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闇を狩る者  作者: 池田中務少輔輝里
INTRODUCTORY CHAPTER
1/41

『PROLOGUE』

夜の学校って思ったより不気味だな。俺は忘れ物を取りにこの夜中に学校に侵入している。見つからないようにこっそりと忍び込んではみたものの、あれれどうしたことだろう。教師も用務員も警備員も見当たらない。いたのは階段前で会った変な奴だけだ。見たことの無い顔だったが、見た感じ同年代なのでこの学校の生徒だろう。


「こんな時間にどうしたんだい?」

「いや、忘れ物を取りに。そっちは?」

「ボクはやることがあってね。悪いけど君にかまってる暇はないんだ。じゃね」

 こんな会話を交わして俺たちは別れた。別れ際の「悪いことは言わないから君はいますぐ帰った方が身のためだよ」という台詞が気にかかる。うちの学校は放課後に校門を閉めてから翌朝まで校内に入ることを厳禁している。もし夜に校内に侵入したのがバレると即退学になるという。なぜ、そこまで厳しくするかはわからない。何か秘密でもあるのだろうか。事実、学校の周りは教師たちが巡回していて警戒は厳重だった。その監視の目をかいくぐり侵入に成功したのだが、外とは一転変わって内側に誰もいないとはどういうわけか。俺以外にも侵入に成功した奴がいるのだから、以前にも何人かの侵入を許していたはずだ。それなのにこの件で退学になったという話は聞かない。多分、学校側は外側の警戒だけで十分で内側までは必要ないと思ったのだろう。だとしたら緩い監視体制だ。いや、だとしても校内に学校関係者が誰もいないのはおかしい。


「まあいいか。いまは用事を済ませて無事に帰ることだけを考えるだけでいい」

 学校から出る時も当然、教師に見つかってはまずい。特に生徒指導の鷹司隼人教諭には。あの顔面岩石野郎は手加減とか慈悲といった言葉を、遠い外国の言語だと思っているのじゃないかというぐらい恐ろしい奴だからな。絶対に見つかるわけにはいかない。などと考えながら階段を上がって廊下に出ようとした時、俺は自分でも驚くぐらいビックリしてもうた。


「うおうっ!?」

 こんな声が出たのは3年前にいまは海外の大学に行っている姉貴が俺の布団に潜り込んでいるのを朝起きて発見した時以来だ。もっとも、びっくりの度合いは比較にならないが。


「……」

 言葉にならない。まあ、一言で言えば化け物か。いやいや、落ち着け俺。化け物って小学生じゃあるまいに。正体はただの着ぐるみだろう。誰だか知らんが驚かせやがって。


「誰だ? まったく脅か……」

 最後まで言い切ることはできなかった。その前に着ぐるみがとびかかってきたからだ。俺はおもわず頭を抱えて腰をかがめた。とっさの行動だった。そのため頭上で何があったか見ることはできなかった。ただ、化け物らしきものの悲鳴と水か何かが噴き出す音が聞こえた。顔を上げた俺が見たのは大きな剣に身体を貫かれ緑色の液体を大量に噴き出しながら落ちて行く化け物だった。床に落ちた化け物はピクリとも動かない。もしかして、死んでいるのか?


「あぶなかったね、君」

 振り返ると奴がいた。さっき会った変な奴だ。


「どしたの? なにがあったかわからないって顔をしてさ」

 まさにご指摘のとおり何が起きたのか全然わかんにゃいのだが。


「君はそこに転がっているのに襲われて命の危険にさらされているのを間一髪ボクに助けられたんだよ」

 奴は倒れている化け物を指差した。奴の説明は確かにこの状況に適合している。あの化け物の両手は鋭い鎌になっている。だが、なぜ俺が化け物に殺されそうになるんだ。それに、あれは化け物の着ぐるみを着た人間じゃないのか。って、だったら大変じゃないか。さっき投げつけられた剣に胴体を貫かれた化け物の着ぐるみを着た人間は大量の血を流して倒れている。ん? 血…じゃない。緑色の血なんて無い。でも、胴体から流れる液体って血以外無い。まさか、本当に化け物って言うんじゃなかろうな。


