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【絆】

作者: エビマヨ

砂混じりの風が横殴りに吹いていた。

 太陽の姿はなく、世界全体が砂に覆われているようであった。

 崩れかけたビルとビルの隙間に、寄り添うような人影が二つ。

 「ホラ、ちゃんと食べなかきゃダメだぞ!」一回り大きな影が何かを差し出す。

 「だって、お兄ちゃんの分が・・」小さい方の影が泣きそうな声を出す。

 「お兄ちゃんは先にたべたから」二つの影はどうやら兄妹のよだった。

 「早く食べなきゃ悪い奴等に盗られちゃうぞ」そういって少年は妹に笑いかけた。

 「お兄ちゃん、昨日もそういって食べなかったよ」妹は食べ物をなかなか口にしようとしない。

 「わたし、お腹すいてないもん」妹がそう言ったと同時に・・・

 (クゥ~)とかわいらしい音をたててお腹が鳴いた。

 「ホラみろ、お前は身体が弱いんだからちゃんと食べなきゃダメだぞ」少し強く妹を促す。

 「ゴメンな、お腹いっぱいご飯食べさせてやれなくて」兄は悔しそうな顔をする。

 「わかった・・食べるよ。でもお兄ちゃんと半分こじゃなきゃ食べない」妹は小さな首を左右に振った。口元を真一文字に結び意思表示をしていた。

 「よし、半分こだ」そう言って少年は食料を半分に割った。

 「ホラ、ゆっくり食べるんだぞ」そう言って兄は随分と大きく割った方を妹に差し出した。

 「ありがとうお兄ちゃん」二人は少ない食料をゆっくりと食べた。       

その様子を 少し離れた場所から観察する者がいた。

 「ヒカル、今回はオレにまかせときな」ヒカルと呼ばれた少年よりも、頭一つ分大きな少年が言った。

 「タカ・・大丈夫だから」ヒカルは身じろぎもせず兄妹を凝視している。

 「お前じゃ無理だろ?」タカと呼ばれた少年が呆れた風をよそおいながら言う。

 「いや・・オレだからこそ」何かを言いかけたが、いつまでたってもその先を話そうとはしなかった。

 「そうか、わかった。側で見てるからいつでも声かけーや」そう言い残すとタカは一人去っていった。


 瓦礫に隠れるようにして兄妹が寄り添って眠っていた。

 辺りは、昼間の暑さが嘘のように冷えている。

 ゆっくりとヒカルが近づいていく。兄妹に手を差し伸べかけて動きを止める。ためらっているのか・・・。

 ふいに、少女が目を覚ます。身じろぎした妹に気づいたのだろう、兄も目を覚ます。

「だぁーれ?」少女が眠そうに目をこすりながら話しかける。

 「動くな!」飛び起きた兄が、懐から先の尖った棒をヒカルに向ける。

 「見えるのか」ヒカルは自分の姿を見とがめられた事に驚きを覚える。

 「俺達は何ももっちゃいない。怪我したくなかったら消えろ」兄が威嚇するように棒を左右に振る。

 「これからは、一人で生きていかなくちゃいけない」ヒカルは無抵抗を表すように両手を高く上げる。

 「ふざけるな!俺達はずっと一緒だ。寝ぼけるな」兄がヒカルに棒を振り下ろす。

 ヒカルは一歩下がると棒を紙一重で避けた。

 「落ち着いて、また会いにくるから。その時はゆっくり話を聞いてほしい」ヒカルが少しずつ後ろに下がる。

 「二度とくるな!今度は手加減しないぞ」兄は妹をかばうように立ちはだかっている。

 ヒカルは少しずつ闇にとけ込むように消えていった。

 「おにぃーちゃん」妹が震える手で兄の背を掴む。

 「大丈夫だ。お兄ちゃんがついてるから」兄は妹を強く、強く抱きしめた。

「おやおや、危なかったですねぇ」兄妹のすぐ近くから声がした。

 驚いたように兄が振り向くと、そこには背の曲がった老人が立っていた。

 「あの男は死に神ですよ」老人はしゃがれた声で優しく話しかける。

 「そんなのいるわけないだろ!」兄は連続して訪れる来訪者に恐怖を感じながらも、精一杯の虚勢を張る。

 「あなたも見たでしょう?闇に溶けていくあの男をね」老人はゆっくりと話す。

 「ほんと・・なの」兄は恐怖の連続に震えていた。 

 「おにぃちゃん・・・こわいよぉ」妹は今にも泣き出しそうだった。

 「君にね、力をあげよう」老人は兄の目線まで腰を落とし、じっと目を見つめる。

 「なんの力?どうして力をくれるの?」兄は老人に問いかける。

 「わしの名はユウ、あの男に孫を殺されたんじゃ」悔しそうに唸る。

 「わしは敵を討つ為に旅をしているんじゃ」ユウと名乗った老人は目に涙をためる。

