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LOAD GAME →王墓にて 残り時間112:00:00

参考文献:コナン・ドイル著 阿部知二訳(1960)、「シャーロック・ホームズの生還」より「踊る人形(The Dancing Men)」、東京創元社発行

 1

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 2

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 3

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 4

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 5

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                                        』


 石板を前にパフは内心で渋い顔を作り上げていた。流石の彼も暗号文の解読など専門外である。だがそれでも、やらなくてはならないだろう。他の面々は彼以上に詳しくない。


 瞠目していた瞳を開くと、内心だけで溜息をついていた。地獄に垂らされた蜘蛛の糸のように、藁をも縋る思いの4対の視線がそれに注がれる。


 「少し時間をくれ。さすがに即答はできない」

 「勿論構わないわ。兄公、何か手伝えることはある?」

 「……そうだな。この石板以外にも文字が刻まれている物がダンジョンや入り口にあるかもしれない。それを探してくれ」


 その言葉に、4人は跳ねる様に行動を開始していた。捧げられる信頼にパフは少しだけ口元を緩めると、メモ帳を起動させて静かに解読に取り掛かる。




 「パック! ……ド、ドウですか? パフの様子は?」

 「……分からない。兄さん、かなり悩んでるみたい……」


 それこそ蜘蛛の子一匹逃がさぬ鬼気迫る態度で部屋中を探し回ったパックは、何一つ手掛かりを得ることができていなかった。そして解読の邪魔をすまいと、アメリアと二人で物陰から兄に声援を送っているのである。


 「Yup……その、もし暗号が解けなかったら……私達は……どうなってしまうのでショウか……?」

 「それは……。だ、大丈夫だよ! 兄さんならきっと何とかしてくれるって!」


 既に1時間以上が経過しているものの、傍から見るパフの顔は厳しいままである。それをアメリアは痛い程理解してしまい、自然と弱気になっていたのだ。


 居ても立ってもいられなくなった彼女は、パックと相談することで辛うじて気を紛らわせていく。


 「……ねぇパック。パフさんって、暗号とか詳しいのかしら?」

 「バター……。ううん。多分知らないと思うよ……」


 気が付けば、西の部屋にバターとティーも集まって心配をかけあっていた。それはますます憂鬱さに拍車をかけてしまい、次第にパックは耐え切れなくなっていく。


 「姉さん。兄さんの手伝いに行こう。このまま足手纏いにしかならないのは、駄目だと思う」

 「パック……? そうね、その通りかもね」


気が付けば、パックは兄の元へと駆け寄っていた。それにティーとアメリアが続き、最後にバターが追いかけていく。


湧き上がる騒音にパフは苦笑いで返していた。だが、その眼には希望の光が宿っている。少なくとも、パックにはそう見えたのだ。


 「兄さん……! どう、解読できそう?」

 「そうだな、弟よ。喜べ! なんと8割は解読できたぞ!」

 「やった! さすが兄さん!」

 「いや、残り2割が不明だからさっぱり分からん」

 「兄公……! 分からないなら素直にそう言え!」


 一瞬だけ希望を持ち上げてから落とすという裏切りに、気が付けばティーは正拳を叩き込んでいた。


 実に長家家にはよくある出来事であり、それゆえ憂鬱な雰囲気が少しだけ遠退く。派手にリアクションを取って転げ回る兄を前に、ティーはそこで改めてそれを実感していた。


 「と冗談はここまでにしておいて……」

 「Wow! ……という事は、梅干しがついたですね!?」

 「梅干し!? ……あぁ、アメリア……! それは梅干しじゃなくて、目星よ……!」


 言葉通り目からキラキラ星を出しそうなほどに、アメリアは興奮して鼻息を荒くしていた。残念なことにバターの突っ込みを追いつかない。彼女の日本語講座は当人同士の意欲の割に、いまいち成果が出ていないようだ。


