第十話 初めてのミッション
レベル5まで上げたところで、フレンドメッセージが表示された。
『お待たせー。今からそっち行くね、お兄ちゃん』
小雪からだ。彼女の現在位置は始まりの街の広場だった。
こちらもメッセージを送り、門の前で俺達三人は合流した。
「おー、まだミルミルも一緒だね」
「ああ。さっき〈東の森〉でホーンラビットを狩ってたんだ」
「うん、あのモンスターだとお金が結構もらえるね。序盤なら美味しい敵だよ」
「ツノと毛皮がたくさん集まったし、何か装備を買えないかな?」
「じゃ、まずはギルドだね」
冒険者ギルドに行き、受付の眼鏡のお姉さんに討伐部位を出してお金と交換してもらった。
150ゴールドほど所持金が増えた。
「んー、でも、中途半端な額だねえ。これじゃ良い装備は買えないと思うよ」
「そうか。じゃ、また狩りに――」
行こうかと言おうとしたとき。
「ミルフィーユ様! ここにおられましたか!」
白い鎧の騎士が緊迫した様子で駆けつけてきた。
「何があったのですか?」
ミルフィも険しい顔で問い質す。
「それが、街中にモンスターが現れました!」
「ええっ? すぐに騎士団を全員召集! 退治して下さい! 敵の数は?」
「一匹だけですが、素早いもので。全身が白い毛の狼、あれはホワイトウルフかと…」
「ホワイトウルフ!? なぜそんな強敵がこんなところに…」
ミルフィが驚いたが、レベル54の彼女でも強敵の奴か。
「分かりません。通報があったのは中央居住区です」
「! まずいですね……こうしてはいられません、すぐに私も向かいます!」
「はっ!」
ちらりとミルフィーユがこちらを気にして振り返ったが、俺も事情は分かったと大きく頷いておく。
「緊急ミッションの予感だなぁ。お兄ちゃん、ボク達も行こうよ」
などと小雪が笑顔で言うし。
「いや、強敵なんだろ?」
「まあまあ、どうせ死んでも持ってるの150ゴールドなんだし」
「俺にとっては割と痛いぞ……。一時間分の狩りが」
「何言ってるの、たった一時間でしょ。じゃ、レッツゴー」
「あ、おい! 待てよ、小雪」
小雪からパーティー申請が来たので同意しておくが、あんまり気乗りしないイベントだ。
ま、ミルフィが活躍するスクリーンショットを撮っておけば団員に喜ばれるかな。
俺は小雪の後を走って追った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「この門から先が中央居住区だよ、お兄ちゃん」
すでに門では〈白桜騎士団〉のNPC騎士二人が警備を固めており、〈聖女親衛騎士団〉の青カーソルの騎士も何人かいた。
「待て、ここは封鎖中だ。危険だから、低レベルの冒険者は通せないぞ」
プレイヤーの騎士が俺を通せんぼするが。
「あ、ボクのパーティーだから」
「そうか」
小雪が言うとあっさりと通してくれた。
「なんで俺だけ低レベルと分かったんだろ?」
俺が見る限り、他のプレイヤーはカーソルの色しか出ないのだが。パーティーメンバー以外のレベル表示は無い。
「装備品だよ、お兄ちゃん」
「ああ、なるほど」
言われてみれば初期装備がほとんどだったな。
門をくぐると、先ほどまでと違い、塀に囲まれた大きな建物が多い。
「さーて、狼さんはどこかなー?」
などと気楽な小雪を追いかけつつ俺も走って探すが、出くわさない方が良いなぁ。
と、道ばたで泣いている幼女がいた。
おお、これはいけません!
