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翌朝、侍女達がそわそわと迎えに来たが、残念ながら望むようなことなどなにもない。
私達の間に何もなかったことに、侍女達は落胆していた。
「どうしてでございましょう?陛下のあのご様子は、いよいよお世継ぎ様を望まれていらっしゃったのだと確信しておりましたのに…。」
「だって、王妃様をあれほど艶やかな瞳で、熱心に見つめていらっしゃってましたのに……。」
侍女達があまりにもなんでなんでと尋ねてくるので、昨夜のあらましを簡潔に話した。
侍女達は皆信じられないとばかりに嘆いた。
「僭越ながら、それは王妃様がいけませんでしたわ!」
「陛下がおかわいそうですわっ!」
「殿方は愛する女性の前では、常に大人びていたいものなのですよ!子供扱いしてなだめてしまわれるなんて…っ!」
全面的に私が悪いのだと責められた。けれど、侍女達は何か勘違いをしているのではないかしら。
「陛下とわたくしは、政略結婚で結ばれたのですよ?喜ばしいことに仲睦まじくしておりますが、それは夫婦の愛情ではなく、家族の愛情です。
わたくしと陛下は夫婦というよりは家族なのです。陛下にとってわたくしは母であり姉にあたる存在の女性です。年の差9歳ですよ?それもわたくしの方が年上なのです。」
そう、幼い陛アルベルト様が私に求めたのは家族の愛情だ。今までも変わらず愛をそそぎ、受け取ってきた。けれどそこに欲望のようなものはなかったはずだ。
「けれど……そうね。もし陛下がわたくしをお求めくださったのならば、大臣の誰かに世継ぎをせかされたのかもしれないわね。現在直系の王族は陛下だけだから、直系の血筋を増やせとせっつかれたのかもしれないわ。」
そう、自分を納得させることにした。それなら、アルベルト様が私を抱く理由がわかる。だって私がアルベルト様の妻だからだ。
そして急場しのぎの政略結婚相手とはいえ、私はロットバーン家の直系。そもそも私は当初アルベルト様の兄君の婚約者候補だったし、直系の王女が何人か降嫁したこともある由緒正しい血筋だ。直系の王族に組み込むに十分ふさわしい血筋なのだ。
そうか、アルベルト様は世継ぎを望まれていたのか…。それなら私も腹を決めねばならない。
若い娘のような瑞々しい肌など持ち合わせていないし、美しいとは評されるけれど、長年政務にかかりきりになっていた容姿は、落ち着き払って堂々とした統治者の雰囲気を醸し出し、実年齢よりも上に見えるほど老けているのだ。
果たして私のような女を、アルベルト様は抱きたいと思うのかしら?
しかもこんな年かさの雰囲気を出している癖に、私はいまだキスすら知らぬ生娘なのだ。
アルベルト様とは、頬やおでこのキスならばそれこそ数え切れないほどしてきたが、口づけだけはついぞしたことがないのだ。
私のことを心ない者たちが、陰で「純白の王妃」と呼んでいることならば知っている。
明瞭で堅実な統治と、白い結婚であることを揶揄して、純白と呼んでいるのだそうだ。
アルベルト様が御存じかどうかは知らないが、侍女達は知っている。
私を敬愛してくれている彼女達はそのことを非常に気にしていて、だからこそ私がアルベルト様の寵愛をいただける日を心待ちにしているのだろう。けれど彼女達が言う寵愛って何かしら?私、十分アルベルト様に好かれている自覚はあるのだけれど…。
「もし…陛下がもう一度わたくしと夜を共にしてくださるのならば、その時はわたくしも覚悟を決めなくてはなりませんわね…。」
それが王妃として求められていることならば、私は応えなくてはいけない。
侍女達を皆下げて、一人で部屋であわあわと悶えてしまった。
王妃として必要ならば、世継ぎを作らなくてはならないけれど、私はその手の知識が全くないのだ。
結婚をしたら初夜で世継ぎを作る儀式をするということは知っていても、その世継ぎを作る儀式がどんなものかは知らない。
ベッドで二人で何かをするらしいことはわかる。だが何をするのだろう?