 そこでパフは決断を下す。既に時間も大分経っていた。ここで全員が協力して解けなければ、改めて有志同盟に協力を求めるほかは無い。そう判断し、途中まで進めていた暗号解読工程を晒していく。


 気が付けば彼は立ち上がると、学生のように地べたに座った4人に対して教える様に片手を上げていた。


 「本物の古代言語の解読ならともかく、この手の問題は出題者の立場になって考えるしかない。そう、この時点で実は8割方解読できる」

 「もう8割も!? ……意外と難しくない?」


 驚くパックを尻目に、パフは基本的な提事項から整理を始める。


 「はい! アメリアちゃん! このゲームの開発元は?」

 「ハイ! General Information 社です!」

 「正解! ということはだぞ? 元の文章は英語か日本語の可能性が高い……!」

 「Oh……Jesus! でも、その通りですっ!」


 仮にそれ以外の言語だった場合、パフには打つ手がない。彼は職業柄英語には詳しいものの、他の言葉に関しては簡単な挨拶程度しか知らないのである。だから、この仮定は必要だったのだ。


 実は大したことでもないのだが、気が付けばその話術もあって一同は話に聞き入っていた。パフは順番に勉強の苦手な者から指していく。


 「バターちゃん! この文章をどうすれば英語又は日本語と区別できるでしょう?」

 「はう!? わ、私ですか!? え、えっと……その……だ、だから……」


 ――分からない。


 バターは素直にそう答えようとしたところで、両隣からの視線に気づいていた。左から送られてくるのはパックの、無邪気な信頼である。彼の幼さの残る顔は、バターが華麗に解決するのを疑っていない。


 そして右からは腐れ縁にして宿敵でもあるティーの、全てを理解したかのような視線だった。


 それはいつも彼女に少しだけ劣るバターの劣等感を刺激して止まないものである。いつの間にかバターの頭はフル回転して、負けじと答えを探っていた。


 そんな彼女の内心を露とも知らないティーは、親友の身を案じ始めていく。それがますます彼女の焦燥感を煽ることに、ティーは気付いていなかったのだ。


 「……バター……。もし、分からないなら……」

 「うるさいわよ! 文字! 文字です! パフさん、文字が怪しいと思いますっ!」


 バターは気が付けばヤケクソ気味に叫んでいた。これがあるから、彼女はいつも残念扱いなのであるが、本人に自覚は無い。


 「What’s? えっと……。文字……です?」

 「はうあ!? え、いや、えっと……その……文字じゃ……」

 「正解! 流石だねバターちゃん!」

 「…………え?」


 そんな彼女の内心を察しているパフは、偶然とはいえ正解に辿り着いた執念に称賛を送っていた。


 同様にパックも、ポカンとした彼女に憧れの視線を送っている。


 「そう! 日本語と英語の最大の違いは文字数だ。アルファベットはAからZまでの26文字。対して日本語は平仮名だけでも48文字!」

 「兄さん……!? 数えたんだね!? 暗号の文字を!」


 驚きのあまり目を大きく見開いて身を乗り出す弟に対して、パフはニヤリと笑って返していた。


 「20文字だ。この暗号に含まれる文字の種類。という事は……?」

 「英語……なんだね!?」

 「Wahoo! Fantastick!」


 年少2人から送られる惜しげもない賛辞に、パフは内心で複雑な顔を浮かべていた。


 「ところで……アルファベットで最も使われる文字はどれだと思う? ティー」

 「“E”よ。昔、探偵小説で読んだがことあるわ」

 「その通り! “E”は母音な上に、定冠詞“The”にも含まれるから、文中に頻出するんだ。逆に言うと、例の暗号において、再頻出文字を“E”と仮定すると、文中に存在する“The”を見つけ出すことができる! ……はずだった」