 「ヤツに対抗する力をやっと見つけたんじゃが、若い者にしか扱いきれんのじゃ」ユウは薄汚れたコートから何かの結晶を差し出した。

 「これを飲めば、ヤツに対抗できる」そうゆうとユウは兄に結晶を手渡した。

 「ダメだよ、おにぃーちゃん」妹がとうとう泣き出した。

 泣きじゃくる妹を見て、決心したように兄は結晶を飲み込んだ。

 「それで、いい」ユウは満足そうに頷く。

 「おにぃちゃん平気なの?」妹が心配そうにのぞき込む。

 兄が妹に一瞬気をとられている間に、ユウはどこかに消えていた。

 「どこも痛くない?」妹は気づいた。兄の影が少し薄くなっていることに・・・。


   翌晩 


 月が出なくなってどれくらいの月日が経過しただろう。今夜は珍しく赤い月が夜空の合間、空に飛び交う砂と砂の隙間から辺りを照らしていた。

 やはり、今夜も凍るように冷えきっていた。 「おにぃちゃん、起きてよぉ」あれから、ずっと眠り続ける兄を起こそうと妹は兄を揺すっている。

 「どうかしたのか?」ヒカルの声がした。

 「死神さん・・」妹が兄に覆い被さるようにして守る。

 「どうしてそれを?」ヒカルは驚く。

 「ユウっておじいちゃんが教えてくれたのあなた悪い人なんでしょ?」妹が問いかける。 「ユウ!それじゃ、結晶を飲んだのか?」どこから現れたのかタカが叫ぶように言う。

 「飲んださ・・妹は渡さない」ゆっくりと兄が起きあがる。

 その目は赤く・・・赤月と同じ光を宿していた。

 「やばいな、ヒカル気をつけろ」タカがヒカルを後ろに下げる。

 「どうゆうことだタカ?」ヒカルが戸惑いの声をあげる。

 「ユウってのは、悪魔の別名だ」タカが忌々しそうに吐き捨てる。

 「悪魔?」ヒカルは初めて耳にしたようだ。

 「ユウが何者かは分からねー、いつも違う姿をしてやがる。老人だったり、若者だったり、男や女、特定の姿じゃねーから一人なのか複数なのかさえ分からん」タカがまた一歩後ろに下がる。

 「そいつが、この子になにかしたとゆうのか?」ヒカルが驚きの表情を見せる。

 「悪魔は願いを叶える対価として影を奪う」そうゆうとタカは兄の足下を指さす。

 兄の影は半分ほど消えかけていた・・・。 「影を奪われると・・・どうなる?」ヒカルが恐る恐る問いかける。

 「魂の消滅だ、一説には悪魔の持つ結晶になるとも言われてる」兄が近くにあった鉄棒を軽々と持ち上げると、ヒカル目掛けて飛び込んでくる。

 「どうすればいい?」ヒカルが間一髪で避けながら聞く。   

 「オレ達は殺し屋じゃない、悪魔に魅入られたからといってどうする事もできない」タカが兄の後ろに回り込む。

 「ただし、今回は別だ。元々兄の魂を現世と繋ぐ鎖を斬りにきたんだからな」タカが兄に体当たりする。

 「やめて!おにいちゃんを虐めないで」妹が泣きながらタカに掴みかかろうとする。

 「触っちゃダメだ!」ヒカルがタカを突き飛ばす・・・その拍子に兄が振り上げた鉄棒がヒカルの肩を強打する。

 「ぐっ、バカな」沈痛な叫びとともに、ヒカルは自分の肩が透けていることに驚く。

「気ぃーつけや、魅了された者の攻撃はオレ達を傷つける」タカが起きあがりながら言う。

 「おにぃちゃん」妹がその場で泣き崩れる。 「邪魔だ!」兄が妹に鉄棒を向ける。

 「やめろ」ヒカルが兄の手を掴む。

 「消えろ」すかさずタカが兄の顔を鷲づかみにする。

 「ぐわぁー・・」兄の身体が少しずつ透けていく。

 だんだんと赤かった目が正常に戻っていく。

 「これを・・妹に」兄は懐から何かを差し出す。

 「これは?」ヒカルが受け取るとそれは、手彫りの人形だった。

 「あいつに・・」そう言い残すと、兄は完全に消えてしまった。

 「兄さんからだ」ヒカルが焦点の定まっていない目をする妹に渡すと、タカとヒカルはその場を去っていった。


 広場で座り込む妹を少し離れた場所から二人は見ていた。

 「兄の魂はどこへ行ったんだろう?」ヒカルがタカに問いかける。

「さぁな、裁きの間にいったのか、結晶になっちまったのか」タカが首を振りながら答える。

 「魅了された者の行く末は千差万別だからな。ただ、すぐに俺達が妹の所にくるはめにならなきゃいいがな」タカがため息混じりに言うと、二人は砂煙の中へ消えていった。


 

「おやおや、お兄ちゃんは連れ去られてしまったのかい?」妹に近ずく人影があった。

砂煙は全てを包み込むよに、今日も吹き荒れていた・・・。


END

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