き込んだが。
床が暗紫色に怪しく光る。
浮かび上がったのは魔法陣だ。
何の攻撃かと身構えていたら、床の魔法陣からスケルトンが、ぬーっと現れた。
召喚だと!?
数は三体。
三体とも錆びた剣を持っている。
「あやー、取り巻きを呼んじゃったかぁ。こいつ、早く倒さないとヤバいよ!」
小雪が言うが、確かに延々と呼ばれまくると増殖してキツイだろう。
「助けを呼んでくる!」
俺はそう言って、廊下を戻るが。
「いえ、他の者に行かせます!」
ミルフィが言い、兵士が一人出てきた。
「ええ? 俺の方がレベルが低いんじゃ……」
「いえ、リュートさん、それでも、ここをお願いします! あなた方冒険者は復活できます」
ミルフィ真剣な顔で言うが、なるほどな。
「分かった」
とはいえ、すぐには中に飛び込まない。
ボスの手の内を見極めてからだ。
「くそっ、また召喚してきたぞ! まずい!」
兵士の一人が叫ぶ。
「落ち着いて、スケルトンは強くありません。数を増やさないよう、優先して倒して下さい」
「「「 了解! 」」」
ミルフィの指示は的確で、部下の統率も取れている。
「――怒れる雷神トールに捧ぐ、その威光をもって、紫紺の戒めとすべし! サンダープリズン!」
支援魔法をあらかた使い終わったか、小雪が今度は攻撃呪文を使う。
本のボスに麻痺効果が付くかどうかは分からないが、効けばコンボが炸裂しそうな呪文。
「よしっ! 効いた! 今だよ!」
本が感電したようなエフェクトが付いた。
機会を逃さずミルフィが斬りかかる。
「はいっ! 【聖卍字覇魔剣!】」
剣筋は全く見えなかったが、切り裂いた部分が卍型に青白く光る。
そしてまばゆい光に包まれ、爆発が起きた。
「むおっ!?」
白煙がすべてを包み、風圧が顔を叩く。
ええ? エフェクト凄すぎぃ。耳がキーンって。
やがて辺りが静かになってきたが。
「やったか!?」
「くっ、ダメです! 浅いっ! 総員警戒ッ!」
ミルフィが気を付けるように指示した。
白煙が消えていくが…そこに本がいない。
「ど、どこだ!」
「いないぞ! 畜生!」
「見失っただと!」
「う、狼狽えるな! 探せっ! 探せっ!」
兵士達が慌てた。
俺も辺りを見回す。
「ワンッ!」
シロが部屋の左に向かって吠えた。
「左だ!」
俺は叫ぶ。
「ぐあっ!? ひいいい!」
左にいた兵士が攻撃を受けたらしく悲鳴を上げた。
「おいッ! どうした、うわっ! ぎゃっ!」
「よせっ! そいつは味方だ!」
「落ち着いてッ!」
「くるなぁあああ!」
味方を斬った兵士はこちらに対峙して後じさる。
「な、なに? どーしちゃったのよぅ!」
尋常で無い様子に小雪も慌てるが。
「混乱の魔法だ!」
俺は推測して言う。
「――女神エイルよ、この者の精神を正道に立ち返らせたまえ! アウェイク!」
ミルフィが魔法を唱えた。
「ハッ!? じ、自分は」
正常に戻ったようだが、くそっ、この敵は厄介だ。
「包囲陣形ッ!!! 立て直します!」
「「「 了解! 」」」
廊下の向こうから騎士と魔法使いが数人走ってきた。
援軍だ。
「こっちだ! 敵は本のボス、一冊! アイスニードル、召喚、混乱を使う!」
俺は手を挙げて合図し、状況を彼らに説明した。
魔法使いが来たのは良いが、大人数でも的が狭い分、かえって攻撃が難しい。これ以上の人数は必要無いな。
「怪我をした兵士は邪魔だ、下がれ」
そう判断した俺は言う。
「彼の言う通りに」
ミルフィが指示する。
「はい」
兵士が二人、部屋から出てくる。
「これを」
彼らに薬草を渡す。
「ありがとうございます」
「自分はこれで」
もう一人は自前でポーションを持っていた。
「氷の精霊よ、集まりて、凍てつく矢となれ! アイスアロー!」
援軍の魔法使いが氷の呪文を使った。命中。だが、まだボスは生きている。
そこは火の呪文の方が…と思ったが、そういや火気厳禁だったな、ここは。
「小雪、ボスのHPバーは無いのか?」
聞く。
「スキルや魔法であるけど、ごめん、それ覚えてない」
「そうか」
「あと、半分ほどです」
ミルフィが告げたが、彼女はそれ系のスキルを持っているようだ。
「お、なんだ、楽勝じゃん」
