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闇を狩る者  作者: 池田中務少輔輝里
TRANSSEXUAL GIRL Ⅱ
17/41

『NIGHTMARE』

 僕の通っている学校は割とルーズというか他の学校と比較してそんなに校則は厳しくない。しかし、ただひとつだけ他の学校よりも明らかに厳しすぎる校則があった。それは、午後6時以降の学校内への立ち入り禁止というものだ。6時になると生徒たちは理由如何に関係なく校外に出されて如何なる理由があっても校内への立ち入りは厳罰とされた。まあ、どこの学校でも夜間の校内進入は原則禁止だろうがこの学校はそれが徹底されている。違反した者には一切の弁明も許されず最悪の場合、退学処分になってしまうのだ。さらに6時以降から夜明けごろまで教師たちが順番で学校の周囲を見回るという徹底ぶりだ。なぜ、そこまでする必要があるのか。僕たち生徒の間では謎とされてきた。聞いても誰も教えてくれない。そもそも、夜中に校舎に入るなんてそう滅多にあるもんじゃないから誰も気にしてなかったのだ。その夜の学校に僕はいる。なんでかと言うと、みちると一緒に帰ろうと思って教室で勉強しながら待とうと思ったら、教科書開いて数秒で寝てしまったのだ。起きた時にはすっかり外は暗くなっていたというわけだ。窓から校門の方を見ると教師が一人立っていて、さらに別の教師が校門前を右から左へと歩いていた。見張りと見回りだろう。


「まずいな」

 見つかれば停学は免れないかもしれない。校内にも教師や守衛が巡回しているだろうから、グズグズしていると見つかってしまう。と、ここで僕はいままで自分が誰にも見つからずに教室で堂々と寝ていたという事実に不審を感じた。校外があんなに警戒厳重なら校内もそうであるはずだ。それなのに、いまのいままで僕は誰にも見つからず寝ていたし、何よりおかしいのは教室内にみちるの鞄がある事だ。まだみちるは校内にいるのか?いや、それは無い。如何なる理由があっても学校は夜間に生徒が校内に滞在するのを許可しない。では、鞄を忘れて帰った?それも無い。学校は生徒が校内に忘れ物をしないように徹底させている。そのために門を閉める10分前には放送で生徒たちに門限が迫っているのを通告しているのだ。鞄を忘れるとは考えにくい。


「とにかく、ここから出よう」

 僕は教室から廊下に出た。巡回者に気づかれないように足音を立てないように気をつけながら歩く。と、ここでまたしても不審な点が見つかった。生徒や教師が多くいる昼間ならともかく、人がほとんどいないこの時間帯では足音はそれなりに響くはずだ。廊下の窓から他の校舎を見ると懐中電灯の灯りも見えない。誰もいないのか?だとしたら校内は難なくクリアだな。近くに人がいる気配は無い。後は教師に見つからないように学校に出るだけだ。念のために足音を立てないように注意しながら移動する。


「夜の学校ってちょっと怖いな」

 それに何か変な気配がする。人の気配じゃない。不気味というか気味悪いというか。まさか、幽霊って事ないよね?幽霊が出るから夜間に校内へ入るのが禁止されている?んなバカな。


「暗いから不安になっているだけだよ」

 そう自分に言い聞かせる。早く外に出よう。と、足を速めようとした矢先、僕は後ろに何かの気配を感じた。さっきまでの漠然としたものではなく、はっきりと何者かがいる気配だ。ごくりと息をのむ。後ろを確認するか逃げるか。怖いという恐怖心と見てみたいという好奇心が僕の中でせめぎ合う。そして、僅差で好奇心が勝った僕は恐る恐る後ろを振り返った。結果は…誰もいなかった。


「なんだ、気のせいか」

 ホッと腕で額を拭く。不必要に不安になっているせいで何でもない事にでも緊張してしまったんだな。ははははは……。さて、行こうか。と、また体を180度回転させた時だった。目の前に見たことのないような不気味な生物が立っていた。


「……」

 僕は声も出ずヘナヘナと腰を床に下した。腰が抜けるって本当にあるんだな。立とうとしても立てない。


「な、なんだ…?」

 幽霊ではなさそうだ。


「着ぐるみ…?違う、これは人の気配じゃない」

 まさか、この学校が夜間立ち入り禁止なのはこいつのせい?いったい、この学校はどうなってんだ!?異生獣は鼻を近づけて、くんくんと僕の匂いを嗅ぎだした。美味しそうかどうか調べているのだろうか?逃げようにも蛇に睨まれた蛙よろしく動けない。首筋にかかる異生獣の鼻息が気持ち悪い。


(どうか、お気に召しませんように…)

