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ミッドガーデンの神プレイヤー ― 無課金の俺が伝説の救世主になるまでの軌跡 ―  作者: まさな
第一章 広がる世界

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第十二話 陰謀と裏切りのグリモワール 前編

 夕食の時、小雪が水沢家で犬を飼いたいと言い出したが、俺と深雪で却下しておいた。

 気持ちは分からないでもないが、リアルだと世話も大変だから。


 風呂に入り、英語の予習をさっと済ませ、俺はまたミッドガーデンにログインした。

 十一時までやって、後はすぐ寝るつもり。

 一日五時間だとちょっと多い気もするが、まあ、今のところは問題も無い。

 成績、落ちなきゃ良いけど。


「お兄ちゃんはボクの味方をしてくれると思ったのに……」


 小雪が口を尖らせてまだ不満そうだ。こちら側では水色の髪と瞳に変わっているが、違和感は無い。本人だもんな。


「悪いな。その代わり、ログインしてる間はシロを好きにして良いぞ」


「やったー。さっすがボクのお兄ちゃん!」


「指輪も俺が使わない時は貸してやるよ」


「ありがとう! でもそれ、シロをテイムするのに必要だし、外したらリセットがかからないかな?」


「あー、レベル1に戻るのは勘弁して欲しいな」


 指輪を外したときにテイムできなくなってシロが街中で暴れるのもまずい。


「ボクはずっとレベル1でもいいんだけどねっ。ふふっ。ま、指輪はいいから、時々、ナデナデモフモフさせてくれればいいよ」


「そうだな。どうせ飽きると思うし」


「飽きないよー。ほら、シロちゃん、出して出して」


「ああ」


 首輪をアイテムボックスから取りだしてその場に置く。召喚と念じると、真っ白な子犬が出てきた。

 いや、子狼だったな。見た目はもっさりしたチワワなんだけど。


「わー、綺麗になってるね」


 シロは小雪を覚えているようで、自分から撫でてもらいに飛び込んでいく。


 俺は視界右下に表示されている時計を見た。ミッドガーデン時間で午後一時。現実時間で午後八時ちょうどだ。

 ミッドガーデンでは三日に一度しか夜が来ない。

 ま、そうでないと、俺みたいな高校生プレイヤーは学校がある日は夜しかプレイできずに、困ってしまう。夜は敵が強いと言うし。


「すみません、遅れました」


 広場で小雪と話していると、ミルフィが息を切らせてやってきた。鎧だと大変そうだ。


「別に良いけど、何か任務でも?」


 彼女はうっかり遅刻するタイプには見えないので俺は聞いてみる。


「ええ、出がけに王立図書館の方で問題がありまして。魔術書が何冊か紛失しています」


「あららー、そりゃ大変だねー。犯人の目星は付いてるの?」


 小雪が聞いた。


「いいえ、それが侵入経路はおろか、侵入した形跡もまだ見つかっていません。魔術師達が首をひねる始末で」


「どうせ冒険者の仕業だと思うけどねー。〈怪盗ルンペン〉や〈チューチュー幼女〉の仕業じゃないの?」


「それも疑ってはいますが、彼らは予告状を出すのが流儀なので…それに、奪われた魔術書はレベルの低い物が多く、どうも犯行に類似性がありません」


「そんな狙ったような名前の奴がいるのか…」


 キャラメイクの時からだとしたら徹底しているなと俺は感心したが。


「ああ、本名じゃないよ。そう名乗ってるだけってことだもん。じゃ、ちょっと捜査に協力しようか、お兄ちゃん」


 小雪がウインクしてくる。


「そうだな。でも、捜査の邪魔にならないかな?」


「なーに言ってるの、これはゲームだよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんがここの主人公なの! だから何でも好きに行動すればいいんだよ。持て余す男子高校生の性欲をぜーんぶミルミルにぶつけてみたりね! いひひ」


