第一話
サブが先にできちゃったので、投稿。う~む、メインが進まない……。
誤字脱字誤用、見つけたら感想でお願いします
グリーザ帝国学院高等部にある第3闘技場では、講義が終わったにもかかわらず観戦席が埋まっていた。特殊な結界の張られた中では、2人の青年が拳を交えていた。
帝国学院は、初等・中等・高等の3つに分かれており、無料で入れるのは中等部までだ。高等部となると特定の一部を除いて授業料だったり施設維持費だったりっていうお金を払わなくちゃいけなくなるのだ。まぁ最終的に何が言いたいのかというと、高等部は講義も選択制なのでここにいる人たち全員が必ずしもサボりではないということを言いたいだけである。
客観的に見ると金髪の青年も翡翠色の髪の青年も互いに打ち合っているようにしか見えない。が、その実、翡翠色の青年が不利な状況であった。
***
ハルターは現状のアルフォンスとの格闘センスの差に内心愕然としていた。自他ともに認める親友であることには変わりないが、こうして1対1で戦ったのは初めてである。
元々、講義での模擬戦で「魔法なし・星術あり・格闘限定」というルールを設定されたのだが、生憎とアルフォンスとハルターはマッチングされなかった。そこで次の時間何も入っていないし講義終わりに一回やろうよ、ということになったのだ。
おいおい、嘘だろ
傍から見れば互角かもしれないが。実際のところ、ハルターの攻撃は全部受け止められているのに、アルフォンスの攻撃にハルターは防御を選択することが出来ない。
闘技場に張ってある結界は、受けたダメージを数値化してそれが1000を超えたら試合終了となる仕組みになっている。「完全に防御できれば、ダメージは0で計算される」等、ダメージの判定はいろいろな要素が絡むので割愛するが、とりあえずアルフォンスの攻撃をハルターは完全に防御することが出来ないという点だけわかってもらえればいい。
正直、ハルターから見ればアルフォンスの格闘技術はそれほど高くない。割と隙だらけの状態になることも多い。しかし、それを補って余りある動体視力と反応速度がある。星術ありのルールであるからドラゴニアタイプの補正もかかっており重い上に堅いのも非常に厄介だ。
右拳の突きを左に弾こうと思った時、アルの左肘が少し多めにひかれるのが見えた。
アルは本命の時、肘の引きが大きくなるはず!
咄嗟に左手をアルの右拳に添えるようにして右へいなした。その瞬間、アルは拳の勢いで一回転しながらの肘打ちに切り替えてくる。
「くぅっ!」
カウンターをと前に出た体を無理やりに後ろに引き戻す。回避した後、そのまま後ろに下がり少し距離をとる。
「ふぅ~」
「ハルター、200きったぞ」
その声に闘技場の中央に浮く電光掲示板にチラッと見る。確かにハルターのダメージは800を超えていた。それに対しアルフォンスはまだ500弱だ。
「アル、お前反応速すぎ」
「何を言うか。お前だって俺のため打ち、最初の1本以外全部いなすか潰してるくせに」
二人とも軽口をたたいてはいるが、相手の隙を虎視眈々と狙っていた。
「あれはやばい。なんで拳一発で200もダメージ食らわなくちゃいけないんだよ!」
「はっはっはー、すまんな。俺の仕様だっ!」
棒立ちの体勢からの突進なのに動き出した瞬間からトップスピードに入ってくる。大体こういう時は右の大ぶりになるので、危なげなく避け、背中を狙って踵落としをする。が、アルは咄嗟に左足で地面を蹴り体を踵落としからずらす。
次はその勢いを使って右足で地面をけっての飛び蹴り、からの回し蹴りにいなすことが出来ず仕方なく両腕でガードする。ダメージに24が加算された。
くそぅ。このままだと大差で負ける。せめて800までは持って行かないと教官にボコられる。
ハルターはいつも格闘を教えてもらっている教官を想像して、寒気が走った。できれば使わない方向で行きたかった星術を発動させる。ハルターの両目の瞳孔が完全に開き紅く染まった。
ハルターの星は森精人型の一等星だ。名付きでもあるのだが、今は関係ないので割愛。通常スキルは「解析」、スキルの効果も名称から察せることだろう。この解析能力、一般の解析スキルの効果に加えて、初めて確認された能力点が2つある。
1つ目は、人間や魔物に対して解析できるということ。2つ目は、一度見たもしくは受けたあらゆる攻撃に対しダメージの算出と軌道の予測ができることだ。
「こっからガチだよ」
アルフォンスの一挙手一投足に解析スキルの手が入り次の攻撃を報告してくる。視界を塞がないように出来るだけ積極的な攻撃はしない。解析して判明した絶対にダメージが通る時にだけ攻撃を当てアルフォンスのダメージ値を積み上げていく。
回避を優先し次に逸らすことに専念する。軽い突きさえ当たらない状況に少し苛立って大ぶりのため打ちが来る。いなすことで出来たさっきより大きな隙に渾身の蹴りをお見舞いする。
アルフォンスは一度冷静になるためハルターから距離をとる。
「なにそれ、せこくね」
「すまんな、仕様だ」
ハルターは悪戯が成功した時のような笑みを浮かべ、わざとアルの言葉を引用した。
「こいつ……」
いつも涼しい顔をしているアルの額に一瞬だけ青筋が立ったのをハルターは見逃さなかった。
「全力全開でいく!『変身:古竜』」
アルフォンスの白い肌がみるみるざらざらした爬虫類特有のそれに変わり、黒い翼をもつ黒竜の姿へと変わっていく。アルフォンスの変身した姿を見るのは初めてだが、明らかにオーバーキルされそうな雰囲気が漂ってきている。
竜も色によって能力の差が出るらしい。アルフォンスは黒竜なので広範囲攻撃が得意らしい(本で読んだことしかない)。
ちなみにスキル名は別に言う必要はない。とはいえ、言った方がかっこいいって理由で言う人はいっぱいいるけど、僕はなんか恥ずかしいので言わない……。
「ちょっ、これはやばいってぇ」
「『衝撃』」
ただ単純に闘技場の床を全力で殴りつけた。それによって多くのスキルで強化された石畳の一部が軽く破壊され第1闘技場全体を揺らした。
あ、やばいなこれ
と、ハルターは石造りの床が波打ちながら迫ってくるのを見ながら思った。スキルが出した回答は「回避不可」、かと言って受け止められるかと言えばそうでもない。結局、衝撃で結界まで吹き飛ばされた。
あ~結界なければ僕死んでたな。床の石も壊れたし、結構ギリギリだった気がする。てか、なにこの能力差。えげつなすぎるだろう。あれ、体が動かないぞ。え、ちょっ、ヤバイ。ヤバい。ヤバい。ヤバい。ヤバ……。
あまりのオーバーキルに帝国最高峰の結界と言えど処理しきれなかったようで、ハルターは多量の負荷に意識を押しつぶされた。
全治3週間の大怪我である。