後妻や家の人間から孤立してしまった私に身近な相談相手の女性などいなかったし、私とアルベルト様が結婚した時の初夜は、おやすみのキスをしていつも通り眠っただけだ。
夫のアルベルト様が子供だったし、若い私はひたすら国内の統治に明け暮れて、世継ぎを作ることなど出来なかったし必要なかったので、知識がないままで問題なくここまで来てしまった。
だが、私の年齢でさすがに知識がほとんどないのはいかがなものだろうか…?
誰かに聞いた方がいいのだろうか?誰に?なんて聞けばいいの…?
知識はなくても、なんとなくいかがわしい行為らしいということは知っている。つまりアルベルト様は昨夜、私といかがわしい行為をしようとしていたってことなの…?
自分がいやらしいことを考えている自覚があるので顔は真っ赤だし、どうしたらいいのかなんてさっぱりだし、昨日の件が気まずい。
とりあえず、次にどんな顔でアルベルト様と会えばいいのだろうかと、私はひたすら悶々としていた。
公務を持ってきた侍女がおずおずと取り次いでくるまで、私は一人でおろおろとしていた。
それから数日、避けられているのか単純に政務が忙しいのかは分からないが、またアルベルト様としばらく会えない日々が続いた。
本当にアルベルト様のお部屋で待っていようかしらと何度も考えた。
日が過ぎるほど不安になるのだ。もしかしたらあれで失望されてしまったのかもしれないとか、まだ怒っていらっしゃるのかもしれないとか、よくないことばかり考えてしまう。
だが、その懸念も夜までのことだ。
今日は王城で夜会があるのだ。
もちろんアルベルト様と王妃の私は同伴で出席するので、すくなくとも夜会の間は一緒にいられるのだ。
この間のこともあるし、少し気合を入れて自分を磨いてみようかしら。
侍女達にその旨を告げると、侍女達は張り切って取り掛かってくれた。
公務を可能な限りさっさと終わらせて、夕刻から念入りにマッサージと湯浴み、ドレスを選んで髪型、装飾品、化粧と丹念に仕上げていく。
さすがにアルベルト様と二人きりの食事の時とは違い夜会も公務の一環で、公の目があるのだからはしゃいだ格好はしない。
優美な曲線を描く落ち着いた色のドレスに王家に伝わるティアラ、ドレスとの兼ね合いを見ながら選ばれた宝石が惜しげもなく使われた装飾品。丁寧に施された化粧と、複雑に品よく結って垂らされた丁寧に櫛を入れた髪。
若々しすぎてもいけないし、重々しすぎてもいけない。年齢と立場との兼ね合いが難しいものだ。
鏡の前で自分で最終チェックをし、満足の出来に侍女達をねぎらった。
アルベルト様からの使いが来たので、先導されながらアルベルト様の待つ控えの間に向かった。
一番身分の高い私達は、一番最後に入場しなければならない。そのために早くから控えの間にずっといなければならないのは効率的ではないと思うのだが、慣例なので仕方がない。
けれど、この時間はアルベルト様と二人っきりになれるので、私の好きな時間なのだ。
「お久しぶりですわ、陛下。立派なお姿でいらっしゃいますわね。」
「久しいな、王妃。そなたも変わらず美しいな。隣においで。」
優雅に一礼し、アルベルト様の座るソファーの隣に腰を下ろす。侍女が、私好みの紅茶を用意してそっと下がった。
私は侍女達が下がり、扉が閉まったのを確認してすぐにアルベルト様に話しかけた。
「アル…あの、この間の夜のことは……―――。」
「ユリィ、その話はやめようか。もっと楽しい話をしよう。ユリィに会えなかった分、話したいことがいっぱいあるんだ。」
私の決意は、アルベルト様の拒絶によって遮られた。