俺は速攻でその子に駆け寄ると、話しかける。
「どうした。狼でも見たのか?」
「ううん、違うの、お母さんが、いなくなって、うわーん!」
「そうか、はぐれちゃったかぁ…」
「ちょっとー! お兄ちゃん、何してるのっ!?」
小雪が戻って来た。
「え? 何って、この子が迷子だって言うから」
「いやいやいや、今、緊急イベント真っ最中なのに、何でそんな地味っぽいイベントを同時進行で掘り当てようとするかなぁ」
「ああ、そうか、この子もNPCか」
カーソルを見るが緑色だった。
「そうだよ。だからとっても心が苦しいけど、放置しててもなーんにも問題は起きないんだよ」
「いや、でもなぁ。俺はこっちの方がレベルが合ってる気がするぞ」
「うーん、仕方ないなあ。じゃ、キミ、お名前は?」
「ララ、ぐすっ」
「ララちゃんね。お母さんのお名前、分かるかなー?」
「ジェナ」
「じゃ、冒険者ギルドに行っておうちが分かるか調べてもらおうよ。兵士の方は今は無理っぽいし」
小雪が言うが、それが良い解決策だな。
「そうだな、行こう」
「待って、おうちなら、私、分かるよ」
「ええ?」
「それなら、自分の家で待ってりゃいいんじゃないのか?」
「そうだよね」
「うん。でも、オオカミが出たんでしょー? ララ、こわいよう」
「ああ、じゃ、お姉ちゃんとお兄ちゃんが付いて行ってあげるから、それでいいよね?」
小雪がララの頭を撫でる。
「うん!」
『〈迷子のララ〉をパーティーに加えました』
加わったのはいいが、この子の最大HPが5か。渋いな。
「ホワイトウルフに出くわさないようにしないとね! 気休めにしかならないけど、一応、聖水を使っとこ」
小雪も心配して小瓶をアイテムボックスからパッと取り出すと、透明な水を全員に振りかける。うわ、冷たっ。
「あとは――疾走する天馬のごとく、足よ軽やかなれ、クイックステップ!」
足が速くなる呪文か。
「じゃ、行こう!」
走ってみると、倍ぐらいの速さが出る。
「「 おおー! 」」
俺もララも自分の足の速さに感動。
「ちゃんと二人とも、前見て走ってねー」
「おう」
「うん!」
封鎖されている門まで辿り着き、これでひとまず安心だ。
さらにララの家まで三人で走った。
「ここがララのおうちだよ!」
小さな平屋の一戸建てだ。だが庭付きか。
「ああ! ララ!」
おっと、母親のジェナはもう家に戻っていたらしい。
「これで一件落着だね!」
「だな」
何はともあれ、めでたしめでたし、だ。
「本当にありがとうございました」
『イベント〈迷子のララ〉をクリアしました。経験値が50ポイント入ります』
レベルは上がらないのか。しょぼいが、このイベントはこんなもんだろうなあ。
「おにーちゃん、おねーちゃん、ありがとー。これ、おれいにあげるー」
『《未鑑定品:古びた銀の指輪》 を受け取りました』
「んん? 待て待て、ララ、これは大事なものじゃないのか?」
それに名称に銀って出たぞ。
「ああ、それはその子が庭で掘り当てた指輪なんです。私達には要りませんから」
母親が言うが。
「いや、鑑定してから売れば…」
「ちょっと、お兄ちゃん! NPCさん達を困らせたらダメだよ。これはイベントのお礼なんだから」
ララとジェナも頷いているし、まあ、ゲームだから小雪の言う通りにもらっておくか。
「分かったよ。ありがとうな、ララ」
「うん!」
さっそく、小雪に鑑定してもらったが、彼女の鑑定レベルでもこの品は鑑定できないという。
「じゃ、鑑定屋に行こっか」
小雪の案内で鑑定屋に行く。
鑑定料が心配だったが10ゴールドで済んだ。
一律というわけではなく、ふっかけられるときもあるらしい。運が良かった。
【名称】 マカミの指輪
【種別】 指輪
【材質】 ミスリル
【効果】 テイム
敏捷+1
【耐久】 -
【重量】 1
【総合評価】 AA
【解説】
狼を飼育できる不思議な指輪。
自分より強すぎる個体には効果が無い。
また装備しないと効果は発生しない。
〈装備可能〉
売値も確認したが、値が付けられないとNPC店主には断られてしまった。
自分で装備して使うか、他のプレイヤーに売れということらしい。
能力値上昇があるので、使わないにしてもとりあえずは装備しておく。指輪なんて初めてなのでちょっと迷ったが、左手の人差し指にしておいた。
「これってさあ……ホワイトウルフにも使えるんじゃないかな?」
などと小雪が言うが。
「いや、強い奴には使えないみたいだぞ」
「ああ、じゃ、弱い狼となると……どこのマップにいたかなぁ?」
「ま、この近くじゃないなら、当分、使わないな」
「そうだね。じゃ、中央居住区へ行くよ!」
「あっ、おい、小雪。待てって」
ま、やられてもいいか。付いて行くことにする。
「くそ、はぐれた……」
パーティーを組んでいたらはぐれないものだ、と思っていたので油断した。
マップ上には青の点が表示され、小雪の位置も分かっているのだが、建物が邪魔でそこへ回り込めないという…。
ま、近くにいるし、向こうから合流してくれるだろう。
しかし、街、広いな。
今までプレイしたゲームの中ではダントツだ。
細部まで細かいし。石畳の道の端には側溝もちゃんとある。
おや、こんな所に階段が。
どこへ繋がってるんだろう?
俺はちょっとした好奇心で、道ばたの階段を降りてみた。
角を曲がるとすぐに行き止まりになっていて、そこに開け放たれた木の扉がある。個人宅の地下室らしい。
勝手に入るのはまずいよな?
普通のRPGなら他人の家だろうが平気で宝箱漁りするところだが、ここまでリアルだと何か気が咎めてしまう。
「くぅ~ん、くぅ~ん」
「ん? なんだ?」
悲しそうな犬の鳴き声が微かに聞こえる。
この扉の向こうだな。
ホワイトウルフ……?
いや、どうだろ?
強敵じゃ無さそうなんだが。
「おい、アンタ、そこで何やってるんだ?」
急に後ろから話しかけられ、俺は焦った。




