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ALLEGROSSO  作者: GALA
4/11

(4)宿題は一人でする派だったけど

 木曜日の放課後、よく考えたら一緒に行く事が急に恥ずかしく思えてきた。でも、しょうがないよな、せめて最初は一緒に行かないと。とりあえず校門で待っとけ、と言ったけどそれすらもなんだかムズムズする。


 ああ、落ち着かない。この緊張感が放課後まで続くのかよ。


「佳之ぃ、今日帰りちょっと付き合えよ」

 ヒデノリが誘うのは多分本屋かファストフードくらいだろう。

「悪い、今日祖母ちゃんとこ行くんだ」

「えー、なんだよ、いいもの見せてやろうと思ったのに」

「……何、いいものって」

「ププッ、お・し・え・な・い」

「何だよ、教えろよ。もったいつけやがって」


 教えない、と言う割には教えたそうでたまらない顔をして、ヒデノリは俺の耳に口を寄せて小さい声で言った。

「大人のディスパ※。すげえらしいよぉ」     (※現代ではDVDのようなもの)

「バッ……お前なあ……そんなもんどこで手に入れたんだよ」

「カイトの兄ちゃんの部屋にあったらしい。すげえらしいよぉ」

「とにかく! 俺は忙しいんだよ!」

「ん? デートかな?」

「バッ……んなわけねえだろ!」

「ちぇっ、つまんないの。すげえらしいのにぃ、ざぁんねんだねえ。もう土曜日には返すのになー」

「ちぇっ、とか声に出して言う奴、初めて見たわ。アホ」



 そりゃ、俺だって興味はあるけどな……タブフォンはもちろん家のパソコンもガッチガチのフィルターかかってるし、リビングにあるしでそんなの見れない。そうか、でもディスパなら見れるんだよな……って、そういう問題じゃねえか。見たくないって言えば嘘になるけど、とにかく今日はダメ……くそっ。



 放課後、俺のクラスの方が終わるの早くて10分位校門で待った。

「あー、佳之、ごめん! 待った? もう先生話長くてさ」

 ちょっ、声デカい……皆ジロジロ見てんじゃねえか、バカ! これじゃまるで待ち合わせて帰るバカップルだろ!


「ほら、祖母ちゃん待ってるぞ。ちゃんと宿題持って来ただろうな」

 わざと祖母ちゃん、を強調して言った。

「あったりまえじゃん。なんなの、珍しく大声で」


 祖母ちゃんの家までは、学校から歩いて20分かかる。道すがら、橋口はしゃべり通しだ。先生の話やドラマの話をしていたが、やはり自然と進路の話になった。今のままではギリギリ爽生、春山はちょっと難しいかも、と先生に言われてめっちゃ落ち込んだ、というような話だった。


 俺は神戸へ行くかもしれない、という話はできないままお祖母ちゃんの家に着いた。

 

 ドアは勝手に開けていいけど必ず靴をそろえて入ること、手を洗う事、家の中で会った人には相手が何歳だろうと必ず挨拶をすること、ケンカしない、中学生はリビングテーブルで勉強すること、飲み物は自由に取っていい、などなど、この家でのルールを一通り説明した。


 庭から恵太おじさんが上がってきた。

「ほら、この人が数学を教えてくれる恵太おじ……恵太先生」

「こんにちは、橋口菜摘です。よろしくお願いします」

「ああ、こんにちは。佳之のお友達だってね、よろしく。今日は美晴はちょっと用事があって遅いんだ」

 恵太おじさんが、俺らの為におやつを出しに台所へ行った。


「美晴ってのが俺の祖母ちゃん……英語、教えてくれる」

「そうなんだ……ってことは恵太先生って佳之のお祖父ちゃんなの?」

「いや、違う。あの人は何て言うかな……祖母ちゃんと一緒にここに住んでる」

「えーっ、嘘。だって佳之そっくりじゃん?」

「え?」

「佳之が歳とったらあんな感じになるなあ、って思ったもん」

「そんなわけねえだろ。恵太おじさんは、うちの死んだ祖父ちゃんの親友だって」

「へえ……その人が、お祖母ちゃんと住んでるの? それはそれで、何だか複雑な大人の事情だね」


 中学にもなるとそういう事もわかってくるんだよな。でも、その辺の事情は誰にもはっきり聞くことはできなかった。何だか、聞いちゃいけないような雰囲気なんだ。それにしても、そんなに似てるか?