私は出鼻をくじかれて、何も言えなくなってしまった。たぶん、アルベルト様の中では許せない、思い出すのも嫌な記憶になってしまっているのかもしれない。
私は内心の動揺をアルベルト様に気づかれないように、軽くほほ笑んだ。
大丈夫、内心を隠して笑うなんて得意よ。
「そうね。私もアルに話したいことがいっぱいあるわよ。」
まるであの夜のことなどなかったかのように、楽しく談笑しながら時間をつぶした。
とても和やかで楽しい時間だったけれど、私の心には重い石を飲み込んだような、言い知れない不安が深く深く沈んでいった。
ようやく参加者全員が入場したと報告が来たので、私とアルベルト様が入場することになった。
アルベルト様がにこりと微笑み手をとってくれたので、私も気取って腕を組んだ。
アルベルト様にエスコートされ、夜会の大広間に入場する。
皆が注目する中を、ゆったりと微笑みながら優雅に歩く。たまにアルベルト様と目を交わし合い、そのまま絨毯の上をまっすぐ玉座に向かった。
王座より少し小ぶりな王妃の座の前に立ち、アルベルト様の宣言により夜会が始まった。
煌びやかな照明の下、きらきらと男女が談笑し、時にはダンスを踊っている。
私やアルベルト様は、基本的に座って貴族達の挨拶を笑顔で受けるのが仕事だ。
ようやく列が途切れた時には、隣のアルベルト様はよくみると口のはしがひきつっていた。
「内政の書類とこれが一番の苦行だ…。だから夜会は嫌いなんだ…。」
私にしか聞こえない声でぼやいた。
私はそれに小さく笑って、同じく小声で返す。
「わたくしは外交の方が嫌いですわ。同じ腹の探り合いなら、大臣達との議会の方がまだましです。そして一番楽しいのは内政書類ですわ。」
「これに関しては、俺と王妃はとことん得意分野が異なるな。俺は外交の探り合いの方が楽しい。」
「でも一番好きなのは?」
「むろん乗馬と剣だ。」
「せめて政治関係で答えて下さいな…。」
「王妃は効き紅茶だろう?俺も紅茶は好きだから一緒だな。」
「あらいやですわ。何を飲んでも同じと言い切る陛下が紅茶好きだなんて信じられませんわ。」
「いやいや、珍しい紅茶を手に入れると一番に俺をお茶に誘ってくれるだろう。そしてくるくると表情を変えながら、ひたすら紅茶の評価をしているお前を見るのが好きなんだ。物をねだらないお前が、唯一俺におねだりしてまで欲しいというものが紅茶だからな。あのへたくそで子供っぽいおねだりを見せてくれる紅茶は俺の好きなものだよ。」
くつくつと笑うアルベルト様に、私はちょっとムッとした。夜会では常に他の人間から見られているので顔には出さないが。
「まぁ!わたくし渾身のおねだりをへたくそで子供っぽいと思ってらっしゃったの!?もうお茶会に誘ってあげませんわよ!」
呆れて言うと、アルベルト様も笑う。
そうやってくすくすと囁き合っていると、アルベルト様が不意に立ちあがって、私に手を差し伸べてきた。
「せっかくなんだ。踊ろうではないか我が妃よ。」
王が立ち上がったので、周りも私達に注目している。
私はにこやかに笑いながら扇をひらりと開いて口元を隠し、笑っていない声でアルベルトに聞こえるようにだけ告げる。
「アル、私がダンス大嫌いだとあなた良く知っているでしょう?……誘うの?あえて?嫌がらせ?」
「知ってるか、ユリィ?俺はダンスが得意なんだぞ?足を踏んでも怒らないから一曲踊ろうじゃないか。」
にやりとアルベルト様が笑うので、仕方なく手をとってしぶしぶダンスホールに降り立った。この注目の中で断るなんてできない。
絶望的にダンスの才能がないことはわかりきっているので、せめて王妃として無様に転ぶことがないようにと必死で祈る。上手に踊るなんて無理だ!とにかく転ばなければ及第点だと思ってる。
