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LOAD GAME →入場ゲートにて 残り時間00:94:00

 ――伝説の武器屋、開店中!

当店では天下三剣、天下三槍、天下三斧の内1つずつを、特別に販売しております!

いずれも先着1名様限定です!

素早丸(そはやまる):剣。重量2。装備者に常時“スキップ”効果。

方天画戟(ほうてんがげき):槍。重量3。スキル消費MP半減

・ミョルニル:斧。重量3。クリティカル効果上昇。

 皆様のご来店を、心よりお待ちしております。


 一同は入場ゲートのホテルの入り口の前で、チラシを前に頭を突き合わせていた。大変に魅力的な内容であるが、問題も一つ。価格である。


 パックは興奮に打ち震える手で、ずらりと並んだ0を数えていた。


 「一、十、百、千、万……一千万。10,000,000L……?」


 船とは比較にならないほどの、莫大な金額である。


 ナーガホームは“境界の海”突破以降目立った散財はしていない。それどころか“水没都市”、“名もなき砂漠”で多数の戦闘を繰り広げている。場合によっては探索の過程で宝箱を拾ったりもした。


 「……4,000,000Lといった所かしら? 最低限の資金を残したとして、余裕があるのは」


 冷静に金勘定を済ませたティーのセリフに皆が頷く。全資金や不要な装備やアイテムを売り払ったとしても、精々5,000,000L。それがナーガホームの限界であった。


 言うまでもない事だったが、あえてスターファイアが口を開く。


 「残念だが、買うのは無理だろうな」


 無情な宣告をパフもバターも否定できず、パックとパメリアは輝く瞳を曇らせるしかなかった。とは言え、チラシのポイントはそれだけではない。このチラシにはご丁寧にも、店の位置を記した地図が存在するのである。


 それを信じるならば、この“夜の遊園地”のフィールドはかなり狭いようであった。だが、同時に問題も多い。目標とする次の拠点“ベガ”に行くためには、東ルートと西ルートが存在する。


 そこでアメリアの顔色が真っ暗になっていた。


 最短経路である東ルートは、入場ゲートの後お化け屋敷ゾーンを通る必要があるのだ。一方西ルートでは観覧車ゾーンを経由してから、ジェットコースターゾーンを踏破する必要がある。


 「に、日本では昔から“急がば回れいッ!”と言うです! ここは諺に従って、西ルートにするです!」


 アメリアは行く前から顔面蒼白涙目で、震え始めていた。パックが口を出そうとしたところで、泣きそうな顔のアメリアが視線で縋りつく。妖精のように可愛らしい彼女の泣き顔は、同時に見る物に罪悪感を与えずにはいられない。


 「……待て。何かおかしくないか?」

 「What’s!? パフ、何を言うです!? ぜ、全然おかしくないですよ!?」

 「いや、そこじゃなくてだな」


 一方で、パフはあることに気付いていたのだ。それは地図の形である。地図に描かれた遊園地の全景と、前夜に見たホテルからの光景が一致していないのだ。


 パックは思わず息を呑んで、記憶を確かめてみる。


 「あれ……? そう言われれば、昨日見た風景だと観覧車は東側にあったような……?」

 「何よそれ!? この地図パチモンじゃない!」


 危うく騙されそうになって憤慨するバターを尻目に、パックは思わぬ敵の出現に目を白黒させていた。このステージは現代的な構成らしく、平然と嘘がまかり通るのである。


 そこでパックの隣にいたアメリアが我が意を得たりと頷き、議論を決着させるべく胸を張る。


 「日本のドラマで言ってました! “善は急げいッ!”と! つまり……」

 「……そうだね。確かにもう時間も少ないし、“時は金なり”……」

 「ゲイになって進むですっ!」

 「いやいやいや!? どんな展開!?」


 彼は思わず目を見開いて、心底不思議そうな顔をして天使然としている彼女に突っ込みを入れていた。


 「パックこそ……常盤金成って誰です? Friend? Player?」

 「そこ不思議がるの!?」


 涙目になったパックは助けを求める様に兄姉に視線を送ると、2人とも頭を押さえて項垂れていた。一方のアメリアは勝ち誇った顔で胸を張っている。


 「弟よ。“Gay”には陽気っていう意味もあるんだよ」


 疲れた顔の兄は、それでもどこか笑いを堪えた顔でバターに視線を送っていた。日本語講座の時間である。我が意を得たりとバターは頷き、駄目じゃないと言わんばかりにパックを可愛がる。


 「良い、パック? ……お友達の本名を出しては駄目よ?」

 「バターもそこ気にするの!?」


 兄姉は、戦慄とともにその光景を見守っていた。バターは高い運動神経を誇っているものの、勉強の方はティーとは比べられないほど苦手なのである。暖かい視線が降り注ぐ中、一行はホテルに戻っていた。


 案の定、そこから見た風景は地図とは全く異なるものである。




 ティーが遠回しにバターをフォローする中、一行は東ルートで一際煌びやかなエリアを目指して進んでいた。最初に立ち塞がったのはお化け屋敷と思われていた迷路である。


 ただの迷路ではない。全面鏡張りのミラーハウスだったのだ。幸いにも通路は6人が横になって進んでも不便は無いし、天井もかなり高い。鏡しかないという事を除けば、戦いに支障は出なかった。


