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闇を狩る者  作者: 池田中務少輔輝里
DARK HUNTER
37/41

『DATE3』

僕はデートというものをした経験がないのでわからないが、近頃のデート時のファッションはこういうのが流行っているのだろうか。破けたジーパンというのもあるが、服までボロボロに破けまくっているのはどういう事だろう。ってか、よく見ると服どころか顔も体も怪我だらけだ。ケンカでもして来たのか?遅かったのはそのためか。佐藤は自分からケンカを売る人間ではないので絡まれたのだろう。とんだ災難だったな。


「そんなでデートなんかできるのか?帰って傷の手当てでもした方がいいんじゃないか?薬くらいは塗ってやる」

怪我ならデートを中止する理由にはなる。佐藤もボロボロのままでデートするのは嫌だろう。


「いや、俺ならこのままで構わない」

はっ?お前が良くても僕が良くない。


「お前が心配してくれているのはわかる。だが、いまここで退けば奴らの思うツボだ」

はっ?奴が何を言っているかさっぱりわからない。多分、僕の頭の上に疑問符が飛び交っていたのだろう。佐藤はここに来る途中でクラスの男子全員に襲われたと教えてくれた。


「ふうん、災難だったな」

なんか最近佐藤は男子から目の敵にされているような気がする。いい奴なのにな。


「まあ、人間いつどこで恨みを買っているかわからないからな。でも、あんまりひどかったら先生にでも相談してみたら?」

あんまし期待はできないだろうけどさ。


「いや、これは試練だからな。それに奴らの気持ちもわかる」

何言ってんだ?自分を襲った奴らの自分を襲う動機が理解できるって、自分は襲われて当然のクソ野郎って言っているのと一緒だぞ。佐藤ってそんなにひどい奴だったのか。そんな奴とデートって危なくないか?


「待て、お前なにか勘違いしているようだけど多分それ違うからな」

僕の顔が佐藤に不審を抱いてますってなっていたのだろう。佐藤が慌てて弁明してきた。


「と、とにかくデート始めようぜ。その前に俺ちょっと服を買って来るよ。すぐに戻って来るから待っててくれ」

いいけど大丈夫か?また襲われるかもよ。


「大丈夫だ。今頃奴らは死よりも過酷な制裁を受けているだろうからな」

これは意味がわかった。つまり佐藤を襲った連中は姫前みちるという名の極刑を懇願するほどの凄惨な拷問を受けているってことだ。佐藤が服を買いに行ったので僕もついていく。待ってろと言われたが待っている間にまたナンパされるかもしれないからついていく。佐藤は何も言わなかった。そういや女の子になってから自分の服を買いに行った事は無かったな。いま着ている服はすべてみちるや姉さんが買ったものだ。待っている間に服を見てるか。たまには自分で選ぶのもいいかな。なんてね。


