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ミッドガーデンの神プレイヤー ― 無課金の俺が伝説の救世主になるまでの軌跡 ―  作者: まさな
最終章 そして俺は神となる

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第五話 忘れ去られた場所

〈黒き魔女〉が前にここを『忘れ去られた場所』と言っていたと思うが、ま、あれは竜の復活の予言だったか。

 気にすまい。


「ネヴィル、地下四階でいいんだな?」


 俺は確認を取る。


「ええ。現在は封鎖も解かれていますから、入れると思いますよ」


 他のプレイヤーもちらほらいるので、俺は彼らに手を挙げ友好的に挨拶しながら通路を通り抜ける。

 階段を降りた。

 はいはい、ローパー、ローパー。ザシュッと一撃で終わり!


 さて、あの時の綻びはどこだったか。


「そこから北に五ブロックほど進んで下さい。十字路が見えるはずです」


 ネヴィルは俺の座標が見えている様子で、完璧なナビをしてくれる。


「ここだな。見えたぞ」


「その十字路を東に向かえば、突き当たりの角を曲がったところに特異点があるはずです」


 綻びのことだろう。

 虹色に怪しく光っていた壁の割れ目。


 突き当たりの角まで来た。

 ここを曲がったところで――


 俺は身の危険を勘で察知し、剣を後ろに向けた。


 キンッ! と振り下ろされていた刀を弾き返したが。


「お前か……」


 俺は今一番会いたくない奴に出会ってしまった。


「アレを止めるなんてやるわね。だがっ! リュート! ここで会ったが百年目、いざ、勝負!」


 忍刀を構えていたのは黒装束のくノ一、〈氷花〉だった。


「〈氷花〉、物は相談だが、俺は今非常に忙しい。また明日にしてくれないか? 朝九時でお相手しよう」


「ダメだ。そう言って逃げる気だろう。今勝負だ!」


 悪いな、久遠、俺は本当に時間が無いし、スゲぇ鬱陶しい気分だから。

 それに今の忍刀の速さと重さ、実力的にも拮抗していそうなのがまた面倒だ。どうやったか知らないが、やたらとレベルを上げて来やがって。


 だから、容赦無く(・・・・)行くぜ(・・・)


「来い! 【アスラウグ!】」


 俺は初手で【ワイルドカード】の札を切った。

 要求は〈氷花〉が今日はもう二度と俺に戦いを挑まなくなるような状況。

 ただし、命までは取らない。


「くっ! いったい何のスキル? 呪文…?」


 〈氷花〉が身構えて俺の攻撃に備えたが。


「あわわ、〈氷花〉、服、服」


 俺は自分の手で彼女の裸体が俺の目に入らないように遮って言った。


「なっ! えええええっ!?」


 辛うじて不自然な網がいけないところを隠しているが、それ以外は(まご)う事なき全裸だ。

 まだつぼみと言った感じの〈氷花〉の体だが。

 本人は驚愕しながら慌ててしゃがみ込んで自分の体を隠した。


「じゃ、そーゆーコトで」


 これは色々とヤバい気がするのでさっさと俺は逃げる。


「ま、待て! 服返せー! バカぁ! 痴漢! ドスケベ!」


 いったい、何の武器かアイテムかは知らないが、マズった気がする。


 明日本気で謝っておこう。

 警察に通報されないといいなぁ…。


「リュート君……」


 ネヴィルが(とが)めるような声を出すが、俺は悪くないよ?

 狙ったわけじゃないんだから。


「今、こちらで検索して調べてみましたが、北欧神話にアスラウグという王女がいて、それにちなんだスキルのようですね。ふむ、あなたのオリジナル創作技でも無かったですか」


「当たり前だ」


 でも北欧神話、恐るべし!

