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LOAD GAME →キャンプ場にて 残り時間228:00:00

 ステージ名、“太古の森”。一行がボスを倒して進んだ先は、幾つかのログハウスに大きなテントの立ち並ぶキャンプ場であった。拠点とフィールドの狭間には杭と縄が張り巡らされている。街道を抜けた先は、深い森の入り口だったのだ。鬱蒼と巨木が茂る古の森は、陽光を葉に吸収されて薄暗い。


 頼りになるのは僅かな木漏れ日と拠点で売られているカンテラ。それに落ち葉を踏み抜く足音を捉えられる聴覚だけであった。




 森閑とした森に、皮肉の嵐が吹き荒れていた。


 「この分じゃ……パーティーには入れて貰えなさそうだネ?」


 そうすっとぼけたのはメキメッサーである。彼は先の戦いでパックとアメリアに余計なことを吹き込み、そのことで兄と姉とその友人から精神攻撃を受けていたのだ。


 「馬っ鹿じゃないの!? 信じらんない! 子供をたきつけて自分は高みの見物とは、恥を知りなさい!」


 怒りに身を任せて噛みついたのはバターだった。胸倉を掴みかねない勢いでメキメッサーに詰め寄って、拠点の外に追い出しかねない勢いである。


 「やぁやぁ美しいお嬢さん! 君に憤怒の表情は似合わないヨ! ほら笑って……」

 「貴方の醜さを鼻で笑ってあげるわ……!」


 彼女は物静かなティターニアとは違い、どちらかというと動的な方である。侮蔑の視線を向けている彼女がぶん殴らなかったのは、最後の理性が、周囲に異性の目があることを捉えていたからである。


 そして静的な方のティーはというと、完全に無視だった。道端の石ですらもう少し関心を持つだろう、という程度の興味しかよせておらず、何を言われても意に介さない。


 その為メキメッサーは当初の見込み通りティーを口説くのを諦めざるを得なかったのである。


 「お前、生き方を考えろ? じゃないと、何時か決着をつけさせてもらうからな?」

 「おぉ怖いね、お兄さん! 残念だけど、早々に退散させてもらうヨ」


 目が笑っていないパフが静かに睨みつけると、メキメッサーはゆらりと身を翻し、拠点の中に駆け込んでいった。彼はソロ故に、未だに命のやり取りをしているという実感が無いのだ。


 「本っ当、何考えてるのかしら! ねぇアメリア? ああいう男に引っかかっちゃ駄目よ?」

 「あぅ。ごめんなさいです。もう少し私も大人にならないと、です……」


 安易な口車に乗せられたアメリアは肩身が狭かった。そしてそれ以上に乗せられて、ゲームオーバーの危険までを冒していたパックには尚更だった。兄たちが自分の為に怒ってくれているのは分かるのだが、同時に自分の失態を詰られたような気がして、黙りこくっていたのである。


 それを敏感に察したバターが優しく慰める。彼女は色々なところでティーに負けているが、女子力に関しては大幅にリードしているのだ。もっとも、天然のティーに勝った所で虚しいだけなのだが。


 「パック、しっかりね! 世の中には悪い人が居るんだから、気を付けないと、駄目だよ?」


 優しく諭すバターに、パックは気が付けば丸め込まれていた。年上のお姉さんの優しい言葉に、逆らえないのだ。


 「ごめん、バターねえ……バター」

 「良いのよパック。仲間なんだから、助け合って進んで行きましょ?」


 ――だから、今度は私を助けてね?


 笑ってペロッと舌を出すバター。その童女のような仕草が、勝気な彼女には不思議と似合っていた。思わず見惚れかけたパックは、話を誤魔化そうとキャンプ場に視線を向けていた。


 「……なんか、陰気なところだね……。大自然の中なのに……プレイヤーもそれなりに居るのに……なんで?」

 「少年。それは、この先で死者が出たからですよ」


 そこでパックは後ろから近付いてきた男に話しかけられていた。


 高い身長に隠し切れない気品が浮かぶ、容姿端麗という言葉がぴったりと似合う男だった。プレイヤー名“フォルゴーレ”。先行していた彼は他のパーティーメンバーと共に、一時拠点に戻っていたのだ。


 その目的は2つ。とにかく鬱蒼として道が分かりにくい、言い変えれば迷いやすい“太古の森”の貴重な情報を他の先行しているパーティーと分かち合うこと。そして、戦死の警告を出すこと。


 「どういうことだ?」

 「先行していたプレイヤーです。現在この先のフィールドの警告に回っています。気を付けてください。私の知ってるだけで2つのパーティーから死者が出ています」


 怪訝な顔のパフがひとまずリーダーを名乗って、相手の男と情報交換を開始する。そこにはフィールドの地理情報は元より、彼の顔を曇らせる情報が含まれていた。


 「毒?」

 「はい。最大の敵は、迷いやすいマップ構造です。また、下の階層と違って、ここの敵は回復アイテムをほとんど落としません。それゆえ、毒がボディーブローのようにじわじわと効きます」