「なっ!? そそそそれはダメですっ!」


 途中までニコニコと頷いていたミルフィが凄い反応するし。


「ダメって言われてるぞ」


「アハハ、今のは冗談冗談」


「もう……」


 ミルフィが顔を赤らめ、困った表情になってしまった。可愛いけど。


「でも、図書館に行くのはいいよね? ミルミル」


「あ、はい、まだ事件が未解決ですし、私としては図書館も調査したいと思っていますので、〈リュート〉さんが手伝ってくれるのならありがたいです」


「分かった。じゃあ、手伝おう」


『〈依頼(クエスト):〈王立図書館〉のグリモワール紛失事件〉 を受けました。無期限。難易度 A。推奨レベル パーティー平均レベル30』


「あれ? 難易度とレベルがちょっと高いんだけど」


 俺は不安になった。まだレベル5なんだが。


「ヘーキヘーキ、平均レベルだし、ミルミルがいれば何とかなるよ、たぶん」


「うーん」


「止めますか?」


「いや、まあ、調べるだけは調べてみようか。〈白桜騎士団〉も現場にいるよね?」


「はい、全員ではありませんが、数名が詰めています」


 それなら、モンスターが湧いてきても彼らが何とかしてくれそうな気がする。ま、ゲームって往々にして主人公はボス部屋に閉じ込められちゃって、助けは入ってこないんだけど……後ろのドアは絶対に閉めないぞ。


「行こう」


 俺は言う。


「はい」「うん!」



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 王立図書館は神殿かと思うような巨大な柱が立ち並ぶ、荘厳な建物だった。