 僕は必死に祈った。なんで、こんな化け物が学校にいるのかなど考える余裕は無かった。とにかくこの状況から脱したかった。しかし、異生獣は口からよだれをだらだらと流し舌なめずりまでしている。どうやらお気に召したようだ。食べられてしまうかもという恐怖で震えながらも説得を試みる。


「待って、僕なんか食べてもお腹壊すよ?だって、僕服着てるでしょ?服なんか食べる物じゃないだろ?」

 言葉が通じるかどうか怪しいが僕は懸命に訴えた。こんな化け物に食べられてたまるか。だが、異生獣は僕の頬を長い舌でペロと舐めた。ゾゾゾッと顔面蒼白になるくらいの気持ち悪さだった。そして、異生獣は僕の服に手をかけた。


「えっ?」

 直後、僕は服をビリビリと引きはがされた。服なんて海老の殻とかアサリの貝殻みたいなものだから食べる前に取り外しちゃえばいいのだ。異生獣の口が大きく開く。


「ひえぇぇぇぇぇっ!」

 食べられるぅ!僕は辺りを見回すが武器になりそうな物は無かった。ゆっくりと異生獣の口が迫る。僕は引きつった笑みを浮かべながらそれを眺める事しかできなかった。人間、恐怖が限界に達すると笑うしかないって本当らしい。もう笑うしかない。


「ガーッ!」

 異生獣が吠える。僕は覚悟を決めて目をきつく閉じた。こうなるんだったら冷蔵庫のプリン取っておかないで食べちゃえばよかった!


「……」

 ……アレ?なんともない?がぶりといかれるとばかり思っていたのに。どうしたんだろう。そーっと目を開ける。異生獣は口を開いたままピクリとも動かない。でも、異変が起きたことはすぐにわかった。胴体から剣先らしきものが突き出ていたのだ。緑色の血を流して異生獣は両膝を床に着いて僕の方に倒れ掛かった。


「うわっ!」

 必死に手と足を動かして後ろに下がる。俯せに倒れた異生獣の背中には大型の剣が刺さっていた。そして、その後方に人が立っているのが見えた。見上げると、あのボクっ娘だった。


「あぶなかったね、君。大丈夫?」

 状況が呑み込めずとりあえず、うんと頷く。どうして彼女がここにいるんだ?それと、なんでそんな格好しているんだ?彼女はファンシーというなんというか高校生がやるには少々低年齢な格好をしていた。そんな趣味があったのか。


「あ、これ?うーん、お仕事の制服ってヤツかな?」

 お仕事?彼女は親指で倒れてる異生獣を指して、


「こいつらを狩るのがボクらの仕事」

 ボクら?他にもいるのか?


「こいつらはなんなの?なんで、学校にいるの?」

 ねえ、なんでなんで?彼女は異生獣の死体(多分もう息を吹き返す事はなかろう)から剣を抜いて、死体を踏み越えて僕の前に立って僕に手を差し伸べた。


「さあ、帰ろう」

 何も答える気は無いって事か。世の中には知らなくていい事がある。知ろうとしない方がいい事だってある。これがそれか。素直が取り柄の僕は彼女の手を取った。不甲斐ない事に腰が抜けているからひとりじゃ立てない。


「いくよ」

 と、彼女が僕を引っ張り上げようとした時だった。シュッと音がしたと思ったら、なんと彼女の首が胴体から転げ落ちたではないか。


「へっ?」

 僕は彼女の首が床に落ちるまでを目で追った。突発的なことで状況に頭の理解が追い付かない。床を転がる彼女の首が僕の膝に当って止まり、彼女の胴体が僕の方へ倒れてきてようやく事態を認識した。


「うああああああっ!!?」

 今まで出したことのない声量だった。目の前で知っている人間の首がゴロンと転がり落ちたのだ。悲鳴を上げない方がおかしい。恐怖とショックで急に意識が朦朧としだした。薄れゆく意識の中で最後に僕が見たのは宙に浮かぶ死神が持つような鎌を持った可愛らしい人形だった。


 ------


 ハッと目が覚める。上半身を起こして周囲を確認する。僕の部屋だ。僕は自分のベッドで寝ていた。


「夢……?」

 さっきのは夢?確かに夢ならあんな化け物が出てきてもおかしくはない。でも、本当に夢なのか。思い出そうとしてもよく思い出せない。夢なら彼女はまだ生きているはずだ。学校に来た僕は彼女の安否を確かめようとした。だが、僕はある事に気づいた。


「彼女、なんていう名前だ?」

 お互いまだ自己紹介はしていなかった。手がかりは彼女が赤だということ。しかし、赤の教室には行けない。連中は僕らをあからさまに見下した態度を取るからな。その中で彼女は僕の知り得る中では唯一の例外だった。


