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LOAD GAME →城下町にて 残り時間240:00:00

 ステージ名、“始まりの平原”。名前の通り地平線の果てが見えそうなほど、延々と緑の草地が続いている。所々になだらかな丘陵があり多少の凹凸が生まれている以外、本当に何もない。


 果てしない青空と草原が、とても眩しかった。




 「そんな装備で、大丈夫か?」

 「兄さん! 冒険の最初にそのセリフは止めて……!」


 4人でパーティー登録を済ませてから、城下町を出てフィールドへ第一歩を踏み出そうとしたパックは、(パフ)の不吉なセリフをに足止めされていた。


 「大丈夫デス! 問題れす!」

 「問題あるの!? アメリア大丈夫!?」


 遠足にでも行くように元気に応えるのは外国人の少女アメリア。その舌っ足らずな言葉でたどたどしく紡いでいく。パックは想定外の展開に焦りながらも、日頃の癖で間髪入れずに突っ込みを放ち、(パフ)の微妙な視線を浴びていた。


 「……? “~less”は“~ない”っていう意味だぞ? つまり今のは、大丈夫だ、問題な……」

 「遊んでないで行くぞ」


 呆れかえった(ティー)の言葉で、一行はようやくフィールド探索に乗り出していた。


 最初のフィールドだけあって敵の数も少ないようで、広い草原をひたすら歩くだけの時間が過ぎていく。


 「兄さん。地図とか無いの?」


 退屈を持て余したパックが隣に訊くも、パフは無言で首を振るだけ。代わりに遥か彼方を指さした。その先にはだだっ広い平原で唯一の、建造物らしき影が見えている。


 「1つのステージに有る町や拠点は、2つだけだ。この始まりの平原なら、最初にあった城下町と遠くに見える街だけ。だからあの町に行けば、なにかしらの手がかりが得られるだろうさ」

 「それに一度到達した町や拠点間の移動は、街に存在する転移門とやらで自由に行けるみたい。行っておいて損は無いんじゃないかしら?」


 ティーの言葉にパックが納得したところで、アメリアが何かを見つけたらしく騒ぎ出した。


 彼女の視線の先には、こちらに向かって走ってくる小さな黒い影がある。その人影の頭上には、ピコンと名前とHPゲージが表示されていた。


 “ゴブリン LV1”


 「敵が来るです!」


 初めての戦闘だった。魔法職のパフが後ろに下がり、それを守るように残りの3人が前に出る。槍使いの姉よりも身軽な剣士の2人が先を争う様に駆け出していき、パックは剣を振りかぶっていた。


 黒い肌を持ったゴブリンは赤く焼け爛れたような髪を振り乱している。その背は小さく、武器も小さなナイフだけだった。リーチも短く、反応も悪い。


 「先手必勝っ!」


 パックが上段から振りかぶった剣は、綺麗な弧を描いてゴブリンの頭に命中する。衝撃のエフェクトが発生してゴブリンがのけ反る中、“CRITICAL!”の文字が刹那に浮かんだ。


 このゲームのクリティカル判定は確率ではなく、部位である。概ね頭部への攻撃はクリティカル扱いになり、相手の防御が目減りした状態でダメージが計算される。


 「s、Sentence hit show!」


 パックの一撃でゴブリンのHPは半分近く減少している。更に怯んだ隙をついたアメリアの突きが頭部に突き刺さると、呆気なくゴブリンは倒れ、溶けるように消えて行った。


 アメリアがパックを真似たらしい言葉と共に、敵を倒した喜びで満面の笑みを浮かべる。だが、戦いはそれで終わりではない。


 「敵の増援だ!」


 パフの声と共に、彼が唱えたらしい火の攻撃魔法のエフェクトが浮かび上がる。火球となったそれは高速で突き進んでいき、しかし走り寄る3つの影からは外れ大地を焦がすにとどまる。既に敵の名前すら表示されていた。


 “グレイウルフ LV1”