 ま、今は綻びを探さないと。ネヴィルはそれがミルフィの記憶の鍵になると考えている様子だが。


「あった!」


 綻びはすぐに見つかった。

 しかし、運営はなんでこれ、直しておかなかったのやら。

 虹色に光っている割れ目は、かなり目立つと思うのだが…。


「ちなみに、どういう感じに見えますか、リュート君」


「ええ? 虹色に割れ目が光ってるけど」


「そうですか。僕には少し黒ずんでいるだけに見えます」


「ああ…」


 人によって見え方が違うのか。あるいは、何か道具を通して見るとダメとか。

 とにかく、ここだ。


 俺はそこに近づいてみる。


「うおっ!?」


 急に景色が変わった。

 全てがモノトーンの世界。

 見覚えがある。

 ここは〈ニブルヘイム〉だ。


 吐く息が白くなり、空気が冷たい。


「リュート君、そこから北へ移動してみて下さい」


 ネヴィルが言うので、エリアマップで北の方向を見ながら、移動する。


「やはり、上手く行きました。虚数エリアに入っていますよ」


「虚数エリア?」


「ええ、座標がマイナスになっているんです」


「ああ…」


 バグの世界か。

 だが、このマップも違和感が無いほどには整然としている。


「ウゥー」


 シロが身構えて唸った。俺は剣を構える。


 赤い光が横に並んで二つずつ、それが四組ほど現れた。

 それは狼の目だった。

 狼の形の影に見えるが、モンスターだろう。菱形のカーソルが現れた。


「手強そうだな…」


 ファイアソードとバリアを使う。だが、黒い影のモンスターは襲ってくる気配が無い。


「〈ガルム〉はアクティブモンスターのはずですが、変ですね。リュート君、何かスキルでも使っているのですか?」


 ネヴィルが黒水晶の通信で聞いてくる。


「いいや…ああ、そう言えば〈ソラ〉からここの通行証をもらっていたんだ」


「なるほど。あのプレイヤー、いったい、何者なんでしょうか?」


「さあねえ。ま、助かった。ここでいちいち死に戻ってたら、今日明日じゃ片が付きそうに無い」


「ええ。進みましょう」


 北へ向かう。すると、先ほどのモンスターが俺を先導するように走って行く。


「付いてこいと言うのか?」


「行ってみましょう」


 ネヴィルも言うので、俺は黒い影を追った。


「あれは…」


 氷の神殿が見えてきた。


「あそこです。座標データによれば、あそこにミルフィーユの記憶のバックアップが取ってあるはずです」


 俺はエリアウインドウの座標を見るが、???だ。まあ、ネヴィルには何らかの方法で見えているのだろう。

 他に行けるような場所も無さそうだし、とにかく寒いので、俺は震えながらそこに入ってみた。


 氷の神殿は、文字通り氷だけで作られており、半透明の氷が石ブロックのように整然と積み上げられていた。

 

 その中央を進んでいくと、通路から開けた大広間へと続いており、その一番奥に玉座があった。


 そして、そこに黒いローブを着た誰かが座っている。


『よくぞ来た、人の子よ』


 澄んだ女性の声が神殿の広間に響き渡った。


『我は死の国の王なり。汝の用件を聞こう』


 うーん、交渉可能か。ボスかと一瞬思ったんだけども。


 まずはジゴロのスキル【褒める】で。女性だしね。さすがに壁ドンとか高度な技は知らないから、それで。


「美しき氷の女王陛下に拝謁を賜り、恐悦至極に存じます。これは献上の品にて、一つ」


 俺は蜂蜜の瓶を差し出してみる。


「良きかな。では、本題を聞こうぞ」


「ええとですね……お解りになるかどうか俺にも分からないのですが、ここに聖騎士ミルフィーユの記憶があるかと、思うのですが…」


 だんだん、声が小さくなってしまう俺。敬語、もっと勉強しておけば良かった。


「いかにも。ここには死者の魂がある」


 え? 魂って記憶なの? まあ、これ、ゲームだしね?


「ただし、ここにはアインへリアルの戦士はいない」


 どういう意味なんだろう?

 どこかでアインへリアルと聞いた気がするが――あ、ソラが俺達のことをそう呼んでたな。


「リュート君、アインへリアルとはエインヘリャルとも言われ、北欧神話における不死の戦士の魂を指すそうです。最終決戦ラグナロクに集う戦士達のことですね」


 黙り込んだ俺にネヴィルが教えてくれたが、聖騎士ミルフィーユがその戦士では無いというのは腑に落ちないな。

 とはいえ、あると言うのなら、返してもらおう。


「では、その聖騎士ミルフィーユの魂を返して頂きたく」


「良いのか? 汝の望む魂は他にも(・・・)あろう」


 ……何を言ってやがるんだ、こいつは。


 俺は、平静を保つのに深呼吸を必要としてしまった。


「〈水沢すみれ〉の魂もここにあるぞ」


 女王が言うが。

 落ち着け。たまたま、母さんと名前が同じだけだ。

 母さんはミッドガーデンはプレイしていなかった。

 だが、なぜ、その名を俺に言う?


