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LOAD GAME →ダイハッスにて 残り時間232:00:00

 街道の中間地点に、その拠点はあった。ダイハッスと名付けられた町は、スタートした宿場町以上に大きく、木材で作られて整然とした街並みであった。立ち並ぶ家々は木の温もりを前面に打ち出しており、大地や樹木の茶色が空の青の下、実に良く映える


 パックがさらっとだけ覗いた限りでは、店売りのアイテムや装備品も良い物が揃っている。後で購入する必要があるだろう。レベル上げのお陰で、一行はお金には不自由していない。


 その宿屋の一角で5人部屋を取った一行は、ベッドを無視して車座になって床に座り込んでいた。


 疑問の視線が集まる中、パフは約束を果たすべく口を開く。


 「まずはサヤちゃん」

 「はい」

 「当選おめでとう。物凄い幸運だね。羨ましいよ」


 白々しいまでの物言いに、妹が放った無言のプレッシャーが(パフ)に突き刺さる。そしてそれを察したバタフライが、つい普段の癖で慌ててフォローに入っていた。


 「それで! どうして皆ここにいるの? まさか、全員チケットが当選して……?」

 「いや、俺達は裏口の方だ」


 あっさりと言ってのけるパフ。不審げな妹と驚いた(パック)の視線が向けられる。1人日本語について行けないアメリアだけが半ば暇そうに輪の外に追いやられそうになっていた。


 「弟よ、このゲームの参加者数は覚えてるか?」

 「……100人じゃないの? 会場の都合で参加チケットは全部で100枚って話だったと思うけど……?」

 「あぁ。それは正規ルートの方な」


 いわくありげな口ぶりに、ティーの視線が吊り上がっていく。彼女が(パフ)を一喝しようとしたタイミングで、それを見計らったパフが飄々と嘯いていた。


 「会場にあったVRMMOログイン用のダイブマシーンの個数を数えたか?」

 「まさか! ……もしかして?」

 「その通り! ダイブマシーンは全部で120個あったのだよ! 正規用が100に裏口が20」

 「兄公……。いい加減吐いたらどうだ? なんなんだ、その裏口っていうのは!?」


 ――兄が悪いことをしているのではないか。


 ティーは不安を隠しきれていなかった。彼女も兄の事を信じたい。ただ、その肝心の(パフ)が持って回った言い方しかしない為、不快感を露にしていたのだ。


 彼女達は事故で両親と死別している。そのせいか妹弟を守る為ならば、親代わりの兄は手段を選ばない節があるのだ。


 そこでパフは、当然と言わんばかりに回答を差し出す。


 「どんな会社にも、“お得意様”っているだろう?」

 「……ッ!? 兄さん!? まさか賄賂や脅迫で!?」

 「馬鹿! 弟よ、逆なんだな。裏口は製造元のゼネラル・インフォメーション、通称GIの取引先や株主等への接待用の分なのだよ……。俺の勤務先を知ってるよな?」


 そこで妹弟は(パフ)の勤務先を思い出す。その名は日本人なら誰でも知っているほどの、巨大総合商社である。


 「九十九商事?」

 「ツクモ!? ツクモソーゴーショーシャ!? パフが!? Wow! 凄い偶然!」


 蚊帳の外だったアメリアが一気にパフに詰め寄る。アメリカ人の彼女ですら、総合商社の名前を知っているあたり、九十九商事の強大さを感じることが出来るだろう。


 「えっと……。つまり、龍樹さんの会社も製造元と取引があって、その縁で……?」

 「そーそー。サヤちゃんの言う通りだよ。正確にはうちの出資した関連会社が、医療用のダイブマシーンの基幹部品を手掛けているから、その縁でね。上司がそういうのに興味ない人でさ。シリアルナンバーが付いてるから転売もできないの。参加しないわけにもいかないから、俺にくれたってわけ!」


 そこでパックは自分の迂闊さに恥じ入っていた。隣の姉ですら、むっつりと黙り込んでいる。


 よく考えれば、おかしなことなのだ。プレミアチケットが都合よく3人分手に入るなど、確率的にあり得ない。


 「……なら良いわ。てっきり兄さんが、悪い事でもしたのかと……」

 「妹よ、流石にそれは酷いんじゃないか? 兄さん涙がちょちょぎれそうだ……」

 「ちょ、蝶々……切れる……Butterfly cutter?」


 難しい日本語にアメリアが悩む傍ら、パックは悩みが解けていた。一方でティーは(パフ)を疑っている。女の勘がそう告げていたのだ。


 ――何かを隠している。それは間違いない。でも、今の言葉に嘘は無い……。


 本人的には不幸にも、兄弟と違って焦点の合った神の造形の如き美しい肢体を持つ彼女は、それゆえ面倒事も多い。だから彼女は愛想を無くし、それでもなお近寄ってくる輩の為に、鍛えられた抜群の人を見る目を持っているのだ。