 そう。パフの目論見では、そのはずだったのである。そこで彼はようやく、苦い顔を表に出す。


 できなかったのだ。敗因は文章量が少なすぎる事。彼が推理に用いた情報は全て平均である。今回の暗号文のように短い文章では、偏りが出てしまうのだ。


 そもそも文字が20文字しかないから英語と判断しているが、日本語でも強引に書けなくもない。


 一行はそれを察し、暗い雰囲気が立ち込めていく。


 「じゃあ、兄さん……。その、分からなかったってことは……?」

 「あぁ。駄目だった。文字の出現数を数えてみて、上位から総当たりしたんだが、微妙だった。……ま、だから、気付いて解読できたんだけど」

 「――っ!? パフさん!? それっていう事は……!?」


 ――ただ一人、パフを除いて。彼は今のやり取りを説明するうちに、別の解答に気付いていたのだ。いつの間にかバターも年下2人に混ざって盛り上がるのを尻目に、ヒントを貰ったティーもそれに気付く。


 「日本語……それも、アルファベット表記の日本語なのね?」

 「その通りだよティー……。俺も今気づいた所だ」


 そこでパフは妹に視線を送りながらも、文字の頻度を記録したメモ帳を皆の前に表示する。


 “Γ” “Λ ” “山” “Б” “§”


 「これを見てくれ。特に頻度の高い文字が3つ、そしてそれに準ずる文字の2つだ。多分これらは母音だな。ということは……。パック君! ここから何が分かるでしょう?」

 「えぇっ!? な、なんか難しくない……!? えっと、その……」


 良い所を見せようと意気込んだパックに振られたのは、とても難しい問題だった。彼は思わず首を傾げてしまい、その拍子に見ていた。


 アメリアがこれまで以上にテンションを上げていたのだ。


 「パック! 簡単ですっ! すっごく簡単ですっ! 日本語はギザギザなんです!」

 「えっ? ギザギザ?」

 「Yup!」


 アメリアは正解に辿り着いていたのだ。元気を取り戻した彼女は、いまかいまかとパックが答えに辿り着くのを待ち望んでいる。湧き上がる興奮を抑えきれずに、気が付けば取り出したヤシの実ジュースを豪快に飲み干していた。


 それは外国人だからこそ理解できたことなのだ。


 「パック! 速くです!」

 「そ、そんなこと言われても……」

 「残念、時間切れだ。正解は、日本語は文字の大半が子音と母音が1つずつセットになっていること、でした」


 それは英文と日本文の最大の違いである。その日本語特有の発音を、アメリアはギザギザと表現したのである。


 そしてパフは、暗号文の4行目の一部を指さしていた。


 “ΛЩζΛЦ”


 そこは子音+母音という日本語特有のリズムが崩れている部分である。つまり、そこには英単語が入る可能性が高い。


 「1文字目と4文字目が同じ母音の……多分、アイテムの英語表記だ。まずはこれを……」

 「I see! 分かったです! “Ether”です!」

 「い、いーさー? アメリア、何それ?」

 「Yup! パック、日本語読みなら、“エーテル”です!」


 まさに、水を得た魚の如く、アメリアは言葉のパズルを解いていた。これによって5字の正体が判明する。パフはそれを次々と当てはめていき、1行目にあるもう一か所のリズム崩れを睨んでいた。


 “ζ山Ψζ仝БЩ山Бξ”→“H山ΨH仝БЩ山Бξ”


 アメリアには直ぐに分かった。何せ最初の4字で“H”が2度も使われている上に、その後も同じ母音が繰り返されているのだ。


 「”High Potion”! ハイポーションですっ!」


 ガッツポーズを決めた彼女はまさに天使であり、王墓の謎に彷徨う者達の救世主だったのである。


 そこからは速かった。先ずはエーテルとハイポーションの後に来ている母音が“O”の文字が“を”だと判明したことを皮切りに、続々と進んで行く。


 やがてティーが4行目までの冒頭の母音の出現パターンから方位を指し示していることに気付き、暗号の大半を解読していた。それは時間を要したものの、パズルのようで中々に楽しい時間であったのだ。