「手は洗ったか? さあ、どうぞ」

 恵太おじさんが、ゼリーと麦茶をそれぞれ出してくれた。多分、色から推測するに紅茶のゼリーだろう。ホイップクリームとミントの葉が乗っている。橋口は一口食べると両手をグーにしてブルッと震わせた。

「んんんーっ、美味しい! 佳之いつもこんなの食べてるの? いいなあ」

「だろ、祖母ちゃんのおやつはどれでも美味しいからな。お前太るぞ、絶対」

「えーっ……嬉しいような、困るような」


「ははっ、菜摘ちゃんは楽しい子だね。佳之と同じクラス?」

「今は隣のクラスですけど、去年は同じでした」

「佳之、あんまり友達の話しないからなあ。学校でうまくやれてるのか心配でね」

「大丈夫ですよ、佳之何でもできるからちょっと妬まれるくらいで」

「……ちょっ、お前余計な事言うなよ」

「あ、ごめん。でもさ、それだけ優秀ってことじゃん。羨ましいよ」

「ははっ、そうかそうか、ありがとう。これから時々教えてくれると嬉しいな」

「おじさん、聞かなくていいよ、俺のことなんか。親じゃあるまいし」

「美歌も気にしてるんだよ」

「いいって……食べ終わったか? 終わったら、台所に器を下げて……あ、コップはいいから。飲み物は自由」

「はーい」

 

 すると橋口は、俺の器までさっと重ねて持って行ってくれた。

「あっ……サンキュー……」

「お安い御用」

 ほんとは自分でしなきゃいけないんだけどな……家の事は何でも自分でしてるって言ってたなあ……料理とか、するんだろうか。エプロンをして台所に立つ橋口を想像……してねえって。何を考えてるんだ、俺は。


「じゃあ、宿題するぞ。めんどくせえけど」


 ざっとノートやプリントを出し、とりあえず今はお祖母ちゃんがいないから数学からしようか、とおじさんに言われプリントを始めた。俺は、正直これくらいのはすぐ終わっちゃうんだけど、橋口は半分過ぎたあたりでシャーペンの音が止まり、小さい声でえーっ、とか、あ、違った、とかブツブツ言いはじめた。


 恵太おじさんは、小学生におやつを出すのに忙しいようだ。


「何、どこだよ」

「ああ……えっとね、ここ。どうしても解けない」

「ああ、これな。これ、ここカッコでくくってみ」

「……ああ! あーあ!」

「うるさい、声」

「あ、ごめん……ありがと、解けそう」


 ……へえ、字、綺麗だな。書道部だもんな。書道では賞もらったりするけど、実は普段はちょっと汚い自分の字が、恥かしくなった。


「あ、ねえ、できた! ほら、合ってる?」

 嬉しそうだな。おもしれえ。


「ああ、合ってる」

「よし、じゃあ次……」

 またしばらく考え込み、書き始めたので覗き込むと、マイナスを間違えてる。でも、ちょっと様子を見る。こういうのすぐ教えるのも良くないから、って恵太おじさんいつも言ってるし。


「あっれー……」

「よく見てみ」

 もう一度消しゴムで全部消そうとした。

「あー、消すなって。途中までは合ってる」

「えっ、そうなんだ……」


 しばらくプリントを睨んでいたが、パアッと表情が変わった。

「ね! もしかしてこれ? ここ? マイナス?」

「そ。な、よく考えればわかるんだよ」

「そっかあ、ありがと!」

「いや、俺なんも言ってねえし」


 あの、表情変わる時って面白いよな。小学生にもたまに教えるけど、そういう瞬間がたまらなく好きだったりする。橋口の嬉しそうな顔見たら、なんか笑いがこみ上げてきて抑えるの苦労した。


 宿題を友達とやる奴なんて、集中できなくて時間かかるばっかりでアホなんじゃねえかと思ってたけど……結構、楽しいもんなんだな。


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