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LOAD GAME →魔の海域にて 残り時間200:00:00

 「3……2……Impact……Now!!」


 クラーケンの砲撃を、今度は避けることが出来なかった。


 ※WARNING※

船へ攻撃を受けています!

残りHP9500/10000


 そのメッセージを振り払うかのようにパックとアメリアが、彼方のボスに向けて斬撃を放つ。それは波間を切り裂いて進み、すんでの所でボスに避けられていた。2人の頭上を飛び越える様にバターの放った槍が火を噴いて飛んでいき、やはりギリギリの所で回避されてしまう。


 ナーガホームは厄介な状況に追い込まれていた。後ろからキラーホエールの猛追を受けており、それを防ぐために高速で、しかも小刻みに移動している。それゆえ、味方の攻撃も当たらないのだ。


 パフは決めざるを得なかった。


 「ティー! 距離を詰めてくれ!」

 「兄さん!? そんなことしたら、敵の砲撃が!」

 「このままでは、こっちの攻撃もまぐれでしか当たらないぞ。それにな?」


 そこでパフはニヤリと口元を吊り上げた。彼には秘策があるのだ。それは海賊船や船の改造に際して思いついた物である。


 「敵の砲撃が来るです! Count! 5……4……」


 アメリアが操縦席に届くように声を張りながら、必死に斬撃を放つ。彼女渾身の一撃は、しかしながら優雅に身をくねらせたクラーケンに掠りもしない。


 「3……2……Impact……Now!!」


 再びのボスの砲撃を、ティーは強引に舵を切ることで回避していた。船が白波を立てて、少しずつボスとの距離が狭まっていく。


 だが、そこでボスの触腕が鎌首をもたげた。


 「くそ! 敵の砲撃が激しいな!」

 「パック、落ち着くです! パフとティターニアを信じるです!」


 パックは苦い顔を隠しきれていなかった。現在ナーガホームは一方的に押されているのだ。相方のアメリアとて、その顔は必死に作り上げた笑顔である。


 「兄さん! 秘策ってのはまだなの!?」

 「落ち着け、今使う所だ」


 焦燥感に身を焼いたパックは、気が付けば兄に縋るようになっていた。同じく厳しい状況下においても、多少の余裕のあるパフは不敵に笑っていた。同時に、新たに習得した時空魔法をパックに向けてかけていく。


 暖かな黄色い光が、彼の剣を包んだ。まるで黄金のように光り輝くオーラを放つ剣。それにかけられた加護を、“ザ・スリー・オブ・スペード”と言う。


 その単純かつ格好良いエフェクトに、アメリアは目を奪われていた。


 「What’s!? 凄い! 剣が黄ばんでるです!」

 「黄ばむ!? トイレじゃないよ!?」


 そのまさかの形容に、堪えきれなかったパックが突っ込みを入れる。


 「ち、違うます! 間違えました…… 気色(きいろ)ばむです!」

 「それはきいろじゃなくて、けしきだよ!?」

 「遊んでる場合じゃない、次弾が来るぞ!」


 兄の声にパックが慌てて注意をボスに向ければ、既に触腕が水色に光り輝き発射の態勢を整えつつある。


 「C、Count! 5……4……」

 「兄さん! それで、僕はどうすれば良いの!?」


 もはや発射までに猶予は無い。先ほどよりも距離が詰められ、回避も難しい。弟の必死の問いかけに、パフは実に良い笑顔で返していた。


 「打ち返せ」

 「……はい?」

 「だから、敵の砲弾を打ち返すんだ!」

 「そんな無茶な!?」


 アメリアが目を見開きながらもカウントする中、パックは驚きのあまり兄を凝視していた。


 「やれ! パック!」


 時空魔法レベル4、“ザ・スリー・オブ・スペード”。その効果は対象の武器に一定時間、強力な反魔法力を発生させること。平たく言うと、


 「2!……Impact!……Noooow!!!!」


 呆然としかけたアメリアが絶叫する。同時に船首に居たパックの視線一杯に敵の水色の砲弾が迫り、


 「うわぁぁぁぁ!!!」


 彼は黄金色に輝く剣を構えると、正面から切りかかっていた。パックが全身の力と願いを込めて振るった剣は見事に敵弾の中心を穿っていた。まるでゴムボールを叩いたような触感が彼に伝わるや、砲弾は面白いように跳弾し海に巨大な水柱を突き立てる。


 「な、なんだこれ!?」

 「ザ・スリー・オブ・スペード。一定時間武器に敵の魔法を弾く力を与える魔法だ。思い出せ! 敵の砲撃は海賊船の大砲と同じで、海賊船の大砲はサザンビーチの改造大砲と一緒だっただろ? そう、ボスの砲撃はマジックカノンだ! ならば、打ち返せない道理はない!」


