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家族

歩いたら結構な距離だった有の家まで、三人は気まずい雰囲気で黙々と歩いた。十六夜は維月から手を離さないし、彰は維月と二人で話したがった。しかし、何もかも知っている十六夜は、二人の話に簡単に入って来た。二人に共通の話題は、十六夜にも共通なのだ。

そんなこんなで、日が暮れ始めた頃に、やっと有の家にたどり着いた。維月は維明が心配だったが、きっとこんなにゆっくり移動していたのだから知っているはず。なので、何も言わなかった。

「お父さん!」有が言って駆けて来た。「お母さん…十六夜。どうしたの、外で会った?」

彰が笑った。

「ずっと向こうでな。久しぶりだな、有。」

有は涙ぐんだ。

「手紙でしかやり取りなかったから…ほんとに、お父さんとお母さんがこうしているなんて、どれぐらいぶりかしら…。」

維月は、苦笑した。確かにそうかもしれない。すっかり忘れていたけれど、家族だったのだ…有と、蒼、それに涼、遙、晃…。

「いつからでもやり直せるさ。」彰は、言った。「少し外して欲しい、十六夜殿。維月に話があるので。」

十六夜は、維月を見た。維月は、頷いた。

「十六夜…後で話そう?庭で待っていて。」

十六夜は、手を放した。維月は、何でも話してくれた。待とう。

そして、二人が有に伴われて中へ入って行くのを、黙って見送った。


維明が、十六夜の前に降り立った。

「…ずっとついて来やがって。過保護だぞ?」

十六夜が言うと、維明はそれには答えずに言った。

「あれはなんだ。どうして人が維月にあのように馴れ馴れしいのよ。」

少し憤っているような維明の様子に、十六夜は苦笑した。

「…あれは、維月が人だった頃の夫だ。有もそうだが、蒼、涼、晃、遙の父親だ。まあ、今では蒼はオレの子だがな。」

維明は、思い切り眉を寄せた。

「なぜにあやつなどと共にあのような家へ。維月の価値は、人などには分からぬ。維心も、主も居るのに。身の程も知らぬ輩ぞ。」

十六夜はため息を付いた。

「まあ、人だった時の夫だからな。手に出来ると思ってもおかしくはない。何にしても、維月次第だ。」

維明は、グッと黙った。そして、何も言わずに飛び去って行った。

十六夜が、そのままそこでじっと佇んで待っていると、維月が家から出て来た。少し、疲れているようにも見える。十六夜は、維月を見た。

「どうした。彰は、何を言ったんだ。」

維月は、ため息を付いた。

「長ったらしいのよね、話しが。昔からそうなんだけど。」維月は、空を見上げた。「ようは、やり直そうって。有も、それにそのうち、蒼は不死だけど涼も晃も遙もこっちへ来るんだろうから、あの時出来なかった普通の家族を営もうって。子供達に、今度こそつらい思いをさせずにおこうって…ほんと、自分の価値だけで勝負出来ないのかしら。子供のことを引き合いに出して来るって、卑怯よね。私、そういうの嫌いなんだって知ってるでしょうに。」

そう言いながらも、維月が迷っているのは分かった。十六夜は、維月の手を取った。

「維月…オレも彰と同じ気持ちだ。」維月がびっくりしているのに、十六夜は続けた。「違うぞ?家族云々じゃねぇ。オレ達の事だ。こっちで、もうオレの嫁じゃないっていうなら、もう一度やり直そう。維月、オレは、お前にもう一度愛してもらえるように精一杯頑張るから。オレは、どうしてもお前以外なんて愛せないんだ。ずっとお前だけを想って来た。お前がいつも傍に居るって感覚だったから、オレ…ああして放って置いたりして。維心なら絶対こんなことはないのにな。いきなり結婚してくれなんて言わない。だから、もう一度オレと一緒に居てくれないか。」

維月は、見る見る涙を浮かべた。

「私…十六夜を忘れたことなんてなかったのよ。維心様を愛しているけど、やっぱり十六夜も愛しているんだもの…。いつも月から話が出来たのに、ここは月が無いし、十六夜がどうしているかも分からない。だから、不安だったの…十六夜は、自由が好きでしょう?だから、縛りたくなくて。今でも愛してるわ、十六夜。」