 だが、追及はできなかった。彼女の本気をもってしても、一家の大黒柱である兄の本気には敵わない。


 なにより、味方がいなかった。彼女の愚かなる弟のパックも、愛すべき親友の紗耶香も、守るべきアメリアも、パフの言葉を疑っていないのだ。


 そして彼女の思惑を邪魔する形で、能天気なバタフライが声をあげていた。


 「ところで、その妖精みたいな女の子は?」

 「My……。ありがとうです。綺麗なおねーさん。私はアメリア言います。よろしくです」


 そこまで言ったところで、パックもティーも紗耶香の頭の上のプレイヤー名に目が行った。アルファベットで書かれたそれは、


 “Butterfly”


 「バターフライ? 美味しそうな名前ね」

 「バ・タ・フ・ラ・イッ! 蝶々よ蝶々! てふてふ!」


 とぼけたことを口走るティーに、紗耶香ことバタフライは食ってかかっていた。拳を突き上げて詰め寄るその姿は、パックに平凡な日常を想起させる物である。彼は姉のやり取りをうっとりと見守っていた。


 「ごめん……。これからよろしくね……。バター」

 「渾名か!? 略すな! バターだと食べ物になっちゃうでしょうが!」


 猛然と襲い来るバタフライことバターを、ティーは何処吹く風で柳の如く受け流していた。それが益々バターを煽り、ティーは友人との触れ合いに喜びを感じるのである。


 「そうよね……。貴女、美人だし……男を食う側ですものね……」

 「うるさいわよ!?」


 口喧嘩に突入する2人を、パフが話を抑えようと指摘していた。


 「語源的には、飛ぶバターだから食いもんだけどな」

 「「なん……だって?」」


 驚愕の表情でパフを見つめる2人。見事なまでにシンクロした動作が、図らずとも2人の仲の良さを印象付ける。


 ニコニコとアメリアはそのやり取りを見守っていた。彼女は何となく、バターと仲良くできることを悟っていたのだ。


 「……男に食い物にされないようにね」

 「うわーん! 馬鹿―! っていうか、あんたに言われたくないし! 私はあんたと違って……」

 「あ、苗字が長野だから、“ちょう”を取ってバタフライ……? 良い名前ね」

 「聞きなさいよ!? リュー!……じゃなくてティー!? はぁ。……で、そっちのパーティーは?」


 バターは、内心で心細かったのだ。今は親友と下らないやり取りで誤魔化してはいるが、彼女の相方だった男はHPゲージがゼロになるや、溶けるようにして消えたのは事実だった。


 ここに来る途中で、彼女はこっそりパーティー欄を確認している。彼女のパーティーは解散扱いになっていた。パーティーは1人では作れないのだ。そして、その意味を彼女は嫌というほど理解している。


 「ナーガホームよ。おんなじね」

 「Welcome! Butterfly! これから一緒に、頑張るです!」


 女性とは、共感の生き物である。それを暗黙の裡に察したティーとアメリアが彼女を落ち込まないように盛り上げた。パフも合わせて分かったふりで話を合わせ、パックはそれを幸せな気持ちで眺めている。


 こうして、パーティー名“ナーガホーム”に、強く優しい槍使い、バタフライが加わった。




 「それで、パフのMPが大丈夫です?」

 「もちろん」

 「……? もち……もち……ハッ! 餅! ろん……ろん……論! 餅論! Rice Cakeの話ですか!? 美味しいですよね!」

 「ちょっと、大丈夫なのこの子? 日本語が怪しいんだけど……?」


 宿屋の外に出た一行は、武器やアイテムを買い込んで出立の準備を整えていた。装備品はここに来る途中のドロップアイテムにも含まれていたが、全員分は賄い切れていない。その為ダイハッスの店で揃える必要があったのだ。


 「なッ!? 失礼です! バター、私は怪しい人じゃないです!」

 「あぁ!? 話が通じない!? まさかティーの他に話が通じない相手がいるなんて!?」

 「……嬉しいわ。私も正直、アメリアの可愛らしい所に憧れてるのよね……」


 話が噛み合わず、バターは泣きそうな顔で助けを求めていた。それを察したパフは違和感のない仕草でそっぽを向き、涙目の彼女はパックと目が合っていた。


 「その、ごめんなさい。バター姉さん。いつもうちの姉がご迷惑を……」

 「良いのよ、パック。貴方が素直に育ってくれて、私は嬉しい……。あと、呼び捨てで構わないわ」


 その優しい言葉にパックが感銘を受ける中、ようやく装備品の分配が終わる。ここまでの道程で、一行は平均レベルを23にまで上げていた。一方のバターはと言うと、


 「見なさいティー! 私のレベル、19もあるんだから!」


 微妙な数値だった。居た堪れない空気が場に蔓延し、パックもティーも何も口を挟めなかった。アメリアですら空気を敏感に感じ取る中、パフは前向きに誤魔化していた。


 「凄いじゃないか! 頼りにしてるぞ、バター!」

 「ふふん! 任せて下さい! 私が一番頼りになるってことを、証明するんだからね!」


 モンスターと違って、プレイヤーの場合HPゲージと共に表示されるのは名前だけである。このゲームではパーティーの場合、経験値は下方修正されるものの、基本的には平等に分配される。


