『ESCAPE』
なぜこうなったのか。昼前までは何もなかった。前兆すらも。真昼間の教室で裸ブレザーで友達と二人。誰がこの状況を予測できただろう。もしいたら教えてほしかった。速攻で帰るから。
「なあ」
「来るな」
佐藤が近寄ろうとしたので一喝する。僕たちはゾンビ(生きてるんだけど)たちが入ってこないように机と椅子でバリケードを築いている。ゾンビどもは見当違いの方を探していて時間はありそうだが、机を上に持ち上げるのは女の力では少しきつい。佐藤が手伝おうとするがそれを口実に僕に近づこうとしているのではと勘繰ったので拒否した。みちると違って僕は男に本気で襲い掛かられて身を守れる自信はない。
「これでよしっと」
立派なバリケードができた。うむ、我ながら鉄壁な防壁だ。
「……」
何人であってもこの防壁を突破するのは用意ではないだろう。
「……」
それはここから出ることも難しいという事では?
「それは大丈夫だ」
「どういうことだ?」
「あれさ」
佐藤が指さしたのはカーテンだ。
「映画であるだろ。カーテンを結んで下に降りるっての」
ああ観たことあるぞ。ん?だったらこんな面倒な事をせずにさっさと下りれば良かったんじゃね?
「……」
「……」
いまの言ったらダメだった奴か?
「下りてる途中であいつらが来たらまずいだろ?」
それもそうか。よし、さっそく作ろう。レールからカーテンを引っ張って結んでいく。そうして作った脱出ロープを垂らす。これでこの苦境から抜け出せるはず…だった。
「あり?」
長さが足りない。最後は飛び降りるしかない感じ。
「嘘だろ…」
「躊躇っている時間はない。行くぞ」
行くってお前、ちょっと高すぎるよ。
「大丈夫だ。俺が受け止めてやるから」
それってお前に抱き着くってことだろ。
「我慢しろ。それしか方法が無い」
「……」
しょうがない。男が男に抱き着くなんて末代までの恥いや自然への冒涜、神への叛逆だ。もう女だろと猪口才なツッコミはやめてもらおう。僕はいまでも女の子が好きだ。抱き合うなら女の子との方がいい。僕の無答を承諾と受け取ったのか佐藤はロープを伝って地上へと降りた。
「さあ来い」
「う、うん…」
僕も同じように窓から脱する。両手でロープを持っていざ外へ。すると下から「うおっ?」という声が聞こえてきた。下を見ると佐藤の顔が赤くなって目が泳いでいた。
「……」
いったんは外に出た僕だったが身の危険を感じて教室に戻ろうとした。忘れてた。奴も飢えた狼だという事に。抱き着いたら最後そのまま身ぐるみ剥がされそうだ。しかし、状況は僕に選択の余地を容赦なく取り上げていった。けたたましくドアを叩く音がしたのだ。
「ここだ、ここにいたぞ!」
「ドアが開かないぞ」
「窓だ、窓から入れ!」
「ダメだ、椅子と机でバリケードが作られている。入れない!」
「RPGだRPGを持ってこい!」
とうとうゾンビたちがやってきた。だが、作っておいたバリケードのおかげですぐには入ってこられないようだ。それでも防壁が破られるのは時間の問題のようだ。なんで学校にRPGがあるんだよ。
「待て、狭い廊下でRPGを使うのか?」
至近距離で撃つつもりか?皆の正気を信じたいが奇声を発して素手でガラスをたたき割っているのを見たら疑わしくなる。ってか最初から正気なんてなくしてるのわかってたけど。
「まずいっ」
理性をなくしている奴らは自分がいかに危険で無意味な事をしているのかわからないんだ。躊躇ってる暇はない。貞操よりも生命だ。僕は再び窓の外に出た。その直後、爆発音がして衝撃波と破片が襲ってきた。