「そうだ、職員室に行けば」

 赤のクラスは一学年に一つしかない。担当教諭に聞けばわかるはずだ。しかし、得られた回答は…。


「転校?」

 該当する生徒は昨日転校したそうだ。なんでも親の都合だとか。僕ら一般的な緑ならともかく将来が約束された赤が転校するなんて……。でも、やむにやむ得ない事情があるならしょうがないか。だとしたら、やはりあれは悪い夢だったんだな。だって、昨日の晩には彼女はこの町からいなくなっていたのだから。それに、僕はあの化け物に服を剥されていた。でも、制服はこの通り何ともない。夢である証拠だ。それ以外は特に何も変わったことはなくいつもの日常が過ぎてって放課後になった。今日もみちるは用事があるらしい。


「いい?今日はちゃんと佐藤と帰るのよ。佐藤にも言ってあるからね。間違っても、あたしを待って学校に留まらない事、いいわね?」

 みちるの注意にコクンと頷く。学校で待って?何言ってんだ?そんなのするわけないじゃないか。うちの学校が午後6時になったら絶対に校内に残っている生徒は帰宅しなきゃいけないって事はみちるだって知っているはずなのに。退学を覚悟してまでその禁を犯したいとは思わない。


「ったく、さよこがいなくなって、もっともっと忙しくなるんだから……」

 さよこ?誰?僕の知っている中でみちるに“さよこ”という友達はいないはずだが。


「あ、念のため言っておくけど昨夜のことは誰にも言っちゃ駄目よ」

「昨夜?」

「忘れたの?あんた、死にかけたのよ?あたしがいなかったら、今頃あんた、川を渡っていたところよ」

 死にかけた?僕が?なんで?


「なんでって…あんた覚えてないの?」

「うん……」

「そう…子供って怖い事があると無意識にそれを夢にしてしまうって言うからね」

 なんか、引っかかる言い方だな。でも、昨夜のことが思い出せないのは事実だ。


 ------


 家に帰ってシスターに昨夜のことを訊いた。シスターはずっと家にいたはずだからだ。


「どうしてそんな事訊くの?」

「昨夜の事よくっていうか全然覚えてないんだ」

「いいじゃない、嫌な事なんて無理して思い出さなくても」

 何があった? 僕は化け物が出た夢の事をシスターに話した。夢にしてはリアルだった気がしてならないのだ。


「夢だよ。全部、夢にしちゃえばいいんだよ。嫌な事、辛い事、怖かった事、ぜ~んぶ夢にしちゃいなよ。私が夢にしてあげる」

「何を言っている…?」

 僕の質問は無視して、シスターは目を閉じて両手をお祈りするような形に組んだ。


「preghiera」

 シスターがそう口にした瞬間、部屋が一瞬にして奇妙な空間に変化した。


「なっ?」

 何が起きた?どこなんだ、ここは?周囲を見たが障害物も遮蔽物も無い。見渡す限り白い地が広がっている。精神と時の部屋みたいに何も無かった。呆然としていると、どこからか道や線路が出てきて地上はもちろん空中にまで敷かれていっている。


「……」

 ダメだ、僕の頭では目の前の異常事態についていけない。ボーっとしている間におもちゃの汽車や楽団、兵隊が線路や道の上を移動していた。どこから現れたのか。と、ここでようやくこの現象を作り出した張本人の事を思い出す。


「シスター?」

 辺りを探すがいない。どこなんだ?と、いきなり地面が激しく揺れた。地震か?揺れは激しく、天と地に亀裂が走って次の瞬間、粉々に砕け散った。砕けた後、僕の周囲は空になった。僕は空に浮かんでいた。人間が空に浮かぶはずはない。これは夢か?


「そう夢だよ」

 シスターの声だ。


「ぜーんぶ夢だよ。怖い思いなんか全部夢にしてしまえばいいんだよ」

 いったい昨日何があったんだ?


「どうでもいいでしょ。そんな事忘れちゃいなよ。私が忘れさせてあげるよ」

 いつの間に近づいていたのかシスターが背後から僕に抱きついてきた。


「夢にしたぐらいじゃダメだったみたいだね。だったら完全に忘れさせてあげるよ。この空間は人の記憶を司る世界だよ。人の記憶を夢にしたり忘れさせたりするんだ。あなたが眠れば昨夜のことは完全に忘れているよ」

「待って……」

「私が子守唄を唄ってあげる。ね~むれ~、ね~むれ~、ねんねん、ねむんなさ~い♪」

 だから待っててば。しかし、シスターは聞く耳を持つ気が無いようで子守唄を唄いつづける。何か変わった子守唄な気もするけど、耳に入るシスターの声が心地よくて本当に眠たくなって……Zzzzzz。


 ------


 翌朝、はて昨夜なにかあったかな?

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