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不自然

維心は、維月が言うことに反論出来ないでいる十六夜を見て、不憫に思った。

維月には二人にして欲しいと言われたが、気になって脇から伺っていたのだ。維月が言うことももっともで、確かに十六夜は、維月を放って置き過ぎたのだ。十六夜にしてみれば、生前の延長だったのかもしれない。ここには、確かに自分の以前の臣下達が大勢仕えていてくれている。なので、維月を放って置いても大丈夫だろうと思ったのだ。

確かにそうかもしれないが、自分も居ない中、維月が初めて来た黄泉の、この屋敷の中で、公李以外知らぬ顔ばかりが並ぶ中、きっと心細かっただろう。だが、それを責めることもなく、機嫌良く二人で自分を迎えに来てくれたではないか。なのに、その上さらに放って置いて、維月がそういう風に思っても仕方がないかもしれない。

十六夜が海の方へと消えたのを見てから、維心は維月を探して歩いた。龍の宮よりも狭いので、維月はすぐに見つかった。やはり、庭でぼーっと座っていた。

「維月…そのように沈むなら、何も十六夜にあのようなことを言わずとも。」

維月は、振り返った。そして、維心に身を寄せた。

「維心様…」維月は、下を向いた。「自由が好きな、十六夜なのですわ。だから、こうして解放してあげなければ。維心様…私達も、きっともう婚姻関係にはないのですわ。」

維心は、びっくりして維月の腕を掴んだ。まさか…、

「何を言う。こちらへ来て何度夜を共に過ごしたと申す。主は我の妃ぞ。」

維月は、苦笑した。

「維心様…ですから、ここでは神の世の常識とは違うのですわ。お互いの気持ちがあってこその、婚姻でありましょう。」

維心は、維月をしっかりと抱き寄せた。

「ならば何度でも婚姻を約せば良い。維月…我の妃に。ずっと共に。」

維月は維心に身を寄せた。

「はい。わかっておりまする。維心様は私の夫。私は維心様の妻でありまする。お互いが望んでおるのだから。」

維心は、ホッとしたように力を抜いた。

「ならば良い。驚かせるでない…胆を冷やすわ。主は、ほんに我を困らせるの。」と、維心は維月に唇を寄せた。「…しかし離れることなど出来ぬ…。」

「維心様…。」

維月は、維心の愛情の深さに助けられていると思った。維心様は、私から物思いを消し去ってしまってくださる…いつも…。


十六夜は、それから顔を見せる事はなかった。気になって維心は有に頼んで佐月や美月に問い合わせたが、全く来ていないらしい。むしろ、ピタリと来なくなった十六夜に、あちらのほうが心配している始末だった。

海の上の島にも出掛けてみたが、やはり居なかった。維心がやきもきしていると、そこに来客の知らせが届いた。

「王、維明様でありまする。」

維心は驚いた。そうだった、叔父上も自分と共にこちらへ来ているはずだったのだ。

「通せ。」

維心が慌てて言うと、自分そっくりの姿で、あの頃はわざと少し老いさせていたその外見も、元のままの維明が入って来た。

「久しいの、維心。しかし死ぬとはなんと穏やかなことか。我も穏やかに暮らしておるぞ。」

維心は頷いた。

「叔父上も幸福そうで良かったことよ。挨拶にも行かず申し訳ないの。」

維明は首を振った。

「良い。堅苦しいのはあちらだけで充分ぞ。して、維月は?」

維心はハッとした…そうだ、叔父上も維月を…。

「…お待ちを。」

維心は、思いながらも侍女に維月を呼んで来させた。維月は息せききって走って来た。

「ああ、維明様!こちらへ来られておったのですね。お久しゅうございます。」

維明は嬉しそうに手を差し出した。

「おお維月…久しいの。」

維月はその手を取りながら、あまりに維心そっくりなので赤くなった。そうか…維明様、こちらが本当の姿であられるから…維心様とややこしいって、わざと少し年上に見せてらしたけど。