「うああああっ!」
遅かった。襲ってくる破片を防ぐために顔をカバーしようとしてロープから手を離してしまった。真っ逆さまに落ちていく。この高さじゃ運が良くても大怪我どころじゃ済まない。くっ、ここまでか。
「!!」
地面に落ちた僕は強い衝撃を感じた。だが、思ってたほどの衝撃ではなかった。痛みはあるが出血はないようだ。理由はすぐわかった。佐藤が下敷きになってくれたのだ。
「な、なんでっ?」
逃げられなかった?いや十分に回避する余裕はあったはずだ。
「う、受け止めて…やるって…言ったろ……」
「バカが…」
気絶した佐藤を支えながら僕は隠れられる場所を探した。このまま校外に脱出するのが良策だが佐藤を置いていくわけにはいかなくなった。ここは体育館倉庫に隠れるのがいいか。佐藤を背負って引きずりながら倉庫へ向かう。
「重い…」
どうにか倉庫に辿り着く。これで少しは時間を稼げるか。いや、時間稼ぎしたところで解決にはならない。ここは脱出して救援を呼ぶのが得策だ。だけど…
「もし、町の人も皆おかしくなってたら……」
とち狂ったのが学校内の人間だけだとする保証はどこにもない。たとえ狂ってなくてもほぼ裸の女の子が町中を歩いていたら正常心を保つのはほぼ無理だろう。
「ここで息をひそめてチャンスを待つしかないか」
チャンスか。あるかな。この窮地を切り抜けられるチャンス。
「どうすりゃいいんだよ」
本当にどうしよう。どぎゃんしたらよかとですか。何か妙案が浮かばないか思案するも何も出てこない。こんな非常識事態に遭遇して直ぐに打開策を考案できる奴がいるもんか。だいたいなんでこうなったかわかんにゃいのに。もう頭を抱えるしかない。奴らがここに来るのも時間の問題だろう。その時が僕の最期か。まだまだやりたいことあったのにな。床に寝かせてある佐藤の隣に腰を下ろす。人生の最後に一緒にいる人はみちるだって思ってたのに。こいつはいいよ。何も気づかないまま往生できるんだから。
「いや待てよ」
こいつは大丈夫かもしれない。ゾンビたちはどういうわけか僕だけをターゲットにしているような節があった。だったら佐藤を盾にすれば逃げられるかも?否、邪魔となれば躊躇なく殺すだろう。
「よし一か八か逃げよう」
まだその方が命だけは助かる望みがある。では早速。と外に出ようとしたが遅かった。ゾンビどもが校舎から出てきていたのだ。
「いたぞっ!」
見つかった。こうなったら入り口を封鎖して時間を稼ぐしかない。何の時間を?何か妙案が浮かぶ時間だ。だが間に合わなかった。ゾンビたちが体育館倉庫に入ってくる。
「やっと見つけたぜぇ」
「ずいぶんとお預けをくらわせてくれたなぁ」
「じっくりとぉ味わってやるぜよ」
じりじりと迫る餓狼ども。
「待て、さきにこいつから喰え」
寝ている佐藤を差し出す。すまん佐藤、親友である僕のために死んでくれ。
「そんな奴なんかいらねえよ」
「俺たちはグルメだからな」
佐藤の役立たず。
「おい、くだらねえ事言ってねえでさっさと喰っちまおうぜ」
「俺ぁもう我慢できねえよぉ」
「もう我慢できねえ!」
くそったれどもが飛び掛かってきた。最初の一人にはパンチを入れてやることができたがすぐに両腕を掴まれた。
「離せよっ」
腕を振りほどこうとするがしっかりと掴まれている。それだけじゃない。ブレザーにも手をかけられて脱がそうとするのだ。抵抗しようとジタバタするが数人がかりで押さえつけられてブレザーも脱がされた。
「やだっやだやだやだやだ、やだあああああっ!!」
こんな最期なんか嫌だぁ!せめて痛い思いしないで死にたい!