だが見た目は現代的でも中身はしっかりファンタジーしているこのゲーム。敵が出現する上に、鏡が最大の脅威として立ち塞がっていた。


 「パフさん!? 後ろに敵が!?」


 バターの警戒に彼が慌ててファイアボールを放つ。それは周囲に熱を巻き散らしながら進んで行き、鏡に当たって跳ね返って来ていた。


 「しまった鏡だ!? 伏せろ!」


 必死の思いでパフが再度ファイアボールを放って、ギリギリのタイミングで相殺に成功する。だが、同時にパーティーの前方にも後方にも、鏡に反射した敵の姿が見えている。


 “ウルク LV62”


 見た目は“名もなき砂漠”に登場したオークと同じく、プラスチックのような白と焼け焦げたような黒で構成されている。だが、その脅威はオークとは比較にならない。


 スターファイアは前方の敵の姿に思わず目を見張っていた。


 「撃ってきたぞ! フレイムレインだ!」


 無数に生まれた炎の槍はマシンガンのように一斉に放たれると、その悉くが通路の曲がり角に斜めに置かれている鏡に命中するや、90度反射してナーガホームを襲っていた。


 このステージの鏡は魔法を反射するのである。反射は2度きりで、1度でも反射してしまえば誘導性が失われるのは幸いだった。


 「防ぎきれない! 俺の後ろに隠れろ!」


 刹那、文字通り雨のように炎の槍が一向に降り注ぐ。それをパフは巨体をもって凌ぐしか無い。彼の姿は、全員の盾になれるほど余裕があるのである。


 「まさか、兄公のペンギンスーツが役に立つなんて……」


 味方の前で炎の雨にも負けず仁王立ちするその姿。見紛うことなき皇帝ペンギンであった。優れた防御性能を誇るペンギンスーツは、陸上では代償に動きが制約されてしまう。されど、その大きくてずんぐりした形は、仲間を守る盾にピッタリだったのである。


 ティーは、それを酷く微妙な顔で見守っていた。


 彼女の視線の先では、皇帝ペンギンが必死によちよち進みながら杖を構えて魔法で反撃していく。曲がり角の反射鏡はプレイヤーの目では非常に分かりにくいものの、敵が一度攻撃してくれば話は別だ。敵が攻撃した鏡を狙えば、そのまま敵に当たるのである。


 彼のフレイムレインを合図に、アメリアが一気呵成に攻め上がる。


 一方の後方では、振り切ったバターがパックと共に突撃していた。対するは2体のウルクである。2人を迎撃する為にフレイムレインが唱えられる間、バターは新しく身に着けた魔法を試していく。


 「パック、“スキップ”をかけるわ! 行くわよッ!」

 「了解! バターっ!」


 同時にバターの身体に、一瞬遅れてパックの身体にスキップのエフェクトが現れる。


 カルカロドンとの戦いを終えたバターは、戦闘に自信を持つようになっていたのだ。その為、対巨獣用の空中戦闘をさらに発展させようと、時空魔法を 習得したのである。彼女の魔力はささやかだが、補助魔法であれば問題は無い。


 「来るわ! すり抜けるわよっ!」


 彼女の言葉と共に、数え切れないほどの炎の槍が閃光となって空気を焼きながら2人の元に殺到する。曲がり角の鏡に当たって反射したそれは、さながら五月雨のように襲い来る。


 それをパックは、


 「遅いっ! 誘導しなければこんなもんかっ!」


 加速した空間の中で、火花のように尾を引いて迫るそれを紙一重のタイミングで身を捻って回避していく。まるでダンスを踊るかのような隙の無い動きで、瞬く間に敵の攻撃を掻い潜っていた。


 曲がり角の鏡を蹴破る様にして飛び跳ね、一目散にウルクの元へと襲い掛かる。


 だが、敵もさるもの。オークと違ってプレイヤーと同様に武器と防具を装備しているのだ。即座に剣を構え、


 「邪魔しないで!」


 それを見舞うよりも先に、巨大化した槍を振るうバターに粉砕されていた。テイルウィンドで猛加速し、衝突するかのような勢いで正確に脳天を槍で貫かれたのである。スキップも加わったそれは、韋駄天の如き目にも止まらぬ高速である。


 伸びた髪を揺らして即座に2体を切り伏せた彼女は、戦女神の形容がピタリとあてはまる。


 そうして彼女は蕩ける様な笑顔で、パックに次を誘うのだ。パックは即座に微妙な顔つきを笑みに変えていた。




 最大の要因はレベルである。普通に攻略すれば押し寄せる敵の火力に粉砕されかねないミラーハウスだが、ナーガホームは既にレベル81にまで達している。能力値の差で敵を押し切ったのだ。