 「兄さん下がってて! 私が相手する!」


 駆け寄る狼を前に勇ましくティーが立ち塞がると、槍を振り回して一体を串刺しにしていた。さらに距離を詰めて来たグレイウルフに対し、見事な正拳突きを頭部に叩き込む。


 だが、最後の一体までは足止めできなかった。グレイウルフの鋭い爪がパフの胴体を薙ぎ払い、ノックバックした彼のHPゲージが、見る見る減っていく。


 「兄さんッ!? 大丈夫!?」


 そこで慌てて戻ったパックが割って入り、死の危機に瀕したパフを庇う様に立ち塞がる。同時にアメリアが投げた初期装備のポーションがパフに降りかかり、半分以下にまで落ち込んだHPが回復していく。


 幸いな事に大事には至らなかった。残った狼にティーの槍が突き刺さり、最後の一体が地に伏せる。


 その瞬間、頭の中にファンファーレが響き渡った。


 計4体の敵を倒したことで、レベルアップしたようだった。周辺を油断なく警戒し、敵がいないことを確認すると、ようやく一息つく。


 このゲームの能力値はポイント制で、レベルアップ時に貰えるポイントを各能力値やスキルの習得に自由に振り分けることができるのだ。逆にいうと、それを済ませない限りレベルアップの恩恵を受けられない。


 だから、それを振り分けるために休憩した所で、ティーが気づいていた。彼女も一度狼の攻撃を受けているが、HPは1割程度しか減っていない。


 「おい兄公。お前のステータス見せてみろ」

 「何だよ急に。そんなに俺の大事なところが見たいのか? ……エッチ」


 彼女の拳がふざけた事を言いだす(パフ)の頭に吸い込まれる。まるでダメージを受けたかのようなリアクションを取るパフを尻目に、ティーは冷たい視線を浴びせかける。パフはやむなく自身のステータスを見えるように開示し、パックは驚きのあまり目を見開いていた。


 名 前:パフ

 レベル:2

 H P :911/1000

 M P :975/1000

  力 : 1

 魔 力:37

 守 備: 1

 魔 防: 1

 速 さ:10

 幸 運:10

 スキル:火魔法レベル1、時空魔法レベル1


 「なんだよこれ!? 兄さんどんなステータスの振り方してんの!?」

 「んん。男なら極振り以外ありえない……!」


 その異様に低い防御力のせいで、彼は危うく死にかけたのである。パックが慌てふためくのとは対照的に、ティーは頭痛を堪えるように空を仰ぎ、アメリアは話について行けずにポカンとしていた。


 キャラクターメイクの際に設定できるのは力、魔力、守備、魔防の4種類である。HP、MP、幸運に関してはそれぞれ固定だった。速さに関しては初期値15から装備の重さを差し引いた数値であり、10を基準に高ければ本人の体感時間が加速され、低ければ減速される。


 これが防御に厚く振ったティーの場合、


 名 前:ティターニア

 レベル:2

 H P : 897/1000

 M P :1000/1000

  力 :10

 魔 力:5

 守 備:15

 魔 防:15

 速 さ: 9

 幸 運:10

 スキル:槍術レベル1


 となっている。アメリアやパックの場合、守備よりも力を重視し、なおかつ装備品も軽めにしているため速さも高い。


 「しょうがないだろ? まさかこんな事になるとは思ってなかったんだから……」


 ステータスは一度振ってしまえば変更は効かない。後の祭りだった。


 「だ、大丈夫です! パフはPrincessです! 皆で守るです!」

 「うむ、その通り! 皆の者、苦しゅうないぞ!」

 「兄公、手前が言うな!」


 呆れを通り越して怒りを覚えたティーがパフに食ってかかり、彼はそれを飄々と躱していた。


 とは言えパフ自身も自分の脆さを自覚したのか、次の戦いからは積極的に魔法攻撃を乱射。その圧倒的な魔力に裏打ちされた攻撃で、押し寄せる敵を次々と一撃で爆砕していく。


 最初のステージらしく、始まりの平原の敵の数は少ない。一度に現れるのも精々が3体で、歩みの遅いゴブリンが主だった。パフがレベルアップ後に敵を追尾する火炎魔法レベル2“ファイアボール”を習得してからは尚更だった。戦闘はかえって楽になっている。




 一行が最初の街であるダイアベイスに到着したのは、スタートしてから1時間経過した頃であった。


 「思ったより、Easyでしたね!」


 石畳の上に立ち並ぶ煉瓦造りの家々を観光も兼ねて見回っていると、アメリアが口を開いていた。その口ぶりとは裏腹に、表情は倦怠感丸出しである。それもそのはず、思った以上に退屈な町だったのだ。特に目新しいアイテムや装備も存在しない。


