七話 部活はみんなでするものです、多分
1
六月も終わり、梅雨も明けた七月の初め頃。
いつものように部室で過ごしていると、麻美ちゃんが突然叫んだ。
「わたくし、もう我慢できませんわ!」
「「何が?」」
ボクと木村君の声がハモる。
パソコンで撮ってきた写真を整理していたボクは振り返り、机に突っ伏して寝ていた木村君は顔を上げる。
「前々から思っていたのですが、ここは写真部ですわよね!それなのに何故、部員みんなで活動する事がないのですか?折角の部活動なのに!短い青春の一ページなのに!」
麻美ちゃんはワナワナと、強く手を握りながら力説する。
青春の一ページは兎も角、言われてみればそうかもしれないと思った。この写真部は今まで部員全員で、撮影会とかした事が無い。
でもそれは――
ボクは木村君と麻美ちゃんを見る。
――写真部に入部したのに写真も撮らず居眠りばかりしている部員がいたり、そもそも写真を撮りたくて入部した訳じゃない部員がいるからじゃないかな。
そんな事を心の中で思ったりした。
「そこでわたくし、部長に提案がありますの!」
「なにかな?」
「今度の日曜日、みんなで植物園に行きませんか?そこで撮影会を行いましょう!」
「俺、カメラ持ってないんすけど~」
木村君が手を挙げる。
「木村さんには、わたくしの用意するカメラの内のひとつをお貸ししますわ」
「まあ、それなら~」
ヒラヒラと手を振って答える木村君。
「あ、でも植物園となると予算の問題も……」
ボクは腕を組んで考える。
この部活動は部員が少ないので予算は少ない。特に使っている事は無いんだけど、何かあった時の為に取っておきたい気持ちもある。だからといって部員に部活の事で自腹を切らせるのもどうだろう、とも思う。
「それも心配無いですわ。その植物園はわたくしの家の会社で経営しておりますので、無料で利用できますわ」
「そうなんだ」
麻美ちゃんは大きな会社の社長さんの娘さんらしいんだけど、どうやら本当にそうみたいだ。
「では今度の週末、この街の植物園に集合で決まりですわね!」
ボクと木村君は頷いた。
2
日曜日の朝。みんなで決めた時間、十時ちょうどにボクは植物園を訪れた。
「お待ちしておりましわ」
待ち合わせの場所に決めた入口には、麻美ちゃんが既に来ていた。
「おはよう、麻美ちゃん!」
「おはようございます、栞さん!」
互いに挨拶をする。
「木村さんはまだ来てないみたいですわね」
「ボクの方に、ちょっと遅れるってメールあったよ」
「そうなのですね……」
麻美ちゃんは溜め息を吐いた。
ボクは麻美ちゃんの格好を見る。所々にフリルの入った薄い緑のワンピースに、同じ色のリボンで合わせた帽子。撮影会に向いているか、と言われれば違う気もするけど、可愛らしくてとても麻美ちゃんには似合っていた。
「そのワンピース可愛いね!」
「ありがとうございます!栞さんは……活動的な出で立ちですわね!」
今日のボクは白いYシャツに茶のベスト、そこに黒のミニスカートを着ていた。
「ボクは休日も写真を撮っている事あるからね、こんな格好の事が多いかな。その、自分では少し可愛らしさが足りないかな、と思う時もあるけど……」
「いえ、そんな事はありませんわ!栞さんに似合っていて、十分可愛らしいと思いますわ!」
「ありがとう!」
お互いに笑い合う。
「すいません、遅れました~」
そこに木村君がやって来た。ピンクのシャツに青のジーンズ。腕にはブレスレット。なんでだろう、格好自体はそこまで派手ではないのに、ボクもそれから多分、麻美ちゃんも思った事がある。
顔を見合わせるボク達。
『なんか――チャラい!』
3
植物園に入った後、ボク達は分かれて写真を撮る事にした。
七月に入り、夏を感じさせる陽気が降り注ぐ。それは爽やかなもので梅雨の頃とは違い、園を歩く人達からもその足取りからは軽やかさを感じた。心なしか物言わない植物達も輝いているように見えた。色とりどりに咲く花。鮮やかに萌える緑。
それらに対してシャッターを切り、カメラに収めていく。
きっと夏は近い、それは直ぐそこまで――
聴こえる筈の無い季節の足音を聴いた気がした。
暫く時間を置いて、昼食時にボク達は集った。
園の中のフードコートで各々、朝食を取りながら撮ってきた写真を見せ合う。
「まずは、わたくしから!」
ボロネーゼを食べる麻美ちゃんの写真を見る。そこに写っているのはラフレシアとか、ハエトリグサとか珍しい植物ばかり。
うわ、ハエトリグサの写真。今、虫がまさに溶かされているところだ!
麻美ちゃんって、実はこう――
「なんつうか、案外ゲテモノ趣味?」
――木村くん!
ボクも思ったけど。それ、思ったけど!
「え、珍しいし。その可愛らしくありませんか?」
確かに珍しくはある。でも可愛いかと言われると――
木村君は無言で空を仰ぎ、ボクは下に俯いた。
どうやら麻美ちゃんの感性は独特なものらしい。
次は味噌ラーメンを啜る木村君の写真を見た。
そこに写っているのは、女の子の胸元やスカートから覗く太腿。それから、口紅に染められた唇と口元。中には手を繋いでいる親子くらいの歳の差のあるオジサンとお姉さんの写真もある。
あ、抱き合っている写真もある!
次は、見つめ合っていて……えっと、その。
「破廉恥ですわ――!」
麻美ちゃんが叫んだ!
「え、ダメすっか?カップルのヤツなんか、色々秘密を覗き見れていいかな~と思ったんですが」
「……木村君は、ある意味向いているとは思うよ。いかがわしい写真を撮る方なら」
ボクは静かに呟いた。
最後にタヌキうどんを食べるボクの写真を見せた。
「流石は部長っすね~!普通にいいと思いますよ!」
「わたくしもそう思いますわ。特にこのヒマワリの写真とか、わたくしは好きですわ!」
ボク自身としては自分の写真がいいものか、判断は難しい。
よく撮れた、と思う事はあっても。
今回、ふたりからは好評だった。
でもその前に写真部の部長として思う事は――ふたりの写真はまずなかなか個性的過ぎるかな、と。
4
写真を撮り終えた後、三人で植物園を歩いた。
それは部活動ではなく、休日に一緒に遊ぶ友達同士だったと思う。
「こうして友人と休日に楽しく過ごす、というのはやはりいいものですわね!わたくしは今までこういう機会があまり無かったので、そう思いますわ」
「ボクも同じかな」
ボクも中学の時は、クラスで色々あったのでそう思う。
「そうっすね~、後ろから他の女の子の視線が追いかけてくる心配が無いっていいものですね。あれは恐かったわ~」
「「……」」
ボクと麻美ちゃんは見つめ合う。
それから、ふたりで声を合わせて木村君に言った。
「「それは、普段の行いが悪いんだと思う!」」
次回は夏休みのお話なんですが……部活のお話ではなかったり。
部長と木村君の独白がメインの予定です。