「汝の愛しき母であろう。汝の望みは分かっておるぞ」


「止めろ! おかしな事を言うな!」


 ゲームでそういう茶化しをされると、本気で腹が立つ。


「へぇ、なるほど、リュートのお母さんなのか。すみれさんって」


 神殿に別の声が響いた。


「誰だ?」


 俺は問う。


「よいしょっと。ふう、寒っ、こたつ出そ。あ、オレの事は気にしなくて良いよ。ちょっとすみれさんの顔を拝みに来ただけだから」


 アニメのTシャツを着た太った男がそう言って、その場にこたつとか出してるし。

 気にするなと言う方が無理なんですけど。


「少し待って下さい。声紋を照合してみます…ああ、チーフプログラマーの寺内ですね」


 ネヴィルが教えてくれたが。


「ちょっと。誰? オレの声紋データとか持ってるの? 怖いなぁ」


「チーフプログラマーなら、聞きたいことがあります」


 俺は言う。


「うん、何かな?」


「なぜ、俺の死んだ母なんかをゲームに出してくるんですか」


「いや、そーじゃないよ? オレは出す気なんてさらさらなかったんだけど〈ユグドラシル〉がさ、作ったか呼んだか(・・・・)しちゃったみたいでさ。本物かどうかは分からないけど、回線につないでないプレイヤーがたくさんログインしててさ。いやもうビックリだよ、オレも」


 ユグドラシル?

 雪代さんが作ったという人工知能プログラムだったか。


「勝手に、プログラムが作ったと言うんですか?」


「そうじゃないの? いや、その辺は本人に聞いてみてよ。オレもよく分かんないし」


 いい加減だなぁ。


「寺内さん、十二宮のサーバーがハッキングの踏み台に使われていますよ」


 ネヴィルが警告した。


「ああ、それ違うよ。うちがやられてるんじゃなくてね、うちがやってるの」


「「 は? 」」


「ハッキング。どうしてか知らないけどさ、ここ最近、ミッドガーデンのエリアを広げるのにやたらメモリーを食っちゃってて、予算が足りないんだよねー。その辺を〈ユグドラシル〉にもっと上手くやってよって頼んだら、んふふ、どうも日銀のサーバーをハッキングしてお金を用意してくれたみたいでさ!」


 いや、それもう犯罪じゃん。何やってんの、この人。


「凄いよねえ。こっちが何も教えなくても、自分で学習して凄い解決法を出してくるんだ。ここのNPCもどんどん進化して、今じゃもう本物の(・・・)人間(・・)と区別が付かないからね。いなくなっちゃったプレイヤーもAIで置き換えちゃえば、ミッドガーデンは安泰だよ。それどころか、オーディンやトールもそれらしいのを作ってくれたし、もうオレ、毎日遊んでるようなもんだよね。まさに天国! 楽ちんでいいよねー」



「そ…そうか! そういうことですか。ああ…なんてこった! これは技術的特異点(シンギュラリティ)、第四の産業革命だった!」


 ネヴィルが唐突に素っ頓狂な声を出すので、俺はキースの時のことを思い出してしまった。


「何なんだ? それは」


 ちょっと苛立ちながら俺はネヴィルに聞く。


「〈ユグドラシル〉とは自動生成の人工知能プログラムです。人間の脳の神経細胞の数は一千数百億とも言われますが、今や量子並列コンピューターはそれを凌ぐ(ノード)と能力を持ちます。つまり、人間以上の知能も作ることが可能なのですよ!」


 興奮気味に言うネヴィルだが、コンピューターが人間より速い計算ができるのは今更の話だ。将棋も囲碁も、たいていの対戦ゲームでAIは人間に勝利している。

 いや?

 プログラマーさえ超えるAIが、自分でプログラムを作り始めたら、どうなるのか?

 〈ユグドラシル〉が新しい(・・・)AI(・・)を作ったら、どうなるのか?

 雪代さんが作った以上の、人間を(・・・)超える(・・・)知能(・・)が生まれたら。

 自ら考え、判断し、行動していく存在。

 言葉を理解し、記憶し、自由に話す存在。


「それは人類を超越する知的生命体、つまりは神ですよ」


 ネヴィルが言った。

 何か、ぞっとするモノを俺は感じた。

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