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闇を狩る者  作者: 池田中務少輔輝里
DARK HUNTER
33/41

『SIDE STORY4-1』

 とある夜、一人の酔っ払いが足元をふらつかせながら自分の家を目指している。駅で済ませておかなかったのか尿意を催した男は電柱の前に立った。しばらくして電柱の根元から湯気が立った。用を済ませると男は股間に開いた窓を閉じて再び歩き出そうと体の向きを変えた。そして一歩を踏み出そうとした男は何かにぶつかってしまった。


「あ?」

 男はてっきり電柱にぶつかったと思い込んだ。自分が酩酊しているのは自覚しているから方角を間違えたと思ったのだ。しかし、そうではなかった。男がぶつかったのは四角い頭に二つの複眼、二本の短い触覚の怪人だった。怪人を凝視した男は目をこすってみた。酒の飲みすぎで幻覚を見たと思ったのだろう。改めて怪人を凝視する。そして自分の見たものが幻覚でないことにようやく気付いた男は悲鳴を上げた。


「おわあああああっ!?」

 地面にへたり込んだ男はその場から逃げようとするが腰を抜かしているため思うように動けないでいた。


「キ~ラ~」

 怪物は両手の親指を立てると円を描くように腕を動かした。すると男が耳を抑えて苦しみだした。


「うわあああっ!!なんだこの音はぁ!!」

 のたうち回った後、男は痙攣を起こして動かなくなり爆発して消えた。その一部始終を電信柱に隠れて観察していたダークナイトが怪人に近寄る。


「よくやった。実験は成功だ」

「キ~ラ~」

「貴様はただちに実験結果をアジトに持ち帰って殺人音波をさらに強力にして日本中に混乱を起こす『日本パニック作戦』の準備を始めるのだ」

「キ~ラ~」

 怪人の触覚が振動を起こすことで発せられる特殊な音波。それを人間が聞くと先ほどの男のように苦しみながら息絶えるのだ。この世界の征服を企む悪の秘密結社ザラムはこの音波兵器で日本中の人間を狂わせる日本パニック作戦を開始しようとしているのだ。


「くっくっくっ、人間どもの狂い死にする様が目に浮かぶわ」

 すっかり上機嫌のダークナイトだがそのせいか迂闊にも子供に一部始終を見られているのに気づいていなかった。

 ダークナイトがそのことに気づいたのはアジトに戻ってからだった。蛇と一つ目のレリーフの真ん中にある赤いランプが怪しく点灯する。


「ダークナイトよ、お前ともあろう者がとんだしくじりだな」

「はっ首領」

「お前たちはただちにその子供を抹殺してくるのだ」

「はっ!」

「キ~ラ~」

 一方、目撃者の子供は親や教師にそのことを伝えたが誰も信じなかった。テレビの見過ぎと片付けられてしまったのである。信じようにも死体が発見されていないのでは話にならない。しかし、子供はげんに見たのだ。怪人が人を襲うところを。子供は怪人の絵を描いてそれをあっちこっちの電柱に貼っていた。誰もまともに取り上げようとしなかったがただ一人だけ関心を示した青年がいた。彼の名は帯刀五郎、この世界を悪の手から守るハンターの一人である。


「その話、よく聞かせてもらえへんやろか?」

「え、おじちゃん俺の話信じるの?」

「誰がおじちゃんや。わいはこれでもまだ大学生や」

 憮然としながらも子供の話を聞く。


「なるほど、それはやはり闇の連中の仕業やな」

「闇の連中?」

 子供が首を傾げる。


「世界征服を企む悪の秘密結社って奴や」

「ふーん」

「まあ、後はわいに任せとき」

「え?俺もついていくよ」

「あかん!ここからはプロの仕事や。素人の出る幕はないで」

 子供は不服そうだが、帯刀の有無を言わさぬ眼力に引き下がるしかなかった。


「ええ子や。怪物はわいが退治したるから楽しみに待っててんか」

「うん!」

 元気よく返事する子供にすっかり帯刀は安心しきっていたが、子供はおとなしくしているつもりなどさらさらなかった。誰も自分の言うことを信じてくれなかったことを根に持っていた子供は皆を見返すために怪物を写真に収めようとカメラを持って夜中にこっそりと家を出たのである。しかし、怪物がどこに現れるかあてがあるわけではない。子供の浅知恵と言うか、子供は昨日と同じ場所の辺りを徘徊すれば怪物を見つけられると思ったのだ。結果論で言えば怪物は簡単に見つかった。というより怪物の方から子供の前に現れたのだ。


「キ~ラ~」

「うわあああっ!?」

 いきなり現れた怪物に子供は腰を抜かした。それでもその場から逃げようとするがダークナイトが行く手を阻む。


「小僧、貴様は見てはならぬものを見てしまった。よって死ななければならない」

 ダークナイトは剣を抜くと子供に向けて振り下ろした。相手が子供だからという躊躇は微塵も見せなかった。しかし、ダークナイトの振り下ろした剣は間に入った五郎の兜に弾かれた。