 剣が魔法と触れた瞬間、剣を包むオーラは一際強く輝くと、砲弾の色が黄金色に染まって打ち返されたのである。


 「Cool! Cool!! Cooool!!! パック! 次は私がやる番です!」


 一転して盛り上がったアメリアがパックの代わりに船首に立つと、パフに催促して剣を黄金色に染め上げていく。


 迫りくる水色砲弾を、アメリアは見事なひと振りをもって弾き返していた。その攻撃は正確にクラーケンの頭部に着弾し、轟音と共に大爆発を起こす。そして、期待通りにHPゲージを削っていた。


 「……やっぱりか。この大砲は割合ダメージのようだな。実に頼もしい」


 気が付けばその光景に、3人は笑みを浮かべていた。起死回生の一手は、攻撃と防御を同時に行える妙手だったのである。




 だが、クラーケンもそれで終わりではない。これで終わる程度のボスであれば、ナーガホームは攻略に苦労しないのだ。パックが討ち返した砲弾は完全にボスへの直撃コースをたどっていた。


 そしてそれゆえ、クラーケンは残りの足で砲弾を再度弾き返していたのだ。


 「んな、あほな!?」


 大砲の砲弾の打ち合いという驚愕の展開に、バターは思わず口をあんぐりと開けていた。その狙いは荒く、幸いにも船の直上を通り過ぎて真横に巨大な水柱を突き立てる。


 見れば、ボスのHPは半分を切っていた。攻撃方法が変わったのだ。それまで一定の距離を保って平行に同航戦を行っていたクラーケンは、にじり寄る様に距離を詰めてくる。


 「くっ……! 面舵を……!」


 徐々に均衡は崩れつつあった。ボスは船に追い縋る様に真後ろにつくと、速力の差を生かして猛砲撃に出たのだ。


 「2人とも、頼んだぞ!」

 「Yup! ……ッ!? て、敵のCannonが増えたです!?」


 それを見たアメリアは思わず泣き言を漏らしていた。パックの顔色も悪い。イカの足は10本である。彼らの見ている前でその全てが触腕に変化し、砲撃の色を宿していたのだ。


 「随分と大盤振る舞いじゃないか!」

 「兄さん!? どうするの!?」


 思わず武者震いに震えるパック。それに兄は不敵な笑みで返していた。彼の手には杖。黄金色の輝きこそないものの、魔法で迎撃するには十分である。


 「全弾打ち返すしかないだろうな……!」

 「Bejesus! でも……やるしかないです!」


 見ればクラーケンは見る見る距離を詰めており、その触腕は今にも爆発せんと光を湛えている。


 僅かな間隙の後、10の水色とそれを迎撃する2つの赤い光線、そして2振りの黄金色が激突した。


 激しい衝撃が船を襲い、思わずパフは甲板上を転がされていた。そのささやかな痛みに顔を顰めつつも、彼はバターに向かって問うていた。


 「ダメージは!?」

 「4発が命中しました! こっちの残りのHPは6500です!」


 翻ってボスを見れば、そのHPは大きく減少している。パフの瞳が細められた。そのHPは25%を割り切っていたのだ。50%を切った際の攻撃が10連装砲撃だとすれば、また碌でもない攻撃が加わるはずだった。


 「兄さん……大丈夫!?」

 「あぁ。今、回復する」


 パックの目の前でパフは唱えた回復魔法をアメリアにかけていた。彼女は敵の砲撃を打ち返しきれないとみるや、身体を張って船を守っていたのである。


 クラーケンの全身が怒りを表すのか、茹蛸のように真っ赤に染まっていく。


 青い海と対照的なその姿をにらみつつ、パックは覚悟を決めざるを得なかった。冷静になって考えてみれば、敵の砲撃は一発につき500ダメージ。船は追い詰められつつあるのだ。


 そこで、船の操縦席から悲鳴が上がっていた。バターが敵の増援を見て慌てふためいていたのだ。


 “キラートーピード LV36”


 見た目は従来のキラーホエールとそう変わらない。違うのは、


 「こ、こいつら! 船への攻撃を優先しているわ!」


 次の瞬間、バターが倒しきれなかったトーピードの一撃が船に命中し、衝撃がナーガホームを襲う。残りのHPは5500。尚も3匹のトーピードが船を狙っていた。


 「パ、パフさん! ごめんなさい、手を貸してください!」


 助けを求めるその声に、パフは“ザ・スリー・オブ・スペード”をかけ直してから加勢していた。


 「パック! アメリア! 任せたぞ! 敵を暗い海底に没せしめろ!」


 その言葉が、2人に更なる闘志を与えたのは言うまでもない。彼は走り寄りながら叫んでいた。


 「ティー! ボスは2人に任せろ! ジグザグに航行して、敵の体当たりを躱すんだ!」


 ティーはその言葉に従おうとしたところで、その美しい顔立ちを引き攣らせていた。彼女の前、パフの背後にてボスが大技に出たのだ。息を吸い込むようにその体を膨らませるや、僅かに震え、炸裂していた。