維心は、落ち着かなかった。こちらへ来て婚姻関係が無くなったとか言っている維月が、やはり叔父を選ぶとか言うたらどうしたらいい。

しかし、維月は言った。

「こちらでも、維心様が夫であってくださるのです。」と、維心を見た。「もう王ではないので、こうしていつも側に居てくださいまする。」

維心は、ホッとして維月に微笑み掛けた。維月…。

維明は頷いた。

「主らはいつも仲睦まじくあって良いの。しかし、十六夜はどうか?」

維月と維心は、顔を見合わせた。それを見て、維明はため息を付いた。

「…やはりの。あれの行方、こちらは知らぬのであろう?」

維心は頷いた。

「調べても分からぬでの。少し、維月と行き違いがあって…。」

維明は頷いて、側の椅子に座った。維月は、維明から離れて維心の横へ座った。

「十六夜は、我を訪ねて参った。」維明は言った。「今、我の屋敷に居る。」

維心は、ホッとして表情を緩めた。叔父上の…。

「そうか。ならば良かった。叔父上が共であるならば。」

維明は首を振った。

「我ではどうしようもないのよ。維月はと聞いたら、別れたと言うし、ならば、他の月の女かと聞くと、そんなつもりはないと言うし。しかしあれはの、夜になると、一人庭を眺めてじっと考え込んでおる…維月を想わなくなった理由を聞けば、今でも愛していると答えるしの。ならば、戻れと申したのに、他の女を選ばなきゃならないと、ポツリと言うのよ。いったいどうしたいのか聞いたら、維月と暮らしたいと言うし。我には訳が分からぬし、十六夜はそれ以外はだんまりだしの。なので邪魔はしたくなかったが、ここへ参ったのだ。」

維月は、維心と顔を見合わせると、維明に事の次第を話した。維明はため息を付いた。

「…まあ、我に言わせればどっちもどっちぞ。十六夜が悪いのは分かる。甘えておったのだろうの。しかし維月、十六夜が今更に他を想うなどないだろうが。あれが人を愛したのは、主が始め。そのために地上に降りて人型を取り、愛しかたを学んだのだ。不死の月である十六夜が、なぜにここにおる。主ゆえではないのか。それを今更に放り出すなど…もう、あれを愛してはおらぬのか。」

維月は、首を振った。

「いいえ。忘れる事などありませぬ。ですが、十六夜を私に縛ってはならないと思ったのですわ。維心様は、今も片時も離れずいくらでも縛れば良いとおっしゃるけれど、十六夜は自由を好みまする。いつもどこかしらを行き来して…生前からそうでした。里帰りしてもいつなり側に居る訳ではなく、なので維心様が来られるとホッとしたものですわ…これで寂しくはないと。維心様は、いつも私を探して追い掛けてくださったので。」

維心は驚いた。維月がそんなことを思っていたとは知らなかったからだ。

「維月…そうであったのか。」

維月は頷いた。

「だから、十六夜はよく言っておりましたの。維心が居るから、オレ達はうまくやっている、と。結婚して四年は二人でしたけど、ケンカばかりしておりましたから。愛しているけど、十六夜は月。考え方が違いますの。維心様と私が結婚して、やっと落ち着きました…これが、私達の婚姻だとお互い思っていました。会いたくなったら、会いに来て、共に過ごす。それ以外は月から話す。十六夜は、そういう感じなのですわ。なので、私もここに来た始め、仕方がないかと思っていました。ですが、祖母達の所にずっと居て戻って来ないから、もしかしたら私より、そちらが良くなったのかと…十六夜は正直ですから。会いたい人に、会いたい時に会いたいだけ会いに行くのですわ。こちらに来た時、それは私ではなかったのは事実ですから…。」

維明は、黙り込んだ。維月だからこそ、分かること。十六夜は正直…確かにそうだ。ならば、やはりそうなのか。十六夜は、自分でもそんな気持ちを少しでも持ったのを知っていたから、維月に後ろめたくてここへ来れないのではないか。

「…そうか。しかしの、困ったものよ。やはりあやつは主を愛しておるのだ。ずっと屋敷に居てどこにも行かぬ。夜になると、苦しげにしておる時もある…あやつも男であるから。主を求める事を知った体を、もて余しておるのであろう。我とて…同じであるゆえな。」

維月は、少し赤くなって下を向いた。維心が、維月を抱き寄せた。

「叔父上…我はもう…。」

維明は、苦笑した。

「わかっておる。十六夜の気持ちが分かると言いたいのだ。我はの…転生を急ごうと思うておる。あの生は、本当の生ではなかった。今度こそ何もかも捨てて、真に生きて、ここへ来たい。主のように、全てをやり遂げた後、愛しい妃と共にの。」そして、維月を見た。「維月…しかし今はまだ変わらず主を愛しておるよ。これは変えようもないゆえ。転生するまでは我慢せい。」

維月は、頷いた。維心そっくりの維明に、どうしたらいいのか分からないのだ。

維心は、言った。

「叔父上…しかし十六夜のことは、我も気になり申す。あれのお蔭で、我は維月を得て幸福であった。己だけ幸福に過ごそうなどとは思うておらぬ。」

維明は頷いた。

「我も同じ気持ちよ。維月、今一度十六夜と話をするが良いぞ。我と共に参れ。」

維月は、迷うように維心を見た。維心は、頷いた。

「行って参れ。我は待っておるゆえ。」

維月は頷くと、維心に軽く口付けた。維心は維月を抱き締めて、そして維明に言った。

「お頼み申す。」

維明は頷くと、維月を抱き上げて、そして自分の屋敷の方へと飛び立って行ったのだった。

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