 残念なことに、このゲームに便利なマップ機能は存在していない。自分達のすぐ近くの敵を検知するミニマップならあるが、フィールド全体像を掴めるようなものは無いのだ。そして拠点間を移動する転移門を除けば、ワープできるアイテムや魔法も存在しない。


 「そうなると、アイテムを買い込んだ上で、レベルを上る必要があるな」

 「……レベルに関してはその通り。最低でも25は必要でしょう。しかし、問題はアイテムの方です」


 そこでフォルゴーレは頭痛を堪えるかのように、その情報を伝えていた。アイテムが品切れなのだ。正確にはポーションの上位版であるハイポーションや、マナポーションの上位版であるエーテル、そして毒消し等である。


 アイテムの最大所持数には限界がある。長丁場になると判断したプレイヤー達が限界まで買い占めた結果、キャンプ場やこの先の拠点オーカから店売り品が無くなっていたのだ。翌日には再入荷されるだろう。だが、問題はプレイヤーに時間が無いという点である。


 「あの、だったら最初の城下町では駄目なのですか?」


 口を挟んだパックに対しても、フォルゴーレは皮肉げに首を横に振る。城下町では確かにアイテムや装備が無尽蔵に販売されている。しかし、それは攻略を終えたステージまで。現状未攻略の“太古の森”から新たに販売され始めた上位アイテムは、対象外なのだ。


 そこまで聞くと、さりげなくパーティー全員を見渡してから、にこやかに笑ったパフは告げていた。


 「さっき上がってきたばかりだが、平均は25を超えてる。こっちは問題ないぞ」

 「……ふむ。話が速くて助かりますね。では、30分後に東端のテントで」


 そう言うと、足早にフォルゴーレは立ち去って行った。そしてモデルのように優美な歩みを尻目に、パックは置いてきぼりを食らっていたのだ。それは言葉の不自由なアメリアも同様であり、バターですら必死に頭の上に浮かびかけたハテナマークを隠している。


 「で、兄公。何を企んでるんだ?」


 それらの疑問を代表して、ティーが尋ねていた。兄はひらひらと手を振って応対する。


 「手を組むんだよ。下位の回復アイテムで間に合わせるのなら、量が必要だからな。幸い俺が回復魔法を使えるだろ? 後の問題はマナポーションだけだ」

 「Hey! 一度に6人しか組めないだよ?」

 「システム上はな。でも、一緒にステージを巡るだけなら問題は無い筈だ」


 パーティー2つがかりでの攻略。手を結んだ“ナーガホーム”と“エーシィ”は、それぞれ攻略の準備に取り掛かっていた。




 両パーティーの出会い。それは非常に印象的な物であった。約束通り東端にあったテント群の中で唯一営業していた、宿屋付随の喫茶店に両陣は集結していた。


 「ブラックウィドウですぅ。よろしくお願いしまぁす! 気軽にぶーちゃんって呼んでください!」


 最初に口を開いたのは、エーシィ側のリーダーである“ブラックウィドウ”。名前の通り女性の彼女はしかし、濃い化粧で男に媚を売るタイプの女だったのだ。今も盛んに媚を売りつつ、露骨なまでに視線をパックとその兄に向けている。


 だが残念なことに、彼女には英語力が足りなかった。名前がアメリアに通じず、彼女は不思議そうな顔でこっそりとパフに確認する。


 「Black weed……黒い……雑草?」

 「……多分Black widowだな。けばけばした女の名前は」

 「そこ、聞こえてるわよ!? 誰が雑草だ?! 誰がけばけばしいだ!?」


 怒髪天を衝く勢いで、気が付けばウィドウはアメリアを涙目に追いやっていた。年下の少女に噛みつくという大人げない展開に、エーシィの面々が苦笑する。そして純真無垢なアメリアは、謝っていた。


 「ご、ごめんなさいです……化け化けしいおねーさん!」


 最悪だった。


 その言葉遣いにパフとウィドウの隣の女が堪えきれずに噴き出す中、ウィドウは気付いていた。そう、アメリアは堂々と胸を張って言ったのだ。残念なことに、ウィドウの胸はそれ以上に残念だった。


