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転生

有は唖然とした。そこに、維心が居たからだ。龍王…私は生前直接にはあまり会っては居なかった、神の王の中の王。なんでか知らないけど、母さんをそれは好きで、一緒に黄泉まで来たほどの神…。

その神が、父さんを良く思うはずはなかった。

「維心様…いつお越しになられておったのですか?」

有が、おずおずと言った。維心は答えた。

「つい、今しがたの。我が妃が邪魔しておると聞いてな。叔父が、知らせて来てすぐこちらへ参った。」と、傍らに立つ彰を見た。「…見覚えのあることよ。我が送ってやった人の男か。」

彰は、ハッとした。そうだ、見たことがある…あの時、門を開いて黄泉へと送ってくれた神。維月と共に居たうちの、一人…。

「あの折は、お世話になりました。」

彰が頭を下げて言うと、維心は軽く返礼した。

「我の妃が望んだことであるから。あれぐらいはの。」と、維月を見た。「して、維月。主はこれに言いたいことがあったのであるな?」

維月は緊張気味に頷いた。どうしてこんなに厳格な雰囲気の中で言わなきゃならなくなったのかしら。

「あの…私の夫は、この龍王だった維心様と、月だった十六夜なの。」維月は、彰に言った。「生前から、ずっと共に生きて来たわ。有は人として生きていたからあまり接していなかったけど、涼も、晃も遙も、それに蒼など数えきれないぐらいお世話になっていたのよ。今でも、ああしてあの子が王として神の世に君臨出来ているのは、維心様のお力と、月の十六夜の力のお蔭なのよ。」

彰は、驚いたように二人を見た。神…人とは違う。それは、ここへ来て嫌になるほど知っていた。神は空を飛んで自由に行き来するが、人は生前の友を訪ねるにも長く歩かねばならず、生きて来た距離が開いているほど遠く、疎遠になった。そして転生のサイクルも速かった。

「神…あの時の神が、二人共だって?」

維心が、頷いた。

「そう。我らは維月を望んで、こうして共に生き、共に死んだ。こちらへ来ても、こうして共にと約しての。なので今更、人など割り込む余地はないわ。我の妃に、手出しは無用ぞ。結界を張って、主がこちらへ来れなくすることも出来るのだぞ?維月が望んでおらぬのであるから、疾く去ぬるが良いわ。」

十六夜が、言った。

「彰、オレはお前を知っている。維月が赤ん坊の時からずっと月で見ていたからな。だが、維月が愛して来たのはオレだ。あの時はどうしようもなかったから黙って見ていたが、こうして人型になって降りて来られるようになったんだから、遠慮はしねぇよ。もう、お前に渡すつもりはねぇ。お前はお前の生き方を考えな。ま、ここではみんな死んでるんだけどよ。」

彰は、黙った。そして、維月を見た。

「…どうしても、オレとやり直すつもりはないか?子達のためでも?」

維月は、首を振った。

「彰、あなたのそういう所が嫌だったの。どうして自分で勝負しないの?子供を出して来るなんて卑怯だわ。そういうの、私が嫌いなの知ってるでしょう。確かに結婚してる時は、私はそれで黙ったわよ?だって子供のためなんだもの。でも、それで人間性を疑ったのも事実よ。ねえ、転生したら、自分に自信を持つ生き方をすべきよ。あの時言えなかったけど、嫌いじゃないから結婚した。そして、あなたの自信のなさとか、他のものにかこつけてく所が嫌いだったの。だから、離婚した。別に人でなくなっても、結婚してても良かったでしょう?愛してるなら。でも、私は解放されたかったの。有は、もう立派な大人になって家族を持って死んだから、今更家族ごっこなんてしたくないって。私もそう。あなたがもしかして、自分自身を見てくれと言って変わっていたら、私の心も動いたかもしれないわよ?だから、無理。私は、維心様と十六夜を愛しているの。」

維心と十六夜は、まるで自分が維月に言われているかのように険しい顔をして下を向いていた。彰は、思ったよりさばけた顔をした。

「…なんだそうか。すっかり嫌われてたんだな。未練たらたらだったのは、オレだけか。」と、有を見た。「父さん、振られたから帰るよ。だが、今夜は泊めてくれ。明日からまた一週間歩かなきゃならないんだ。」

「父さん…。」

有が、切なげに彰を見る。維心が、ため息を付いた。

「しようのないことよ。我の軍神達を使うが良い。明日、こちらへ寄越す。送らせようぞ。」

彰は、驚いたように維心を見た。維心は、フンと鼻を鳴らした。

「明日は我が身よな。我が同じことを言われたら、主のように振舞えなんだわ。立っていることも出来なんだやもしれぬ。なので、今回だけぞ。」

維心は、維月の肩を抱いて踵を返した。

彰は、その背に頭を下げたのだった。


結局、十六夜は維心の屋敷に戻らず、維明の屋敷に住む事になった。そして、生前と同じように維月に会いに維心の屋敷に来るようになった。維月は、そのたびに十六夜に連れられて維明の屋敷へ行き、十六夜と過ごして、時に維明とも過ごした。維心はそれを知っていたが、何も言わなかった。維月が自分を深く愛しているのは知っていたし、それで良かったのだ。

そこでの生活も、そうして安定して、新しくこちらへ来たもの達の世話をしたりしながら、三人は仲睦まじく暮らしていた。このままこうして、時の無い中幸福に暮らして行くのだと思っていた。

その時、碧黎がやって来た。

本来なら、気を消耗すると言って来ない屋敷にまで、わざわざあちらの世からやって来たのだ。

それは、たった20年しか経っていないのにも関わらず、十六夜と維月を転生させるというものだった。


「主らの方が先か。」維明が言った。「我こそ何度も望んだ事であるのに、まだ許されぬ。なのに、望まぬ主らが転生するか。」

十六夜は、頷いた。

「月が不在で、それに頼るようになってた奴らが困ってるらしい。蒼も一人で月の代役をやってる。オレ達は戻りなきゃならねぇのさ。維心はおまけだ。」

十六夜は言った。維明は、維月を見た。

「…別れであるの、維月。今度こそ。転生したら我も記憶を失うであろう…それで良いのだがな。今夜であろう…また、会えることを望む。覚えておらぬでもの。」

維月は、涙ぐんで頷いた。

「はい。維明様…また。」

維心も言った。

「叔父上…もう、叔父上ではなくなり申すな。しかし、きっと再会出来申す。」

維明は頷いた。

「そうよの。維心…またの。」

三人は、維心の屋敷へと戻って行った。それを見送りながら、維明は言った。

「…また、一人になってしもうたの。しかし此度は、我も転生して、必ず真っ当に生きる。」

維明は、暮れて行く日を見ながら、そう決心していた。


そうして、維心、維月、十六夜は転生した。

記憶を失わぬ細工を、自分達の持てる力を精一杯使い、再会を約し、それぞれの場所で生まれ、育った。

そうして、約200年後。

三人は再び、共に歩み始めた。

維明は、何もかも忘れて、維心と維月を両親に、今度こそ皆に囲まれ、その望み通りに生きている。

月は、時を越えて変わらず地上を照らしていた。

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