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LOAD GAME →ベガにて 残り時間00:88:00

 「……兄公。真面目な話?」

 「勿論。今回はおふざけ無し。プレイヤーキラーの正体と目的について、大体の見当がついた。っと言っても、証拠は無い。あるのは動機だけだ」


 思わず息を呑んだ姉と弟は即座に目線を交わす。他の3人と違って、肌で兄の本気をひしひしと体感しているのである。


 席に座った兄は、深い自信を感じさせる表情のままそう告げた。即座に爆発的ばざわめきがナーガホームを満たしていく。驚きと称賛。疑いと希望。それらが一緒くたになって臨界点を迎えた瞬間、パフは先手を取って指を振っていた。


 「結論から入ろうか? それとも最初から説明した方が良い?」

 「結論から頼む」


 真っ先に平静を取り戻したスターファイアの声に、パフはゆるりと笑みを浮かべながらブランデーを口に運んで嘯く。


 「せっかくだから、俺はこの赤のポッケを選ぶぜ! Let’s ルーレット! 」

 「……馬鹿か兄公」


 台無しだった。きょとんとした一同を前に、思わずティーは頭を抱えていた。あまりの意味不明さに、彼女は妹として兄を訂正せずにはいられない。


 「その言い方だと、赤に賭けたとは限らないわ!」

 「貴女もそこ突っ込むの!?」


 そして何時も通りの末路を迎えた会話に、目を輝かしたアメリアたちが加わってカオス化していく。パックは疲れたような顔浮かべた所で、兄の視線に気づいていた。言い出しっぺの彼は、ちっとも笑っていなかったのだ。


 「Hey! パフ、分かる様に説明して欲しいです!」


 天使の要望で、ようやく静まり返るテーブル。苦笑いを浮かべたバターはアメリアの隣に座り、スターファイアは複雑そうな表情を浮かべている。


 それらすべての表情は、直ぐに凍てつくことになったのだ。ニヤリと笑うパフの前で。


 「そもそもだ。人間の行動には全て動機が存在する。言い変えれば因果関係だ。本人が気づいていない場合もあるがな。そこでパック君! 最初の質問です。何故プレイヤーキラーは他のプレイヤーを襲っているでしょう?」

 「えっ!? そ、そんなこと言われても……」


 兄の指名を受けた弟は混乱していた。思わず周りに助けを求めてしまうものの、残念なことに力になれそうなものは居ない。彼は優しい兄の視線を受けてゆっくりと考えを巡らせていく。


 「えっと……前に兄さんは変だって言ってたよね? 確か……そう! プレイヤーを襲うという事はゲーム攻略を妨害しているって事で、それは自分達もタイムオーバーで死んでしまう愚かな行為だって……あっ、そうか」


 そこでパックはある可能性を思い浮かべていた。それはチートである。もしかしたらチートのお陰で、プレイヤーキラーは死なないのかもしれないと考えたのだ。しかし、それにパフは首を振った。


 「いや、それは違うな。多分タイムオーバーで死ぬのはプレイヤーキラーも同じだと思う。ネウロポッセの反応を思い出すんだ。ステータスがチートとはいえ、“絶対に死なない”わけではない。だから、タイムオーバーにして全員を殺すという事ではないだろう」

 「う……そうなると、PKが人を襲う理由……」


 気が付けばパックは頭に手を当てて考え込んでいた。だが、結論は出ない。パフの視線が順番にナーガホームの面々を回っていくものの、動機を理解できたものは居なかった。


 「スターファイア、君もか?」

 「……あぁ。想像もつかないな」

 「アメリアは?」

 「うぅ……分からないです……。皆で死ぬこと? いや、そんな筈は……」


 可憐な妖精の頭を精一杯悩ませたところで、時間切れだった。パフは再びパックに視線を向ける。彼は、何を隠そう弟に期待を寄せているのである。


 「ヒントは、PKは1人ではないってことだ」

 「………………駄目だよ兄さん。全然わからない。どうしてPKはクリアを妨害するんだろう?」

 「それだよ、パック」


 パックの呟きをパフが拾い、その途端5対の瞳が集中していた。パフは気持ちよさそうにそれを浴びてから、繰り返す。


 「PKの目的は、ゲームをクリアさせないことだ」

 「えっ? そ、そんな馬鹿な……。だってパフさん。そんなことしたら、自分達だって死んじゃうんですよ? 誰も得しない……」

 「居るじゃないか。得する奴、いや勢力が」


 思わず立ち上がって目を丸くしたバターを、パフは言葉を紡いでさらに仰天させていた。彼は疑問を挟む間もなく続けていく。


 「良く考えてみて。このままPKが吹き荒れて体験会が失敗した場合、全世界に向けてGIのVRゲームが新型産業廃棄物だという事を宣言するに等しい。プレイヤー達も世紀のクソゲーだと判断するだろう。これは製造元であるゼネラル・インフォメーションにとって致命的だ。逆に言うと、GIのライバル社にとっては千載一遇のチャンスと言える」