「待たせたな」

早かったな。予期せぬ出費だったので安物を適当に選んだようだ。


「すまん、デートだからもっとセンスの良いもの選びたかったんだがそうすると時間がかかるからな」

気にするな。早いのはいい事だ。


「ところで何処に行くんだ?」

今日のプランはすべて佐藤に任せてある。まさか夕日の綺麗な丘でとか言わないだろうな。


「えっ」

急にフリーズする佐藤。図星か?忘れるな。これは“ごっこ”なんだぞ。


「しっかりしてくれよ。男だった奴とロマンティックなシチュエーションを味わいたいのかお前は」

いいご趣味ですねとは言えないな。初っ端から出鼻を挫くようで悪いが釘を刺しておかないと。


「ま、まあ、とにかく映画でも観ようぜ」

映画か…まさか恋愛物じゃないだろうな。


「……」

またしても図星か……。


「どうしたんだよ。いくら女になったからって顔がそんなに変わったわけでもないだろ。それとも男だった時から僕に邪な気持ちを抱いていたとか言うんじゃないだろうな」

そうだったら、みちるを呼んで始末してもらわないと。


「そ、それは違うぞ。怖い事言うな」

だといいけど。別に男が男を好きになるのは個人の自由だからどうでもいいが、その対象が自分となると話は違ってくる。


「この際はっきり言っておく。僕は女の子になりきるつもりもないし、男と付き合うつもりもない」

いくらみちるが言ってもこれだけは譲れない。


「それならなんでスカートなんだ?」

「うっ」

今度は僕がフリーズした。痛いところついてきたな。


「お前、学校以外はスカート穿かないって言ってただろ。なのになんで今日はスカートなんだよ」

僕は学校以外に外出する時はズボンだ。だってスカートだと中が見えないように注意しないといけないから面倒なんだよ。姉も外出時はパンツルックだ。家では楽だという理由でスカートにしている。今日も僕はジーパンで行こうとしたが姉にスカートで行くように命令されて渋々これで来たのだ。「私も行くー!」と駄々をこねるシスターを宥めて。僕としては連れて来たかったが、姉が食い放題に連れて行ってあげると言ったら喜んでそっちの方に行ってしまった。


「俺だってな。最初はお前の事を意識なんてしてなかったさ。ほとんど見た目は変わってなかったんだからな」

そうなのだ。シスターに女の子にされてからしばらくは僕の見た目はほとんど変わってなかった。幼馴染のみちるや実の家族の姉さんさえ気づかなかったぐらいだ。


「それが段々と発育が良くなってきただろ。特に胸が。意識するなと言う方が無理があるぞ」

そ、そうなのか。ありがたくない事に僕は胸が必要以上に成長してしまって姉の嫉妬と殺意に満ちた視線を浴び続けている。こないだなんか、胸が邪魔で足元が見えないって言ったら姉の手にナイフが握られていた事があった。


「それにお前、下着は女物なんだろ。それでまだ女になりきるつもりはないって言っている事おかしくないか?」

ぐっ…。悔しいが言い返せない。


「それに姫前の事も考えてやれよ」

みちるの?


「あいつがなんで俺とお前をくっつけたがるかわかるか?」

それは僕に悪い虫がつかないようにだろ。


「それもある。だけど、これは俺の推測だがお前の事を諦めるためでもあると思う。あいつはお前の事が好きだからな。でも、女になってしまったお前とはもう付き合う事なんてできない。かといってお前を諦めきれもできない。だから、お前に好きな人ができたら自分も諦める事もできる」

「まあ…それは」

佐藤の推測は当たっているだろう。


「それとお前を思っての事でもある」

「僕の?」

「お前はいつまで経っても男の自分を捨てられないでいる。このままじゃお前の将来が心配になると思ったんじゃないか」

「そう言われても…」

世の男性諸氏に問いたい。自分が女になって男からキスをせがまれた時それを受諾する事ができるかどうか。キスとはいかなくても手をつないで歩くとか想像できるだろうか。


「お前の気持ちはわかる。でも、お前はいまは女なんだ。現実に女なんだよ。その現実から逃げるな」

「う、うん…」

いつになく佐藤が熱くなっている。


「わかったよ。善処する」

だから肩から手をどけろ。あと顔が近い。


「すまん。俺もつい熱くなってしまった。映画でも観ようぜ。お前の観たい映画でいいからさ」

「ん?お前あの映画の前売り券買ったんじゃないのか?」

「いいよ。お前が観たいと思わない映画を無理に観せるよりはマシだ」

そうか?悪いな。じゃ何にしようか。あれにしようか。シスターが観たがっていた『モンキーズ・まだ助かる』。これはワオキツネザルとアイアイとコビトキツネザルが困っていたり助けを求める動物たちを助けるって映画だ。まあ助けに行った先でドタバタ劇があるんだが。


「ちょっと子供っぽいが。まあいいか。じゃ観に行こうぜ」

こうして僕らのデートは映画鑑賞から始まったのだった。

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