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闇を狩る者  作者: 池田中務少輔輝里
DARK HUNTER
36/41

『DATE2』

デート当日、僕は待ち合わせの場所に来ていた。場所も時間も指定したのは佐藤だ。なんかずいぶんと熱心にプランを練っていたようだったからちゃんと時間前に来たというのに5分経っても10分経っても15分経っても奴は現れなかった。女の子を待たせるなんてまったく…はっいかんいかんついつい思考が女の子になってしまった。ブラジャーを着けていても心は男の心意気でいこうと思っているのに。…いやこれもいまいちだな。しかし、遅い。とうとう20分経ってしまった。みちるだったら手討ちもんだぞ。文字通り手一本で首を討たれるだろう。そう若かりし頃の拳王さまが腕一本でトラの頭をもぎ取ったように。さすがに温厚な僕でもイラついてきた。イラついているのは待たされているだけではない。それよりも大きな理由があった。


「へーい彼女一人?」

これで何度目だろうか。


「いえ友達と待ち合わせしてます」

その度にこう言って門前払いにしたのも何度目だろう。最初、彼氏と待ち合わせしていると言おうかなっと思ったんだがやめた。嘘でも奴を彼氏呼ばわりするのは嫌だ。それに前に危ない目に遭いかけたという事もあったからだ。


以前、僕はみちるとお出かけすることになって待ち合わせすることになった。その時も僕が先着したので待っていたのだが、まあ3分も経たないうちに声をかけられたね。男に。


「ねえねえ彼女、いま一人?」

女の子になる以前から男に声をかけられた事が一度や二度ではない僕はうんざりしながらも適当に遇らっていたが、中には相当にしつこい奴もいて本当にうんざりする。待ち合わせしていると言うとその男は


「誰待ってんの?ひょっとして彼氏?」

と訊いてきたのでうっかりそうだと答えてしまった。本当は女の子と待ち合わせしてたのに。まあ野郎が一緒ならこの男も諦めがつくだろう。そう思っていた。ところが


「えーっ君みたいなかわいい娘を待たせるような男なんかほっといて俺らと遊ぼうよ」

などとほざきやがった。なんて図々しい奴。ん?俺ら?


「おーい、戻ってくんのが遅いと思ってたら女の子ナンパしてたのか」

「ほぉ結構かわいいじゃん」

男には連れがいた。男たちは僕が逃げられにように周りを取り囲んだ。一人だけなら足を踏んづけて逃げることもできるが複数人となるとみちると違ってか弱い僕には無理だ。


「うりゃ!」

僕は男の一人に蹴りを見舞った。無理だと言ったのは3人全員を倒す事だ。まさかか弱い(ように見える)僕が蹴りをしてくるとは思いもしなかったのか男たちが狼狽している隙に僕は逃げ出した。蹴りをくらった男はすっかりノビてしまったようだ。残った二人は僕を追いかける様子は無い。逃げきれそうだ…


「ぶっ」

前方不注意。通行人にぶつかってしまった。かなり体が引き締まった人だ。


「す、すみません」

頭を下げてお詫びをする。で、すぐに走り出そうとした。が、男に腕を掴まれた。


「え?」

お詫びが足りなかったのだろうか。


「おぉ姉ちゃん、わしの連れに何してくれてんだ?」

連れ?あいつらのことか?まだ仲間がいたのか。男は僕の腕を掴んだまま仲間のところまで連行した。


「可哀想に顔面に姉ちゃんの靴跡がくっきり残ってるじゃねーか。どう落とし前つけるつもりだ?」

ちょっとやりすぎたかも。確かにいきなり蹴りは無いよな。蹴る前に一言「どけ」とぐらいは言うべきだろう。そう思い謝ろうとした刹那、脳裏に姉の言葉が過った。


(いい?自分から謝ってはダメよ。こっちが非を認めたら向こうはつけあがるだけだから。たとえこっちが悪くても相手が悪いと押し通しなさい。無理でも押し通せば道理は引っ込むから。道徳はね強者によって踏みにじられるものなのよ)

わかったよ、姉さん。


「邪魔だから蹴飛ばしただけだ。あと胡散臭い顔を近づけたから気持ち悪くなったのも理由だ。むしろこっちが被害者だ」

「はあ?何調子こいたこと言ってんだ?」

あれ?逆ギレされたぞ。言い方間違えたかな。姉さんならこの時どう言うかな。ああダメだ。姉さんは口よりも先に手が出るタイプだ。どうも血筋らしい。姉さんによると昔、父さんに母さんの若かりし頃を聞いたことがあるらしい。母さんはあまり自分の昔の事を話したがらないからだ。母さんには内緒という約束でそっと教えてくれたことによると昔の母さんはとてもお転婆←かなり控えめな表現)で誰も手がつけられなかったらしい。母さんの輝かしい武勇伝に姉さんも僕も目を煌めかさせていたそうだが、それを母さんに聞かれてしまった父さんは制裁されてしまうのだが姉さんと僕はリクエストしながら嬉々としてそれを観戦していたという。本当に父さんは可哀想な人みたいだな。一度会ってみたいものだ。それにしても困ったな。どうして母さんも姉さんも話し合いで解決しようとしないんだろう。またしても姉さんの声が聞こえてきた。