 正面にはすでに〈白桜騎士団〉の騎士と兵士が大勢で警備を固めており、今回の事件が思ったよりも重大であることを窺わせた。


「異常、ありませんね?」


「はっ、異常ありません」


 ミルフィが兵士に状況を確認し、俺と小雪とシロはフリーパスで通ることができた。


「右の転移陣から向かいましょう」


 建物に入ってすぐ、正面に大きな階段があったが、ミルフィはそちらには向かわず右に廊下を行く。

 外壁は石ブロックであったが、床と壁は板張りとなっており、ひょっとすると本を湿気から守るための構造かもしれない。

 燭台はロウソクの代わりに直径五センチほどの水晶玉が白く輝いており、ここは火気厳禁のようだ。


「ここってホント、立派だよねえ。本もたくさんあるし、一冊一冊ちゃんと読めるんだよ?」


 小雪が言う。


「へえ、そりゃ凄いな。あっ、じゃあ、魔法もここで覚えられたりしちゃうのか?」


 魔法剣士のクラスとしては気になるところだ。


「残念ながら、低級の生活魔法はここでも公開されていますが、攻撃魔法については一般公開されていません。そこはご理解下さいね?」


 ミルフィが俺の目を見て言うが、これはダメそうだ。


「ああ、ま、そう簡単にはいかないかあ」


「ミルミルにお願い…は止めた方が良さそうだねえ」


「ええ、それはお断りします。私の任務は本を守ることですので」


 堅物のミルフィはお願いや賄賂なんて通用しないだろう。そこは諦めておく。


「ですが、剣術や冒険に関する情報もありますし、魔術のコツも公開されていますから、そちらをご覧になっても参考になると思いますよ」


 行き止まりにゴツい鉄の扉が待ち構えており、ミルフィが黄金の鍵を取りだして鍵穴に入れた。

 その扉の向こうは2メートル四方の正方形の小部屋になっており、石床には複雑な紋様の魔法陣が描かれていた。


「おお、これはもしかして」

「うん、この転移陣で別の場所にあっと言う間だよ」


 小雪が頷くがワープできるようだ。


「そのまま中央に進んで下さい」


 三人で魔法陣の中心に立つと、紋様が光を発し始め、部屋の形が変わった。


「行きましょう」


「ああ、もう飛んだのか」


「うん、ダンジョンだとマップを確認した方がいいかもね」


 マップウインドウはいつでも確認できるし、オートマッピング形式なので迷う心配はなさそうだ。

 マップに表示された現在位置は、三階の北端の小部屋だった。


 再び鉄のドアを開けてしばらく廊下を進むと、兵士が警備している別のドアが右側にあった。


「こちらです」


 中に入ると、室内では数人の兵士とローブを着た魔術士が歩き回ったり話し合ったりしている。

 そこは横幅十メートルくらいの直方形の一室で、両側の壁には背丈を超える大きな本棚がずらりと並んでいた。

 さらに部屋の中央付近には一メートルほどの高さの石の台座が等間隔で設置されており、そのいくつかには横にした本が安置されていた。


「あの台座の本が盗まれたんですね?」


 俺が聞く。


「ええ。ここの館員が見回りに来て発見したそうです。本の他は荒らされた様子も無く、ここの扉の鍵もかかっていたと証言しています」


 ミルフィが頷く。


「じゃ、ズバリ、その館員が犯人だね! お金に困って売り飛ばしたとか」


 小雪が言うが。


「いいえ、ここの管理を任されているのは信頼の置ける上級係員です。生活状態も調べましたが、借金も無ければ、周囲とのトラブルも無かったと。彼の自宅にも本はありませんでした。道具屋や露店にも持ち込まれたという話はありません」


 ミルフィがすらすらと答えるが、そのくらいのことはここの治安組織も調査しているようである。

 だが、第一発見者には詳しい話を聞いた方がいいだろうな。


「その館員は今どこに?」


「連れてこさせましょう」


 ミルフィが合図するとその場にいた部下が頷いて部屋を出て行った。

 待つ間、俺や小雪は台座を確認する。

 円柱の形をした石の台座は、本が置かれたいた場所がわずかに変色しており、何年も使用されていたことが分かる。この室内に窓は無く、本を長持ちさせるために直射日光は避けている様子。

 シロが警察犬よろしく台座の臭いを嗅いでいるが…。


「指紋とか取れればいいんだけどなあ」


 小雪が言うが、それだと本格的な鑑識だな。


「残念ながら、ここの館員の者の指紋しか採れておらんの」


 緑ローブの魔法使いの老人が言う。

 ウインドウが目の前に展開し、台座に付いていた指紋の位置と、その拡大図が表示された。


「うわ、すごーい」


「ふふ。これも、冒険者が伝えてくれた技術ですよ」


 ミルフィが微笑んで言う。


「館員を連れて参りました」


 神経質そうな痩せぎすの男が、不安そうな面持ちで騎士の隣に立っている。緑カーソルのNPCだな。


「こちらへ。少し、見つけた当時の話を聞かせて下さい」


「わ、分かりました」


「んー、なんかいきなり挙動不審だね。怪しいよー怪しいよー?」


 小雪が言うが。


「そっ、そんな。私じゃありません!」


 男が必死な感じで言う。


「まあまあ、僕は疑ってはいませんから。小雪はちょっと黙ってて」


 本当は疑っているのだが、一通り話を聞いた上でじゃないとな。


「ここに来たのは月一回の掃除をするためです。それとは別に毎日朝と夕方に点検しておりますが、その時には問題ありませんでした。昼前、十一時くらいだったと思いますが、入ってすぐに異常に気付きました。台座の本が三冊も消えていて」


 男が状況を説明する。 


「その時に鍵はかかっていたんですね?」


 俺は念のために確認を取った。


「ええ。稀覯(きこう)本の部屋の鍵は館長が管理されています。私はそれを十時に借りて東側から順番に書庫の掃除を始めました」


「その時に、不審な者を見かけたり、おかしな物音はしませんでしたか?」


 今度はミルフィが質問する。


「いえ…何も。途中で別の館員に廊下ですれ違いましたが、それだけです」


「おっ、じゃあ、そいつが実は偽者だったとか?」


 小雪がその情報に飛びつくが。


「いいえ、彼は長年の同僚で、会話もしましたから、偽者なんてことは絶対に無いですよ」


 自信を持っている感じだし、鍵を館長が管理しているなら、仮に偽者だったとしても、鍵を開けられない限りはダメだろう。


「緑カーソルだったんですね」


 俺は確認する。青カーソルのプレイヤーなら鍵開けのスキルが何かあるかもしれないからだ。


「ええ。もちろんです」


「じゃあ、やっぱりこの人しか盗めないよねえ?」


「そ、そんな、違いますよ!」


「まあまあ。それで、本が盗まれていると気付いたときにどうしたんですか?」


 俺は聞いた。


「どうしたって、床に落ちていないか確認した上で、慌てて館長室に駆け込んで報告しましたよ」


「ふむ…」


 この部屋には身を隠すような場所も無い。犯行時刻は今日の朝の点検の後から昼前ということだろうな。


「館長と話ができますか?」


 俺が言うとミルフィが頷いた。


「では館長室に行きましょう」

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