小雪が言うが。
「いえ、何とか、死人を出さずに」
ミルフィが渋い顔でつぶやく。
となると、彼女は先ほどの大技はもう使わないだろうな。視界が失われるのはまずかった。
「スケルトンだ!」
誰かが叫ぶ。
敵のパターンはだいたい掴んだ。
俺は突撃しないけど。
「行くよ! ――怒れる雷神トールに捧ぐ、その威光をもって、紫紺の戒めとすべし! サンダープリズン!」
小雪がまた電撃を使う。今度は麻痺効果が付かなかった。だが、ダメージは300近く入った。
「いいぞ、小雪」
「うん」
すかさず味方の騎士が斬りかかって命中させた。
「よし!」
ミルフィがやたら目立っているが、他の騎士もかなりの技量だ。
「小雪さん、感電効果を確実に出せませんか?」
ミルフィが問う。
「んー、それは無理だねー」
「そうですか。全員、聞いて下さい! そろそろ敵のHPゲージがレッドゾーンに突入します。攻撃パターンが苛烈になるので、注意して下さい」
「あー、こっからが本番だよねえ」
「マジですか」
「あはは。まあ、お兄ちゃんはそこで見物しててよ。さあて、行くよー?」
小雪がまた電撃を使った。ミルフィは大技を使わず、普通に斬り込む。
小刻みに震えた本は、くるくるとその場で回転を始めた。
「なんだ?」
「何かやってくるぞ。気を付けろ!」
騎士が斬りかかるが、かなり素早い動きで本は躱した。
躱しつつも、さらに回転速度を上げていく。
「いかんっ! 回転を止めろ! 何かまずい!」
俺も同感だが、騎士が交互に斬りかかっても止められない。
本の動きはさらに速くなり、ミルフィも他の騎士が邪魔で斬りかかれなくなっている。
「下がれ、ミルフィに任せるんだ!」
俺が言う。
「しかし!」
「我らも騎士なればっ!」
プライド、いや、この場で何とか役に立ちたいという純粋な気持ちだろう。
攻撃が当たれば問題ない。全然当たらないというわけではないし、連係攻撃が利いて時々当たる。
ミルフィも黙っているし、彼女がこの場のリーダーだ。
「分かった。みんなで勝とう!」
俺は妥協しておく。
「「おおっ!」」
「うーん、電撃が撃てないなぁ」
ロッドを構えている小雪も攻撃に入れない。
「いけない! 離れて!」
ミルフィが何かを感じ取って叫ぶ。
騎士達がその指示に従って距離を取ろうとした瞬間。
本が黒い煙を吐き出した。
「うおっ!?」
「何だ!?」
「畜生、また見えないッ!」
「落ち着いて!」
だが、視界が塞がれていては攻撃もままならない。
「小雪、風の呪文は?」
「あっ! そうだった! ――四大精霊がシルフよ、その羽ばたきを突風となせ! ウインド!」
だが、煙が広がるだけで、あまり視界がクリアにならない。
「うぁあああああ!」
「ひいいっ! くるな!」
「やめろぉ!」
「よせ、それは味方だ!」
またですか。しかも今度は数が多いな。
「女神エイルよ、この者の精神を正道に立ち返らせたまえ! アウェイク!」
ミルフィが回復魔法を使うが、一回に一人分しか使えない様子。
――まずいな。
案の定、兵士達がどんどん混乱していき、陣形が完全に崩れた。
「くっ! このままでは!」
「ミルフィ! お前は攻撃を優先しろ! これじゃ切りがない!」
俺は言う。
「ですが!」
「任せて! とりゃ!」
小雪がロッドで本に殴りかかる。
命中したが、反動で本はこちらに飛ばされてきた。
部屋の外、俺のいる廊下に向かって。
「うおっ!」
慌てて俺は避ける。
「あっ! お兄ちゃん、ごめん! ちょっと、どいてぇー」
小雪はこちらに向かおうとしたが、混乱した兵士に邪魔されてしまっている。
本はまた煙を吐いているし、くそ、俺も混乱してしまうか?
「ワンワン! ウ~、ガウッ!」
シロが本に噛みついた様子。
「よし、そのままずっと捕まえとけ、シロ! 絶対に放すなよ!」
「ガウッ!」
これなら、見えなくてもシロの唸り声で位置は分かる。
剣を振り回すのはシロに当たるかもしれず危ないので、そのまま手づかみで本のページを掴んで破る。
ひょっとしたら俺が破っているのは、ボスではなく、シロの毛か兵士の誰かの髪の毛かもしれないが、知ったことじゃねえ。
破る!