(サルやブタに人間の言葉が理解できるわけないでしょ。そういう奴らにはムチで躾けるのが一番なのよ)

そうだね、姉さん。


「調子?調子に乗ってるのはそっちだろ。ブタ野郎のくせして人間様の言葉を話すなんて烏滸がましいにも程があるよ。ブタはブタらしくブタ小屋に帰ってブヒブヒ言ってろ」

どうだ、少しは自分の身分を弁えたか。あれ?みんなコメカミに青筋立ててるよ。


「かわいい顔してるから何言っても許されるとでも思ってんだろ。俺らがそのふざけた性根を叩き直してやる」

なんかブチギレ寸前って感じ。もしかして自分たちがブタだって知らなかった?確かに今まで人間だって思ってたのが実はブタだったってのはそりゃショックだろう。しかし、それで僕にあたられても困る。むしろブタだったってことに気づかさせてあげた事に感謝してほしい。


「ふざけんなっこのアマァ!」

えっ?いきなり拳が飛んできたぞ。これだから思慮の浅いブタ野郎はっ。両腕で頭をガードする。相当の痛みを覚悟していたが、その痛みは来なかった。恐る恐るガードを解くといつの間にか来ていたみちるが男の腕を掴んでいた。


「女の子をグーで殴ろうとするなんて見下げ果てた根性ね」

「な、なんだてめぇはっ」

「あっ俺この女知ってる。血の日曜日事件のブラッディープリンセスだ」

「なんだそれは」

「大ちゃんはその時まだこの街にはいなかったから知らないか」

大ちゃん?名は体を表すとはよく言ったものだ。血の日曜日事件は僕も佐藤から聞いて知ってる。なんでも入学して最初の日曜日にみちると不良たちが大立ち回りを演じたそうだ。かなり激しい乱闘だったらしく流血沙汰にもなって当時ちょっとした騒ぎになったらしい。流血と言っても血を流したのは不良たちの方でみちるは全身血まみれだったそうだが全部返り血だったという。しかし、ブラッディープリンセスは初耳だな。プリンセスって…そうか姫前みちるの姫から取ったんだな。


「ブラッディーだかプリティーだか知らんが、てめぇも女のくせに生意気そうだな。あの女と一緒に俺が調教してやる」

「ちょっとやばいよ大ちゃん。この女だけはやめた方がいいって」

「たかが女に何をビクついてんだ。見てろ俺がみっちりこの女どもを躾けてやるからよ」

自信満々な大ちゃんに三人の仲間は一様に不安を隠せないようだ。みちるの事を知ってるなら当然だ。


「ったく、情けない奴らだ。しかし、この女も結構かわいいよな。まあ、胸は少し寂しいがな」

あっ。言っては絶対にならぬ事を…。みちるは同世代の女の子と比較して少々胸が乏しい。本人もその事を気にしてるようで迂闊にその事に触れようものならその代償は命である事を覚悟しなければならない。

それは一瞬だった。大ちゃんの頭が…その何と言うか…例えるなら大ちゃんは六騎士に粛清された七人みたいになっていた。みちるが何かしたのは間違いないのだが速すぎて何も見えなかった。しかし、何が起こったかはわかる。こんな街中で人間の頭がジオングの頭部みたいにどっかに行っては大騒ぎになる。やばいぞ。逃げなきゃ。


「きゃーっ人殺しぃ!!」

えっ?僕は耳を疑った。そのセリフ自体はこの場の状況に一致しているのだが問題はそれを発した人物だ。あろう事か犯人が大ちゃんの仲間の三人を指差して叫んでいるのだ。当然、三人は驚愕する。


「待てよ、俺らは何もやっちゃいねーぞ!」

必死に弁明する三人。しかし、みちるはさらに追い打ちをかける。


「誰かぁ警察呼んで!きっと無差別通り魔よ!」

その言葉で辺りは騒然となった。パニックになった人々が狂騒する中をみちるは僕の腕を引っ張って


「逃げるわよ」

そうして僕らは危機から逃れたのだった。


そんな事もあって僕は彼氏と待ち合わせとは言いたくないのだ。え?関係ない?それはさておきやっと佐藤が来た。ってアレ?


「すまん、遅くなった」

佐藤はなぜかボロボロの服を着ていた。

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