 製品版が実装された暁にはイベントが発生すると思われる、町外れの廃墟には侵入できなかった。同様にいわくありげな墓地も見に行ったのだが、これといったイベントは発生しなかった。


 「いっそ、夜に来れば良かったんじゃない? 後でまた来ようよ」

 「……? 弟よ。その余裕は立派だが、現実は甘くないぞ?」


 確かにグラフィックは現実世界と同等か、下手したら上回っている。だが、肝心のイベントが無いのであれば拍子抜けだった。パックはデスゲームであることも忘れて、思わず呟いていた。


 「え? でもまだ1時間しか経ってないよ? 10日間で全10ステージでしょ? 一日1ステージのペースで攻略していけば良いじゃん」


 パックの呟きにアメリアが同意して頷くと、兄姉は顔を見合わせていた。不審そうに見つめるパックに対し、ティーは諭すように教える。


 「……あのね、普通ゲームって進むと加速度的に難しくなっていくでしょう?」

 「……あっ」

 「序盤の街に1時間で辿り着けたからといって、終盤もそのペースで進めるとは思わない方が良いわ」


 ティーの言葉に押し黙る2人。死んだら終わりのゲームである以上、通常よりも高めのレベルを維持する必要がある。そのレベル上げに費やす時間も考えなくてはいけない。


 一行より先に出発したプレイヤーも多く、彼らを旅の途中で追い抜いたりはしていない。現状は、むしろ遅れ気味なのだ。


 しょげた2人を励ますように、パフが笑う。


 「ま、時間のあるうちに会話を楽しむのは良い事だ。これが最後の一日になってみろ? 間違いなく殺伐とした雰囲気になるぞ」

 「す、直ぐに出発しますです! 時間が危ないです!」

 「落ち着け。せめてMPが回復するまで待ってくれ……」


 拠点や街中に居る場合、HPやMPは緩やかに回復していく。もっともゆっくりする時間のない一行は、店で買ったポーションやMPを回復させるマナポーションを使用している。今はその充足しきれなかった微量分の回復待ちである。


 「……今は兄公の攻撃魔法が頼りだ。ファイアボールの一撃で雑魚を倒せるから、戦闘に時間が取られない」


 そして経験値はパーティーに平等に分配されている。結果的に極振りは成功していた。


 後は待機時間中の目的を果たすだけである。1つ目は観光もとい偵察。しかしこれは失敗だった。先の街もあまり探索するメリットは無さそうである。


 そこで一向に近付く影があった。同じ女性という事もあってティーに声がかけられる。


 「こんにちは。プレイヤーの方ですよね?」

 「えぇ。さっきここに来たばかりなんです」


 2つ目の目的は他のプレイヤーからの情報収集である。パフもティーも、遅くなった分のメリットを最大限利用するつもりだったのだ。“スカボロー”と名乗った女性3人組のパーティーとの情報交換を通じて、一行はボスの所在地を突き止めることに成功していた。


 「ねぇ。本当にこれは命がけのゲームだと思ってる?」

 「どうかしら? 実感は無いわ。幸運にも誰かが死んだっていう話も聞かないし……」


 “パースリー”と表示されている女性の問いに、ティーは返事を返す。やや地味ではあるものの、素朴な顔立ちは不思議とファンタジーな世界観にマッチしている女性だった。


 「どうですお嬢さん方? 万全を期すために、一緒に行きませんか?」

 「ナンパすんな!」


 そして当然のようにパフが声をかけ、あっさりと妹に叱られて撤退する。鮮やかな一連の流れに、パースリーは思わず苦笑していた。


 残念なことにこのゲームのパーティーは6人まで。彼女達と共に行くのは無理である。


 「出発するます?」


 アメリアが急かすように言い、一行は出立の時を迎える。アイテム補充のために戻ったスカボローからの情報によると、始まりの平原のボスは森の方にある“草原の終わり”というダンジョンに居るという。


 既にアイテムは目一杯買い込んである。パックは気が付けば真っ先に立ち上がり、冒険の準備を整えていた。


後1話更新予定→

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