 「っ!?」


 事実GIは莫大な研究開発費や広告費等を投入してVRゲームの振興に努めている。それこそ、VRマシンのコア部品を手に入れる為、九十九商事とも手を組んだ。


 VR技術は元来医療用であり、それに目を付けた九十九が出資して支配下に置いていたのである。


 ここでこの体験会が失敗すれば、長年の投資が全て水の泡になり、そのブランドは失墜する。それこそ教科書に残るレベルの不祥事であり、未来永劫ゼネラル・インフォメーションの名は失敗者として記録されるだろう。


 一早くそれに気付いたアメリアは驚愕に顔を染めながらも、確かに力を持った瞳でパフを見返していた。


 「ま、待つです! パフはこれが他社ッ……あの最高にクソッタレなツベルクハウンドの妨害工作だというのですかッ!?」

 「十中八九、そうだろうな。ゲームに細工するには知識が必要だし、そもそも他に動機を持つ奴がいない」

 「待ってくれッ!? 一つ確認したいことがある!」


 盛り上がった会話に水を差したのはスターファイアである。パフ以上に大人な彼は地球世界のゲーム機業界においてもそれなりの知識を持っているのだ。、


 「確かにその可能性は否定できない! だが世界のゲーム機ハードは3社の寡占状態にある。GI、ツベルク、そしてリーヴス会だ。何故ツベルクだと言い切れる?」


 地球のゲーム業界は、概ねスターファイアの言う通り3社の寡占状態である。米国系企業であるゼネラル・インフォメーションとツベルクハウンドに、日系企業であるリーヴス会。確かにツベルクの仕業と断定できない。


 パックのその考えを覆したのは、意外なことに天使ちゃんことアメリアだった。彼女は俄然興奮して息巻くと、青い瞳を大きく見開いてまくし立てる。


 「No way! リーヴス会は犯人じゃないです! だって、あそこはFabless……つまり製造工場を持たない会社です! GIのゲームを弄ろうにも不可能です!」

 「っと言うわけだ。そもそも、あそこは他の2社と違ってVRへの関心が薄い。対照的にツベルクはVR技術が軍事・医療目的に開発された当初から開発を競い合ってきた。動機があるとすれば、ここだろう」


 つまり、パフの推理はこうだ。GIの中にツベルクへの内通者がいる。買収か恐喝かは不明だが、ツベルクが社員を唆して引き抜いたのだ。そしてツベルクはGIの体験会に罠を仕掛けた。その結果がこれである。


 パフは驚きすぎて放心しているスターファイアの前で、話を続けていく。


 「こう考えれば、プレイヤー120人の中に何故PKが3人もいるのかという問いにも答えられる。最初から刺客として潜り込んでいたんだ。このチケットはオークションで目玉が飛び出そうなほどの価格がついていたが、それは個人の話。企業として動けば購入は可能だ」

 「……なるほど! 善良なプレイヤーがゲーム中で唆されて殺人鬼になったっていうのよりも、説得力がある……!」


 パックは思わず兄の手腕に感心していた。


 そのパフがある程度内部事情に詳しいのには訳がある。何を隠そう、九十九商事で医療用ダイブマシーンの基幹部品を担当しているのは、彼のチームなのだ。


 それゆえ彼はお得意様としてチケットを手に入れ、今は家族のついでに自社の利益を守るために動いている。その構図は皮肉なことに、自社の利益を勝ち取ろうと暗躍するPKと似ていた。


 「……それで、これからどうするのだ?」

 「そ、そうですPuff! どうやって落とし前を付けさせるですかッ!?」


 一人置いてきぼりを食らったバターを尻目に、話は進んでいた。すっかり興奮したパックとアメリアにスターファイアが続く。そしてティーだけは、1人冷たい視線を向けながら思考の海に没頭していた。


 向けられたそれに、パフはグラスを弄りながら応じた。


 「やることは一つ。演劇だよ」

 「What’s? え、演劇です……?」

 「あぁ、いや。ここはせっかくだから、こう言うべきだな。そう、Roll Playing Gameだ。」


 RPG。それがパフの立てた起死回生の為の作戦である。彼としてはPKの毒牙から家族を守らなければならないし、ついでに自社の利益を守れてGIにも貸しを作れる機会なのである。


 「敵が悪役を騙るのなら、本当に悪役のRollを持たせてしまえば良い。そして悪役が跳梁跋扈する物語を、非道な悪役が正義の味方たるプレイヤーに征伐されるシナリオにしてしまえば良いさ」 


 つまり、PKをゲーム内のイベントを盛り上げるエキストラに仕立て上げるのだ。そうした上で現状の糞みたいなシナリオを、愛と友情の一大感動スペクタクルに書き換える。それだけが、GIの生き残る道だった。


