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色彩スプライン  作者: 白河律
7/16

六話 彼女は嵐のように

今回から新キャラの登場です!

     1


 「たのもーですわ!」


 勢いよく開け放たれる部室のドア。

 六月も中頃の放課後――撮り溜めた写真をパソコンで整理していたボクと、いつものように机に突っ伏して寝ていた木村君は、その事で開かれたドアの方を見た。

 そこには、ひとりの女の子がいた。

 制服のリボンの色からすると、ボクと同じ一年生だと思う。

 彼女は鋭い目つきで部室を見渡す。

 その子の容姿は整っていて、身長もボクよりも高い。

 それになんだか綺麗な髪飾りをしていて、雰囲気に気品があるように見えた。

 ボクを見て、木村君を見て、そしてもう一度ボクを見るとツカツカと歩いて来て、ある用紙を手渡した。

 「これ、入部届ですわ!」

 「あ、うん……」

 入部届を受け取る。

 名前の覧には――東島麻美(とうじまあさみ)とあった。

 なんだろう?

 彼女に睨まれているように感じた。

 その事で新入部員が増えて嬉しい筈なのに、素直に喜ぶ事ができなかった。

 ボクは彼女に何かしてしまったんだろうか?

 でも別のクラスだし、面識も無いんだよね。


 それなら、どうして?


 ボク達の雰囲気を感じたのか、木村君が彼女に――東島さんに声を掛けた。

 「ちょっと、アンタいきなり来てなんなのさ?」

 そう言うと、東島さんは悲しげな顔をした。

 「あの、木村さん…わたくしをお忘れですか……?入学式にお声を掛けて頂いて、お出かけの約束もして下さったのに……」

 木村君が腕を組んで、何かを思い出すように考え込む。

 しばらく経ってから、バツが悪そうに頭を搔いた。

 「そういや、そんな事もあったような……」

 「やはりお忘れでしたのね……ずっとお待ちしておりましたのに…聞けば、何やら男女ふたりっきりで部室で毎日過ごされているとか!」

 それからボクに向かって、こう言った。

 「あなた、名前はなんて言いますの?」

 「山城栞……だけど」


 「ならわたくし、あなたに宣戦布告しますわ!恋のライバルとして!」


 えっと、これはどういう事なんだろう?

 恋のライバルって?

 ボクは首を傾げる事しかできなかった。


     2


 「山城栞さん、わたくしと勝負致しましょう!どちらが、木村さんにふさわしいかを賭けて!」

 「ちょっと、待ってもらってもいいかな?勝負ってどういう事かな、それから恋のライバルって……」

 「知れた事を。わたくし知っていますわ。そ、そのおふたりは…付き合ってなさるのでしょう……それできっと、わたくしの事なんかお忘れになられて…だから、追いかける為に入部しようと決めましたのに……」

 そんな噂が流れていたんだ。ボクは初めてその事を知った。

 「あの、それなら心配しなくていいよ。ボクと木村君は別に付き合っていないから。ねえ、木村君?」

 そう言うと、木村君はなんとも言えない表情でボクを見た。

 「そう、なのですか?」

 頷く。

 けれど、東島さんは木村君を見つめてから言った。

 「……成程、確かにそのようですわね。しかし、どうもそれだけとは言えないようで」

 ボクは彼女の言葉の意味が分からなかった。

 「分かりました……やはり、勝負致しましょう!」

 「どうしてかな……?」

 「そうしないと、わたくしの気が収まりませんのよ!」

 東島さんが叫んだ!