十六夜は、同じように涙を浮かべた。

「維月…もう不安にさせたりしねぇからな。愛してる。」

二人は、どちらからともなく抱き合った。そして、唇を寄せ、深く口づけ合った。


そのまま、庭で話し込んでいると、有が出て来て声を掛けて来た。

「母さん?いいかしら?」

維月は頷いた。

「いいわよ?どうしたの。あの人と一緒だったんじゃないの?」

有は、頷いた。

「抜けて来た、うちの人に任せて。」有はいたずらっ子のような表情でそう言うと、真面目な顔をした。「ねえ…あの、父さんとやり直すって話だけど。」

維月は下を向いた。

「ああ…あれね。」

有は、維月を見た。

「私ね、思うんだけど、別にやり直さなくていいんじゃないかな。」維月と十六夜がびっくりしたような顔で有を見た。「だって、おかしいわよ。死んでまで、どうして家族なの?私、確かにダンナが好きだったから、今もこうして一緒に居るわよ?迎えに来てくれたしね。でも、母さんと父さんはとっくに別れてるんだし、それにね、私達ももう大人になって家庭を持って、そうして歳を取って死んだわけよ?それを、どうして今更なの?父さんが言うのは、自己満足だと思うな。自分が、やり直したいだけなんじゃない?」

維月は、それを聞いて苦笑した。

「そうよね。その通りだわ。だから、私も納得しなかったし、心に響かなかったんだわ。でも、あなた達がもし望むならって考えたの…でも、そうよね。あなた達だって大人になって家庭を持って死んだんだものね。今更よね。」

有は頷いた。

「そうよ。母さんが望むなら、それでもいいわよ?でも、母さんは、父さんを望んではいないでしょう?」

維月は、ため息交じりに頷いた。

「ええ。離婚したし、あの人も私もそれから再婚したんだから。死んで、こっちでやり直すっておかしいわ。」

有は、ホッとしたように頷いた。

「よかった。私達のためとか思って無理したらどうしようかと思って。それだけよ。そうそう、さっきから父さんがすっごくぴりぴりしてるの…母さんが、庭で十六夜と居るのを知ってるから。悪いけど、戻ってくれる?」

維月は笑った。

「わかったわ。ごめんね、有。」

有は笑って戻って行った。十六夜が微笑んで言った。

「あいつはほんとにいいヤツだ。子供の頃から回りに気を遣ってばっかでな。」

維月は頷いた。

「ほんとね。長女だからって、あの子だから務まったんだと思うわ。」

その時、上からいきなり何かが降って来たように見えたかと思うと、維月はがっつりと掴まれるのを感じた。

「きゃ!」

びっくりして見ると、それは維心だった。

「維心!お前、いつもいつも維月を追っかけ回して…、」

十六夜が言うのを遮るように、維心は言った。

「人の夫と聞いた!どこに居る!」

維月は目を丸くした。

「え、維心様、どこからそれを?」

維心は、維月を見た。

「叔父上ぞ!知らせてくれねば知らぬ所であったわ。どこに居る?!身の程も知らぬヤツめが。」

十六夜が、維心をなだめた。

「あのな、人が維月に無理矢理なんか出来るはずがねぇだろうが。こいつも一応月なんだからよ。彰は飛ぶことも出来ねぇんだぞ?」

維心は、幾分落ち着いたような顔をして十六夜を見た。

「そうか。そうであるな。」そして、ふと気づいたように言った。「そういえば主、維月と話したのか?」

十六夜は呆れたように言った。

「なんだよ今気付いたのかよ。ああ、一応やり直すチャンスは貰ったさ。維月はな、彰にやり直そうと言われたが、断ろうとしてた所だったんだよ。」

維心は不機嫌に眉を寄せた。

「ふん、人ふぜいが、おこがましい。」と、維月の手を取った。「では、参るか。」

維月と十六夜はびっくりした。

「え、維心様も来られるんですか?」

維心は頷いた。

「当然よ。我の妃に何を申してくれておるのか。今後一切手を出さぬよう釘を刺さねばの。」

十六夜は呆れたような顔をしたが、しかし思い直した。

「…いい考えだ。オレも行く。」と、維月の手を握った。「さっきはいきなり結婚してくれとは言わないって言ったが、維月、オレと結婚してくれ。」

維月は、面食らって、ただ頷いた。だって、もうそのつもりだったし。

十六夜は同じように頷いた。

「よし!じゃあ、行こうか、維心。」

維心は頷いた。

「参ろうぞ。」

維月は、両側を維心と十六夜に挟まれて、有の家へと入って行ったのだった。

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