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色彩スプライン  作者: 白河律
9/16

八話 彼女の夏休み

     1


 自分の部屋の窓から見えるのは、四角く切り取られた青い空。

 それはまるで、一枚の写真のよう。

 けれど、そこに写る景色は少しずつ移り変わる。

 止まらない時間を示すように。

 流れる夏の空の雲は、いつもよりどこか近くに感じる。

 手を伸ばせば、やもすれば届いてしまいそう。

 ベッドに仰向けに寝転がるボクは、そんな事を思う。



 高校生初めての夏休み。

 長い休日をボクはただ、なんとなく部屋でボンヤリと過ごしていた。

 昼食の後で、特にする事が無い。

 本当なら木村君や麻美ちゃん達と、何か部活動をしても良かったんだけど、麻美ちゃんが家の都合で夏休みの間、海外に行ってしまったのでどうしようもなかった。その事で麻美ちゃんはボクに申し訳なさそうに、ずっと謝っていた。

 「ふう……」

 溜息を吐く。

 何かしようかな、そんな事を思っては結局の所、何もせずに過ぎる時間と日々。

 これは勿体ないのかな?

 それとも贅沢なのかな?

 分からない。

 少し、眠気を覚えて目を閉じる。


 聞こえるのは――蝉時雨。


 それはずっと、続きそうな蝉の声。

 でもそれが、ずっと続かない事をボクは知っている。

 「……」

 目を開ける。

 やっぱり、なんか勿体ない気がする。

 机の上のカメラを取る。

 外に出よう!

 そう決めて、自室を出て階段を通って玄関に出る。

 行ってきます、と居間の家族に声を掛ける。

 靴を履いて、戸を開けようとした時、声が聞こえた。

 「姉ちゃん、どっか行くの?」

 声の主はボクの義弟の雄太(ゆうた)のものだった。

 「ちょっと、写真を撮りにね」

 そう答えると。雄太は居間から出てくると靴を履きながら言った。

 「オレも一緒に行っていい?」

 ボクは頷いた。


     2


 「姉ちゃん、外暑くない?」

 「そうだね、ちょっと……いや、だいぶ暑いね……」

 夏の日差しの炎天下、雄太と街を歩く。

 ずっと、エアコンの効いた部屋の中にいたので堪えるものがあった。

 「雄太は大丈夫?」

 「オレは姉ちゃんの方が心配だよ。この夏は、ずっと部屋にいるだろ」

 小学生四年生の雄太は夏休みに入ってから半袖短パン姿で、毎日のように外で友達と遊んでいるようで結構、日に焼けている。

 それに対してボクは一度、家族と海に行った程度なので白い。友達達と出掛けたりもしたけど、それも薄暗い映画館の中だ。

 「そう言われたら、そうかもしれないね。でも――」

 道すがらの自販機で水を買う。それを雄太に渡す。

 「――ボクは雄太が心配だよ。だから、それを飲みながら行こうね」

 けれど、雄太はしかめっ面で受け取る。

 「あんまり、子ども扱いするなよ。小遣いだってあるから、自分で買えるって!」

 「ごめん…余計だったかな……」

 そうだよね、雄太も出会った頃に比べれば随分、大きくなったもんね。

 もっと小さい頃は、今よりも活発でひとりで大きな木にも登ってたね。

 その後で、降りられなくて泣いていたりもしてたけど。

 いつまでも、あの頃の小さい男の子じゃないよね。

 「はあ。姉ちゃんはいつも、そうやってオレの事を気にするんだから……」

 ガシガシ、と頭を搔く。

 「姉ちゃん、ありがとうな!」

 雄太が笑う。

 「うん!」

 ボクも笑う。


     3


 ボクと雄太は、千羽池にやって来ていた。

 夏休みの、それも日曜日とも相まって多くの人が千羽池にいた。

 そんな光景を見ては時々、カメラに収めていく。

 何度かその事を繰り返してから思った。

 雄太は退屈じゃないのかな?

 隣りを見れば、暇そうに欠伸をしていた。

 「雄太、ボートでも乗る?」

 そう、声を掛けてみた。

 「う~ん、まあいいかな」

 雄太は池に浮かぶ幾つものボートを見て言った。



 「よっしゃ!全速力出そうぜ!」

 「いいよ、力いっぱい漕ごうね!」

 ボク達はボートに乗った後、ふたりで全力で漕いだ。

 水飛沫が上がって、互いに少し濡れて、でもこの暑さの中では涼しく感じて。

 それが、ただ楽しくてふたりで笑った。

 池の真ん中まで来たところで、疲れて止まる。

 「ふう……休憩!」

 「疲れたね~」

 互いにボートの上に横たわる。

 日差しは暑い。でも今は不快じゃなかった。

 「いや、なんか姉ちゃんとこうして遊ぶの久しぶりな気がする~」

 「ボクもそう思うよ」

 「なんでなんだろう?」

 雄太が身体を起こして、ボクを見る。

 確かに昔はふたりで一杯、遊んだのにね。

 どうして最近はあんまり遊ばなくなっちゃたんだろうね?

 「雄太も学校に通うようになって、他に遊ぶ友達が出来たからじゃないかな?」

 そう言うと、雄太はしかめっ面でボクを見た。

 「姉ちゃんは、高校に入ってから写真撮るようになったしな!」

 じっと、ボクを見つめる雄太。

 「オレは姉ちゃんが変わった気がする――」

 それから、こんな事を言った。


 「――好きなヤツとか出来たのか?」


 ボクは、曖昧に頷く事しか出来なかった。


     4


 ボートに乗った後、難しい顔をした雄太とアイスを食べた。

 夏の暑さの中では、何か考えて事をしている雄太のアイスはすぐに溶けてしまう。

 「雄太、アイス溶けているよ」

 「うわ、マズイ!」

 慌てて頬張るけれど、食べ終わる頃には手がベタベタになってしまっていた。

 「後で手を洗わないとね」

 そう言ってからボクは雄太の手を取って、付いたアイスを舐め取る。

 「ちょ!姉ちゃん!」

 「どうしたの?」

 何やら顔を赤くしている雄太。意味が分からず、続けて指を咥えて舐め取る。

 「お、オレ、トイレで洗ってくる!」

 凄い勢いで走って行ってしまった。

 雄太を待っていると、木村君に会った。

 「お、部長じゃないですか~奇遇っすね。今日も写真ですか?」

 ヒラヒラ、と手を振ってこちらに来る木村君。

 「久しぶりだね、木村君!」

 「ホント、久しぶりっすね!いや、俺としては部長と会えなくて寂しかったですわ。ところで……今、暇なら俺とデートとかしません?いや~俺、今は暇でして~」

 うん、木村君は何にも変わってないね。

 そう思った時だった。


 「テメー、ウチの姉ちゃんをナンパしてんじゃねえぞ!この、軽薄茶髪野郎!」


 雄太が凄い勢いで戻って来て、木村君にドロップキックを入れた!

 それから暫く、一悶着あってから三人でお茶をしたんだけど、雄太と木村くんはいがみ合ってばかりだった。


 ふたりは相性が悪いのかな?


 ボクはそう、思った。


挿絵(By みてみん)

次回は木村君サイドになります。

コイツは普段、ひとりの時は何しているんでしょうね?

ナニじゃないよ(笑)

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