 「何かに捕まって!!!」


 彼女には、船を強引に止めるしかなかった。強烈な90度ターンによってティー以外の全員が甲板を転がる中、彼女だけは見ていた。ボスが吐き出した墨のブレスが、船の航行する先の海域一帯を黒く染め上げていたのだ。


 途端、パンクしたかのように船の速度が低下していく。それを見越すかのように3体のキラートーピードが体当たりを敢行し、ナーガホームにそれを防ぐ手立ては無かった。


 「――ッ!? 残り2500!」


 だが、彼女の声に耳を傾けるものは居なかった。クラーケンは極間近に迫っており、その10本の触腕が止めを刺さんと水色の禍々しい光を放っている。


 「――全員ッ! 迎撃だッ!」


 パフはそう叫ぶのが精一杯だった。ティーもバターも立ち上がって竜炎槍を唱え、砲撃の迎撃に回る。発射される前の触腕ならば、押し留められるのだ。


 懸命な迎撃もあって、発射された砲弾は8発。内4発をアメリアとパックが撃ち返し、1発をパフがファイアボールで迎撃する。


 残りの3発は悉くが命中していた。これで船の残りのHPは1000。キラートーピードの攻撃でも轟沈する計算である。


 その瞬間をパックは見た。ティーが操縦席に齧りついて船の進路を曲げ、逃走に移る。だが、無情にも後ろからキラートーピード3体が、そして横からも再びのクラーケンのブレスが放たれようとしていたのだ。


 ぶちまけられた墨によって思うように動けない船体。迫りくる雷跡。見れば輝いていた剣も光を失っている。それは忍び寄る死の気配であった。


 短い時間の間にパックの脳裏を色々なことが過る。ふざけつつも助けてくれた兄の背中。厳しくも優しくしてくれた姉の顔。肩を並べて戦ったアメリアの剣。そして意地でも守りたい、彼女のこと。


 「――攻撃だ! クラーケンに止めを刺せ!」


 パフの声は、心なしか絶望に染まっているようだった。このボスに彼の魔法攻撃は効きにくい。彼にできることは少ないのだ。


 船はようやく墨から脱出して動き出していた。だが既にキラートーピードは突撃態勢に入っており、かつ濁音と共にクラーケンの墨が放たれる瞬間だったのだ。


 「うおおおォォォ! お前なんかに、負けるものかァ!!!」


 絶望的な戦況にアメリアが嘆きと共に天を仰ぐ中、パックだけは剣を振りかぶっていた。彼はただ兄の声に従って、斬撃を放ったのである。それは無情にも吹き荒れる墨の嵐に紛れて行き、


 「兄さん! 避けきれないわ!」


 返す刀でブレスが船を襲っていた。だが、兄も諦めなかった。黒の濁流が船を飲み込む寸前、船体が突如急加速したのだ。


 反動で倒れそうになる中、パックの直ぐ後ろを墨のブレスにトーピードの攻撃が駆け抜けていく。


 彼の視線の先では、パフが不敵に笑っていた。


 「船そのものに“スキップ”をかけたんだ。咄嗟の判断だが、効いてくれて良かった!」

 「兄さん! 信じてたわ!」


 兄の言葉に、姉は思わず滅多に見せない歓喜の表情を出す。同時にクラーケンから悲痛な声が響き渡り、キラートーピード達も沈みながら消えていった。


 パックの一撃が止めを刺したのだ。


 彼は湧き上がる情動をそのままに、拳を天に突き立てて叫んでいた。


 「ぃいよっしゃァァ!!! 見たか化け物め! 僕たちに敵う物なんて存在しないッ!!」

 「Attaboy! And good job! Puck! Krakenめ! ざまあ見るです!」


 同時に死の淵から生還したアメリアが人目を憚らずに咆哮をあげ、パックと拳を突き合わせる。その間にパフは油断なく全員のHPを確認するや、先へ進むことを決めていた。


 未だに衝撃から醒めず上の空のバターを尻目に、ティーは立ち上がると仏頂面を取り戻していた。兄の手をかけないようにしている彼女にとって、今の流れは嬉しくも恥ずかしくもあったのだ。


 ナーガホームの船は歓喜の声を響かせながら、ゆっくりと海域を進んで行った。


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