 「で……できた……」


 完全に解読された暗号文を前に、バターは驚きを隠せない。正直なところ彼女は諦めていたのだ。


 1

  東の部屋は⊥石像に⊥ハイポーションを⊥振りかけよ

 2

  西では器の⊥水満たせ

 3

  南は甘き⊥果汁を注げ

 4

  北の床には⊥エーテルを撒け

 5

  最後は中央⊥祭壇で⊥炎を灯せ

                                                    』


 「やった……やったッ! いよっしゃああああッ!!!」

 「Bingo! Wahoo! 気持ちーですっ! みんな、Good job! ですっ!」


 歓喜のあまり立ち上がったパックがアメリアとハイタッチを交わし、バターも思わずティーに抱き着いて喜びを表していた。


 暫くそのままにした後で、ティーは冷静に指摘していく。


 「ハイポーションとエーテルは持ってるわ。炎は兄さんの魔法があるし……残りは果汁と水ね」

 「……Oh。ヤシの実Juice、全部飲んじゃったです……」


 その結論に、アメリアは真っ赤になりながら告白していた。かくして暗号解読はしまらない、されどそれらしい結末を迎えていたのである。




 一行は一直線にザベイスまで走って戻っていた。ゲームだけはあって、ひたすら走り続けても疲れたりはしない。ザベイスでは飲み水を購入し、残りは果汁、ヤシの実ジュースだけである。


 ティーとバターが残ってボス攻略用のアイテムの買い出しに行く中、パックはアメリアとパフの3人でオアシスにまで戻っていた。


 パックもアメリアもそのやる気は天をつかんばかりである。パックは2人を置いて足早に通りを行き交うNPCを避けようとして、


 「あいたッ!」

 「いったいわね! 何処見て歩いてんの……」


 同じように“水没都市”クリアで絶頂を迎えたテンションのまま走っていたウィドウと正面衝突していた。


 幸か不幸かパックは既にウィドウから宿命の相手と位置付けられている。案の定パックの顔を目にした瞬間、ウィドウの顔が真っ赤になっていた。


 「あっ! ぶち子ちゃ……」

 「出たな! 変態童貞野郎! っていうか、ぶち子じゃないって何度言わせんのよおおおおッ!?」


 2人はお互いを指さし合って、威嚇していた。


 「私の名前はブラックウィドウ! 某国民的怪盗アニメのヒロインみたいに呼ぶんじゃねええええッ!」

 「ご、ごめん……そっか、胸はぷち子だもんね……」

 「やかましいわ!?」


 その賑やかなやり取りの誘われたように、それぞれの保護者であるヘルキャットとパフもやってきていた。大声に買い物を任せ、様子を見に来たのである。


 ヘルキャットは相変わらずで、パックに向けて隠し切れない笑みを浮かべている。


 「あら……こんにちは、童貞君」

 「ヘルキャットッ! 呑気に挨拶してる場合じゃないわよ!?」


 ヘルキャットは、パックとウィドウの組み合わせに無限の可能性を感じているのだ。人よりも少しだけ賢い彼女には、いつも予想を超える展開に突入する2人が何物にも代えがたい娯楽なのである。


 「ストーカーなのよッ! 間違いないッ! いつもいつもいつも、行く先々に現れやがるぅぅぅ!」

 「そんな!? ぶち子ちゃん…………僕のストーカーだったなんて!?」

 「私じゃねえよ!? ストーカーはお前だよ!?」


 そこで堪えきれなくなったヘルキャットが、豪快にヤシの実ジュースを吹き出していた。気が付けばエーシィの面々も集まってきている。パックの視界の隅には苦笑いの兄と、こっちに向かって走ってくるアメリアが映っていた。


※最新の進捗状況は活動報告をご確認ください。

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