不安で笑顔が完全に固まっている私の腰をするりと抱いて、そっと手をとったアルベルト様は得意げに笑って言った。
「大丈夫だ、ユリィ。世界一楽しいダンスにしてあげよう。ユリィは俺だけ見てればいい。」
悪戯っ子のように自信たっぷりに笑ったアルベルト様に、少し胸の鼓動が速くなった。…ダンスの時に緊張するのはいつものことだけれど、これは少し違うような気がする……。
アルベルト様のリクエストでゆったりした曲が流れる。リズム感のない私は最初の一歩を踏み出すタイミングにはらはらしていたのだが、ふいにアルベルト様が私の腰をぐいっと寄せた瞬間身体が少し傾いて、バランスを取ろうと足を踏み出したら、いつの間にかそれが音楽に乗っていた。
そのままひたすら、アルベルト様がさりげなくリードしてくれる方向へ、出しやすい足を適当に踏み出しているだけでステップが刻めている。
傍目には普通にダンスを踊っているように見えるだろう。
自分が普通にダンスを踊れているという奇跡に大興奮してしまい、微笑みのポーカーフェイスも忘れて大喜びで小声ではしゃぐ。
「すごいっ!すごいわ、アル!!私、今ちゃんとダンスを踊っている気がするっ!!」
「もちろん、ちゃんと踊っているさ。きちんとリズムに乗っているし、ユリィはもともと姿勢がいいから踊る姿も綺麗でなかなかうまいじゃないか!」
「違うの!これはアルがすごいのよっ!!私こんなに簡単にちゃんと踊っているの初めてよ!やだ、どうしよう!もう曲が終わっちゃうわ!私もうちょっと踊りたいのにっ!!ねぇねぇ、アル。もうちょっと踊らせて?」
はしゃいでる私をそつなくリードしながらアルベルト様は穏やかに笑って返事をくれた。
「もちろん喜んで、俺の愛しいお妃さま。ただ、一旦休憩してからにしよう。頬がリンゴのように真っ赤になっている。可愛いんだが、ちょっと落ち着かないと踊っている途中で倒れてしまいそうだ。」
その後何度か休憩をはさみつつ、普段はダンスを踊らないで終始談笑に徹する私が、4曲もダンスを踊って疲れ果てて途中退場することになった。
さすがに王妃としてあんまりだったと後で激しく反省したが、私に付き添って一緒に退場したアルベルト様はさっさと夜会を抜け出せてかご機嫌だし、私はダンスが楽しくて仕方なかったので後悔はしていない。
その後、もうそのままベッドに沈み込んで眠ってしまいたかったのだが、侍女達にせめて湯浴みだけは!と懇願され、なんとか湯浴みを済ませて寝所に戻ると、私のベッドにアルベルト様がいた。
「え?え!?陛下!!なぜこちらにいらっしゃるのですか!?」
「一緒に寝ようと思ってな。おいで王妃。他の者は下がるがよい。」
そりゃあ来てほしいと思っていたけど、何故に今日なんだ。私猛烈に眠たいのに…。
どうしよう…。
「アル?えっと、どうしたの?」
「ユリィは久しぶりにたくさん踊ったから疲れてるだろうと思ってな。」
えぇ、疲れているから今すぐ寝たいのだけれど。
「たぶんそのまま寝たら筋肉痛になりそうだから、マッサージしてやろうと思ってな。ほら横になって!」
「いいわよ、マッサージなんて!必要になったら侍女にしてもらうもの。アルにさせるわけにはいかないわ!」
「いいからまかせろって!結構うまいんだぞ?」
そのままぐいぐいと腕を引っ張られて仕方なくベッドに座る。
「はい、足こっちに出して。」
「は?足!?何考えてるの出せるわけないでしょ!何考えてるの!!そんな…は、はしたないことしないわっ!!」
淑女が足を出すなんて、そんなはしたないこと出来るわけないだろう。