「おじちゃん!?」

「せやからおじちゃんとちゃうゆうとるやろ。ったく、おとなしくしとけって言うたやろ」

 五郎もこの辺りを探索していたのだ。悲鳴を聞いて駆けつけたら子供がダークナイトと怪物に襲われていて急いで変身して子供とダークナイトの間に入ったのだ。


「こんな年端のいかぬ子供を手にかけるなんて闇の連中ちゅうもんはろくなもんやないってのは本当みたいやな」

「貴様は狩人か。ふん、ちょうどいい。ついでに殺してやる。やれ」

「キ~ラ~」

 命令を受けた怪物は親指を立てて回し始めた。


「おっと、それが怪電波を出す仕掛けやな。ちゃんと聞いて知っとるで。それで何を企んどるか知らんけどな、皆を傷つけることはこのわいが許さんからな!」

 ビシッと言い放つ五郎だが、どうもセリフと格好が合わないというか、どういうことかと言うと五郎の変身した姿というのがスーツに栗のような形のやや大きめの兜という初代アンパンマンよりも人気が出なかっただろうな残念なものだからである。


「いくでっ愛の頭突きぃ!」

 助走つけてからのジャンピング頭突きが一直線に怪物に向けて放たれる。


「キ~ラ~」

 まともに喰らった怪物は後方にぶっ飛ばされた。


「どやっ愛の一撃は!」

「キ~ラ~…」

 さしもの怪物もふらふらのようだ。


「さあ、トドメといこうか」

 五郎が兜のスイッチを押すとなんと兜の形が変わってハンマーとなった。頭にでっかいハンマーを乗せたような不格好に子供も目が点になった。


「どやっ格好ええやろ?」

「え?あ、う、うん…」

 肯定はするものの目が泳いでしまう子供であった。


「さあ、最後の一撃や。アイアンヘッドハンマー!」

 五郎の強烈な一撃が怪物の脳天に炸裂する。


「キ~ラ~」

 怪物はよろめいた後に倒れて絶命した。消滅した部下をダークナイトは一瞥もせずに吐き捨てる。


「無様な…」

「おいおい味方が死んだのにその言い草はないやろ」

「ふん」

「ふんって、あんたなあ?」

「なんだ?」

「ああ、もうええわ。あんた、ダークナイトって奴っちゃろ?ずいぶんとわいの仲間を殺ってくれたみたいやな。たっぷりと礼をさせてもらうで」

 ダークナイトを指差して言い放つと五郎は頭にパワーを集中させた。


「ス~パ~……」

 すると何と五郎の兜がもとの栗状にもどった後に大きくなったのだ。そして、足元が爆発して五郎は一直線にダークナイトに向かって飛んで行った。


「愛の頭突きぃ!」

 さっきよりも高速で飛んでくる五郎をダークナイトは剣を垂直に構えて待ち構えた。


「!!」

 五郎の兜とダークナイトの剣がぶつかった瞬間、すごい衝撃がダークナイトを襲った。


「くっ…」

 衝撃に吹き飛ばされそうになるのをダークナイトはどうにか堪える。やがて五郎の勢いが収まるとダークナイトは五郎の首を掴んで持ち上げた。


「うぐぐ……」

 五郎は首への拘束を解こうと足掻くがダークナイトの手はビクともしない。


「無駄なことはよせ。それよりもどうだ?貴様はなかなか見所がある。先ほどの攻撃は思ったより良かったぞ。それに免じて命だけは助けてやる。ただし、狩人の力を捨ててただの人間に戻ることが条件だがな」

「へっ…アホな事ぬかしたらあかんで…わ、わいは自分で選んでハンターになったんや…それを命惜しさに敵に許しを請うなんて真似できるかいな…それで生き恥晒すくらいなら死んだ方がマシや……」

「そうか。ならば貴様の意思を尊重してこれより死刑を執行する」

 ダークナイトは五郎の首を絞めていた手を離すと両手で剣を振り上げた。


「もはや光は闇の敵ではない!」

 そして、五郎の脳天めがけて剣を振り下ろす。


「“闇騎”兜割り!」

 五郎の兜が割れて剣が脳天に達した。


「体を斬り裂いてやろうと思ったがなかなかに頑丈な兜だったな」

 そのセリフは五郎に向けて発せられたものだがすでに五郎は聞くことができなくなっていた。


「貴様の敗因は俺が相手だったことだ。知っておくべきだったな。俺を人間が倒すことは絶対に不可能だということを」

 五郎が倒れた後、ダークナイトは子供の首を刎ねたあとにアジトに帰還した。子供の口を封じたものの怪人を倒されてしまったので作戦遂行はできなくなってしまった。五郎は自分を犠牲にして世界を救ったのである。

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