 一同が納得する中、ティーだけはそれに気付いていた。


 「兄公。でも、致命的な問題が……」


 その問いにパフは答えなかった。が、視線だけはティーと激しく交錯する。それだけで兄妹は全てを理解し合っていたのだ。


 「……それは現時点では何とも言いようがない。それに、GIが失態を犯したのも事実。今は少しでも汚名を返上するべきだ」


 そう。彼女の言う通りである。既にGIは敵に先手を許している。この戦いに勝利は無い。あるのは敗北か引分の2つに1つなのだ。


 そして、PKへの怒りに燃えるアメリアがそんな空気を断ち切っていた。


 「それで、具体的にはどうするですかッ!? 皆に事実を知らせるですかッ!?」

 「いや、それは下策だな。そもそも証拠が無い。それに、GIの失態も周知してしまう」


 パフはそこで飲み終えたブランデーをテーブルに置くと、空気に溶け行くそれを尻目に新たに紅茶を注文する。それを口に含んで香りを楽しみながら、結論に近付いていった。


 「簡単だよ。俺たちナーガホームが勇者のRoll(役割)Play(演じて)、魔王のRoll(役割)Play(演じる)プレイヤーキラーたちと雌雄を決する。それだけだ」

 「Aah! それなら簡単ですっ! で、でも、敵は来るでショウか……?」


 アメリアはそれが不安だった。敵に勝ち逃げを許してしまえば、手のつけようが無いのだ。そんな心細い彼女を励ますように、パフは優しく微笑みかけていた。


 「必ず来る。敵の目的はこのゲームの攻略阻止、正確に言うなら誰にもラスボスを倒させずに、プレイヤー達にPKの恐怖と絶望の日々を送らせることだ。それが体験会終了後の悪評になって、失態を犯したGIに止めを刺すからな」


 PKたちは頃合いを見てわざと生存者を見逃し、プレイヤー達に恐怖を味合わせている。そう考えれば“参陣高速団”は全滅したにもかかわらず、シグやリンダが生還した理由が分かるのだ。


 手に汗握って話を聞くアメリアに、パフは続きを紡いでいく。


 「逆に言うと、このゲームを自分たち以外に攻略されてしまうのは都合が悪い。だから希望の芽を摘む意味でも、俺達やエーシィを襲ったんだ」


 その言葉にパックは思わず息を呑んでいた。それを理解したのだ。


 勇者の役割は、運命に導かれるように魔王の役割と激突する。双方にそれをなす動機があるのだ。


 勿論、色々とあの手この手でPKの正体を掴もうと画策していたのもあるだろう。パフたちが考えた謀略は失敗したが、敵の攻勢を遅らせる効果は出ている。ナーガホームは、目下PK最大の敵となりつつあるのだ。


 彼の言葉なき興奮は、誰彼構わず伝染していく。長家家の面々は団結していた。


 プレイヤーキラー討つべし。


 それはアメリアやバターたちにも共通する目的である。


 奮起する一同を前に、パフは指を振って注目を集める。彼の反撃はここから始まるのだ。


 「今、俺達は敵に対して有利な位置にいる。ネウロポッセのヘッタクソなプレイングを見ただろ? 多分ステータスを生かして無双プレイばかりしてるからだ。あれじゃ高い防御力を誇るカルカロドン相手に苦戦するぞ。もしかしたら、一人ぐらい踏み潰してくれるかもな」


 そこでアメリアは立ち上がると、我慢しきれずに雄たけびを上げていた。彼女の中のもやもやとした不安は全て取り除かれていたのだ。残りは仲間と共に敵と戦うという極めて単純かつ強力な想いである。


 敵は強大で、さりとて味方も同様に強く背中を預けるに足る。これが興奮せずにいられようか。気が付けば湧き上がる戦いの興奮と闘気が、彼女に武者震いを引き起こしていたのだ。


 「Yup! 倒した敵が味方になるのは、よくあるパターンですッ!」

 「そうよ! あの陸竜には防御無視の割合攻撃があるわ! おまけに他の攻撃も隙は少ないッ! 一人と言わず全滅させてくれるかもしれない!」


 アメリアは立ち上がって、同様に感化されたバターと拳をぶつけ合う。2人とも負ける気がしなかったのだ。


 だがパフの話は終わりではない。彼の作戦はここからなのだ。


 「伝説の武器屋を覚えているな?」

 「……分かった! 兄さん、武器を買い占めるんだね!?」


 同様に戦いの予感に震えるパックに、兄は苦笑を隠し切れなかった。正確には少し違ったのである。


 「惜しいな。勇者に必要なのは、聖剣だろ?」

 「素早丸……だな?」


 感嘆したのか、スターファイアが呻くように呟く。それにパフはニヤリと笑って応じていた。素早丸。高性能な上に装備者の速さを上昇させる追加効果がある武器だ。


 このゲームの速さは基本的に固定である。それ故、素早丸をPKに奪われてしまうとプレイヤー達は逃げる間も無くしてしまう。逆にあれさえ確保できれば、PK相手に大立ち回りを演じることも不可能ではない。


 「その通り。そこで、ギャンブルなのだよ。ウィドウが言うには、ご丁寧に賭博をやってる奴がいるらしい。そこでどうにかしてお金を得るんだ。先手を打って敵の攻勢をくじく」


 答えは出ていた。即座にウィドウに連絡を取ると、一行は興奮のままに賭博場で金と命を賭けたやり取りを行うことになっていく。


※最新の進捗状況は活動報告をご確認ください。

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