二話 いきなり廃部の危機!
1
放課後、部室のドアを勢いよく開けてボクは言った。
「木村君、大変だよ!」
「んん~大変って何が大変なんすか、部長」
いつも通り部室の机に突っ伏して眠っていた木村君が、目を開けてこちらを見た。
「この写真部が廃部になりそうなんだよ!」
捲し立てるように言う。
「あの~部長すみませんが、話が見えないんすけど?落ち着いて最初から話してもらえます?」
「あ、ごめんね……」
木村君の声にボクは一息付いて、落ち着きを取り戻してから話した。
部室に来る前にボクは、芳野先生に話があるって言われて職員室に呼ばれた。
吉野先生がボクにした話は、写真部の部員が足りないという事だった。
このままだと、二週間後の生徒会の会議で廃部になることが決まってしまうそうだ。
本当はもうぎりぎりらしいんだけど、芳野先生が取り計らってくれて一週間後までに、部員を五名にすればいいとの事だった。
「そういう事があったんだよ」
「なるほど」
木村君が頷く。
「それで、部長は何か部員を集める策はあるんですか?」
「そうだね……」
ボクは考え込む。
「部員募集のポスターを張るとか」
「それは、最初の頃やりましたよね、それで結果は――」
木村君が部室を見渡す。ボクと木村君以外誰もいない。
「効果は……薄いかな。それなら写真の展示会はどうかな?これなら写真部の活動らしいし、なにより写真を撮る楽しみが伝わると思うんだ!」
ボクは妙案だと思ったんだ。
でも木村君は言ったんだ。
「いや~インパクトが足りねえっす!」
なにやら意気込む木村君、何かいいアイディアがあるみたいだね。
2
「木村君はどんなアイディアがあるのかな?」
聞いてみる事にした。
「部長、ここは色気で攻めるとかどうすか?」
「……色気?」
木村君がボクを頭からつま先まで、品定めするように眺めた。
「部長はまあ顔はいいほうですし、少し背が低いですけどスタイルも悪くない。だからここは、コスプレして写真張ったボード持って歩くとか、どうですか~?」
「……コスプレ?」
「そうっす!メイドとかチャイナ服とか、バニーとかゴスロリとか、ナースとか」
「……えっと」
「ああ、イヤなら他校の制服もありますよ!なんでも言ってください、大体持ってますから、俺!」
いつになくやる気の木村君。
どうして、そんなの持っているんだろうね。
色々な格好で学校を歩く自分を、想像してみる。
なんか、あんまり写真部の活動とは関係ないような気がした。
「却下かな……」
「ええ~マジっすか?それならある程度、野郎は釣れるしいいかなぁ、と思ったんですが。それにそんな部長の姿なら俺、気合入れてカメラ回しますよ!」
木村君がボクに向かって写真を撮る仕草をする。
なんでだろう、木村君がするといかがわしい写真を撮る人みたいだった。
3
木村君の案を却下したボクは街に出た。
やっぱり、写真の展示会をしようと思ったから。そのための写真を撮ることにしたんだ。
五月の空は青くて澄んでいて、街からは桜は散ってしまったけれど、青々した青葉が茂っている。
あと一か月もすると、梅雨になるからこんな時期は短い。
そんな中でふと目に付いた光景がある。
街角から、見上げた空。それはまるで蒼い宇宙。
それを、写真に収めた。
そうして写真を撮っていると、ちび太と会ったんだ。
「わん、わん!」
ボクを見ると、擦り寄ってくる。
そんなちび太の頭を、しゃがんで撫でる。
すると、ちび太は嬉しそうにしっぽを振る。
ちび太は今日も元気みたいだ。
そんなちび太を見ていると――不意に部員の事を思い出してしまう。
あと一週間、うまくいくのかな?
不安になった。
「わん、わん!」
そんなボクを見て、ちび太が元気付けるように鳴く。
ありがとう、ちび太は優しいね。
ふと、思い付いた。
ダメで元々、ちび太に部員になってもらおう。
「ちび太、ごめんね。少しだけ我慢してね」
「わん?」
ちび太がボクを見て、不思議そうな顔をする。
ちび太の手を持って、その肉球を赤ペンで塗る。
くすぐったそうにしていたけど、ちび太は逃げ出さずにいてくれた。
ちび太の前には一枚の部員届。ちび太は名前は書けないから、ボクが書いた。後はハンコを押すだけ。それもないから、こうしてサインを押してもらう事にした。
塗り終わった後、ボクは言った。
「ちび太、お手!」
「わん!」
部員届にちび太の肉球のサインが押される。
その後、肉球を綺麗に洗ってからお礼にちび太に肉まんを買ってあげた。
4
それから、一週間後。
写真の展示会もしたけれど、部員は集まらなかった。
はあ、とボクは溜め息をついた。
これから、どうしよう。
部室は無くても写真は撮れる。でも、できれば写真部を残したかった。
この部は――ボクに写真を教えてくれたひとがいた部でもあるから。
これから、部員が集まらなかった事を芳野先生に報告しに行こうと思った。
部室を出ようとした時、木村君が声を掛けた。
「部長、部員届ならありますよ~」
「えっ……?」
振り返ると、笑いながら木村君がヒラヒラと部員届を振っていた。
受け取って見ると、三枚の部員届には見た事の無い名前とハンコが押されていた。
「そいつら、部活動には出ないと思いますけどそれでいいっすよね、部長~」
「もちろんだよ!ありがとう、木村君!」
ボクは木村くんを見つめて、その手を取る。
「お、おう……」
木村君が気恥しそうに、顔を背けた。
そんな木村君が珍しかった。
「ところで、木村君。ボクも一枚だけ部員届集めたよ」
「ホントっすか、部長~」
ボクはちび太の部員届を見せた。
「部長……流石に犬は無理っす!」
やっぱり、ダメだった。
次回は、栞の少し前のお話。
栞に写真を教えたひととの出会いのお話。