 どうにかこうにかミラーハウス化した迷路を突破した一行は、眩いばかりに輝く拠点に到達していた。


 街を貫く巨大な大通り沿いに作られたその町は、光に溢れていた。大通りは車のライトのように赤や白の電飾が道を縫うように照らし出す。展望塔や気球を模した建物など全てが現代的で、かつ様々な色の光の洪水を生み出している。


 建物の基調となる光は白ないし黄色であるが、所々に赤や青に輝く者も有り、見る物を決して飽きさせることは無いだろう。フィールドを巡るジェットコースターのコースにネオンサインまで加わった通りは、まさに宝石箱のような夜景であった。


 流石の一同も見惚れる中、アメリアだけが微妙な顔を作っている。彼女は現実のそれを知っており、かつ大して興味を持ってなかったのである。


 「Huh……Las Vegasに似てます……。でも、規模が小っちゃいです……」


 電飾を一つ一つ手間暇かけて設計したスタッフの努力は、彼女からすれば鼻で笑うレベルの物であった。そのちゃっちさに、気が付けばむすっとした顔を作っている。


 拠点ベガに到着した一行は即座に目的地に向かう。行き先は宿屋ではない。件の伝説の武器屋である。


 地図情報に偽りがあったからには、値段にもミスがあるかもしれないと思ったのだ。しかし、それは儚い希望であった。地図は間違っていたくせに、値段はしれっと1千万リーフのまま。


 やむをえず意気消沈しながらも改めて宿屋、もといホテルに向かっていた。“HOTEL”のネオンサインがでかでかと輝くそこは、一流ホテルの名に相応しい各種設備が整っている。何と中庭にはプールまであるのだ。更にはスタッフ用と思われるロッカーや空調設備室まで完備されていて、かなりの作り込み具合だった。


 行き先はエレベーターを利用しての最上階にあるレストランである。パフから重要な提案があるのだ。


 そこは宿泊用の部屋と同じく最上階で、宝石のような夜景を一望できる立地だった。ビュッフェ形式では無いものの、ディナーから酒までメニューに網羅され、スタッフの懸命の努力によって娯楽は入場ゲート以上に増えている。なによりも酒がメニューに加わったのは、パフにとって嬉しい所である。


 もちろん再現されているのは味だけで、酔う事は無い。しかし、雰囲気作りには大きな意味を持っているのだ。


 「それで兄公。話ってのは何かしら?」


 注文と同時に即座にテーブルに現れるアイテムを尻目に、ティーは兄へと視線を向けていた。彼は頼んだブランデーのグラスをもったいぶって弄びながら、視線を窓の外の夜景に向ける。


 「うん。2つある。一つ目は睡眠の事だ」

 「睡眠? 兄さん。それなら、さっき済ませたばっかりだけど……?」


 頭の上に疑問符を浮かべた弟に、兄はメモ帳を起動して分かり易い様に説明していく。


 「まぁ、そうなんだが。でもよく考えてくれ? 俺達は18時間毎に6時間の睡眠を取らなくてはいけない。それをゲーム内時刻にするとこんな感じだ」


 パックの疑問に、パフはメモ帳に下のように書き込んでいく。


 ナーガホームの一日 ~フェアリーテイル・アドベンチャー編~

 ゲーム内時間:朝6時起床! → 18時間冒険…… → 24時就寝! → 6時間熟睡…… → 朝6時起床!


 そこでティーとスターファイアが早々と話の内容を理解していた。それに焦ったバターが理解した風の空気を作り出すなか、パックはアメリアと共に首を傾げている。


 「とても健康的な生活……?」

 「……弟よ、そうじゃないんだ。時間制限の事を忘れてないか? ゲームオーバーはスタート時から240時間後。つまりこのまま進んで行くと、俺達は強制睡眠中にゲームオーバーになるわけだ」


 そこでパックも事情を把握していた。同時にアメリアが天使の微笑みを浮かべながらも手を上げる。


 「ハイ! つまり、パフは睡眠時間をずらしたい、ということですね!?」

 「その通り! 何処かで先に6時間分の睡眠を取って、最後の瞬間まで粘りたいってこと!」


 具体的には、7日目の睡眠時間である。本来6時間の睡眠で済むところを、最終日の分まで先取りして12時間休むのだ。幸いにも、このゲームの睡眠に眠気は関係ない。眠ろうと思えばいつでも眠れる。


 「なるほど。……だがメリットはあるのか?」

 「直接的には無い。だが、有志同盟から支援を受けられることを考えると、通常のプレイヤーからバトンを回してもらえるな」


 スターファイアの疑問に、パフは微々たる内容だがと前置きしてからそう告げた。最後に他のプレイヤーから金銭やアイテムを集められれば、それは侮れない金額になるだろう。


 そしてパフは2つ目の提案と称し、とんでもない爆弾を投げ込んでいた。


 それを聞くやパックとティーは驚きのあまり目を剥き、バターに至っては席から立ち上がって大袈裟に驚いていた。スターファイアですら驚愕の表情を浮かべ、唯一アメリアだけがキラキラした瞳を彼に送っている。


 それは、なんてことも無い何時も通りの語り出しで始まったのだ。


 「プレイヤーキラーの正体が分かった」


※最新の進捗状況は活動報告をご確認ください。

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