 その例外は、とどめである。敵に止めを刺したプレイヤーには、経験値にボーナスがかかるのだ。実際、最もレベルが高いのはパックである。


 自慢げに胸を張ってアピールしている彼女がそのことに気付くのは、少し時間が経ってからであった。


 ダイハッスで紆余曲折を経た一行は、ついに街を出発する。目指す先は街道の終わり、森の入り口である。


 ダンジョン名、“滅びた村”。策で囲まれた村の中には無数の廃屋が立ち並び、全体的に打ち捨てられた廃墟のような出で立ちであった。おどろおどろしい雰囲気から察するに、ここはアンデッド系の敵が出没するのだろう。


 パックはそう思って、RPGの定番であるアンデッドに回復アイテムでダメージを与えるを狙うかどうか逡巡していた。そしてそれを察したバターが優しくたしなめる。


 「駄目よシン君。それは最終手段で、回復アイテムはあくまで回復に使うべきだわ」

 「……う、うん。そうだね、バター」


 聞き分けの良いパックにニコリと微笑むと、バターは前線に出る。槍使いの彼女はティーと同じく、攻撃よりも防御に厚く能力を振ったタイプの戦士である。前衛にはもってこいだった。


 「行くです! 亡霊どもを地獄に落としてやります!」

 「アメリアは勇ましいなぁ……」


 パーティーの中列に魔法使いのパフを配置し、後ろを剣士2人で固めた一行は、“滅びた村”に侵入していた。


 BGMも無く、しん――と静まった村内に動く物は無い。物音一つなく、自分たちが立てた音が消えずにどこまでも響き渡っていく。そんな気さえしていた。他のパーティーはいないようである。


 「敵も……いない?」

 「バター気を付けて。そんな筈はないわ。どこかに隠れているのよ……」

 「うっさい。そんなこと、言われなくても分かってるわ!」


 ティーの小言にバターが反発した瞬間、がさりと物音がした。それに反応した一行が足を止めた瞬間、廃屋の壁を突き破って敵が現れた。その骸骨姿に廃墟も相まって、ちょっとしたホラーになっている。


 アメリアの甲高い悲鳴が響き渡る中、驚愕に顔を染めたパックは運良くもう一つの音にも気が付いていた。


 「挟み撃ちだ! 後ろからも来た!」


 “アンデッドソルジャー LV12”


 見慣れた敵だったが、なによりその数が多かった。前方から4体。後方から4体。左右を廃屋に囲まれ、逃げ場が無かった。


 バターが慌てながら槍を構え、同じく顔を顰めているティーと共に前方を守る。そこで不敵な顔のパフが指示を出していた。


 「ティー、バター、そいつらを抑えてくれ! 残りの3人で後ろの連中を始末する」


 パーティーは混乱から立ち直ると、それぞれ交戦を開始していた。幸いな事に、そこまでの苦戦はしない。バターとティーの守りをアンデッドソルジャーは抜けられず、その隙に魔法攻撃でHPを削られた敵は次々と剣によって屠られたのだ。


 レベル差のお陰で、まだ余力はあった。


 終わった後、アメリアは羞恥で頬を真っ赤に染めていた。なにしろ女性陣の中で敵に驚いて悲鳴を上げたのは彼女だけ。それを隠すようにツンと上を向いたは良いものの、本人は自分が涙目になっているのに気づいていなかった。


 「こ、怖くなんか……ないです! Haunted houseなんて!? 怖くない……です。So It’s(こんな) puerile(子供) trick(騙し). 怖くない……怖くない……怖くない……です」


 微妙に足が震える顔色の悪い彼女は、この手のホラーが大の苦手だったのだ。そのあまりのビビりっぷりに、パックもパフも思わず心配になっていた。やむなくパフが笑って励ます。


 「No problem! 大体、今自分でDeathって連呼して……」

 「Nah~~!!!!!」


 駄目だった。隣にいたパックが思わず耳を塞がざるを得ないほどの悲鳴が上がってしまう。それを見た彼が呑気に、外国人ってリアクションも派手なんだな、などと思う中、アメリアはようやく自分の醜態に気付いていた。


 2つ目のダンジョンの難しさは、別の所に起因していたのである。


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