 そして、けばけばした所からも分かる通り、彼女の容姿自体でも妖精と形容されたアメリアの足元にも及んでいない。図らずして、ウィドウは劣等感を刺激されて激高していた。


 「ぶち殺すぞクソガキ!」

 「B……Buti? ……Aah! I see! Butiko loss 像! ぶち子さん、像を無くして苛立っているのですね!」


 会議は踊らず七転八倒していたが、進んではいた。怒りのあまり血管が浮き出そうなウィドウと、状況を把握しきれないアメリアが実に対照的であった。


 とはいえ、仲間への罵声を見過ごすわけにはいかない。笑い転げる内心を巧妙にひた隠したパフが、話を進めていた。


 「じゃ、遠慮なく。ところで、ぶーちゃんの“ぶ”は不細工のぶ?」


 彼の目の前にいた女がお腹を抱えて爆笑する中、不思議とナーガホームは団結していたのだ。特にティーは女性として兄の言葉に苦言を呈さずにはいられない。


 「兄公。そういうのは思っても触れないのがエチケットだろうが!?」

 「いや!? 姉さんも触れてるよね!?」

 「だ、誰一人としてフォローになっていない!?」

 「……ハハッ! お前ら、纏めて表出ろ!!」


 この兄姉弟は似た者同士である。そして付き合いの長いバターもそれに毒され、気が付けばウィドウを煽っていた。


 すっかり媚び諂いが消え失せたウィドウは真顔のまま激怒し、それを察した彼女の友人であるヘルキャットが我が意を得たりとウインクする。


 「みんな聞いた? 出撃よ! “太古の森”を攻略するわ!」

 「…………へっ?」


 プレイヤー名“ヘルキャット”。彼女はブラックウィドウ以上に化粧が濃く、もはやピエロのようになっている。だがそこには確かな技術があり、小柄ながらミステリアスな雰囲気と相まって不思議と似合っていた。


 名前の通りの性悪女は、散々笑い転げて楽しんだので先を急ぐことにしたのだ。慣れ切ったフォルゴーレ等の面々がそれに続く。


 話は纏まった。いや、纏められた。状況を飲み込めないウィドウを尻目に、2つのパーティーは出立を決めたのである。




 ブラックウィドウは頭を抱えていた。フォルゴーレの勧めに従って、別のパーティーと手を組んだのは良い。問題は、相手が問題児ばかりだったのである。少なくとも、彼女はそう思っていた。


 モデルもかくやという美女に、それよりほんの少しだけ劣る程度の女。更には外国人の可憐な少女まで加わったパーティーは、平凡な彼女に歴然とした格差を知らしめていたのだ。顔の造形、スタイル等、勝ち目が無残なまでにない。


 「ちっくしょうっ!! 世の中不平等だわ! 何よあの良い女の集団は! ありえないわ、私が何したっていうのよ!!!」


 フィールドに侵入したのを良いことに、彼女は心の底から吠えていた。吠えざるを得なかった。それをエーシィの面々は何時もの事と流し、ナーガホームは気にせずスルーを決め込む。


 とても虚しかった。


 そんな彼女の肩を叩く影がある。ゲーム開始以来の親友となった、ヘルキャットだった。彼女はニヤニヤ笑いながら、的確に傷を抉りに行く。


 「貴方が何かをしたっていうより、何もしなかったのが悪いんじゃないの?」


 気が付けばウィドウは崩れ落ちていた。その通りだったので、何も言えなかったのだ。彼女の普段はとっても地味な女なのである。その癖、楽して味方を得ようと媚びるのだ。


 「ちくしょう!!! 男の馬鹿野郎―!!」

 「す、すみません。兄と姉がご迷惑を……」

 「――ッ!?」


 そしてその醜態を見せつけられたパックは、居たたまれなくなって謝っていた。ウィドウはまさかヘルキャット以外から返答が来るとは思っておらず、猛烈に居心地が悪くなっていた。相手が心配そうにしていたので、尚更である。


 逆に興味を引かれたヘルキャットは、パックを値踏みしていた。まるで猫がおもちゃの遊び方を確かめるように、思わせぶりな視線を這わせていく。


 「ふぅーん……。パック、ね? なるほどねぇ。そういうことかぁ……」

 「……えっと、もしかして怒ってる?」


 そして検分を終えたヘルキャットは、ひらひらと手を振る。パックより年下にもかかわらず経験豊富な彼女は、すっかり彼を操る術を見抜いていたのだ。


 「ま、よろしくね。童・貞・君っ!」

 「どう!? 何を言うんだよ!?」

 「いーのいーの。恥ずかしい事じゃないわ! でも男が思ってる以上に、女は見抜く物なのよ。……だから、拗らせないようにね?」


 言葉とは裏腹にまるで誘惑するような態度に、パックは思わず身構えていた。にやにやと笑いつつも、どこか挑発するかのような視線に、さりげなく胸を強調したポーズ。一枚も二枚も、ウィドウはおろか彼の姉よりも上手なのだ。


 パックは彼女の思惑通りに視線を逸らすと、気まずさのあまり黙り込んだウィドウに話を振っていた。


 「ぶち子ちゃん! これから一緒に頑張ろう!」

 「喧嘩売ってんの!? ぶち子って言うなや!? …………でも、ありがと」


 2人は不思議と、親近感を覚えていた。


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