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十話 秋の気配は直ぐ、傍に

     1


 夏休みの終わった後の放課後の部室に、ボク達はいた。

 木村君は相変わらず、机に突っ伏して眠っている。

 カーテンから零れる西日が顔を差すと、まるで尺取虫のようにそのまま身体を移動する。カーテンを閉めるという選択肢は木村君には無いらしい。

 麻美ちゃんは、その机の反対側で図鑑を読んでいる。

 ハエトリソウとか、ラフレシアとか変わった花が載ったものを。


 かく言うと、夏休みを海外で過ごした麻美ちゃんのお土産は、ラフレシアだった。

 「この子、凄く可愛いですわよね!」

 そう言って、麻美ちゃんはお付の人の車でラフレシアを運んできた。


 でもその大きさと匂いが強烈だったので、部室には入れる事は出来なくて結局、木村君のツテで園芸部の花壇に植えられる事になった。

 麻美ちゃんは時々、会いに(?)行っているらしい。

 名前はオスカル、というみたいだ。

 麻美ちゃん曰く、その花の色と花ビラの造形が優雅だからだそうだ。

 ……ボクのクラスメイトはそのラフレシアを、匂いと見た目からヘルフラワーと呼んでいたと思う。

 なかなか、シュミって難しいね。

 ボクは夏の間に撮った写真を、パソコンのフォルダーに移して整理していた。

 こうして、簡単にデータとしてパソコンに移せるのはデジカメの良い所だと思う。

 でもやっぱり、本格的に写真を撮るなら一眼レフみたいなカメラの方がいいとも思う。

 そうなると、お小遣いの問題が……

 貯めてはいるけれど目標額まではまだ遠い。アルバイトとかすれば、早く貯まるかな?

 「アルバイト……」

 思わず、言葉が零れる。

 「んわ……?」

 「……アルバイトですの?」

 木村君達が顔を上げて、言葉を拾う。


     2


 「どうかしたんですの?」

 麻美ちゃんが首を傾げる。

 「うん、カメラが欲しいって思って。デジカメとは違う本格的なものが」

 「成程ですわ!栞さん程の情熱があれば、是非とも入用でしょうね!」

 「でも、お小遣いが足りなくて……」

 「確かに、モノによっては高い買い物ですしね」

 麻美ちゃんが頷く。

 「だから何かいいアルバイトはあるかな、と思って。勉強の事もあるから短期のものがいいかな」

 「そうだな~」

 「そうですわね……」

 ふたりが思案顔になる。

 暫くすると木村君が答えた。

 「俺、良いバイト知ってますよ~!夕方から夜に数時間でOK!短時間で高収入ですよ!」

 「……限り無く、イヤな予感しかしないけど聞くよ」

 「それは勿論、キャバクラでしょう!大丈夫、部長くらいの器量なら、お客も付きますよ!あ、最初の指名は俺がしますから、是非!」

 ……やっぱり、そっちの方なんだ。

 「あの、ボクはまだ十六才じゃないんだけど……それに、家族とか学校とか色々と問題がある気がするんだけど……」

 「大丈夫ですよ、年齢詐称なんてザラですから!前に行った店なんか、二十才という名の三十代のシンデレラが出てきましたから!いやあ、あの時は大変でしたよ……」

 前から思ってたんだけど、木村君ってボク達と同じ歳なんだよね?

 なんで、そういうお店に行った事があるんだろうね。

 「ふ・け・つですわー!」

 「いって!」

 木村君を麻美ちゃんが図鑑で叩く。

 「全く、木村さんは栞さんに何をさせたいんですか!」

 「……そりぁ~勿論、アレな事……俺限定で」

 最後の方は声が小さくて、上手く聞き取れなかった。

 「くたばれ!」

 「ぐは!」

 でも麻美ちゃんには聞こえたみたいで、彼女が繰り出したグーによる正拳突きが木村君のお腹に突き刺さった。

 遠目に見ても、なかなか痛そうだった。


     3


 「さて、こんなフシダラな木村さんの事は置いておいてわたくしでしたら……栞さんには、わたくし専属のメイドになって頂くのも良いかもしれませんね」

 「麻美ちゃんのメイド?」

 「ええ、あくまで建前上だけですけれど。栞さんと、友達と生活を共にするのはした事がありませんからね。わたくしは兄弟もいませんから、自分と近い歳の子と過ごしてみたいですわ」

 「なるほど」

 「一緒にご飯を食べたり、出掛けたり買い物もする事も。想像すると姉妹のようですわね」

 「麻美ちゃんとボクだったら、どっちが姉で妹かな?」

 「何となくですけれど、わたくしが姉で栞さんが妹な気がしますわ」

 ボクが妹か。ずっとお姉ちゃんだったから、それは新鮮かもしれない。

 「じゃあ、試しに呼んでみるね。麻美おねえちゃん!」

 「麻美おねえちゃん……」

 「麻美おねえちゃん、今日は一緒に帰ろう!それから、今夜は一緒にお風呂にも入ろうよ!身体を洗い合ってもいい?」

 「……いい、いいですわ!」

 麻美ちゃんが身体を震わせながら、拳を握る。

 「栞さんが妹。仲のいい姉妹。素晴らしいですわ!栞さん、是非その気になりましたらわたくしの妹になってくださいまし!」

 「うん」

 ボクは頷く。なんか、これはこれで不健全な気もしたけれど。

 「あの~」

 痛みにお腹を押さえていた木村くんが、手を挙げる。

 「俺もその中に入っていいっすか~兄か弟辺りで」

 「「……」」

 ふたりで木村君を見る。

 兄か弟……なんでだろう、女の子の事でいつも問題ばかり起こす放蕩気味な男の子のイメージが浮かぶ。

 麻美ちゃんも同じなのか、目が険しい。

 「「却下で」」

 「え~、ダメっすか?」

 ボクと麻美ちゃんは同時に頷く。


     4


 取りあえず、アルバイトの事は置いておいてボクは写真を撮る為に街に出た。

 夏を僅かに過ぎた街は、少しだけ景色を変えたように思える。

 傍目には何も変わらないように見えるけれど。

 それは暑さ、いや気温、空気の問題なのかな。

 それでも差す西日はまだ鋭い。


 残暑だと思う。

 過ぎた夏の残り香。

 これから、季節は少しずつ変わっていくのだ。

 ――秋へと。

 秋の気配は直ぐ傍に。


 千羽池を見れば、秋祭りの準備を始まっていた。


 もう少しで一年が経つんだと思った。

 悠さんと出会ってから。

 息を吸う。

 あの頃の空気を思い出すように。

 今年も悠さんと出会えるかな。


 「わん、わん!」

 足元も見れば、ちび太がいた。

 夏休みの間も、ちび太には会った。

 その時よりも、毛が伸びている気がした。

 少し、もこもこと膨らんだちび太を抱き上げる。

 そして、ぎゅっと抱きしめる。


 ――ボクは悠さんに、また会いたい。

挿絵(By みてみん)


これにて、二部の終了です!

次回からスプラインは大きく話が動きだすと思います。


彼女達の想いの行方はどこへ向かうのか?

お楽しみ!

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