けれどアルベルト様はきょとんとした顔になった後、平気平気と笑った。
「俺がユリィをはしたない女だと思うわけがないだろ?それに俺達はすでに何度も一緒に入浴した仲じゃないか。今さら足ぐらいなんだ。」
「いつの話を持ち出してくるのよ!アルが7つ8つのころじゃないの!」
それにその頃は私も16,7だった。幼いアルベルト様がどうしてもというから仕方なくだ。誰かと一緒に入浴し、侍女以外の人間に裸を晒すなど恥ずかしくてたまらなかったが、相手は子供のアルベルト様だったし、肌も張りがあったしアルベルト様に晒しても私の気恥かしさ以外は問題なかった。
けれど今は違う。私の方がずっと年上で、肌だって若いころの瑞々しさなどなくなっている。きちんと手入れはしているけれど、年若いアルベルト様に見せるのは情けなくなりそうだ。
私が子供のように膝を抱き込んで首を横に振っていると、アルベルト様はちょっと考えた後、きりっと真面目な顔で私を説得しにかかった。
「でも、今マッサージをしなければ、今日急激にダンスをたくさん踊ったユリィの足は、数日間悲鳴を上げ続けることになるだろう。王妃としていつものように上品に歩いたりなどできなくなるぞ?」
「だから侍女にしてもらうって言ってるじゃないの!」
「今から俺に出て行けと言うつもりか?それはあんまりじゃないかユリィ。俺は出て行きたくないし、ユリィはマッサージをして少しでも足の疲労をほぐさないと悲惨な目に会う。
ならばここは間をとって俺が責任を持ってユリィの足をマッサージするから追い出さないでくれ。そしてユリィが足を出すのを恥ずかしいと言うなら俺も一緒に脱ごう!それならユリィだけじゃないから恥ずかしくないだろう?」
と、のたまった。真面目なのは顔と声だけで、本心は完全に私をからかっている。前半はまだしも、後半から話の流れがおかしいとおもっていたらいそいそと上着を脱ぎ出した。
その手がシャツのボタンを胸元まで外して、本気で脱ぐ気だとわかった時には慌てて止めた。
「やめて!脱がないで!わかった!わかったから!!アルにマッサージしてもらうから!!あなた子供じゃないんだから脱いじゃだめ!」
言ってからしまったと思った。アルベルト様も私の言葉を聞いてにやりとし、自分の太ももをぽんぽんと叩く。そこに足を乗せろということだ。
ご機嫌な様子で待っているアルベルト様を睨みつけて、羞恥心と闘いながら、おずおずと夜着をまくりあげ、ひざ下までをアルベルト様に晒しながら足を出した。
「なんだ。何を照れることがあったのやら……。すべすべしてとても綺麗な足じゃないか!」
アルベルト様は私の足を撫でながら、絶賛してくれた。
「感想なんていいから!何も言わなくていいから!!早くマッサージだけして頂戴っ!」
だが絶賛されるのも逆に恥ずかしいのだ。いったい私はどうしたいのだろう…。
アルベルト様に足をマッサージをされる。
初めは足に触られる緊張で固くなっていたのだが、ヒールで踊り酷使した足を柔らかくほぐされていく感覚に段々全身の力が抜けていくようだ。
「すごく気持ちいいわ…。アルはマッサージも出来るのね。ダンスも上手だしすごいわ!」
アルベルト様は私の心からの称賛をうけ照れくさそうに笑った。
「ダンスもマッサージもユリィのために覚えたからな…。喜んでもらえてよかった。」
「アル……。」
アルベルト様は照れくさいのか、視線を落としてマッサージに集中している。
私も嬉しさと照れくささが重なって、黙って自分の手元を見つめている。
会話はないし、ぎこちない空気が流れていたが、不思議と気まずくはなくて、穏やかな空間だった。