 「それで対決って何をすればいいのかな?」

 東島さんから逃げられないと感じたボクは、勝負を受ける事にした。

 「そうですわね……チェスとか如何でしょうか?」

 「ボクはルールを知らないよ?」

 「そうなのですか?」

 「ブタ○ントンとか、どうかな?この間、部室で見つけたんだよね!」

 「なんですの、それは……?」

 「知らないかな?なら、じゃんけんとか」

 「じゃんけんで決まるわたくしの恋心の行方……」

 なかなか対決する種目は決まらなかった。

 「じゃあ、野球券とかどうですか~?負けると一枚ずつ脱ぐヤツ」


 「木村君……」

 「木村さん……」


 ふたりで冷たい眼差しで木村君を見る。


 「すいませんでした!」

 木村君が頭を下げた。


     3


 「あの、ちょっと出かけてもいいかな?」

 夕暮れが近づく街を見て、ボクは言った。

 「どうしてですの?」

 「写真を撮りに行きたいんだよね。どうしても撮りたい景色があるんだ」

 「そうでしたわね、ここは写真部でしたわね。分かりました……わたくしも付いて行ってもいいですか?」

 「いいよ!」

 ボクは頷く。

 「木村君はどうする?」

 「ん~いつも通りパスっす!」

 「そう。ならボクと東島さんで――東島さんはカメラを持ってるのかな?」

 「えっと、カメラ……ですか?すみません、持っておりません!その、木村さんの事や勝負することばかり考えていて……」

 その答えを聞いて思う。

 どうしてこの部は、写真を撮りたい人が入ってこないんだろうね。



 東島さんと一緒に街に出て、写真を撮っていく。

 街の風景やそこにいる人達を。

 そんなボクを見て東島さんは言った。

 「あなたは、本当に写真を撮るのがお好きなのですね!」

 「そう、見える?」

 「ええ」

 「それなら嬉しいかな」

 「わたくし、あなたを誤解していたかもしれません。あなたは、ただ写真が撮りたいだけで。そのわたくし……」

 何かを言いかけた時、その声がした。

 「わん、わん!」

 ボクの足元に身体を摺り寄せるちび太がいた。

 「ちび太、今日も外に出て来たんだ!」

 その身体を抱き上げる。

 「あ、あ……」

 「どうしたの?」

 ボクとちび太を見て、東島さんが震えていた、その顔は引きつっていた。

 「わ、わた、わたくし……犬は苦手ですの――!」

 そう言うと、凄い勢いで逃げ出すように走り出した!

 ボクとちび太は東島さんを追いかける!


     4


 千羽池の土手でボクと東島さん、ちび太は座り込む。

 荒れた息を整えるようにして。

 結構な距離を走ったと思う。

 「ごめん、なさい……その、昔に大きな犬に追い掛け回された事がありましてそれ以来、苦手になりましたの……」

 「そうだったんだ……」

 頷く。

 「ええ、だからその……」

 東島さんはちび太から離れようとする。

 「わん……」

 ちび太が悲しそうに鳴く。

 「小さくてもダメなんだ」

 ボクはちび太を撫でる。

 そうしながら土手から見える空を見た。

 見えた景色はとても綺麗で――ボクは衝動的にカメラを取って立ち上がり。その景色を収めていく。

 そんなボクを東島さんは見つめていた。



 「あなたは――山城さんはどうして、そんなにも写真を撮る事が好きになりましたの?」

 ボクは悠さんの事を話した。

 悠さんとの出会いや、写真を撮る事の素晴らしさを教えてもらった事を。

 「そうでしたの。山城さんは、そのひとの事をもしかして――」

 「悠さんはボクの大事なひとだよ!」

 「私達は案外、似た想いを抱いているのかもしれませんね……」

 東島さんは、木村君との出会いについて話してくれた。


 家が大企業の社長をしていて、その事もあって今までの学校生活でなかなか友達が出来なかった事。

 高校生になった時、そんな東島さんに木村君が何の気兼ねも無く話掛けてくれた事が本当に嬉しかった事。

 そんな木村君が好きになった事。


 「だから、木村さんが他の女の子と付き合っているかもしれないと聞いた時、いてもたってもいられませんでしたの……」

 「そうだったんだ。うん、分かったよ。東島さんは真っ直ぐなんだね、自分の気持ちに。ちょっと羨ましいかも。ボクはそんな風には、自分の気持ちを素直には表せない気がするから」

 ボクは笑う。

 「あの山城さん、ごめんなさい!わたくし、あなたの事を誤解していましたわ!」

 東島さんが頭を下げた。

 「ボ、ボクは大丈夫だから、頭をあげてよ」

 「ありがとうございます、山城さん!あの、それから厚かましいお願いなのですが、わたくしと友達になってもらえませんか?あなたはその……いいひとだと思いましたから」

 「うん、いいよ!」

 ボク達は握手した。



 「ところで山城さんは……いえ、栞さんは木村さんのお気持ちを知っていますの?」

 「木村君の気持ち?」

 「ああ、やはりそうなのですね。少しだけ木村さんに、同情いたしますの……」

 どういう事なんだろう?

 「あ、そう言えばボクと友達になったって事はちび太とも友達になったって事だよね?」

 「えっと、それはですね……」

 「頭撫でてあげて欲しいな」

 「わん!」

 ちび太がキラキラした目で東島さん――麻美ちゃんを見る。

 麻美ちゃんは震える手で、ちび太を撫でようとする。

 けれど――

 「やっぱり、無理ですの――!」


 麻美ちゃんは再び、走り出した!

 夕暮れに染まる土手を。

 ボク達はまた、追いかけた。


挿絵(By みてみん)

ブタ〇ントンわかる方、いますかね?

割と欲しかったです、あれ(笑)

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