「おい、あれなんなんだ? あんた知ってんだろ?」

「あれ? あれはそうだね別に化け物とか妖怪とかでも良いと思うよ。人間でないのは確かだから」

「なんでそんなのがうちの学校にいるんだ?」

「さあね、それより君本当に帰った方がいいよ。まだ、そいつの仲間がいるかもしれないからさ。ボクはそいつらを探しに行くから」

 と、奴は足早に去って行った。あんまり急なことなのでいまいち理解できていないが、奴の言うとおり早く帰った方がいいだろう。まさか、あんなのがいるなんてな。しかも、こんな身近に。ん、待てよ。


「ひょっとして、この学校が夜間立入禁止なのもこれが原因なんじゃ……」

 それなら周囲が警戒厳重なのも、その割に校内が無人なのも納得できる。だとしたら、とんでもない学校に入っちまったもんだな俺は。さっさと忘れ物を取って帰ろう。教室はすぐそこだからすぐ取りに行ける。と、教室のドアを開けた俺の視界に映ったのは化け物だった。さっきとは違うが昆虫みたいな大きな目と触覚という共通点からさっきの奴の同類だろう。そして、次の瞬間俺は胴を貫かれてしまった。


「なっ……」

 今更ながら自分の状況認識の甘さが悔やまれる。さっさと逃げるべきだった。そうそうあんな化け物が近くに二体もいるなんて思いもしなかった。仰向けに倒れた俺は自分の体から血が大量に出ているのを感じた。素人でもわかる。このまま出血が止まらなければ致死量になると。おいおい、ウソだろ。俺、まだ死にたくねーよ。


「誰か…助けて…」

 助けを呼ぼうとするも、声もまともに出ない。出血がひどいせいか目もかすんできた。冗談じゃない。誰でもいいから助けてくれ。その願いが天に通じたのか、さっきの奴がもどってきて化け物の首を刎ねた。目がかすんでいてよく見えないが、多分さっきの奴だと思う。助かった…。


「ごめんねぇ、今度は間に合わなかったよ。うーん、こりはひどいね。いまから救急車呼んでも助からないだろうね。だから早く逃げろと言ったのに。まあ、これも運命さ。諦めるんだね」

 ……助かったと思ったのに。しかし、ここで諦めるわけにはいかない。文字通り、俺の命がかかっている。掠れる声で助けを乞う。


「た…たすけ…て…」

 だが、奴はあっさりと断った。


「あっ無理無理。ボクにはそんな力ないから。できるのは君の冥福を祈ることだけだね。んじゃ、ボク行くから」

 いくら見ず知らずとはいえあまりにも冷たい仕打ちに涙が出てくる。とうとう、意識も朦朧としてきた。やだ、やだよ、死にたくない。まだ死ぬのは早すぎるぞ。駄目だ、意識が……。その時だった。


「死にたくない?」

 ……誰だ? さっきの奴とは違う。


「ねえ、あなた死にたくないんでしょ? だったら私が死なないようにしてあげましょうか?」

 頭が働いていないので理解できなかったが、それでも本能的に「ああ」と答えた。その後ようやく理解してきた。


「できるのか?」

「できるわよ。ただし、私と契約を結んでもらうけど」

「契約?」

 法外な金を取られるとか魂を抜かれるとかだろうか。


「そう、あなたの願いをかなえる見返りに私の願いを聞いてもらう。それが契約。どう? 嫌ならいいわよ。あなたの選択肢はふたつ、契約するか、しないか。言っておくけど、このままだとあなたはあと10秒で十万億土に旅立ってしまうわよ」

 そんなの選択の余地は無いだろ。何も考えることは無い。駄目もとで契約してやる。


「ふふっ、契約成立ね」

「!?」

 悪い夢からハッと目が覚めたような感じだった。意識ははっきりしているし、目もはっきり見えている。目の前にさっきの声の主と思われる人間の女らしきものがいた。らしきというのはその女性は耳が尖っているし、背中には翼が生え尻尾までついている。


「あんた何者なんだ?」

 刺された箇所をさすりながら尋ねる。傷は完全にふさがっている。どうやら助かったようだ。


「別に何者でもいいわ。悪魔でも天使でも魔女でも好きな風に呼んでちょうだい。それより契約のこと忘れてないわね?」

「あ、ああ、俺は何をすればいいんだ?」

「簡単な事よ。あなたのある物を私にくれたらいいのよ」

「ある物?」

「そう、頂戴あなたの思い出」

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