むしる!
破りまくる!
そのたびに100近いダメージ数値が出る。
シロが連続でアイスニードルを食らっているが、シロのHPが減らないので無効化している様子。
行ける!
「冷たっ!」
今度はアイスニードルが俺の肩にぶつかってきたので、慌てて凍る前に払い落とす。
次は革鎧を買おうっと。
『ブレイブ・チャージがMAX!!! ブレイブ・チャージを使用しますか?』
システムメッセージが出た。
よく分からんが、迷ってる場合じゃない。ここは使ってみよう。
『ブレイブ・グレイル発動!!!』
『HP、MP、TP、状態異常がすべて回復』
『一定時間、すべての能力値が倍加します』
ブオンッという効果音と共に俺の体から青いオーラが噴出した。
与えるダメージが200を超え、攻撃のスピードも上がった。
いいぞ!
「ガウ~!」
シロが本に噛みついたまま唸るので、煙の中でも位置は見失わない。
またページを破る。
だが、ボスはまだ暴れている。
この程度では痛くもかゆくも無いのか?
とも思ったが、破られて平気な本なんて無いだろうし。
1ページずつでないと紙が固すぎて破れないので、地道に一枚ずつ。
アイスニードルが再び俺を襲い、まずい、俺のHPが……
ここまでか。
それでも手は動く。だからページを破る。
そして、最後に手が空を切った。
「お? 無くなった?」
魔導書は表紙だけになった。
それはもう本とは呼べない形態で。
だから――
「GYAAAAAA――!!!」
魔導書だったモノが、耳障りな断末魔を残して消えていく。
本当に倒せたのか?
虚空と俺達は睨み合った。
すべての時が止まったかのように。
『Congratulations! 《イベントボス:裏切りの魔導書》を倒しました』
『基本経験値 3万を獲得。パーティーとゲストで分配します』
『ラストキルを取りました』
『MVPに選ばれました』
『難易度比率経験値ボーナス 11,125,000獲得』
『29連続レベルアップ! 総合レベルが34まで上がります』
『記録更新!!!』
『無双称号【史上最高格上討伐者】を獲得!』
『無双称号【史上最高全員生還者】を獲得!』
『無双称号【史上最高素手格闘家】を獲得!』
『無双称号【史上最高猛獣使い】を獲得!』
『無双称号【史上最高依頼達成者】を獲得!』
『無双称号【最速成長記録】を獲得!』
『メジャー称号【偉大な戦術家】を獲得』
『メジャー称号【連続弱点攻撃回数記録】を獲得』
『全員:宝石〈ブラックオニキス〉を手に入れました』
『個人:結晶〈筋力のかけら〉を手に入れました』
『MVPボーナス:呪文符【ナイトメア】を手に入れました』
『ステップアップ! ジョブ〈ルーンソード〉の熟練度が【中堅】に進みました』
『呪文【ファイアボール】を獲得』
『呪文【バリア】を獲得』
『呪文【エンチャントソード】を獲得』
『〈シロ〉のレベルが38になりました』
『今回の戦闘ランク: マーベラス Sを認定!!!』
『勇名ポイント 500を獲得』
ファンファーレが高らかに鳴り響いた。
「うおっ!?」
目の前にウインドウが開き、ずらずらーっとシステムメッセージが流れるが、多すぎてよく分からん。
「やったあ!」
とにかく勝ったようだ。
騎士や兵士も歓声を上げている。
戦闘終了で混乱していた者も正気に戻った様子。
ミルフィがこちらにやってきた。
「やりましたね! リュートさんがいなかったら、どうなっていたか。白桜騎士団を代表してお礼を言います。ありがとう」
そう言って彼女が弾んだ声でとびきりの笑顔をみせてくれた。
彼女が手をこちらに差し出してきたので、俺もその手をしっかり握り返す。
ミルフィは手を放さないのでこちらも手を握ったまま、お互いの顔を見つめ合―――
「お兄ちゃん、すっごーい!」
小雪が俺に飛び込んで抱きついてくるのでびっくりした。
「うわっ、おい、小雪、ははっ」
「やったな、リュート殿」
「たいしたもんだ」
「自分が生き残れたのも、あなたのおかげです!」
騎士や兵士が旧友のように肩や背中を叩いてくるし、まるでヒーロー扱いだ。
そうか、この世界では誰もが主人公として行動し、ドラマチックに活躍することができるのか。
自分で進む道を決め、行動も自分で選べる。
すべては自分の思いのままだ。
そして目の前にはリアルと変わらない仲間達がいて、その中には本当のプレイヤー、本物の人間だって参加している。
やべえ、こりゃハマりそうだ。




